魔法少女リリカルなのはturn from Sepia to Vivid 作:くきゅる
もう一作の存在感に埋もれていますが、せぴあは生きてます。
オルスをずっとシャロンって描いてた分の修正も行いました。
変態まじ許せねぇ。
あと、変態からのギャップが凄い。
「────それは、本気なの?」
「えぇ、割と」
生体癒着型デバイスLS4──愛称:ステイク
AIが搭載されている為、当然俺との"会話"も行うことができる。
だが、機械だ。
ステイクはデバイスにプログラミングされた人工物に過ぎない。
人じゃない、紛い物。
人もどき。
最初、ステイクが覚醒した時はもっと機械的で無機質なものだった。
その場の状況に応じて助言することはあっても、俺自身の決断や思考には口を挟まなかった。
「ステイクは優秀です。状況に応じて、的確な助言や対応をしてくれます。だけど……」
日々を過ごしていくに連れ、ステイクは必要以上に語りかけてくるようになった。
最初は学習して、少し小煩くなったかなぁという程度。
だがある日、明らかに俺を否定するような言葉を使うようになった。
驚きはしたが、助言の延長線と考えればその時は納得できた。
──それが、より高頻度になり今日に至るまで。
まるで俺の全てを推し量り、明確な間違いであると言わんばかりに。
不快だった。
だからこそ、先生にもその旨を正直に伝えた。
「そんな風に考えてたのね……」
「先生はどう思いますか?」
あまり良い反応はされないだろうが、否定もされないだろう。
主人は俺で、AIのリセット権も俺にある。
なんだかんだ、肯定してくれるんじゃないかって。
そんな甘い考えをもっていた。
──けれど、それは間違いだった。
「──確かにそれは、オルス君が決めることなんだけどね。私は反対よ」
「……どうしてです?」
予想が外れた。
再び促されるまま席に着いて、複雑そうな顔をする先生と向き合う。
あまり、先生にはそんな顔をしてほしくなかった。
別に悲しませたかったわけじゃないのだが……。
既に、賽は投げられた。
「インテリジェントデバイスは、主人と密接に関わる言わば相棒みたいなもの。主人と寄り添い、どんな時でも助けになるような存在でなければならない。だからこそ、本体のリソースの半分以上を使うほど容量が大きいの。最初は組み込まれた知識を元に動くけど、搭載された学習能力で成長していく……ってのは知ってるわね」
「はい。最初に教わりました」
だからこそ、ストレージデバイスを選ぶ人も少なくない。
リソースを食う分、タスクが遅くなるからだ。
ただ、それを補ってあまるくらいのメリットも当然ある。
初心者でも安全で楽な魔法行使に、日常のあらゆる場面での手助けに様々。
「インテリジェントデバイスには、ちゃんとした心があるの。起動してからの記憶や経験は、組み込まれたものじゃない、かけがえのない大切なモノ……それを消しちゃうってことなのよ?」
物わかりが悪い子を諭すように。
分かっているさ、そんなこと。
「……だって、機械でしょう所詮は。人とは決定的に違う、紛いモノじゃないですか」
心に溜まりきった澱が口から溢れ出す。
なるほど、確かに昨今の技術なら人に近いモノが作れるのかもしれない。
学習機能も大いに結構。
人と同様に接する主人も多いと聞く。
高町母娘にしてもそうだろう。
けど、心の底から人と同じモノとして接することができるのか?
少なくとも、俺は断じて否だ。
主人の在り方を悲観して、異を唱える。
同情や憐みを含むような言葉を向けてくる機械なんて、欠落ではないか。
──そして、ついに言ってしまった。
「──気持ち悪いです」
「…………」
──言ってから、後悔する。
感情に呑まれて、出てくる言葉を抑えられなかった。
吐き出すにしても、もう少し選べた筈だ。
「ごめんなさい、言葉が悪かったです」
「……そっか。ううん、人によっては当然だから」
明らかに俺の言葉が先生を傷つけたように見える。
どうしてだろう、と思わないでもないが問題はそこじゃない。
相手の気持ちも汲めないのは俺も同じか。
気持ち悪いなんて言っても、ステイクの方がよっぽど立派で役に立つのだ。
一体、どの口が言うんだ。
嫌悪が止まらない。
「オルス君、まだ時間は大丈夫?」
「大丈夫です。無職ですし」
「うん、じゃあ少しだけ私の話を聞いてほしいの」
場を和ませようとした、渾身の自虐ネタはスルーされた。
言うんじゃなかった。
「ねぇ、私のことはどう思う?」
「どうって……」
まるで付き合いのある男女間のような問い。
長い付き合いという意味じゃ間違っていないが、俺と先生はそういう間柄じゃない。
普通に返答に困りますが先生。
「深く考えないで、こう……ね?」
抽象的すぎる。
質問した側が困らないでほしい。
では、率直に……。
「先生のことは、そこそこ好きですよ。施設の局員よりは好感度高いです」
「そこそこ……」
「そこそこです。……強いて言えば、居なくなると寂しくなるくらいには」
そこそこ好きだと微妙な顔をされたので、ちょっと付け加えてみたら満足してくれた……と思う。
様子を見ていると何がおかしいのか、先生はくすくす笑っている。
「ふふ、成長したじゃない。昔は、無表情で"別に"って言った後だんまりだったもの」
「……覚えていませんね」
「あなたは覚えてなくても私はしっかり覚えてます! じゃあ、今度は具体的に──私は人間に見える?」
「はい?」
具体的だが……これもまた悩ましい。
この質問をした意図がまるで見えてこない。
「人間……なんじゃないですか? それとも、実は幽霊でしたってオチですか」
「ちゃんと生きてますー! ……あなたは冗談もちゃんと言えるようになったわよね」
「はぁ……」
何が言いたい。
核心をはぐらかされて、いい加減はっきりしてほしい。
最後にステイクと話した時も、こんな感じだったな。
「何が言いたいんです?」
「……ほんと、オルス君にはかくし事してばっかりね。簡潔に言えば、私は人間じゃないわ」
「はぁ!?」
また、情報過多だ。
はい、か、はぁしか言えてない。
「はやてちゃん──八神司令の持つ夜天の書、その守護騎士プログラムが一騎、風の癒し手、湖の騎士シャマル……っていうのが私の正式名称。まぁ今はもう普通の人とそんなに変わらないんだけどね」
「守護……夜天の? ……なんだかよくわからないので、もう少し詳しくお願いします」
曰く、八神はやて司令が歩くロストロギアと呼ばれるようになった所以。
夜天の書の主を守る為の、四騎のプログラム。
嘗ての戦乱では、ただただ主の肉の盾となり戦う為の道具として使い捨てられてきたらしい。
それを何代も積み重ねて、最後に辿り着いたのが当代の八神はやて司令……なんだとか。
──要するに、大本は実体すら無い魔法で編まれた"現象"のようなモノ。
精巧に造られ、人間と遜色ないどころかそれ以上の機能を有するが、蓋を開ければ機械以下の不確かな存在。
「……どうしてそんなことを今話すんですか」
「今のあなたなら、分かる筈よ」
血の気が引いていく。
──俺が少なからず関係を気づき、軽い冗談を言い合える仲にもなった先生は、機械よりも不確かな存在だった。
己の中に積み上げてきた価値観が崩壊する。
じゃあ何か?
俺が気持ち悪いといった存在以上に歪な先生は……。
嫌だ、考えたくもない。
「先生は……先生はデバイスとは違うでしょう?」
「ううん、違わない。私の大元は夜天の書に記されたプログラムでしかないの」
頭がどうにかなりそうだ。
逃げ出したいけど、あの先生の顔を見てそんなことができる筈もない。
生殺しじゃないか。
「…………」
俯きながら、先生に視線を合わせる。
「オルス君みたいに考える人も居ると思うし、私自身普通の人間だと思ったことは一度もない。だけど、ステイクに代わって私からお願いするわ。
────人とは思わなくてもいい。だけど、私達の心が本物であると認めてくれますか?」
本物。
ほんもの
ホンモノ。
汚いものは嫌いだし、自分とは違う異物は受け入れられない。
だから人を真似て、さも自分も同じ心を持っているのだと振る舞うステイクが許せなかった。
きっと俺は馬鹿で性格も悪いから、そして臆病だから、何かを内側に入れるのを拒んだ。
それは他人や他者の心、そこから伝わる温度。
熱過ぎず、相手の中に入り込んでじんわりと凍てついたモノを和ませようとする。
──あぁ、俺はこの人にずっと包まれていたんだ。そして、ステイクも……
高町母娘と出会って一日と経過していないが、きっと二人もそうだ。
年下のヴィヴィオにも随分と気を遣わせてしまった。
嫌悪して逃げるなら、今までと同じ。
なら、少しは報いてみようと、そう思えた。
「──はい」
拝啓、機械より不確かな"ヒト達"へ。
確かに、俺は今でも完全に受け入れたとは言い難い。
人じゃないという意識は、根強く残っている。
「──先生は、人じゃないけど優しいですもんね」
良い台詞が浮かばなくて、不器用な照れ笑いを浮かべる。
「あと、ステイクも……LS4、念話遮断解除」
小煩くも、数年間俺を傍で支えて同じ景色を見てきたステイク。
煩わしいと思っていても、いつの間にかそれにも慣れてきて。
そしたら今度は近くなりすぎて、怖くなったんだ。
『……マスター!』
悪かったよ、ステイク。
俺がずっと逃げていただけだった。
『いえ、そんな! 私が出過ぎた真似をしただけです! ……でも、受け入れてもらえたなら私も嬉しいです』
そんな何気ない言葉に心がまた揺れるが、今度はちゃんと受け止める。
「ありがとう、オルス君」
聞くだけなら何度も聞いた感謝の意。
「どういたし……まして?」
距離感も人との接し方もまだまだ分からないけど。
「本当に感謝してるんだから! まだまだ、私達のことを敵視したりする人も多いから……こうして面と向かって言ってくれると、とっても嬉しいわ」
「いえ、それはこちらこそというか……あまり直球に言われると照れますね」
「照れてるオルス君はなんだか新鮮で可愛い!」
それになんだか照れくさくて、恥ずかしい気もするし。
「──オルス君は優しくて良い子なんだから、もう少し自分を認めてあげて?」
でも。
少しだけ自分と向き合えた気がして、悪くはないかな、なんて。
「──じゃあ、もう少し先生とお話してもいいですかね」
「もちろん! あ、だったらお昼まだなら一緒に行かない?」
「えぇ、ぜひ」
ふっと、心が軽くなったように感じた。
立ち上がると足もなんだか軽くて、重石が取れたようだった。
先生とこうして並んで歩くのも、なんだか浮き足立ってしまう。
──本局の無機質な空間も、妙に柔らかく感じるようになったのは考え過ぎだろうか。
☆
──あれから数日が経った。
相変わらず働く気も起きないし、あまり勉強意欲もないが、格闘技だけは続けている。
ヴィヴィオと練習したり、その師匠や友達を紹介してもらったり。
これで単なる暇潰し、と簡単に言い切れないくらいには大切なモノになってしまった。
手に職もなければ、学生でもない穀潰しなのには変わりないが、自分と向き合うことを覚えた。
自己嫌悪で日々を使い潰す暇があるなら、色んなモノを見て、感じて、確かめることを始めた。
新暦七十九年の春。
その始まりの始まり。
──色褪せた世界が、ほんの少しだけ色づき始めた瞬間だった。
早いけど、鬱パートから脱却を始めました。
……世界線は異なるけど、変態と番外的な感じでコラボできたら面白いかもですね