天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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アラバスタ編
さあ、始めよう、まがねちゃん流世界に対する嘘のつき方


「う、うーん。あーあ、死んじゃった。死んじゃった。これから面白くなるところだったのに、まがねちゃんは死んじゃいました。あー残念だなー」

 

 築城院真鍳は自分の意識が浮上して、まず先に自分が主人公に殺されてしまったのを残念に思っていた。

 

 しかし、彼女は死んでしまったのを悔いるのではなく、これから起こるであろう出来事に関われないのを残念に思っていたのだ。

 

 だからこそ、今の現状を確認せず、ただやりたかったことをツラツラと思い返していた。

 

「うるせーぞ!このガキ、静かにしやがれ」

 

「およ?地獄の門番かな?なら此処は地獄かな?でも、まがねちゃんは()()()()()()()()()()()()()

 

「何言ってやがる。ここは海賊船だ。恐怖で頭がいかれたか」

 

 彼女は声した方を軽く確認し、そこに鉄柵を見た。

 

「おっやぁー、これはまがねちゃんは捕まってしまったのかなぁ?それに地獄じゃないなんてとっても残念」

 

「何言ってんだ。気でも触れたか?」

 

「いやいや、まがねちゃんは捕まっていないよね。これは()()()()()()()()()()()?だってまがねちゃんは何も悪いことしてないから()()()()()()()()()()。ねえおじさん?」

 

 男は檻の中の綺麗な商品の明らかに狂った言葉に付き合いきれず、適当に言葉を返し去ろうとする。

 

「それはお前の檻だ。俺が()()()()()()()()だろうが」

 

 しかし、男はこの場を去れない。

 

「嘘の嘘、それはくるりと裏返る」

 

「なっ!」

 

 男はさっきまで檻にいたはずの少女が檻を抜け出し、自分が檻に入っている現状に驚いた。

 

「ほらね!まがねちゃんは檻に入って居ません。あははは」

 

 整った顔が不気味に歪む。その表情からは人らしさを感じられない。男は人ではないなにかと対峙している気分を味わう。

 

 それと同時に、自分の陥った摩訶不思議な現象に一つ当てはまるものを導き出した。

 

「悪魔の実の能力者か!」

 

「ん?悪魔の実?何それ。状況的にその悪魔の実とやらがあるとこんな超常的なことが出来るのかな?」

 

「何の悪魔の実だ!」

 

「んー。何と言われてもわからないのだけれど。悪魔の実なんて知らないし、教えてほしいくらいだよ」

 

 まがねは死んだと思っていたので今の状況を完全に把握していないが、断片的事実からあらゆる可能性を模索する。その思考は常人では考えられないほど早く、そして膨大な情報を処理している。

 

 ただ、彼女の顔は変わらない。何も考えていない様に見えるし、考えている様にも見える。そんな彼女の不気味さに男は言い知れぬ恐怖を感じる。

 

「あは!そうだねー。私は悪魔の実についておじさんにもう教えてもらってたんだ。いけないいけない、まがねちゃんはぼけてますねー」

 

「何言ってやがる。悪魔の実のことなんてお前なんかに教えるわけないだろ!寝言はね…て………」

 

 男の意識はそこで途切れる。

 

 

 

 

 

 

「ふーん。じゃあ、悪魔の実は食べれば凄いことができるけど、そのかわりカナヅチになるってこと。そうでしょ、おじさん」

 

 まがねの視線の先の虚ろな表情の男がその問いかけに答える。

 

「ああ。海に嫌われること以上に力が手に入るから、かなり貴重で高価な品だ」

 

「うんうん。よく分かったよ。ありがとう」

 

 まがねは自分が置かれている状況を少しずつだが理解してきた。だからこそ、彼女は数ある仮定を並べては消去し、又は積み上げ、その中に光る情報を見つける。

 

 だからこそ彼女は素直に男に感謝した。

 

「本当に助かったよ!じゃあ死んで

 

 だから笑顔のまま男の首に鋭い蹴りを入れ、その骨を折る。

 

 彼女は死んだ男のことをすぐに忘れた。

 

 彼女にとって価値の無いものに成り下がったためだ。

 

 だから彼女は男の死など気にしない。その死も彼女にとって価値の無いものだからだ。

 

 だから彼女は次のイベントを待ちわびていた。

 

「やっぱりまだまだ足りないなー。それでもこの世界は楽しめそうで良かった良かった」

 

 彼女は朗らかに笑う。

 

 

 

 

 

 

「クソ!こんなところで王下七武海に出会うなんてついてねぇ。野郎ども、急いで船を岸からだせ!」

 

「「「おう」」」

 

 まがねを乗せた海賊船は慌ただしくなっている。海賊たちは急いで帆を貼り、錨をあげる。

 

 そんな様子を眺める彼女はごく当たり前の様に船長らしき人のもとにまで、向かう。

 

「王下七武海って何?」

 

「こんな忙しい時にうるせえぞ!前にも言っただろうが、政府の犬に成り下がった海賊だ。あんな狂った連中と戦ってられるか!ん?」

 

 律儀に聞こえた声に反応した船長だが、この船に似つかわしくない女の声に訝しがる。

 

「何モンだ!」

 

 急いで振り返り、剣を女に突きつける。

 

 剣を突きつけられた女はその顔に笑みを浮かべたまま微動だにせず、何が嬉しいのか、おかしいのか、笑いながらこちらに話しかけてくる。

 

「あははは!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!そんな無駄なことよりも私のために踊ってくれない?」

 

 あまりに傍若無人な物言いに、もともと海賊になる様な頭のネジが緩い男は即座に剣を振り上げつつ、目の前の女を殺そうとする。

 

「なら死ね!」

 

「もう、危ないなー」

 

 彼女は危うげなくその一撃を躱し、頭に軽くゲンコツを入れる仕草し、

 

「うーん。失敗失敗」

 

 そう嘯く彼女は、死の危険が迫るのにその笑顔は全く変わらない。

 

 しかし、そんな不気味な彼女の様子を船長の男は強がりだと感じ、言ってはならないことを口にする。

 

「やっぱりハッタリか!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、今度こそ死ねぇぇぇぇ!」

 

 彼は海軍支部大佐を仕留めたことのある自慢の一撃を繰り出す。

 

 だが、そんな死の運命が迫っている中、彼女は今度は回避行動をまったく取らない。

 

 男は生意気なガキを仕留めたと確信した。

 

 しかし、彼女の口が裂けるのではないかというほどの深い笑みが体格的にも、状況的にも有利なはずの彼を不安にさせる。

 

嘘の嘘、それはくるりと裏返る

 

 彼女の紡ぐ声は不思議と周りの海賊達の喧騒にかき消えずに彼らの耳にスッと入っていく。

 

「「「なっ!」」」

 

 少女の体を真っ二つにする一撃はたしかに彼女に当たるはずだったのに、結果はただ、床に剣が突き刺さるのみ。

 

 明らかにおかしな結果に誰もが口を噤む。

 

「だから言ったでしょ!」

 

 楽しそうな少女の声に誰もが言い知れぬ恐怖を感じる。

 

「バッ、バカな」

 

 海賊の中で最も驚いていたのは勿論船長の男であった。

 

 この今まで以上に危険な海で、部下を纏め上げ、海軍を追い払った最強の一撃を何事もなかったかの様に躱すこともせずに、どうやったか分からないがくらわなかった。

 

 信じられない彼は何度も彼女に斬りつける。

 

 しかし彼女はただ楽しそうに笑うのみ。

 

 そしてだんだんと剣が振るわれる間隔が長くなり、疲れ果てたのかその剣の切っ先は下を向き、剣は細かく震える。

 

 誰もが訳の分からない現状に恐怖を覚える。

 

 誰もが彼女は化け物だとしか思えず。心が折れる。

 

「おやおや。もう終わりですか?つまらないなー。せっかく悪魔の実なんて面白いことを知ったのに。残念。これで全てか」

 

 彼女は男から背を向け悠然と全体が見渡せる場所に足を向ける。

 

 彼女の隙を攻撃するものは1人も現れない。

 

 彼女のために道を開け、場所を譲る。彼女がこの場の支配者だと誰もが信じ込んでいるかの様に、彼女か最も強者であるが様に恐れ、恐れ、ただ恐れる。

 

 人は理解できないモノを恐れる。

 

 彼女はまさしく理解できない存在だった。

 

 悪魔の実の能力者でも、攻撃を受ければ、その痕跡が一瞬でも残る。だが、彼女はそもそも攻撃を受けていない様にしか見えない。なにせ、剣が振られたと思ったら、いつのまにかその剣は床に刺さっている。まさしく誰もが理解出来ない何かが起きているしか思えない。

 

「じゃあ最後にパァーッといこうか!それが良いよね。それしかないよね!だってそれが最高に面白いと思わない!」

 

 誰も彼女に反応できない。誰も彼女に目をつけられない様に息を潜める。

 

「元気ないねー。まぁ、まがねちゃんはどちらでも構わないだけどね」

 

 彼女の場に合わない無駄に明るい振る舞いから、声のトーンがいきなり落ちる。

 

「どうせ結果は変わらない。あっ、ゴメンねー。まがねちゃんらしくなかったなかった。これが私だよねー。うんうん、じゃあ、最高の結末が何か教えてあげよう!」

 

 またすぐに彼女は調子を取り戻す。

 

 ただ、彼女の雰囲気が戻れども、壊れた空気は元には戻らない。

 

「最高の結末はねぇ」

 

 彼女はそれは可笑しそうに、本当に可笑しそうに、これからおきることを楽しそうに思い浮かべているのか、ここまで言って笑いが彼女の口から漏れでて、言葉が途切れる。

 

 静かな空間に彼女の狂った笑い声が満ちていく。誰かが、その狂気に耐えきれず、崩れ落ちる。

 

 彼女はひとしきり笑い満足すると、それはそれは楽しそうに自身にとって最高の、彼らにとっては結末の言葉を口にする。

 

「ここにはいる人は既にみ〜〜んな死んでいるって最高の結末じゃない」

 

 誰も彼女の言ったことを理解できない。

 

 それもそうだ。誰一人彼女の言葉を聞き、そして息をして、視界に映る彼女を見ているのだから、死んでいるなど言われても理解できない。

 

「ふざけるな!」

 

 誰かが声を張り上げる。

 

 その声につられる様に、彼女の言葉を否定する声が、言葉がドンドン増えていき、遂には彼女を恐れていた者も場の雰囲気、隣にいる仲間の存在、そしてふざけたことを言う少女はただ一人でこの場にいる。

 

 誰もが、彼女の不思議な力を忘れ、隣のものの言に賛同していく。

 

 誰もが一体感を持ち、なんの根拠もない自信を胸に、否定をしていく。

 

 そう、この場の彼女以外、意識あるものが全員一つの意思の元に団結し、彼女を追い出そうとする。

 

「嘘つき!」

「馬鹿言うんじゃねえ!」

「俺たちは生きているじゃねえか!」

 

 否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定否定……………………………………

 

 ただ一つの嘘を否定していく。

 

 彼女はそんな彼らの様子を楽しそうに、賞賛を浴びるように、その腕を開き、目を閉じてその口を引き締め、その身から溢れ出そうとする歓喜を閉じ込めるように、その腕でその体を抱き込む。

 

「ああ、ああぁぁぁぁぁ!最高!最高だよね!みんな分かっているじゃない!」

 

 身体を腕で抱いた後、その身をかがめて閉じ込めるように、そして下を向いて噤んだ口を開き、この場の誰も理解出来ないことを言ったのだ。そして彼女はその顔を上げ、立ち上がる。

 

「これが最高!これほど生にしがみつき、死ぬとも思っていない人間が、突如理不尽に全てを刈り取られる。自分達は大丈夫だと間抜けにも思うものがポックリと死ぬのは笑えるよね。まがねちゃんが好きなものはたくさんあるけど、ここに来て今が最も最高に楽しい瞬間だよ!君たちは私に快楽を与えてくれたのに本当に感謝しているよ!だからね。私のお返しをあげるね」

 

 船長の男は次の言葉を言わせてはならないと何故だか思い、声を張り上げる。

 

「全員奴を殺せぇぇぇぇ!」

 

 その場にいた海賊は即座に反応し、武器を抜く。ここで動かなければ死が待つのみだと、先ほどまで感じていた万能感をかなぐり捨て彼女の声をかき消そうと大声を出し合い、彼女を殺そうとする。

 

 ただ、全てが遅かった。既に彼女は彼らの命をにぎっていたのだから。

 

 だから、囁くように、されど聞き逃すものが誰もいない。それは死の宣告。

 

「嘘の嘘、それはくるりと裏返る」

 

 動くモノ全てが倒れ臥す。

 

「そして全てが死んでいましたとさ」

 

 静かな海賊船が中途半端に貼られた帆が風を受け、フラフラと岸から離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、馬鹿どもが、海賊としての格が違うって言うのに、理解できないとはな。ロビン、逃げた奴らはどこに行った!」

 

「ふふ、あなたの力ならどうせすぐ終わるのだし、そんなに怒鳴って聞かないで頂戴」

 

「すまんな。最近馬鹿どもが増えて面倒くさいんだよ」

 

「まあ、それには賛成ね。それと逃げた海賊は向こうよ」

 

「そうか。いくぞ」

 

「ええ、了解よゼロ」

 

 砂漠を歩く男と女、逃げた海賊を追い、彼女に会うまであと少しのことである。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

「うっ、何で床に倒れているん…だ!ひっ!

 

 男は目の前にいる同僚の瞬きすらしない土気色の顔を見て悲鳴を上げてしまった。

 

「ん〜?まさか生き残りがいたなんて。ガッカリ、最高の結末だったのに」

 

 嫌なほどの静寂は男の方に近づいてくる足音を伝えてくる。

 

「ここら辺だったような気がするなー。どこかなー?ここかな!それともこれかな?」

 

 自分に近づいては離れる足音に恐怖を味わいながらも、動かす死体のフリをする。

 

 そして足音は遠ざかる。

 

 彼は恐怖で動かぬ体に感謝した。

 

 だが、その感謝もそう長くは続かない。

 

「なーんてね!」

 

 男は突然腹部を襲う衝撃に耐えきれず声をあげ、吐いてしまう。

 

「うわ!汚いなー。このセーラー服はまがねちゃんの一張羅なのに、掛かったらどうするつもりだったんですかねー!」

 

「ぐっ。す、すみません。すみません。命だけは」

 

 再度男の腹を蹴り上げる。

 

 男は恐怖に震え、ただ耐え、慈悲を乞う。

 

「うーん?何言ってるの?私は皆殺ししたかったんだよ?それがあなた達の最も最高の使い方であり、価値ある使い方なんだよねー。私は私のためにあなたを殺す。それ以外の運命は君にはないんだよ。クスクス」

 

 彼女は残酷な言葉を連ね、最後に態とらしい笑いを付け加え彼を追い詰めていく。

 

 彼は自分の運命を悟り、ただ涙する。

 

 しかし、彼女は単なる殺人鬼ではない。

 

「でもー。まがねちゃんは今困っていることを思い出したんだよね。聞きたい?」

 

 彼女の顔に笑顔が浮かぶ。

 

 彼は最後のチャンスを逃さないように必死で頷く。

 

 だから彼は彼女の浮かべていた笑みを見ていない。

 

 それは切れることが約束された蜘蛛の糸であるが、男は躊躇なくすがりつく。

 

「実はね。まがねちゃんはこの世界のことについて何も知らないんだよねー。だから教えて欲しいの?」

 

 男は躊躇なく頷く。

 

「そっかー、なら()()()()()()()()()()()()()!」

 

 男はそれに嬉しそうに頷くが、彼女は顔を歪め、不愉快感を露わにするのを見て男は何を間違えたのか分からず慌てる。

 

「駄目だなぁ。喋らない人形には用はないよ」

 

 ぞっとするような冷たい声が歪んだ笑顔に濃密な死の気配を感じた。

 

「あっ、う…あ」

 

 一歩一歩近づいてくるまがねは彼にとって死神の歩みに見えた。

 

 だから、必死に無い知恵を絞り、恐怖を生存本能で弱める。

 

「あっ、ありがとうございます。そんなことをして頂かなくても一人で帰れます」

 

 彼はそれでも彼女の提案が嘘のように感じ、殺される可能性を思い出したため、急いで一人で帰れる旨を彼女に進言する。

 

「……………………」

 

 男の返答に満足してまがねは何かを呟く。必死だった男には耳に残る言葉が残らない。

 

「いやー。それでいいよ。じゃあ、聞くけど、その前に嘘をつかないでね」

 

 男は反抗心の欠片も残っていなかったため、即座に肯定する。

 

「それとも()()()()()()()

 

 彼女は彼が嘘を欠くつもりがないことを半ば確信している。だが、それでも彼に虚実を囁く。

 

 そして彼女の細められた目に見つめられた男は彼女の良い様に操られる。

 

「滅相もありません。()()()()()()()()!」

 

 彼女の言は余りにも荒唐無稽すぎ、嘘を吐くつもりのない男は彼女が恐らくそんなことを微塵も思っていないことを半ば確信しつつも、彼女の機嫌損なわないように否定する。

 

 彼女は笑う。

 

嘘の嘘、それはくるりと裏返る

 

 じゃあ、お話しにしようかと彼女は今までの雰囲気が嘘のように柔らかい空気を生み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん。なるほどねー。大海賊時代に世界政府、天竜人と四皇、七武海に革命軍」

 

 彼女は適当に知った言葉を並べるが、その見た目とは違い、既に自分が欲しいピースを手に入れ、これからについて考えていた。

 

 そんなこととはつゆ知らず、男は彼女が納得したように見えたので、恐る恐る彼女に進言する。

 

「これで岸に帰してくれますか?」

 

「ん?ああ、いいよいいよ。私の欲しい情報は手に入れたから」

 

 男は喜びボートに乗り込もうとして、歩いて海に落ちる。

 

 男の落ちたあたりに気泡が生まれているが、海の男たる海賊の一員が海水面に浮き上がることは無い。

 

「ああ、いい忘れていたけど、まがねちゃんは嘘つきなんだ。でも、約束は守ってあげるよ。私はあなたを殺さない。でも、嘘があるとすれば一つだけ、私があなたを無事に岸に送る気がないことだけだよ」

 

 彼女は上がる気泡を愉快そうに見つめながら、更に続ける。

 

「だから、貴方に海だろうが、船の上だろうが、灼熱のマグマの上だろうが、歩くように()()()()あげたんだ」

 

 彼女の笑みは深く深く、その綺麗な顔を醜く装飾する笑みを張り付け、消えていく男の最期を思い浮かべ、顔を赤らめる。

 

「まがねちゃんは、嘘つきだけど、単なる嘘つきじゃないんだ!嘘はつくべき時につけばいい。私は殺人鬼。だから人を殺すためにつく。でも、私は単なる殺人鬼じゃないんだ。快楽殺人鬼なんだ!だから、最高の快楽を味わうためには私は聖人にも何でもなる。まあ、嘘だけどね。クスクス。この世界に来た時、私は新たな快楽に我慢できなかったんだ。だから、最高の嘘をつけるように、最高の快楽を得るためにあなた達は利用価値があったんだ。だから、君には感謝しているよ。知りたかったことを教えてくれたからね。だからわざと希望を上げたの。そして生きるチャンスを上げたの。この世界に魚人やら、海の生物とかいるから、万が一助かるようにあえて、逃がしてあげたんだ」

 

 彼女は既に気泡が見えなくなった海をひたすら見て、顔に聖女の如き仮面を張り付け微笑みつつ、十字をきる。

 

「でもね!まがねちゃんは自分の楽しみを邪魔されるのは嫌いなんだ」

 

 仮面はすぐに剥げ、邪悪な悪魔に早変わりする。

 

「だから、貴方は死ぬ。この船の中で最も苦しみながら死んでいく。希望は輝くほど絶望はより濃くなる。最高の表情だったね!」

 

 彼女は死体をまるでないかのように歩く。既に彼女の興味は溺れた男に移っていたので、彼等はもう彼女にとってゴミである。

 

 彼女は過去をなつかしまない。利用しても、それをわざわざ記憶にとどめることは無い。彼女にとって単なる知識になり果てる。

 

「さて、この世界は面白いなー。こんなに歪み壊れそうなのに成り立つなんて、私の好きな虚飾が世界を繋ぎ留め維持しているなんて。それが何かまではまだピースが足りないから分からないけど、どれを壊せばいいかは簡単だね」

 

 彼女は空を見据え、今日一番の笑みを浮かべる。

 

「楽しみだなー。天を落とし、その使い、地を這いつくばるゴミの価値を変えたら楽しいだろうなー」

 

 彼女は空に手を掲げ、まだ嘘な事実を一つだけ吐く。

 

「天竜人は天の座から落ちた」

 

 そしてクルリと人差し指を空でまわすと、

 

「嘘の嘘、それはくるりと裏返る」

 

 最後にフィンガースナップをする。

 

 世界は変わらない。ただ、彼女は世界に嘘を吐いた。

 




築城院真鍳
 言葉無限欺という自分の言った嘘に言霊を込め、その言葉を相手に否定させることにより、現実を捻じ曲げ、嘘を真実にしてしまう能力を持つ。
 性格は最悪。
 人間としては壊れているが、その分人間以上にメンタルが強く、化け物並みである。
 その戦闘能力も決して低くない。
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