天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんでも嘘をつかないことはある

 水しぶきを上げ、水の中に沈みゆく王女。それを見てとても愉快に笑うまがねの手には赤い血が付着している。

 

「ビビ!」

 

 ルフィの叫び声が響き渡る。

 

 その光景を見て、ナミは口元を手で押さえ、ウソップは信じられないものを見たせいか動きを止めてしまっている。

 

「人は大切な何かを壊された時、もしくは大切な誓い、約束を破った時脆くなる」

 

 まがねは自分の手から離れて、遠くまで吹き飛ばされた王女を見ながらも、いつの間にか自分に近づいていたサンジに手刀を彼の腹めがけて繰り出す。

 

「避けろサンジ!」

 

 全く動く気配のないサンジに向けてルフィが焦ったように叫ぶが、サンジは全く反応しない。

 

「その表情、いいね」

 

 サンジの脇腹に彼女の手刀が刺さる。

 

「君の攻撃はあんな状況下なのに私に当たらないように蹴られていた。ふふふ、本当に君は狂っているよね。だからあえて君が攻撃しているのに、近づいてきていることに気づかないふりをして、君の攻撃をワザと王女様に当たるようにしてみたんだけど。大当たりだね」

 

 まがねはサンジから手を抜くと、王女の首を浅く切りつけた際に出た血と彼の血で汚れた手を自分の頬まで持っていくと、スーッとその白い肌に血を塗りつけ、その血のぬくもりを感じ少しだけ頬を赤らめる。

 

 サンジは力が抜けたのか、膝立ちの状態になる。

 

「狂った人間はなかなか壊せない。だって既にもう壊れているからね。だからこそ、それを壊してみたくなるのが人間ってもんじゃないかな。不可能なモノにこそ憧れる的な、それとも不可能を可能にしてみたい的な、限界を超えてみたい的なあれですよ。わかるかな?それともまがねちゃんだけですかな?」

 

 表情が抜け落ち、地面を向くサンジを見ながら、まがねは麦わらたちが一生懸命サンジに届かぬ声、そして思い無駄にぶつけているのをBGMとして聞きながら、ゆっくりと彼から遠ざかり、背を向けたまま檻にちかづく。

 

「壊れた人間は大抵はもう死んでいるからつまらないんだけど。彼は壊れながらにして理性を持っている。女性に決して手を出さない。こんなバカげたことをこの命が安い世界で実行するなんて狂人以外の何物でもない。彼の過去に何があったのか知らない。彼がどんな人生を歩み、どんな思いでそんなバカげた制約を自分に課したかなんて知らないし、知る必要もない。知ってるかな?壊れたモノは工夫次第で壊せちゃうんだよ。だからね、それらの思いを踏みにじるのにはその制約さえ知ってれば、その制約を破らせさえすれば、人を壊してしまう。ね、簡単でしょ。それにね、普通の人間よりも頑丈に見えてこういう人間は頑丈な心の柱を一本折ってしまえばいいんだ。やっぱり簡単に壊せてしまうと思わない?アハ!そしてね、そうしたらね、その壊れた心を簡単にのぞかせてしまうんだよ、誰にでもね。ねえ知ってる?ある学校で一つの悲劇が起きたってお話なんだけどね。聞きたい?聞きたいよね。ふふ、最高に楽しいお話だよ」

 

 まがねは未だに動く気配のないサンジを面白そうに見ている。その血が体から流れ出て、周囲の水を赤く染め始めているのを見てただ楽しそうに喋る。

 

「これはある学校の話。この学校は平和な学校。そこは戦争、殺し、暴力を何も知らない平和でとてつもなくつまらない場所でした。だから、つまらないこの空間にある生徒は、一輪の赤い花を咲かせたらどれだけ綺麗で、どれだけ楽しいのだろうかと、教室にそれはとてもとてもきれいな花を咲かせて見せました。その時の彼女らの表情は今でも忘れられない。ああ!違った違った、その時の彼女らの反応はその生徒にとってはとても満足が行く物でありましたが、その反応はその生徒にとっては一時の快楽にしかなりえなかったのです。それもそのはず、その生徒は平和である学園で起きたことだからこそ、一時的な満足を得られたものの、その生徒にとってはその反応は日常とさほど変わりなかったのです。それに気づいてしまったその生徒は、そこからその教室の全てを赤い花でいっぱいにしたお花畑にしても全く満たされません。だからその生徒は彼女らを徹底的に壊した。そして彼女らの日常を壊し、様々な感情を生まれさせては裏切りによる殺し合い、共闘、敵とも知らずに友になる者どもを見て、こわし、壊し、そして殺していくのです。知ってます?極限状態にしてこそ、その人の本性が見られるって。そして人間って何度も壊せるって知ってたかな?」

 

 まがねは楽しそうに誰かが犯した過去の事実を思い出すように話している。

 

 ウソップとナミは固唾を呑み、彼女の雰囲気に呑みこまれまいと二人して肩を抱き合い、ルフィは彼女に掴みかかろうとして海楼石に触れて力が抜けながらも、その確実に見えなくとも確実に笑っていると雰囲気で分かる彼女を睨みつける。

 

「一人の女子生徒は死んでいった親友との約束を胸にしながら、それを決して破らぬようにその生徒に向かっていき、残酷な真実を告げられ壊れ、死んでいく。普段リーダーシップを取っていたある女子生徒は他の者に裏切られてその生徒に生贄として残酷なゲームの最初の犠牲者となった。ふふふ、誰もが気付かない。もうすでに今までの自分が既に壊れていることに。未だ自分が壊れていないと信じ込もうとしている姿は滑稽でした。徹底的に壊れてもなお、人はまた再構築できる。そしてその再構築した時、人は強い一本の柱をもち、それにすがる。あの子は本当に最高でした。皆に裏切られ、絶望し、その脆く壊れた心に軽く復讐と言う新たな柱を作ってやれば嬉々として友を殺していく。その心が完全に復讐に染まった時、その生徒に忠誠を誓った時に壊す時のあの爽快感。一度何もかも壊れたからこそ、次に壊す時には綺麗に崩れてくれる。柱は一本しかないからね」

 

 まがねは懐から一本のカギを取り出すと麦わらたちに見せびらかす。

 

「彼は既に壊れている。だから完璧に壊れる様に苦労しました。けどね、だからこそその快感は計り知れない」

 

 まがねはカギを懐にしまう。その様子を見たナミはサンジを叱咤する。自分の命の危機にさらされその本性をのぞかせる。

 

「何落ち込んでるのよ!このままだとビビも私も誰も助からないのよサンジ君!ここであなたが落ち込んでも何の意味も無いわよ。自己満足よそんなの。レディファーストを心掛ける紳士でありたいなら、此処で男を見せてよ」

 

 その声を聞いてサンジはふらりとだが起き上がる。ルフィとウソップの声は届かないようだがナミの声は届いたようだ。

 

「あれ?あれで十分だと思ってたけど、やっぱり王女様は殺しておくべきだったかな?」

 

 まがねは失敗失敗と言いながらも、その顔は何時もの不気味な笑みを張り付けたままである。

 

 ナミは起き上がったサンジを見てガッツポーズをする。ルフィもその様子に安心したのか海楼石から手を離す。ウソップはナミのえげつなさに引きつつもこの状況を何とか打開できないか周りを見て、何かに気づいたのかこそこそと移動を始める。

 

「俺は、俺は男として情けないぜ。だが、此処で何もしないのは男じゃねえ」

 

 サンジは脇腹を押さえつつも片手でタバコを器用に取り出し、加えるとそのまま火をつける。

 

「何より!レディの期待に応えるのがナミさんの白馬の王子たる俺の役目だ」

 

 サンジはまがねに近づくと得意の蹴り技を何度も放つ。しかし、ケガの影響か何時ものキレがない。まがねはそれでも危険な攻撃を繰り出す彼に対して抵抗のそぶりは見せず語り掛ける。

 

「やっぱり、一本になったとはいえ、大きな柱は簡単には折れないね。でも、おれていないだけだね」

 

 まがねは全く避けない。サンジの攻撃はされど当たらない。

 

「ちっ!あんまり俺をなめてるんじゃねえぞ」

 

 サンジはその場で勢いよく回転しだし、大技を繰り出そうとしていたが、それでもまがねの表情は変わらない。

 

 まがねはサンジの攻撃にワザと当たるように無造作に近づく。

 

 サンジはギリギリまで回転を止めようとはしなかったが、まがねの表情は一切変わらず、彼の攻撃に当たりに来てるようにしか見えないため、サンジは回転を止め距離をとる。

 

「何がしてんだ?自ら当たりに行くなんてあぶねえじゃねえか!」

 

「ちょっ!サンジ君、そいつ敵よ。蹴り飛ばしてしまいなさいよ」

 

「サンジらしくなってきやがった」

 

 ナミはさっきまでまがねの雰囲気に呑まれていたとは思えないほど元気よくサンジに怒鳴りつけていたが、ルフィは逆にサンジらしいと笑っていた。

 

 空気がガラリと変わる。それを敏感に感じ取ったまがねは俯くと、その長い前髪をガシガシとより分けるようにして掻くと、ため息をつき、懐に手をいれる。

 

「はあ、つまらない」

 

「ああ?」

 

「だから、つまらない。私の大っ嫌いなモノだよそれ。ああ、興ざめ」

 

 まがねは手の平をサンジに突き出す。そこには檻のカギが握られている。

 

 いきなりの彼女の豹変に誰もついて行けない。

 

 彼女はサンジに近づく。

 

「本物か?それ」

 

 余りにも怪しく、訝しげに彼女にそのカギが本物かを聞く。

 

「もちろんだよ。詰まらなくなったからあげる。それとも女性が嘘を吐くとでも」

 

「ふっ。愚問だぜ。ありがたく頂戴するよ君からの愛は」

 

 まがねは顔を俯かせたまま、サンジの横を通り過ぎざまにカギを渡す。

 

 そして、サンジの意思がそのカギに向かった時に彼女はくるりと振り向き、その血にまみれた手を振りかざし、その血の付いた顔を歪め、その目には狂気を宿している。

 

「まがねちゃんはね。嘘つきなんだ?つまらないことを面白くするのも嘘の醍醐味。そしてまがねちゃんはね。ある事柄にだけは真摯で、それは正直者なんだよね。何だと思う」

 

 その赤い手が無防備のサンジの背中に迫る。

 

「それはね、壊すこと、殺すことなんだ」

 

 ナミが叫ぶ。

 

「無抵抗なモノをいたぶるのも好きだけど。君にはもったいないから。くふ、きれいな花が咲くといいね」

 

 まがねの視界が赤く染まる。




まがねちゃんの過去エピソード

 彼女は原作では女子学園の生徒を皆殺しにしている。

 ある学校のお話は一体何のことなのだろうか………。
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