魔法少女リリカルなのはturn from Sepia to Vivid   作:くきゅる

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評価、お気に入り等ありがとうございます。
感想で致命的な描写不足をご指摘いただいたので、編集しました。

オルスのいう"本局"は特別養護施設のことであり、局員として教育を受けたわけじゃありません。
年齢は今年で十六になるので、現代でいう義務教育を終えた状態にあたります。

教育レベルが違うと思うので、一概には比較できませんが。

また気づき次第、編集していきます。


個人的には、既存の設定と睨めっこしながら創作していくというのはとても懐かしい気分になると同時に新鮮でもありました。


第二話 "健全な人付き合い"

 

 

「はぁ……はぁ……ステイク、今何時だ」

 

『現在、十九時五十六分二十二秒。訓練を開始して、二時間十四分八秒が経過しましたマスター』

 

「こりゃ馬鹿丁寧にどーも」

 

 

 鬱陶しいくらい優秀な我がデバイスによると、もう二時間以上経過していたらしい。

 格闘なんて喧嘩くらいでしかやらなかったが、こうして人形相手に拳を交えるのは案外楽しいものだ。

 人形は理不尽な理由で絡んでこないし、口汚く罵ってくることもない。

 加減も出来るし、こっちの都合を汲んでくれる。

 

 いっそ、全ての人間がこの人形のようになれば平和な世の中になるんじゃなかろうか。

 

 

『発想が極端過ぎます。マスターはもう少し交友関係を持たれるべきです』

 

「しょうがねぇだろ。俺を取り囲む環境がそうさせたんだから」

 

『マスター自身の境遇は把握してます。ですが、このままというのも……』

 

「はいはい。分かったから、もう少し続けんぞ」

 

『……了解しました』

 

 

 物わかりが良く、戦技モデル通りの行動をとる人形を夢中で殴り続ける。

 ままならぬ人生の憂さ晴らしをするように。

 

 周りの汚い大人も馬鹿なガキ共にもうんざりだ。

 どいつもこいつも、糞、クソ、くそ。

 人形以下の産廃だ。

 

 そして、自分の人の事を言えないような有様を見て自己嫌悪。

 いつもの負の連鎖。

 

 事故にあってから暫くは、自分が世界で一番不幸な人間だと思っていた。

 偶然か必然か、俺だけが奇跡によって生かされてしまった。

 

 いや、死に損なったの方が正しいのかもしれない。

 こんな夢も希望もなく、不安定な心で何時途切れるかもわからない真っ暗な道を歩まされる。

 

 

「ッ!?」

 

『思考が魔力を通じて漏れていますよ。やるなら、集中してください』

 

 

 人形の拳が掠る。

 自分で誤魔化しといて、余計なことを考えてしまった。

 ──こりゃ世話がない。

 

 そろそろ、アレを試して終わりにしよう。

 

 ステイク、"一瞬だけ右目を繋げ"

 

 

『……承諾したくありませんが、了解しました。少しでも異常が生じたら切断します』

 

 

 本来、俺の右目はちゃんと機能するのだ。

 

 どれくらい機能するかというと、眼帯で遮ろうが壁で遮ろうが透視してしまうくらいには。

 

 何の制限も入れなければ、視界に入った膨大な量の情報を際限なく右目を通して脳に送り続ける。

 それに伴い、身体が勝手に脳の情報処理速度を爆発的に加速させる。

 瞼が閉じられない程膨張して変色した右目は、見た目さえ除けば超高スペックには違いない。

 

 ──無論、脳みそは常人のものと変わらないから、何の処置もしなければ即座に脳が溶けること間違いなしだ。

 

 

 他にもステイクによる機能のオン・オフの切り替えしかできず、加減が殆ど効かない点も問題だ。 

 

 だがステイクの補助を受ければ、一瞬だけなら膨大な情報処理にも耐えられる。

 

 

『──接続』

 

 

 刹那。

 

 眼帯越にも関わらず、周囲のあらゆる風景がまず飛び込んでくる。

 のみならず、大気中の魔力濃度や成分。

 微生物まで────

 

 そうじゃない。

 

 なるべく絞るのだ。

 

 観るのは人形。いや、その周囲まで絞り込めれたら上々。

 

 構成物質から骨組み、人形の四肢に信号が送られ腕がまっすぐ俺に向かって伸びてくるのが見えた。

 

 それを遮るように邪魔な情報まで流れてくるが、情報の濁流の中から必要な箇所にだけ焦点を合わせる。

 

 

『マスター』

 

 

 分かってる。

 もう限界が近いのは。

 

 一秒にも満たない一瞬刹那の時間。

 

 けれど、それで十分。

 

 

「ッ!!」

 

 

 目前に迫るスローモーションの拳をくぐって、低い姿勢からボディに右拳を叩き込む。

 

 

 痛恨の一撃がクリーンヒットした、文句なしのKO勝利。

 

 

『──接続解除』

 

「何とかなっ……た……ッ!?」

 

 

 直後。

 

 押し寄せてくるのは痛み。

 

 違う、熱だ。焼けるような……やはり痛み?

 

 違う違う、そうじゃない。

 

 

『マスター!』

 

 

「…………」

 

 

 痛い、痛い、いたい、イタイ、ぃタィ 痛イィ!

 

 

「いってぇなぁ……!」

 

 

 ……懐かしい痛みだ。

 膝をついてうずくまり、歯を食いしばって気力で耐える。

 

 まだ痛むが、少しづつそれも引いていく。

 

 視界も鮮明になり、何とかもちかえすことができた。

 

 

『まだ痛みますか?』

 

 

 いや、もう大丈夫だ。

 

 昔使った時はすぐに気を失ったが、それに比べれば随分と成長したと言ってもいいが……。

 ちょっと気を抜けば、意識が飛ぶだろう。

 

 その気になれば観えるのだからと粋がったが、やっぱりこの目は障害だ。

 この刹那の時間に相手を屠れるならいいが、その刹那の時間が過ぎれば最悪意識が飛びかねない。

 もう少しまともにモノを見れたら、眼帯もブラフとして機能するだろうに。

 

 ……下らない考察だ。そもそも、競技をするという前提がおかしい。

 

 

『一応、記録は本局の医療部門に送信しておきました』

 

 

 余計なことを。

 接続に関しては禁止されていないものの、使用には厳重注意を受けていた。

 

 きっと、メディカルチェック時にどやされるに違いない。

 

 

『身体機能は、私が管理するように言い渡されています。

 全ては許可を出した私の責任です』

 

 

 お前のそういう所はまぁ嫌いじゃない。

 

 痛みが完全に落ち着いた所で、待機状態に戻った人形を回収して立ち上がろうとすると……。

 

 

「あの! 大丈夫ですか?」

 

 

 誰だ。

 俺が居た時には人気がなかったが。

 このどこかで聞いたことあるような声──

 

 

「どこか痛むのかな?」

 

 

 今度は、はっきりと聞き覚えのある声。

 穏やかで、優しくて、思いやりに溢れた声色。

 

 ゆっくりと振り返る。

 

 

「少しよろけただけです。御心配、痛み入ります」

 

 

「あはは、そんな畏まらなくてもいいのに」

 

 

「本当に大丈夫ですか……?」

 

 

 高町母娘だ。

 

 ヴィヴィオの方は一瞬分からなかったが、変身魔法の一種だろうか。

 それなりに高度で扱いが難しい代物だと思うが、かなり使いこなしているように見える。

 

 

「ヴィヴィオ、でいいのかな? お前のソレって……」

 

 

「あ、ごめんなさい! 今解除しますね。クリス!」

 

 

 よく見ると兎が宙に浮いているではないか。

 目を疑ったが、あれもデバイスなんだろうな。

 間違いなく、汎用機ではなさそうだが。

 

 ヴィヴィオ?の身体が発光して変身魔法が霧散する。

 

 

『かなり特殊なハイブリットタイプですね。私の場合、マスターの肉体と物理的に繋がって干渉していますが、彼の機体はリンカーコアに干渉する機能が付いています。融合せずともサポートを行えるのが、持ち味でしょう。本質的には違いますが似ている点もありますし、マイスターも同じですから後輩機とも呼べるかもしれません』

 

 

 同じマイスター?

 確かステイクの設計開発主任はマリエル技師だったと思うが……意外な共通点もあるものだ。

 

 と、ふよふよとヴィヴィオのデバイスが近づいてくる。

 言葉は発さないが、ジェスチャーと共に念話のようなものを送ってきた。

 

 

「えーと、セイクリッドハート……っていうのかお前。あぁ、ステイク共々よろしくな」

 

「クリス、どうしたのー? ……先輩機にご挨拶?」

 

「俺のデバイスとクリスはどうもマイスターが同じらしくてな。コンセプトも近いし、先輩と後輩って感じてるんじゃないか。ステイク、声を聞こえるようにしろ」

 

『了解しました。はじめまして、私は生体癒着型デバイスLS4。愛称はステイクです』

 

「生体癒着型? でも、クリスの先輩なんだよね。よろしくおねがいしまーす!」

 

「クリスと同じってことは、マリーさんかぁ。なんだか、すっごい偶然!」

 

 

 生体癒着型デバイスというのは、言ってしまえば人工臓器の延長線にあたるものだ。

 デバイスとしての機能に加えて、患者をあらゆる面でサポートする為のAIが組み込まれた代物。

 試作のLS1から始まり、徐々にアップデートを重ねて今のステイクになった。

 

 というのをかいつまんで説明すると、関心と俺に対する同情が混じった視線を向けられた。

 

 同情なんて必要ない。

 

 歳を食うに連れ、自分はそれ程不幸じゃないどころかある種恵まれているんだと分かった。

 自分で納得している人間に同情する行為は、逆に失礼なくらいだ。

 

 諦観と言っていいかもしれない。

 

 

「別に日常生活で不自由はしてませんし。原因は事故ですけど、こうなったのは自分の体質にもよりますから」

 

 

 そうだ。

 原因は、確かに事故だ。

 

 けれど、事故によって失われた身体を補完したのは紛れもなく自分の"体質"が原因だった。

 普通の人には起こりえない、血統による極々極々稀に起こる可能性のあったという隔世遺伝。

 

 別に偉人の先祖返りなんて御大層なもんじゃなく、単なる体質の遺伝。

 

 あまりくどくこの話題を続けるのもあれだし──

 

 

「ところで、ヴィヴィオも魔法か何かの練習を?」

 

「はい! クリスと練習しにきたら、オルスさんがいて……あ! それより!」

 

 

 それより?

 

 

「さっきの技、速すぎて全く見えませんでした! どうやったんですか!」

 

 

 食いついた。

 目がキラキラしている。

 はちきればかりだ。

 

 一方で、高町教導官殿は。

 

 

「それは私も気になってたんだ。確かに凄かったけど、ちょっと不安定。派手で強力な魔法は魅力的だけど、夢中になり過ぎてやんちゃするのは一教導官としては見過ごせません」

 

「胸に刻んでおきます」

 

 

 下手に調子に乗ったのは反省しなければならない。

 ただでさえ短い寿命を更に縮めかねないから。

 

 ……我ながら、死にたいのか生きたいのかもう分からんな。

 

 "それでね"っと、高町教導官殿が付け加える。

 

 

「アクセルタスクかなって思ったんだけど、それにしては切り替えが早すぎるしあんな爆発力は生まれない。となると、別系統の技術かなって」

 

 

 さすがの一言に尽きる。

 答えを先に聞いていて、カンニングしたという様子もない。

 あんな一瞬の動きを捉えて分析するなんて、同じ人間か疑わしいところだ。

 

 ……母娘揃って、そんな目を向けられても俺は正解までは言わんぞ

 

 つっても、本気で調べたらすぐに割れることだ。

 

 

「説明すると長くなるというか……まぁ、そうですね。レアスキルみたいなものかな。本局に問い合わせたら分かるとは思いますけど」

 

 

 同情は不要と言ったが、自分の事をあまり言うつもりはない。

 死にながら生きているようなこの有様も、醜く変色して膨れ上がったこの右目も。

 知ったって得する奴は誰もいない。

 気負いやすそうなこの母娘なら尚の事。

 

 

「ううん、知られたくないことなら調べない。無神経なこと言ってごめんね」

 

 

 ほんと、優しい人だ。

 

 突き放すような態度を取っても、付かず離れずでずっと寄り添ってくれるようなそんな人。

 

 もし気が向いたら、その時は──

 

 

「俺も外で使ったのが悪いんですし、そりゃ誰だって気になるでしょう。気にしないでください」

 

 

 そろそろ、良い時間だろう。

 帰るか。

 

 

「あの、オルスさん!」

 

 

 ヴィヴィオに呼び止められる。

 

 

「何かな?」

 

「えっと、私も格闘技をやってて、それで……」

 

 

 勢いで呼び止めたはいいが、言葉は上手く纏まっていなかったらしい。

 

 

「──オルスさんさえ良かったらなんですけど、良かったら一緒に練習しませんか?」

 

 

 真っ直ぐに、俺の目を見据えて。

 まるで、心まで見透かされるような。

 

 断った方がいいに決まってる。

 だって、俺がたまにやってるコレは、単なる暇潰しなのだから。

 

 大した向上心もなく、行き場のないやるせなさを我武者羅にぶつけるだけの趣味以下のお遊び。

 

 きっと、才能と夢や希望に満ち溢れているだろうヴィヴィオとは釣り合わない。

 決定的に。

 

 

 ──けど、俺の心は弱いのなんの。

 

 

「……時間が合うようなら、こちらこそよろしく」

 

 

「わぁー! ほんとですか! やったー!」

 

「良かったねー、ヴィヴィオ」

 

「うん! オルスさん、ありがとうございます!」

 

 

 

 どうしても、あの瞳には逆らえなかった。

 

 キラキラ、キラキラ。

 眩しいのなんの。

 

 苦し紛れの言葉を紡ぐやつなんて、そのうち見限られるだろう。

 

 それなら、それでいいさ。

 耐えられないくらい気まずくなったら、俺が引っ越しでもすればいいのだから。

 

 

「じゃあ、疲れたんで俺はお先に」

 

「お疲れ様でしたー!」

 

「暗いから、きをつけてねー!」

 

 

 どことなく、子供扱い。

 覚えてはいないが、母親というのはこんな感じなのだろうか。

 

 分かりゃしないし、どうでもいいが。

 

 

 

 

 

 

 元来た道をとぼとぼと帰る。

 

 

『よろしかったのですか、マスター』

 

「良いも悪いも、今更だ。それに、こういう"健全な人付き合い"は良い事だろ? 特別保護施設でいやという程教えられたよ」

 

『…………』

 

 

 あれ。

 減らず口を叩いても、反応がない。

 

 いつもなら、呆れたような口調で何か言い返してくる筈だが。

 

 

『……私が目覚めたのは、マスターが中等科に入学した時でしたね』

 

「どうした、突然」

 

 

 ステイクはAIの癖に、妙に人間臭く考え込んだり意味深な言葉を使う時がある。

 よくインテリジェント型は心があるとか言われるが、俺は信じちゃいない。

 あくまでも高度な機械だ。

 定義するのも曖昧な心なんて、考えるだけ馬鹿らしい。 

 

 ──だから、いやに人ぶった態度をとる時のステイクが一番嫌いだ。

 

 

『──もし、もっと前からマスターに寄り添うことができたなら、あなたは変わっていたでしょうか?』

 

「はぁ?」

 

 

 平時は思考が漏れないようにしているが、もしかしたらというのは十分ありえる。

 そうなら、心苦しいような気もする……が、やはり機械は機械だ。

 

 別に、変わるも変わらないも俺は俺だ。

 

 

「自惚れないでくれ。お前は何者だ、ステイク」

 

『マスターの安全を守り、マスターを支える道具です』

 

「そうだ。そしてその役目は十分以上に果たしている。お前まで余計な気を回すな」

 

 

 ──気持ち悪いから。

 

 という本音は心に留めておいた。

 

 

『……了解しました』

 

 

 ちくしょうが。

 後味が悪い。

 

 そして、ふと空腹なのを思い出した。

 

 

「しまった。家になにもないし、寄り道していくぞ」

 

『そう言われるかと思って、予め検索しておきました。この先です』

 

 

 ……もう何事もなかったかのように、ステイクは振る舞っている。

 いつも通りの、いやになる程優秀な我がデバイス。

 

 

 こっから先は消化試合みたいなものだ

 

 六歳まで養護施設での教育を受け、そこから小中等科の必須課程は終わらせた。

 

 ろくでもない奴らに囲まれながらも、何とかここまでやってきたんだ。

 

 だから──

 

 

「ただ惰性で生きようとするのも、難しいもんだな」

 

 

 ──最期はせめて穏やかで苦痛の無い終わりにしてほしい。

 

 誰に向けるでもない独り言に、そんな思いを乗せて。

 

 街頭が仄かに照らす夜道を俺は歩いていた。




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