魔法少女リリカルなのはturn from Sepia to Vivid   作:くきゅる

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何年ぶりか分からない二次創作です。
vivid完走したので、衝動的に書き上げました。


第一章 鮮烈の胎動
第一話 無職少年はじめました


人生とはなんだろう。

 別に哲学者でもなければ、そんな途方もないテーマに挑もうとする奴なんていないだろう。

 ふと考える程度だ。普通なら。

 けれども、俺ときたら──

 

 

「人生って、なんだろうな。死にたくないから生きてるだけ? 大して、生きたいとも思ってないのに」

 

 

 いつも無意識の内に、思考の迷宮に入り込んでしまう。 

 首を吊るのも苦しそうだし、死んだ後にずっと真っ暗な中で閉じ込められると思うと怖い。

 死という未知への恐怖、なんて下らない理由が今の俺を生かしている。

 

 それが俺──オルス・リーヴという男であった。

 

 数日前に十五になったばかり。

 

 

 もう十年も昔、地方の管理世界での魔導器事故で家も家族も身体も、というより俺の人生そのものが吹き飛んだ。

 原動力に違法なものを使ってただとか、会社側に不備はなかっただとか、様々な議論が飛び交ったが十年も経てば話題は風化するし、今となってはどうでもいい話だ。

 

 

 顔の右半分を覆う大きめの眼帯を撫でながら、新しい住居の天井を見上げる。

 

 本局で必須課程も修了し、普通なら就職か進学する所を俺はただ何もせずに平穏に生きる事を選んだ。

 賠償金だの、保険金だの、支援金だの、身体調査の謝礼金だの、運がいいのが悪いのか金だけは溢れるくらい入ってくるから。

 普通に生きてれば、恐らく使い切れないくらいに。

 とはいえ、胡散臭い団体に寄付する気も更々ないが。

 少なくとも人並みに生きれないのは確定しているし、どうせ天涯孤独の俺が死ねば金は局に戻るのだから好きに使わせてほしい。

 

 

『マスター、挨拶はしなくても良いのですか』

 

 脳内から無機質な男性の声が。

 

「あぁ、分かってるよ」

 

 

 この声の主は、生体癒着型デバイス・LS4。

 

 愛称は"ステイク"

 

 事故で"正常な"右目と右腕、ひいては一部臓器をも失った俺は自力で身体を維持するのが困難になっていた。

 故の、専用デバイス。かなり値が張るようだが、当然賠償内容に含まれているのでメンテ込でタダ。

 心臓にインテリジェント型と、右腕に補助用のストレージ型が組み込まれており、私生活から運動まであらゆる面で支えてくれるステイク。

 心臓に突き立てられた杭と言えば恐ろしいが、これが無ければ死んでいたかもしれない。

 

 

『あと、手土産もあった方がよろしいかと』

 

「分かってるよ」

 

 

 まぁ、口煩いのが難点ではあるが。

 しかもこいつは魔力経由で直接言葉を伝えてくるせいで、普通に会話すると傍からみたら異常者だ。

 念話を使う癖がなかった昔は、そりゃもうよく恥をかいた。

 

 さて、また小言を言われない内に動くとしよう。

 

 始まりの春。その夕暮れ時。

 普通の学生なら、進級・進学祝いだとかで家族に祝ってもらったりしてるのだろうか。

 

 

「まぁ、俺には関係ないけど」

 

『マスター、自虐は程々にして下さい。それに、今からでも進学や就職は間に合います』

 

「…………」

 

 

 もう返事はしない。

 学校じゃ程度の低い人間に絡まれるわ、教師も教師で見て見ぬふりをするし散々だった。

 本局の養護施設も本当に良い思い出がない。 

 身を守る魔法と、生きていけるだけの教養は身に着けた。

 何度でも主張するが、金は施設に毟り取られた分を差し引いても、豪遊できるほどあるのだ。

 だから、俺は絶対に働かない。

 

 話が逸れた。

 

 本局で買った無駄に肌触りがよく、使いやすいサイズの高級タオルがあった筈だ。

 手土産は、あれでいいだろう。

 

 

『遅くならないうちに行きましょう』

 

「はいはい」

 

 

 別に挨拶なんてと思うが、ステイクが煩いのと隣人トラブルの予防にはなるだろうしな。

 どうせ無職だし、私物も少なけりゃ家具付きの空き家物件を購入したから手間な作業もない。

 

 

「行くか」

 

 

 戸を開けて外に出ると、心地よい風が撫でるように吹き抜ける。

 隣接しているのは一件。

 ここらは都心だけあって結構良い値が付くのだが、お隣さんはうちの倍はある。

 さて、一体どこの家なのか。

 

 表札を見る。

 

 高町(タカマチ)

 

 異国……いや、異世界の文字だ多分。

 だが見た事ある苗字だ。

 

 高町、タカマチ、たかまち。

 どうでもいいか。

 

 チャイムを押す。

 

 

「はーい!」

 

 

 可愛らしい女の子の声がした。

 とっとっと、とこちらに向かってくる足音。

 あれ、ディスプレイで相手を確認しないのか……?

 

 

「高町ですが、どちら様でしょーかー?」

 

「隣に越してきたリーヴです。ご挨拶に伺ったのですが」

 

「あ、お隣さんですね! 今ママ達を呼んでくるので、ちょっと待っててください!」

 

「はぁ」

 

 

 金髪に光彩異色(オッドアイ)。

 ぱっと見ただけで分かる、太陽の化身のような天真爛漫な女の子。

 俺の眼帯を見ても顔を全く引きつらせる様子もなかった。

 捻くれた俺からしてみれば、あまりにも眩しい。

 忙しなく駆けてゆく女の子を見送って暫く待っていると、今度は二人の女性を連れて戻ってきた。

 

 

「はじめまして。私が高町 なのはで」

 

「娘のヴィヴィオです! そして、こっちがもう一人のママの」

 

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

 

 

 え?

 

 高町なのはってあの? 

 

 それより、もう一人のママ?

 

 ちょっと待ってくれ、情報整理が追いつかない。

 

 

『高町なのは一等空尉。言わずと知れた、戦技教導隊のエースオブエースですね。隣のフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官も、JS事件で主犯のジェイル・スカリエッティを捕える等、多大な活躍をなされています』

 

 

 世間に疎い俺でも、さすがに知っている。

 空に上がれば天下無双の空戦魔導師に、本局勤めの超実力派エリート執務官殿。

 どちらも容姿もずば抜けて優れていて、管理局内外問わずに大人気の局員である。

 こうして間近で見れば見るほど、神は二物を与えずなんて言葉は嘘なんだなとはっきりわかった。

 

 

「あの?」

 

 

「あ、あぁ、すいません。まさかあの高町一尉やハラオウン執務官がお隣だとは、思いもよらなくてつい……」

 

 

「ちょ、直接言われると何だか照れちゃうね」

 

 

「ぜ、ぜんぜん、そんなことないんだけどなぁ」

 

 

 照れる姿も可愛らしい。

 ヴィヴィオも母親を褒められて嬉しそうにしている。

 

 

「改めまして、今日から隣に越してきたオルス・リーヴです。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします。こちら、つまらないものですがお納めください」

 

 

 贈答用でも何でもないタオルだったが、存外喜んでくれたようでお世辞でも幸いだ。

 人が良すぎるのもあるんだろうが、とりあえず第一印象は悪くならなくて良かった。

 にしてもだ。

 

 

「リーヴさん、良かったらうちに上がっていきませんか?」

 

「ちょうど、クッキーが焼けたので良かったら」

 

「私も大かんげーです!」

 

 

 さすがに勘弁してくれ。

 初対面の、しかもこんな得体のしれない男を普通家に入れるか?

 俺がおかしいんじゃなくて、間違いなくこの一家がおかしい。

 女所帯とはいえ相手が相手だけに、並の男が手を出せるとも思えないが。

 

 

「さすがにご迷惑だと思うので遠慮させていただきます。あと、必須課程修了したての若輩者なので、そんな畏まらないでください」

 

「そっか。じゃあ、オルス君でいいのかな?」

 

「ご家族にも挨拶したいし、分からないことも多いと思うから遠慮せずに頼ってね」

 

「いつでもきてくださいー!」

 

 

 帰り際に一人暮らしなので、と付け加えておいたら余計構われた。

 特に、執務官……フェイトさんが心配そうにしていた。

 これで両親は実は死んでますなんて言う程俺も馬鹿じゃない。

 嘘は言ってないのだから、問題ないだろう。

 

 

「底無しで無償の善意、って感じだ。あんな安売りしてちゃ、何か起こりそうでこっちがひやひやする」

 

『マスター、その物言いはどうかと思いますよ』

 

「そうだな。今のは言い過ぎた」

 

 

 怖いくらいに良い人達だった。

 何か裏があるのではないかと勘繰る自分の浅ましさよ。

 どうしようもない自己嫌悪に陥る前に、気晴らしをするとする。

 

 

 ステイク、魔法を使って身体動かせる場所は近くにあるか?

 

 

『見つかりました。周辺地図を表示します。角を曲がって、直線六百m先に公園があります』

 

 

 仕事が早くて優秀だ。

 示された場所に向かうと、魔法使用許可の出ている十分な広さを持つ公園があった。

 

 右腕もあまり人様に見せられるものじゃないので、夏場でも手袋と長袖は欠かせない。

 もちろん、デバイスを使ったら話は別だ。

 

 

「ステイク、限定起動」

 

『限定起動了解。SL4、ガントレット展開』

 

 

 そう命じると、右腕に組み込まれたストレージデバイスが籠手を展開して装着させる。

 鉄を凌駕する硬度としなやかさを持ち、関節の動作を殆ど妨げない理想的な装備だ。

 更に、ポケットからあるものを取り出す。

 

 

「自立型訓練用人形、徒手格闘モードでレベルはA。ステイク、細かいのはお前が調整してくれ」

 

『微調整完了。あまり無茶はされないように』

 

 

 最近購入した、自立型訓練用人形。

 ありあまる財産で購入した、数少ない私物の一つ。

 普段は持ち運びできるデバイスサイズであり、簡単な徒手格闘から魔法戦の模擬戦をすることができる。

 調整さえ行えば、いざという時の護身用としても使える便利な代物だ。

 オーダーメイドともなれば、こちらも値段は青天井である。

 

 今しがた設定したのはレベルA。

 

 強さは、ストライクアーツ有段者程度。

 ある程度の学習機能は搭載されているが所詮は人形なので、生身の人間と等しいかと言われれば否だ。

 

 白く顔のない人形が現れる。

 体格は俺とそう変わらない。

 

 左手を前にして構える。

 眼帯を装着している右側は完全なる死角。

 こんなハンデを背負って格闘戦なんて正気ではないと思われるかもしれないが、遠距離主体で戦える程の魔力量もなければ資質もない。

 それに、"ハンデに見えるだけ"だ。

 

 

「フッ!」

 

 

 ダンッ!

 掛け声と共に魔力の乗った重く鋭い一撃が、人形を撃ち抜く。

 

 しかしレベルAは伊達ではなく、強度もそうだが素早く反応して防御の態勢を取られた。

 

 からの人形の反撃は、すかさず下がって回避する。

 必殺の右の威力は凄まじいが、その分の隙はどうしても大きくなる。

 

 今度は間合を保ちながら左で牽制していく。

 すると今度は人形の蹴りが飛んでくる。

 

 

「ッ!?」

 

『今のは危ないですよマスター』

 

 

 際どい所で顔を反らすと、絶好の機会が訪れた。

 

 一気に懐に潜って、右を打ち込む。

 

 今度は綺麗に入った。

 

 ──そう、格闘戦はこの瞬間が何より気持ちがいいのだ。

 

 

 まだ停止しない人形に肉薄して追撃をかける。

 

 反撃を警戒しながら左のジャブで牽制して、必殺の右を打ち込む機会を探る。

 そんな攻防が続くと、生身の俺の方は疲労で鈍くなってくる。

 

 次第に人形が優勢になってきたのを悟ると、頃合いを見計らってとっておきの"インチキ"をすることにした。 

 

 

『実戦の純格闘戦じゃ使わないでくださいよ』

 

 

「安心しろ。試合なんてやらねーし、使うとしたら喧嘩くらいなもんだ!」

 

 

 ジャブを撃つのをやめて、右腕に魔力を溜めて踏み込む。

 

 見え見えの攻撃。フェイントでもなんでもない、正真正銘の大振り。

 人形は俺の踏込と構えた右腕の魔力を即座に察知して、防御するまでもなく躱してカウンターを取ろうとする。

 

 

「オラァッ!」

 

 

 拳が宙を切り、大きな風切り音を響かせる。

 

 そして訪れるのは間髪入れない人形のカウンター。

 

 直撃コース。

 当たればダウンしかねない、致命的な一撃。 

 

 

 ──良かった。

 機会故の深読みもなく、綺麗にはまってくれて。

 

 

「ショットォッ!」

 

 

 ──狙い通り。

 

 俺の背後に隠していた魔法が発動して、魔力弾が人形を直撃する。

 

 更に、返す刃の如く魔力が乗ったままの拳で薙ぎ払う。

 

 型もへったくれもない醜い攻撃だが、威力の程は言うまでもない。

 

 

「よし!」

 

 

 人形が吹き飛ばされダウン判定により、ゲームセット。

 俺の勝ちである。

 

 

『本来のルールを考慮するなら、マスターの反則負けですが』

 

 

「まぁ、所詮はお遊びだし」

 

 

 唯一の趣味である格闘戦"ごっこ"は、適度な運動と暇潰しを兼ねたとても良い遊びだ。

 

 高くついたが、この人形もなかなかに良い買い物だった。

 

 普段は希望もなにも見いだせないのに、こうして身体を動かしている間は別人になった気分でいられる。

 

 

「それじゃまぁ、もうワンセット行ってみようか」

 

 

『了解しました』

 

 

 今日は調子がいい。

 程よい魔力運用は、陰鬱な気分を払拭して高揚させる。

 

 気づけば辺りは暗くなっていた。

 

 

 

 




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