魔法少女リリカルなのはturn from Sepia to Vivid   作:くきゅる

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話、進みません……。

その代わり、原作だと影薄めになっていたあの人やキーパーソンが登場します。





第四話 "悪魔の心臓"

"ご馳走様でした"

 

 

 そう言って高町家を後にしたのは数時間前。

 あのあとの会話なんて殆ど覚えていなかったが、気付けば自分の二足で家まで帰っていた。

 

 どうにもならないやるせなさから、自室のベッドに倒れ込んでの二度寝。

 

 

「……そろそろ行かないと」

 

 

 実は昨夜、緊急の検診が入ったのだ。

 理由は、ステイクの報告のせいだと思うが……。

 もう十一時過ぎだ。

 予定では十二時半となっているが、移動時間と余裕を考えればそろそろ出た方がい。

 本局へのゲートはミッド中央部の首都クラナガンにある。

 緊急時や局員になると、ミッドの地方からでも入れるようだが一般人である俺には関係ない。

 

 首都行き快速レールウェイで小一時間ほど。

 そこから徒歩の時間を考慮したら、ちょうどいいくらいだ。

 準備を済ませると、駅まで急ぐ。

 平日の昼間だからか人は少なく、駅にしてもピークを過ぎているのでガラガラだ。

  

 数分の待ち時間で車両が来る。

 座席に座ると、発車した車両に揺られながらぼんやり窓の外を眺めた。

 

 うっすら映った自分の貌。

 思わず目を逸らしたくなるような、酷い面構えだ。

 冴えない灰色の髪と三白眼が、嬉しくもない相乗効果を生んでいる。

 

 悲観と諦観が入り混じったような瞳。

 自分のモノだというのに、まるで俺を責め立てるように睨んでいるかのような。

 

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

 

 下らない、馬鹿馬鹿しい。

 よく使うようになった言葉だ。

 

 今度は、心臓に手を当てる。

 どくん、どくん。

 偽物の割に、元のやつより働き者なのが憎たらしい。

 その分と言っていいのは分からないが、常人より早く止まっちまうのはどうなんだか。

 

 

「あと、働き者はもう一人……じゃなくてもう一機いたな」

 

 

 念話遮断で拒絶しても、LS4──ステイクは俺を生かす為にフル稼働している。

 律儀なことだ。

 

 いや、機械なら使命を果たすのは当然か。

 

 

「はぁ」

 

 

 通算何度目かも分からない重い溜息を吐いて、静かに目を閉じる。

 

 このまま深い微睡の中で終われたら楽なのに。

 

 

 そんな俺をよそに、車両は首都クラナガンを目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "───終点、クラナガン。お忘れ物がないよう、足元にお気をつけて────"

 

 

「……ん」

 

 

 車内アナウンスによって目が覚める。

 軽く伸びをして車両を降りる。

 

 徒歩数分後。

 

 本局へと繋がるゲート管理所に到着した。

 

 

 

「それでは、許可証をご提示ください」

 

「はい。ステイ──」

 

 

 そう言いかけて、留まる。

 念話遮断を実行すると、こちら側からも呼びかけができない。

 

 手動でコンソールを立ち上げて、配布された許可証を検索してホログラムを組み上げる。

 重要なデータ故なのか、やたら厳重な保護がされていて時間を食った。

 

 これもまた、日頃からステイクに頼り切りだった弊害である。

 ホログラムの照合が終わり、やっとゲート使用の許可が下りる。

 

 

「それでは、行ってらっしゃいませ」

 

 

 各入口へ繋がるゲートが並ぶ通路を進み、目当てのゲートを見つけてその中に入る。

 扉が閉まり、円柱状の空間が眩しく発光しだす。

 

 その眩き光が最高潮に達した時。

 

 

「…………」

 

 

 視界が一瞬真っ白になる。

 さっきと同じ円柱状の空間に見えるが、扉を開けると先ほどまでの光景とは違う。

 

 "本局・医療局"

 

 ミッド語でそう書かれた標識が証明となる。

 地上から医療局へのゲートは初めてではあるが、矢印に従いながら進むと見慣れた場所まで出た。

 

 その後は記憶通りに進んで、俺の担当医の居る部屋に顔を出す。

 

 

「失礼します、オルス・リーヴです」

 

「はーい、どうぞ入ってー!」

 

 

 部屋主の確認を取って中に入る。

 

 

「色々言いたいことはあるのだけど、まずはここに座って」

 

 

 高町母娘に匹敵する柔和な笑み。

 ショートカットのプラチナブロンドが特徴的な美人さん。

 この人は自分が知り合った人の中でも、数少ない比較的心が許せる人間だ。

 

 それは例の事故当時、救助されて特に重傷だった俺が本局まで護送された際の事。

 欠損部位を黒いナニカが補いつつあったとはいえ、幼い俺の肉体は衰弱しきっていたそうだ。

 原因不明で誰も手が付けられなかった所を、この人が緊急処置で救ってくれた。

 

 

 

「──はい、シャマル先生」

 

「んもー、安定してきたからって無茶しちゃだめでしょう?」

 

 

 医療局所属の八神シャマル先生。

 この人は、かのJS事件解決の功労者八神はやて司令の家族らしい。

 古代ベルカについて相当造詣が深いらしく、俺を蝕んでいる原因も突き止めた優秀な先生。

 医者としての本分以外にも、魔導師としても高い適正があるらしく超がつく程優秀なのだ。

 

 ……あまり認めたくはないが、実の家族よりも長い付き合いになる。 

 

 いつも通り、他愛ない世間話をしつつ経過の確認。

 そして、寝台に寝かされて機械による精密検査。

 

 先生が診断結果の資料に目を通す。

 

 

 

「概ね良好ね。脳の損傷も無いのはステイクから報告を受けてたけど、精密検査の結果も問題なし。何にもなくて本当に良かった~!」

 

「大袈裟ですよ毎回。俺はいつも通りですから」

 

「何言ってるの! あなたが思っている以上に、あなたの身体は繊細で深刻なのよ! 右目にしたってそう! 最終的な判断はあなたとステイクに委ねてるけど、それだってほんとは容認したくないくらいよ?」

 

 

 シャマル先生も多分だけど本当に優しい人間だ。

 だから、多少は気を緩めても大丈夫。

 

 

「……ねぇ、オルス君」

 

「なんです?」

 

 

 途端に神妙な顔になる先生。

 

 

 

「あなたの残り時間……なんだけど」

 

「残り時間、ですか」

 

 

 残り時間。

 何の、なんて無粋なことは聞かない。

 

 言うまでもなく、俺の残された寿命。

 不安定でいつ消えるか分からない命の灯。

 

 あえて持ち出すということは、正確な人生終了日時が判明したとでもいうのか。

 

 

「いえ、それだけじゃなくてね。あなたの身体──"悪魔の心臓(イーヴィルハート)"についての新たな資料が見つかって研究が進んだの」

 

「…………」

 

「呼び出しを早めた本当の理由もそれ」

 

 

 なるほど。

 少しおかしいとは思っていた。

 右目をほんの少し解放した程度じゃなんの影響もないのは、昔から分かっていた。

 炎の中を横切っても、熱が伝わらない程の速度で通過すれば問題ないのと同じ。

 

 最も、俺を蝕みながらも命を救ってくれた"心臓"と炎を同列には語れないが。

 

 

 

 ──ある昔話をしよう

 

 

 

 数百年前のベルカ戦乱期。

 

 あらゆる諸王が名乗りを上げ、天下を取らんと日々戦い続けた地獄の時代。

 

 多くの民が死に、現代にまで伝わる数多くの悲劇がそこにはあった。

 

 有名所だと聖王オリヴィエや、シュトゥラの覇王に、冥府の王イクスヴェリア。

 特に冥王イクスヴェリアに関して言えば、つい最近掘り起こされたというのだから驚きだ。

 実物が出てきてから、彼女が史実通りの冷酷非道な人物でなかったというのは別の話

 

 そしてこの冥王イクスヴェリアだが、彼女はマリアージュという屍を兵器化するコアを生成できたそうだ。

 詳細は省くものの、人間の尊厳を踏みにじった最低の兵器だというのは言うまでもない。

 

 だが、当時はそうじゃなかった。

 

 何としてでも勝たなければならなかった時代。

  

 兵隊を最後まで有効活用することができるこの兵器は魅力的どころじゃない。

 

 手に入るのなら、諸手を挙げて喜んだだろう。

 しかし、"譲って下さい! はいどうぞ!"となるわけがない。

 

 

 ならどうするか?

 

 模倣すればいい。

 

 

 普通は似たようなモノを作ろうとしても、そう簡単にはいかない──のだが。

 どの世界にも狂人はいる。

 

 そしてJS事件のスカリエッティ然り、狂気と天才は紙一重。

 

 

 全く同じではないが、その天才の手によって出来てしまったのだ。

 マリアージュを参考にした、新たな兵器が。

 

 設計思想は一般人の戦力化。

 魔力すら持たない人間を、雑兵では相手にすらならない兵士に仕立て上げる兵器。

 

 ソレを移植された者は、徐々に身体が変化してゆき最終的には騎士相当の魔力と身体能力を獲得したという。

 

 特筆すべきは、部位欠損すら瞬時に回復してみせる再生能力。

 痛覚が鈍化しているのか、はたまた正気を失っていたのかは不明だが、進行末期に至った者はどれだけ被弾しても身体が完全に消し飛ぶまで暴れまわったらしい。

 

 全身の肌は黒く染まり、眼球は異常に発達し、紅く輝いた瞳は夜の戦場で敵兵を震え上がらせたという。

 

 だが代償として寿命は短く、長い者でも移植から十年、短い者は半年でその命を散らしたようだ。

 

 数は多くなかったようだが、各地各勢力での目撃記録から、何者かが売買していたのではないかと言われているが詳細は不明。 

 

 

 この悍ましい兵器は現代までには姿を消し、僅かばかりの資料が残されるのみだった。

 

 形状、製造方法は一切不明。

 

 無論、被験者を元に戻す方法も、

 

 

 ──それが後に"悪魔の心臓(イーヴィルハート)"と呼ばれたものの正体だった。

 

 

 そして、現代。

 新暦にして六十九年。

 

 ある辺境の次元世界で起きた事故現場にて、悪魔の心臓の所持者"らしき"少年を保護。

 現存資料と実物の調査結果及び、遺失物管理部の専門家による考察から推定された危険度は第二級。

 嘗ての闇の書のような破壊力はないとされるも、単なる一般人を常識を超えた人外へと変える規格外性。

 少年のように突然、悪魔の心臓を発症するケースを鑑みてのものだ。

 原因は遺伝による可能性が高いとして、現在も調査中。

 

 また、侵食部位は魔力が動力源であることが判明。

 元々リンカーコアを持たなかった少年は、突然リンカーコアを生成し始めた。

 

 

 ──当の少年である俺が聞かされた顛末はこんなものだ。

 

 魔力皆無のごく普通の少年だった俺が、成り損ないの怪物に至るまでのお話。

 

 成り損ない且つ、遺伝した個体として、どのような性質を持つのかも不明。

 少なくとも人並みには生きられないとされているが、残り寿命も正確には分からない。

 分からないことだらけだった。

 

 

「──それで、何が分かったんですか」

 

 

「……順番に説明するから、心して聞いてね」

 

 

 新暦七十九年の春。

 新たな進展があったようだが果たして。

 

 

 

 

 

「まず、寿命の方なのだけれど……先に言っておくけどこれも完全な結果じゃないから、鵜呑みにはしないでね」

 

 

「気なんて今更遣わなくていいから、早く教えてください」

 

 

「……分かったわ。あなたの残りの推定寿命は────

 

 

 

 

 

 

 

 ──長くても二十年前後。最短なら……五年ね。

 それに加えて不活性化が始まるのは、もっと早いの。

 完全崩壊を迎える数ヶ月から二~三年前にはもう……」

 

 

 

 

 それを聞いて考える。

 

 長めに見積もっても既に人生の折り返しにきていると言える。

 それはつまり、長いのか短いのか。

 平均寿命が九十に迫ろうとする健康なミッド人に比べたら、間違いなく短い。

 

 けど今すぐの話じゃないし、俺にとっては結構長いような気もした。

 

 シャマル先生の方がダメージを負っているのはどういうことなんだ。

 

 

 

「シャマル先生が傷つく必要ないでしょう。俺なら平気ですよ。寧ろ長く感じたし、いつ苦しみだすかも分からないっていうのは苦しかったので……少し救われた気分です。ありがとうございます、シャマル先生」

 

 

「オルス君あなたは……」

 

 

 

 そんな悲しそうな顔をする先生を見る方がよっぽど辛い。

 

 

 

「……続きを話すわね。このことが判明したのも、民間協力者が申し出てくれたからなの」

 

 

「民間協力者?」

 

 

「民間と言っても、管理局設立にも貢献した辺境の古い魔導科学者の家系──クラフトマン一族。それ以降はあまり表舞台には関わってこなかったんだけど、現当主は今ミッドに住んでいるの。

 なんでも、"悪魔の心臓"について調べたいからって。

 それ自体はオルス君のためにも願ってもないことだったから、協力を受け入れたんだけど……。

 クラフトマン一族の当主といっても、扱っている内容だけに簡単には信用できなくてね。

 彼の人となりと、ある程度の成果が分かるまでは、オルス君には会わせないし黙っていることにしてたの。

 ごめんなさいね……」

 

 

 古代ベルカ時代から続く、魔導科学の研究のみに力を注ぎ続けたクラフトマン一族。

 少しベルカに詳しい人だと名前くらいは知っているらしいが、俺は生憎聞き覚えがない。

 数ヶ月前、手土産として一族が保管していたという、新たな資料を持ち込んでのことだったらしい。

 由緒正しいとはいえ、民間人故に協力者として局員監督の元で研究を続けていたようだ。

 

 俺に相当会いたがっていたようだが、さすがに素性の知れない人間に会いたいとは思わない。

 それも、生粋の魔導科学者だという。絶対に普通のやつじゃない。

 

 シャマル先生に人となりを聞けば、"悪い人ではないけど、ちょっと変わった人"と返ってきた。

 

 ……あの先生がオブラートに包んだ表現をしたということは、相当だろう。

 それでいて近々、会うことになるらしい。

 

 普通に嫌だが、先生の信じる"クラフトマンさん"を信じるしかあるまい。

 

 

 

「あの人は本当に優秀だから、もしかしたらオルス君が助かる方法だって見つかるかもしれないの!

 だから……諦めないで。私も頑張るから」

 

 

「はい。俺は先生のことは信頼してますし、その……クラフトマンさんにもよろしくお伝えください」

 

 

「ふふ、ありがとう。彼にもよろしく伝えておくわ」

 

 

 

 

 

 話は終わった。

 

 席を立とうとすると、ふと先生に呼び止められる。

 

 

 

「そういえば、ステイクは? 彼にも一応、挨拶をしておきたいんだけど」

 

 

「…………」

 

 

 

 

 ステイク。

 

 生体癒着型デバイスLS4。

 その誕生には先生の協力もあったし、定期健診の時にはよく会話をしていた。

 

 ……もし、先生にステイクのリセットを考えていると言えば、どんな反応をさせるだろう。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

「実は……ですね」

 

 

 

 

 

 

───この時の馬鹿な俺をぶん殴ってくれるやつがいたなら、どれほど良かったか。

 

 俺はこの先ずっと後悔することになる。

 




本作の趣旨であるセピアからヴィヴィッドへの転換の為にも、どうしても必要だと判断したのであと一話ほどお付き合いください……。

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