天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんは見つけてはいけないものをついに見つける

 まがねの目の前が赤く染まる。

 

「あは?あれれれれ、ナニコレ。まがねちゃんちょっと理解できないかな」

 

 まがねはサンジを殺そうと手刀を繰り出そうとして体が急に言うことを利かなくなったことに理解が及ばない。思考がうまくまとまらないながらもまがねはグラつく自分の体を不思議に思いつつ、この原因であろう鈍痛のする額に手をやる。

 

 ぬるりとした感触がまがねの手に残ると同時に額が熱を持つ。

 

 まがねは自分が怪我をしていることに気が付くと同時になぜ自分が怪我をしているのかを即座に考え、その攻撃が飛んできたであろう方向を予測し一つの考えにいたる。

 

「まがねちゃんビックリ」

 

 額から血を流し、その血が元からついていたサンジとビビの血と混じる。

 

 まがねの視線はサンジから彼の全力の攻撃を食らったであろう王女様へと向かう。

 

「サンジさんは貴方如きでは壊せません」

 

 そこには彼女に浅く首を斬られて首筋から血を流し、サンジの攻撃により内臓を軽くやられたのか口から血を流していたが、しっかりと立ち片手に武器をつけ戦闘への意思を見せつけている。

 

「ふふふ」

 

 まがねは王女の状態を大けがであり戦闘不能状態になったとサンジの攻撃から予想を付けていた。

 

 しかしそれは間違いであったと今の王女の状態を見て彼女は思う。

 

 まがねはサンジが全力での攻撃を途中で手加減しつつ急所に入らないように外すという離れ業をこなしていたことに、驚きと同時に彼の心の中を読み間違えた自分への怒りがあった。

 

『あの時全く動かなかったのは無理をした反動で体に既に大きな負担が掛かっていたから。そしてその後の技の切れの無さ、それもその無茶のせい。女性のために自身の身を削るなんて……、此処まで狂っているなんて驚き。くくくくく、ふふ、アハハハハハハハハハハハハハハ』

 

 彼女は王女が自分に向かって再度攻撃してくるのを見ていたがその場から動かずただ体を小刻みに振るわせるだけである。

 

 そんな彼女に、王女は自分が投げた石が脳天に当たり予想外のダメージを食らっていると思い、飛び上がり、彼女の首に向けてその武器を振り下ろす。

 

 彼女の攻撃がまがねを捉えそうになるその瞬間、俯き誰にもその顔を見せずにいたまがねの顔が上を向き王女にだけその表情が露わになる。

 

 そこにはただ不気味な笑みを張り付けているまがねがいた。

 

 そう、まがねはこの状況下においても笑っているだけだ。

 

 ただ、その笑みは口が裂けんばかりの笑みであり、それでいて不気味さがいつもよりも薄れた笑みだった。

 

 彼女が顔を上に向けた時同時に弱弱しくも覇王色の覇気がこの空間に満ちる。

 

 それは彼女の笑みがいつものとは異なる張り付けていた笑顔という仮面が壊れたために、そのひび割れからあふれ出た本物の感情がこの場に解き放たれているようだった。

 

 その壊れた仮面から覗く彼女の覆い隠された本当の顔がビビに恐怖を植え付ける。

 

 そして彼女から発せられる空気に触れた誰もが彼女の漏れ出た感情が何なのかを理解した。

 

 壊れた笑顔は引きつり、それでいてまがねの口からは歯ぎしりの音が聞こえてきそうだった。

 

「あは!アハハハハ、クク、クハ、フフフフ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

 笑い声が響き渡る。

 

 女性の物とは思えぬほどの、先ほどまで饒舌に喋っていた人物と同一人物なのかと疑うほどの低い笑い声がその場にいる全員の鼓膜を揺らす。

 

「まがねちゃんはね、騙すのは好きでも騙されるのは嫌いなんだ。それとね」

 

 何時ものように軽くしゃべっているはずなのに、彼女の言葉に虚偽が一切含まれていないと誰もが感じた。

 

「死人は……、死人は死んでなければおもしろくない」

 

 まがねは硬直したビビの腕を掴み引き寄せるとその腹に蹴りをぶち込む。

 

「かは」

 

 まがねは血を吐く王女を無感動に見下ろして、掴んでいた腕を放すと、倒れ込む王女の長い髪を無造作に掴みその顔を強引に引き上げると、拳を握り、殺意を込めて振り下ろす。

 

 鈍い音が室内に何度も何度も何度も、まがねは王女がか細く何かを言っていても止めずにその拳を振り下ろす。

 

「はあ……、まがねちゃんは嘘をつかない。殺し、壊しは正直にあるべきだとまがねちゃんは常々思うのだよ。それが私の絶対のルールであり流儀なんだ~。だから、くだらないし、つまらないし、呆れたよ?何もかもが無駄だと言うのにね」

 

 見かねたサンジがビビを救おうと蹴りを繰り出そうとするがまがねは王女を盾のようにサンジの目の前に掲げて、漸くいつも通りの笑みを浮かべて見せびらかすようにその酷くはれ上がり血を流す王女を見せる。

 

「君には無理だよ。死にゆく王女様を見守るのが君に出来る唯一のこと。それとも女性に手を上げる?どちらもできない?それでいいんだよ。それがいいんだから。今度こそ君をちゃんと壊してあげる。その檻の中の彼女を次は君の目の前で同じように殺してあげるから楽しみにしててよ。クフフフ」

 

 まがねは漸く美しく死に化粧を纏った顔立ちになった王女の顔を愛おしそうに撫でると、檻の中にいる無邪気な彼に向けて深い笑みを浮かべ、少しワクワクしながら、顔を檻に向ける。

 

「死んでいく者の姿を見ればさぞ面白くなるだろうね。最高のショーだと思わない?」

 

 まがねは無惨な仲間の死にざまをどのようなツラで見ているのか期待に胸を膨らませながら檻をみる。

 

 しかし、彼女の表情は固まる。

 

 開くはずの無い檻が開けられており麦わらの一味がどこにもいないのだ。

 

何も面白くねぇ!

 

 まがねの真横から怒りに満ちた声がする。

 

俺の仲間はお前なんかに壊せないし、誰も死なねぇ!

 

 まがねが声の主を確認する前に彼女は吹き飛ばされる。

 

 既に腰の深さまで水が溜まっている室内でまがねはその水の中に沈みながらも自分を吹き飛ばした犯人を視界に入れる。

 

誰の救いも必要ない!俺たちだけでクロコダイルをぶっ飛ばすし、ビビも国を救うんだ。お前なんかに俺たちの行き先を決められてたまるかよ!

 

 そこには伸ばした腕を戻す麦わらのルフィの姿があった。

 

 彼女は絶対に助かるはずの無い人間が自分を追いつめているのに今度は怒らなかった。

 

『この世界の人間は頑丈だったのを忘れていたよ。ちゃんと脳ミソ飛び出るくらい踏みつけとくべきだったね』

 

 彼女は水面に浮く包帯の切れ端を見て何が起きていたのか悟る。

 

『ふふふ、誰も死なないか。たいそうな嘘つき。その嘘が嘘になるときが楽しみ』

 

 彼女は一人も殺せなかったがその心にはもう怒りなど殆ど無かった。

 

「君に決めたよ。絶対に私のショーに招待してあげる。待っててね」

 

 まがねの呟きは彼女の体が着水し、大きな水しぶきを上げる音に消し去られ誰の耳にも届かなかった。

 

 そしてまがねが水に沈むのと同時に、水圧に耐えられなくなった部屋の壁が壊れ始め、一気に水が浸入する。

 

 麦藁の一味と海兵一名がその場を泳いで逃げる間、彼女が水の中から浮き上がるのを見たモノは居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザバァ

 

 周りを水堀で囲まれたカジノの周りは海兵といきなりカジノの端が落ちたことによる野次馬で大騒ぎであったため、そんな中、一人の少女が水堀から路地裏にひっそりと移動しているのに誰も気づく者はいなかった。

 

「まがねちゃんが嘘つきにされるのは久しぶり」

 

 その少女は薄暗い路地裏で笑っている。血を流しながらも、ある目的地に迷わず向かう。

 

「見つけた」

 

 目的地に着いた少女は迷わずその変哲もない住居に入ると中にいる人形どもに指示を出す。そこにはクロコダイルが向かったこの国の首都や反乱軍の情報がちりばめられた部屋だった。

 

「見つけた。前の世界で私が嘘つきにされたあの主人公さんと同じく、まがねちゃんが殺し損ねた人間。ふふ」

 

 彼女は少し赤くはれている頬を撫でながら、何時もの笑みを浮かべている。

 

「私の物語の主人公を見つけた。これで、まがねちゃんの嘘はようやく真実になる」

 

 彼女は少しだけ壊れた笑みを浮かべるがすぐにその表情を何時もの笑顔で覆い隠す。

 

「今度は失敗しない。あは!始めようか!」

 

 彼女は外に出て沈みゆく太陽を見ながら楽しそうに、ゆっくりと真実に近づいていく嘘を呟く。

 

「天竜人は地に落ちた」

 

 路地裏にパチンと指を弾く音が響くのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

「おいサンジ!いい加減にしろよ」

 

「ほっとけウソップ。バカは死んでも治らねえよ。引きずりゃいいだろ」

 

「それは流石にどうなんだ」

 

 急いでクロコダイルを止めに首都アルバーナに向かわなければいけないのに、無事に脱出できたのに落ち込むサンジを見てウソップは何で落ち込んでいるのか分からないが、急がなければいけないので落ち込んでいる暇はないと何度も言うが、全く微動だにしない彼に業を煮やしていた。

 

 ゾロはサンジのことをよく理解しているため、バッサリと切り捨て、引きずろうと提案する。

 

 そんな中、サンジが漸く反応を示す。

 

「俺は紳士失格だ」

 

「割といつも失格だと思うぞ」

 

 ウソップの鋭いツッコミを無視して彼は独白する。

 

「俺は沈みゆく傷ついた孤独な少女をあの場で助けることが出来なかった」

 

 彼の歪んだ眼は歪んだ少女をとてつもなくおかしなフィルターを挟み見ていたようだ。

 

「クソ!」

 

 目に涙をため、既にびしょ濡れで火など吐くはずもないタバコをその手に持ちながら、拳を握り地を叩くその様はなかなかのものだが、周りとの空気の差が酷く、雰囲気が伴わず、酷くコメディー色が濃厚である。

 

「おいルフィ!サンジを引きずれ。この馬鹿に付き合っててもらちが明かねぇ」

 

「そうだな、俺が間違ってたよゾロ」

 

 引きずられながらも彼の目はあの部屋と共に沈みながらも微笑んでいた美少女に思いをはせていた。




 通りすがりの読む人さん誤字報告ありがとうございました。

 まがねちゃんはルフィをロックオン!

 一瞬「最高のショーだと思わんかね?」と言わせたくなりました。
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