魔法少女リリカルなのはturn from Sepia to Vivid 作:くきゅる
個人的には書きたいことも描けて、少し満足しております。
次回から少しは主人公の根暗も改善されてくるかと……
あと一人称で描写する機会がないので、主人公象を追記
年齢十六 身長百七十五cm 魔法体系は近代ベルカ式
灰色の髪と、目つきの悪い三白眼が特徴のよくいそうな主人公です。
「二つ返事なんかするんじゃなかった……」
「どうかしましたかー?」
「なんでもない。始めよう」
昨日、何となく断りきれなくて一緒に練習すると返事をした俺。
社交辞令的なもので、明確な日時も定めてないからなし崩し的に免れると思っていた。
──が、その考えは甘かった。
何時の間にやらステイクとクリスが連絡先を交換していたらしく、昨日の内に朝練に参加することになった。
『余計なことを、とは言わせませんよ。筋は通すべきです』と奴は言っていたが。
ステイクもステイクで、実は昨日のことを根に持っているのかもしれない。
そしてばっくれるのも決まりが悪いとくれば、逃げ場はない。
時刻は六時半。
場所は昨日の公園。
人気もないし、射砲撃無しなら問題ないだろう。
ヴィヴィオはそのあと学校に行くというのだから、もう脱帽だ。
本人を見れば、大人モードでやる気十分。
「行きますよー!」
「お手柔らかに」
練習内容は試合形式の軽い打ち合い。
ヴィヴィオが使うのはミッドじゃ主流のストライクアーツ。
それも数年やっているらしく、有段者のコーチもいるらしい。
俺みたいな資料を見て真似ただけのものとは違う、本物の格闘技者。
「ッ!?」
ヴィヴィオの踏込。
正に、先手必勝か。
そんな言葉が浮かんでくるも、迫りくる超速の間合い詰めにより現実に引き戻される。
人形とは違う生身の人間による柔軟な動きは、まともな試合なんて初めてやる俺にはきつすぎる。
『マスター、一応下がり過ぎないようにラインを設定しています。逃げないでくださいね』
やかましい!
注意する暇があったら、サポートに徹しろ!
長い鍛錬と優秀なコーチにより磨かれた拳は、俺のものより鋭くブレがない。
小さく身構えて隙を減らしながら、ジャブを連発してくる。
滅多打ちだ。
返そうにも、撃ち込む場所が見当たらなければ、絶え間なく撃ち込まれているから拳が出せない。
大人モードになったヴィヴィオとは、リーチ差による優位性も低くなっている。
「フッ! てぇい!」
普段以上に、良い笑顔してやがる!
昨日今日の付き合いに過ぎないが、それでも彼女がこの打ち合い(今の所、サンドバックだが)を心の底から楽しんでいるのが伺える。
──少しは期待に応えてやるか。
年上の男としてのプライドなんて微塵もないと言えば嘘になる。
だが、まだ仕掛けるべきじゃない。
こっちは素人以下の少し魔法と格闘技を知っているだけの一般人。
初手を譲ったのも、偏にカウンターを恐れたから。
生身の人間相手の攻め込み方を、読み合いを、俺は知らない。
受け手に回ったからと言って、それが正解という訳でもないが気持ちいくらかマシだ。
『ヴィヴィオさんの拳は中々のものですが、一撃の威力は十分耐えられる範疇です』
そう、大して魔力を込めなくても耐えられる。
機械的な動きが多かったが、人形の拳の方が威力自体は高いくらいだ。
狙うべきは──
「はぁ!」
軸足となるであろう左足、膝が曲がり溜め動作が入ったのを確認した。
大振りの蹴り技がくる。
ジャブは様子見をしつつ、相手の意識を拳に向けさせる本命の択のカモフラージュ。
──ここだ。
大振り、特に蹴り技を放つ時に体制が不安定になる。
実戦でその隙をつくのは、タイミングの見極めから身体のレスポンスまで様々な要因が絡まり困難だ。
喧嘩で培った経験というと大仰だが、今回は意識を下半身寄りにしていたのが幸いした。
蹴りの予測地点は左胸部の側面。
ジャブが止まった瞬間、両手で受け止めて左足を引っかけて払う。
「うわぁ!?」
ヴィヴィオがバランスを崩して転ぶ。
いてて、とすぐに起き上がったあたり怪我もなさそうだ。
打ち合いというより、これじゃ組手だな。
「格闘技のまともな試合なんて初めてでな。つまんなかったら、いつでもやめていいから」
──朝は眠いし。
という本音は当然、隠しておく。
「いえ! すっごく楽しいです! もう一回、お願いします!」
「……だろうな。じゃあ、もう少し続けよう」
「はい!」
再び、一定距離で構えてのお見合い。
眠気も飛んで、身体も温まってきた。
どうせなにやっても手さぐりなんだ。
今度はこちらから攻めよう。
ここから踏み込むわけだが──
「フッ!」
膝と股関節の力を抜いて脱力する。
前のめりに身体が自然と倒れ、少し屈んだ状態になった瞬間に足を一気に踏み抜く。
膝抜き、と呼ばれる技術のようで様々な競技で応用が利くらしい。
本物はみたことないし、実戦で使うのも初めてだが──
「ッ!?」
ヴィヴィオの想定よりも速い速度だったらしい。
数mの距離を速攻で詰めて、さっきのお返しをする。
突撃の勢いをそのまま利用した右拳を放つ。
『惜しかったですね』
ステイクがそう呟くと、硬い手応えが拳に響く。
流石は経験者だけあって、両腕を交差させて凌いでみせた。
だが、両腕をガードに回したのなら攻めを継続できる。
反動に身を任せて後ろにステップをかけた所に追い足をかける。
そして、反撃を許さぬようにジャブで固めていく。
腕をねじりながら当たる瞬間にだけ力を入れることで、幾分か素早く強いジャブが撃ててる筈だ。
──押し切れる。
再び溜めの右拳によるストレート。
からの、左ジャブ……ッ!?
最小限の上体反らしで左腕が空振る。
──避けられたが、ジャブだから空振りの硬直はそれ程……ッ!!!
「はあぁぁ!!」
「ぐはッ!?」
態勢を立て直す前に、ヴィヴィオのカウンターが顔面に炸裂した。
あの細腕から放たれたとは思えない芯のこもった一撃。
それも避けたと同時に。
頭が眩みかけるが、目を見開いてふんばる。
追撃は後ろに倒れ込むようにして距離を取る。
十分攻めたてていたのが幸いして、間合も十分離して地面に着地。
だが、ヴィヴィオも止まらない。
「まだまだ!」
「勘弁……しろっての!」
先ほどの間合いまで戻り、当然俺の方が不利であるが──
ヴィヴィオの下半身がほんの一瞬、低くなったのを見た。
下がっているのは、左足。
前にある右膝が曲がったことからも、導き出されるのは……。
咄嗟に腕を上げて、蹴りによる迎撃態勢を取った。
──だが。
蹴りがこない。
「しま──ッ!?」
ヴィヴィオは下げた左足を少し戻して、つま先で地面を蹴った。
──フェイントによる突進だ。
無理だ、とてもじゃないが回避できない。
『衝撃は緩和しますけど、少しは我慢してくださいね』
ステイクも同じような判断を下したらしい。
瞬時に魔力防御が、がら空きの腹部に回される。
「いっけぇ!!」
ヴィヴィオが俺の右側に出た瞬間、凄まじい衝撃が腹部を突き抜ける。
かはっと空気が漏れ、大きく吹き飛ばされる。
最低限の魔力防御はステイクが張ってくれたものの、これは堪えた。
『無事ですか? 無事ですね、マスター』
あぁ、お陰様でね。
殴られた腹を摩りながら、体を起こす。
「大丈夫ですか……?」
「あぁ、防御は張ったからな。にしても、うまいことやられたもんだ。強いな、ヴィヴィオは」
「いえ! 私なんてまだまだ初心者なので! さっきのも、たまたまです! たまたま!」
「いいよ、そこまで謙遜しなくて。相手の視点を見極た、完璧且つ自然なフェイントだったよ」
「え、えへへ……ありがとうございまーす」
謙遜しながらも、照れ笑いは年相応で可愛らしい。
そしてこれで初等科四年なのだから、末恐ろしい限りだ。
Stヒルデ学園という教会系列の超エリート学校の生徒と聞いていたが、それでも規格外。
……本人はまだやりたそうだ。
まだ時間もあるし、付き合おう。
──何というか、俺自身も熱が上がってきたのもあるから。
悪意と悪意による喧嘩ではなく、互いの武を競い合う試合。
初めての経験だが、人形相手より更に充実している。
『マスター、私に何かいう事があるのでは?』
勝手にコンタクト取って責めたのを撤回しろって?
冗談じゃねーよ、バーカ。
……それに楽しくはあったが、やはり思う所はある。
「まだやるか?」
「ぜひ!」
首を振って集中する。
今ばかりは、ヴィヴィオにとって有意義な時間になるよう努めなければ。
なんちゃって格闘技者と、将来華々しく鮮烈な花を咲かせそうな未完の格闘技者。
二人の試合は時間いっぱいまで続いた。
☆
──ヴィヴィオの朝練後。
一緒に朝食をとらないかと誘われた俺は、まぁ今なら断らなくていいかなと素直に応じることにした。
……空腹には勝てないし、自分で用意するのも面倒くさい。
そんな自堕落な本心も、ヴィヴィオは露知らず。
一旦、それぞれの家に戻ってシャワーを浴びてくることになった。
春とはいえ、朝は冷える。
温かいシャワーが身体に染み渡る。
『楽しかったのでしょう、マスター?』
「……まぁな」
本心では分かっている。
高町ヴィヴィオとの打ち合いは、今までにない充足感があったと。
切磋琢磨し合う格闘技者の世界は、ろくでなし共の喧嘩よりも尊く美しいものであると。
──でも、ヴィヴィオには甘えたくない
『どうしてそう、難しく考えようとするのですか。今のマスターは自由な筈です』
知ってる。
だって、ニート一歩手前の無職だし。
……自分でもよく分からないのだ。
好意的な人達にもどのように接して良いのか分からないし、自分が関わっていいのかも分からない。
極論を言えば、迷惑かけて距離を取られるくらいなら最初から関わらない方がいいくらいだ。
ヴィヴィオの格闘技からは趣味以上の情熱と夢や希望を感じた。
腐りきった俺が触れて、もしも穢れたりなんてしたら──
『──本当に馬鹿ですよあなたは。それだけの思いやりがあるなら……』
「黙れ」
……今日も、鬱陶しいステイクか。
『いいえ! 聞いてください、マスター……!』
「──LS4、念話遮断」
マスター権限でステイクの念話を遮断する。
機械風情が俺の心を推し量るだと?
「……AIリセットも視野に入れておくか」
昨日の報告もあって、明後日行われる予定の検診が今日に早められたのだ。
昼から本局の医療部門でメディカルチェックを受けることになっている。
タイミング的にもちょうどいいし、打診してみるのもいいかもしれない。
AIの挙動がおかしいと言えば、幾らでも弄ってくれるだろう。
なにせ、俺の命がかかっているのだから。
「っと、あまり物思いに耽る時間はないな」
シャワーを止めると、急いで身体と髪を乾かして高町家へゆく支度をした。
☆
「いらっしゃい、オルス君。ヴィヴィオにつき合わせちゃってごめんねー?」
「そんなことは! ……寧ろ、俺の方が楽しんでいたくらいです」
本当にそうだ。
楽しませてもらったのは、俺の方だ。
エプロン姿のなのはさんは、微笑みながらテーブルまで案内してくれた。
「さっきぶりです、オルスさん! どーぞ、こちらに!」
「ご相判にあずらかせていただきます」
「お口に合うといいんだけど」
どことなく甘い香りのする制服姿のヴィヴィオにも持て成され、引かれた椅子に座る。
テーブルの中央には大皿のサラダに、パンやスープにハムエッグとウィンナー。
……想像より多い気がするが、女性二人はこの量を食べられるのだろうか?
学校の寮でも、女子は比較的少なかった気がするが。
小学生なら育ち盛りなんだろう。
なのはさんも教導官としての仕事はハードな筈だし、十分なエネルギーが必要だろうし。
"いただきます"
異世界発祥だとかいう、糧となった食物への挨拶を済ませると食事に手を付ける。
チラリと横を見ると、美味しそうにパンを頬張るヴィヴィオが。
「?」
視線に気づいて不思議そうな顔をするも、深い意味がないことが分かると食事を続けた。
「ねぇ、オルス君は格闘技はどのくらいやってるの?」
「自分のは格闘技と言えるものでは……。強いて言うなら、初等科に入ったくらいですかね」
よく眼帯を取られて怪物呼ばわりされたり、いじめられたりしたので身を守る力が必要だったわけだ。
放課後なんかリンチされかけたこともあったが、俺が抵抗してある程度やり返すと退散していった。
……あの頃は絶望も大きかったが、それよりも生きるのに必死だった。
己の残り時間を知ったあの日までは。
「へぇ、じゃあヴィヴィオの先輩だ」
「先輩!」
やけに先輩という単語に食いつくヴィヴィオ。
先輩じゃないし、それはヴィヴィオに対して失礼だ。
「あの! 先輩って呼んでも!」
「頼む。それだけはやめてくれ」
「えー」
どうして不満そうなのか。
「……ちょっと、格闘技者の先輩って憧れてたんだけどなー」
「俺よりマシなのは幾らでもいるから、他をあたってくれ。そもそも俺のは、半ば我流だし」
ストライクアーツや格闘技者の友人はいるそうだが、身近な先輩にあたる人物はいないそうだ。
コーチは? と聞くと、"コーチはコーチ"という事らしい。
……よく分からない。
──そして、なのはさんからも何気ないが俺にとっては一番きつい質問が飛んでくる。
「そういえば、オルス君は学生になるのかな? 学校は大丈夫?」
なのはさんやめて。
お願いだから、その質問だけはやめて。
"お金が沢山あるので、無職を貫くつもりです"
なんて、間違っても口にできない。
どう答えればいいんだ。
「うん?」
まずい、不審がられている。
……ここは素直に白状するしかないか。
「……無職です」
「え?」
二度言わせないでほしい。
変な汗が出てきた。
「だから、無職です! ……諸事情で」
どこに朝っぱらから無職宣言する十代がいるのか。
申し訳程度の言い訳も、この何とも言えない沈黙に掻き消える。
「あー……」
ごめんなさい。
何聞いても気を遣わせてしまう、地雷原のような人間でほんとごめんなさい。
……だから、人と関わるのは苦手なんだ。
「諸事情っていうかその、自分でも何をしたいのか分からなくて……」
"毎日を死にながら生きている"
ある日そんな言葉が浮かんできて、自分でも皮肉で笑ってしまう程ぴったり当てはまっていた。
思うようにならなくて、色んな意味で不器用だから上手く生きられない。
俺なんてどうせ。
「オルスさん!」
──自己嫌悪で俯く俺の手が、そっと握られる。
小さくて、か細い手。
だけど、優しい温度が伝わってきて包み込まれるような温かさ。
「ヴィヴィオ?」
なんで今にも泣きだしそうな顔をしているんだ。
俺の為に?
いや、意味が分からない。
「オルスさんのことは、まだ全然知らないです! でも、これからいっぱい知っていけたらなって! もっと、もっと、オルスさんと試合したり遊んだりしたいです!」
心が苦しい。
ステイクは黙らせた筈なのに、心臓がどくんどくんとやかましい。
いっそ、この場で鼓動を止めてしまいたいくらいに。
やかましい。
「だから、私……じゃなくて、私たちと! 一緒に、格闘技をやりませんか?」
「それは──」
手が差し伸べられた。
どうしていいのか分からない。
ステイク、お前なら……ッ!?
って、何を考えているんだろう俺は。
本当に最低最悪の馬鹿野郎だ。
「オルス君は、格闘技が好き?」
格闘技が好きかどうか。
……色々試行錯誤して、思うように身体が動いたり技が決まったら気持ちがいい。
常に立ち込めている陰鬱な気分だが、この時は晴れる。
けど。
「──ごめんなさい。分からないです、それも」
「そっか」
相当失礼であろう俺の返事にも、嫌な顔も含みもなくなのはさん優しく答える。
まるで宥めるかのように。
「難しいよね、進路って。私も昔は結構悩んでて……偶然、魔法と出会えなかったらどうなってたか」
そういえば、なのはさんは魔法文化圏外の出身という超レアケースな人だった。
でもあなたなら魔法と出会わなくても、素敵な人間として生きていたんじゃないか?
と、思わず邪推してしまう。
「でも、焦る必要はないよ。今は分からなくても、オルス君のやりたいことは必ず見つかる筈だから」
見透かしたように、悪戯っぽくウィンクをしてみせるなのはさん。
「オルスさん! いつでも待ってますから!」
「あぁ……」
気の抜けた返事しかできない情けない俺に、それでも高町母娘は優しく手を差し伸べ続けてくれる。
「はい、真面目な話は一旦おしまい! 冷めないうちに食べよっか!」
「うん、ママ!」
「オルス君もパンのおかわりがあるから、足りなかったら遠慮しないでねー」
どうして。
どうして、全然親しくもない人間にここまで優しくできるのだろう。
埋められそうにない周囲の壁を感じながら、俺もパンを手に取りスープを飲む。
──味なんてよく分からなかったが。
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