天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
アラバスタの首都アルバーナは国中から雨を奪い去ったのが国王だと国中に知れ渡った。
その事実は国民の怒りを増幅させ、今まで国王のことを信じていた者たちまでもが反乱軍に加わり、大群となった反乱軍が国を滅ぼそうと王宮に攻め込もうとして国王軍と戦争を始めていた。
その様子をまがねは王宮のテラスより楽しそうに眺めていた。
「ふふ、凄いな~。たった一つの嘘が此処まで大きくなるなんて」
まがねは王宮の外で流れる血を想像しご満悦だ。そしてその気持ちを共有するかのようにニコ・ロビンに拘束されているこの国の王ネフェルタリ・コブラを見ながらいつものように薄気味悪い笑みを浮かべ「面白い。そう思わない?」と声を掛ける。
声を掛けられた王はその明かに人間としておかしい少女を直視してその言葉を否定する。
「そう?自分たちの敵が偽りの王だったってだけの話でしょ。それなのに誰もあなたの本当の姿を信じずに偽りの王を信じるのだもの。おかしいよね。国を救うモノが国を亡ぼすことになるんだから。自分たちが正義だと思い、最後に真実を知った彼等はどうなるのかな。ふふ、楽しみじゃない」
まがねはコブラから視線を逸らすとまた眼下の人と人であったものを眺める。
「ふふ、何のために死ぬのかな」
まがねは彼等の愚かしい行為を見て、それにより流れる血、そして反乱軍と国王軍の争いに巻き込まれるこの国の民を見て本当に楽しそうだ。
「まがねちゃんも結構大騒ぎは好きなんだけど。此処までの大騒ぎは体験したことが無いからちょっと体がうずいちゃうな」
まがねの視線にコブラはぞっとする。
彼女からは人を同じ人だと思っていないように感じられたからだ。
「ああ、此処でもう王様を殺しても面白そうなのだけれど駄目かな?」
彼女は誰もいるはずの無い通路の奥を見ている。
しかし、彼女の言葉に声を返すものがいたのだ。
「駄目だ。まだこいつには役割がある」
後ろから砂が風に運ばれるこの砂漠の民ならば聞きなれた音が砂などあるはずもない王宮から聞こえてくる。
その音にコブラは視線を横にずらすと、まがねを止めに入ったクロコダイルの姿がある。
コブラは自分の娘ビビがこの男の会社に潜り、この国を滅ぼそうとたくらんでいるのがこの国では英雄と呼ばれる男だと知っている。
その男が遂に自分たちの目の前に現れたということに名君と称えられる賢きコブラは既にこの国が積んでいることをいやおうなしに感じた。
今まで決して姿を現さなかった黒幕がその姿を表に出す。それは計画が既に終わりに差し掛かっていることに他ならない。
しかし、同時にコブラは今まで感じてきた違和感、それが今何なのかわかり、クロコダイルに対してこの絶体絶命の状況下でありながら臆せずに問いかける。
「貴様は何がしたい」
毅然とした態度を崩さない王にクロコダイルは少しばかり感嘆する。
「ほう。で、何がしたいかだと?」
「ああ、国を手に入れたいにしても、このやり方では何も手に入りはせぬ。いったい何が狙いなんだ」
「クハハハ。まあ、流石に分かるか。ああ、俺はこんな国が欲しい訳じゃねえ。欲しいのはお前ら王族が伝承し、守ってきたポーネグリフにしか興味なんざねえんだよ」
コブラはその言葉に自分が反応してしまっていないか心配で顔に手を触れたくなるが、それを意志の力で押さえつつ、平常心を心掛け、顔には訝し気な表情を張り付ける。
「何故そんなものを欲しがるのだ。あれは誰にも読むことなど不可能な代物」
しかし、コブラは言うセリフを間違えた。彼は自分が思っていたよりも動揺しているようだった。
「なるほど。やはりこの国にあるんだな。ポーネグリフが」
クロコダイルはコブラの顔を冷静に観察する。そして言葉を選びつつも、ここで確信をつく。
「古代兵器プルトンが」
コブラの目が見開かれる。
その反応にクロコダイルはこの王がプルトンについて知っていること、そしてここのポーネグリフが確実に自分の欲する物を手にすることが出来る代物だと分かった。
「その在りかを知りたいんだよ。だから、この国がいくら荒れようがどうでもいい。俺がプルトンを手に入れるまで世界政府の目をそらせさえすれば後はどうとでもなる。俺も空っぽの国なんかに興味は無いからな。クハハハ」
クロコダイルが楽しそうに笑う中まがねは王宮からいつの間にか手に持っていた双眼鏡で数か所の場所で起きている戦いを楽しそうに見て、少しだけそわそわとしていた。
「ねえ、王女様が王宮に入られたようだけど?私殺しに行っていいかな。彼女とは私約束してるんだよね。ころしてあげるってね」
まがねの目は王宮に入り込むことに成功したビビを一瞬だが捕らえていた。
こんな様々な人間で溢れ返す中王女を見つけるのは至難の業だが、まがねは周りで暴れる麦わらの一味とその一味の行動から王女が必ずこちらに向かっていることを看破し、もし来るならば戦闘に巻き込まれない人通りの少ない場所だと当たりを付けて戦争の観戦がてら見張っていたのだ。
「ほう。此処まで来たか。何をするつもりなのか見てやろうじゃないか」
「殺したいなぁ~」
「我慢しろ。それとも俺に逆らうか」
まがねはクロコダイルに睨まれると、諦め王様を連行してビビの元に向かうクロコダイルの後ろを静かに歩く。
「火をつけなさい」
ビビはこの宮殿に何とかたどり着くとそこで護衛隊副官チャカに出会い、反乱軍と国王軍の戦争を止めるためにある指示をだし、中庭に彼と共に二人の兵士を引き連れていた。
「しかし、ビビ様。本当によろしいのでしょうか。王宮を爆破するなど……」
松明を持つ兵士は既に王女様とチャカ様が許可していることでも、この国の象徴を破壊してもいいモノかと逡巡し、火をつける手を一度止め確認する。
それもそうだ。いくら戦争を止めるためとは言え、自分たちの守る場所を壊せと言われて壊せるものはすくない。
だから彼等は迷い、チャカに再度確認をする。
「ああ、火をつけろ」
チャカは王女の顔を一度ちらりと見た。そして彼は兵士に許可を出す。
しかし、それでもためらう兵士に彼は叱咤する。
「我々が守るのはこの宮殿という象徴にあらず。守るべきは国。その国の根幹たる民だ。守るべきものを守るのが我らの役目だ。迷うな」
それは王女様に会うまでの王を思う護衛隊副官としての自分を殺した一言であり、国を思うこの国の守護者としての言葉であった。
その決意に押される形で兵士は覚悟を決め、導火線に火をつけるため松明を近づけようとしたその時、砂嵐が突如巻き起こり火をつけようとしていた兵士を吹き飛ばし地面に叩きつける。
松明の火は結局導火線に引火することなく鎮火し、地面に転がる。
あり得ない現象にチャカは愕然としたが、砂を操る男を何度も見てきたビビは重症を負った兵士に駆け寄り、容体を確認しつつもこの国の敵が此処にいることに気づいた。
「何処まで邪魔をするのよ。クロコダイル!」
ビビは死んでいく兵士を見守りながらもここを見ているであろうクロコダイルに向け叫ぶ。
「クハハハ。人聞きが悪いな王女様。それにそれは流石にお転婆すぎる。俺がこれから住む場所がなくなるだろうが」
チャカは薄暗い通路から足音を聞くと、王女の盾となるべく彼女の前に出て身構える。
通路の暗がりから四人の男女が姿を現す。
その姿を確認したビビは冷静さを失い、即座に自分の父を助けようと駆けだそうとして、顔を強張らせ殺気を漲らせたチャカに止められる。
通路から姿を現したのはこの国を陥れた元凶たるクロコダイル、この国の王コブラを拘束するニコ・ロビン、そして彼等の仲間だと思われるまがねだった。
チャカはこのままでは王女がクロコダイルの前に走っていきそうなため、冷静にと心掛け、彼等に王の解放を求める。
「コブラ様を放せ」
ただ、冷静を装うチャカの手はその腰にある剣に伸びている。
そんなこの国きっての戦士の殺気に誰もひるまないどころか、その姿がおかしいのか笑みすら浮かべている。
「何がおかしい!」
「だってね~。ぷ、クク。ああ、笑いが抑えきれない」
まがねは彼等の姿が滑稽だと言わんばかりに腹を抱えて笑い出す。
クロコダイルは声に出して笑ってはいなかったが、その思いは一緒なのか顔に似たような笑みを浮かべている。
「確かに滑稽極まりない。お前の後ろには守るべき王女、その前にも守るべき王がいると言うのに」
そこまで言うと、ニコ・ロビンの方をちらりと見る。
ロビンはそれに対して王の体に生やして拘束していた自分の腕に二本の杭を渡すと、近くの柱にコブラを張り付ける。
その際短い悲鳴をコブラは上げるが、王女もチャカも黙って見ていることしかできない。
「でっ?何ができるんだ。お前たちに」
コブラに近づきフックを突きつけるクロコダイル。そんな彼は睨むことしかできない哀れな王女様を見て嘲笑う。
「クハハハハ。何もできないんだろ。なら黙って見とくんだな。……さてコブラよ、先ほどの続きといこうじゃないか。ポーネグリフの在りかは何処だ」
王に問い詰める彼の言葉を聞いてビビは何故そんなものを求めるのか分からなかった。
しかし、いつの間にか彼女たちの背後にいたまがねが機嫌よくその疑問の答えを言う。
「この国のポーネグリフは世界を亡ぼすほどの古代兵器が眠っている在りかを記してあるの。だからそのポーネグリフの在りかを知る必要があるんだよね~。理解できちゃったかな?」
ビビはいきなり真後ろから聞こえる声に戦慄し、振り向きざまに武器を振るう。
「およよ?親切を仇で返された」
まがねちゃん悲しいと言う彼女に対して、ビビは一方的に殴られたあの時の恐怖がよみがえり、片手で煩く鳴る心臓を胸の上から抑え込み、片手で武器をまがねに向け敵意を漲らせなければ足が震え、膝をつくところだった。
クロコダイルは余計なことを言うまがねを睨みこそしたが、ほぼ順調に計画の終わりが近づきつつあること、そして死ぬ人間であることからして何も言わず。その代わりにコブラにただ一言「王女を殺す」と脅しをかける。
「ッ!」
「どうした?」
王が娘のために折れそうになったその時、ニコ・ロビンが手を押さえ、切れて軽く血を流す手から顔を上げ宮殿の門を睨むため、何が起きたのかクロコダイルが彼女に問いかける。
ロビンがその問いに問い返す前に宮殿の扉から四人の屈強な戦士が現れてクロコダイルは理解した。邪魔な兵士どもを入れないように彼女が守っていた扉を突破したのだと。
その四人の戦士に最も感情を動かされていたのは何故かまがねだった。
と言っても、彼等の強さに驚いたとかではない。彼女はもの凄くガッカリしてぼそりと「こんな場面で登場するのがモブとかないわ―」と呟き、こんな雑魚を通してしまったニコ・ロビンを睨みつける。
そして、ガッカリとしつつもまがねは即座に考えを改めた。
彼女が考えを改めていた頃、この国の為を思い、命を削り自身に力を与える水を飲んでこの国の敵に一矢報いようとする四戦士は各々の武器を持ち、クロコダイルにこの国の痛みを語る。そして、守るべきものを守らずに死んでいくことを詫び、彼等はクロコダイルに戦いを挑もうとしていた。
だが、そんな彼等の四人の戦士はクロコダイルの元にかける前に三人になった。
「
手刀が戦士の首に走り、その首から夥しい血の雨が降り始め、崩れ落ちた彼の体の後ろにはまがねがその血を浴び、恍惚としつつ怪しく笑っている。
いきなり、仲間が殺されたことに動揺しつつも彼等は彼女の存在を敵と認識して武器を構えなおそうとする。
「楽しまなくっちゃ、ふふ」
しかし、彼等の動きは遅すぎた。その構えなおすワンアクションの間に彼女は彼等の間合いを潰している。
骨が折れる音がする。
また一人の戦士が死んでこそいないものの、体の骨を折られ地に伏せる。
一瞬で残り二人となってしまった戦士たちは仲間の死を悲しみつつも覚悟してきた為、それでも躊躇なく武器を振るう。
されどそんな彼等の決死の覚悟をあざ笑うかのように彼女は死にぞこないの彼等の仲間の体を蹴り上げ盾にする。
「「っ!すまない」」
彼等は卑劣なことをする彼女に怒りを、結果的に自分たちが止めを刺してしまった仲間に詫びると、武器を死体から引き抜く。
しかし、また一人その決意を無駄にするかの如くその体から剣を生やして体から力が抜けていく。
「仲間の剣で死ねるなら本望なんでしょ?」
まがねは死体の陰に隠れて拾っていた剣を死角から投げつけ、彼等が自分たちの手で殺した仲間を見ながら可笑しそうにそう言う。
誰の目からも致命傷を負った戦士はそのまま地に伏せる。
「きっ、貴様ぁぁぁぁぁ!」
最後の戦士が吠える。
だけどまがねはそんな彼を見ていない。さっき剣を投げたように今度は仲間の槍を投げる体勢に入っている。だが、その槍の矛先は彼に向いていない。
彼女の視線の先には王女様がいた。
戦士の目には必死に王女様の前に出ようとするチャカの姿がある。
彼は即座に判断してその身をその射線に躍らせる。この二人を死なせるわけにはいかなかったのだ。
だが、そんな彼を愉快そうに見るまがねの視線に彼はゾクリとする。
「バカだね。見捨ててれば、かすり傷くらいは負ったかもしれないのに。ふふふ」
彼女は投げない。楽しそうにその槍を彼の前に投げ捨てる。
余りに不可思議な行動に彼は「何を?」といいたかったが声にならない。いや、それどころかその体はもう言うことを利かずに力なく段々と地面に近づく。
命の限界が訪れてしまったのだ。
まがねはそんな彼のそばに歩み寄ると、その彼が落としてしまった武器を拾うと彼の目の前に置き、しゃがみ込む。
「主君の為にも、仲間の為にも死ねず、ただ一人命を枯らして死んでいく気分ってどうかな?」
まがねは彼の目の前に置いた武器を今度は彼の投げだされた手の平に乗せてあげる。
「武器を握らないと殺せないよ。ふふふ、ほら」
彼女は戦士をあざ笑う。お前だけは戦士ではないと嘲笑する。
「仲間の仇、国の敵、それを目の前にして武器も握れない」
戦士の耳元で彼女は囁く。
彼はただ涙する。
「そしてあなたはただ死んでいく」
彼女はまだ殺しきっていない、体から剣を生やした戦士に近づくと、彼の耳にも聞こえる様にその剣を引き抜き、そしてまた刺し、時たま撫でる様にその体を切り刻み、そして愉快なオブジェへと変えていく。
それは彼が見える位置でわざと行い、彼の耳の最期に聞こえる声が仲間の断末魔であるようにじっくりと剣を振るう。
「良い表情だよ」
彼女は全ての戦士が息絶え、その顔が彩る様々な表情を恍惚とした様で眺める。
最初に殺された戦士は戸惑いの、次に殺された戦士は驚愕の、命を枯らした戦士は悔恨の、最後になぶられて殺された戦士は苦痛と恐怖の表情を刻み込まれ、彼女を楽しますように彩られている。
余りに凄惨な有様に王女は言葉を失い、国王は彼等の死を悼み、チャカは戦士を侮辱する彼女に怒りを燃やす。
「クハハハ、愉快だな。俺のために準備してくれたんだろうが単なる玩具だったみたいだな」
クロコダイルはまがねの玩具にしかならない彼等を嘲笑う。
その戦士の誇りを傷つける行為をとうとう見逃せなくなったチャカは武器に手を掛ける。
「貴様らぁぁぁぁぁ!」
チャカが吠え、四人の戦士の無念を取るためにまがねに突進する。
その突進速度は彼の悪魔の実であるイヌイヌの実モデル“ジャッカル”により、その距離は変身してから一瞬にして縮まる。
まがねはその様子を面白そうに見ても構えはせず、戦士の死体を彼の目の前に投げる。
死んでもなおその身を汚す行為にチャカは怒りで目の前が真っ赤になったように感じ、そしてこの女だけは殺さなければならないと彼等の為にも、そして自身の誇りにかけて、仲間の死体を乗り越え、彼女の首めがけてひたすら走る。
しかし、その牙が彼女に届くことは無かった。
彼の体に砂が走り、通り過ぎていく。ただそれだけだが、地面は割れ、彼の体を切り裂く。
砂が走った通り道の始まりにはクロコダイルがつまらなそうに右手を下し葉巻を吸う姿があり、その目は冷え切り、チャカの戦士としての戦いに何も感じていないようだった。
「そろそろ仕事の時間だ。これ以上てめえらのお遊びに付き合う気はねぇ」
冷酷にそう告げるクロコダイルは力を失い地面に伏せるチャカの行動をまるで犬の芸とでも言うかのように言い放つと、誰も守るモノが居なくなった王女に右手を向けつつ、王を見る。
「分かるよな?次は王女の番だ」
コブラは苦悩する。
そしてまだ、彼等の主人公は駆け付けてこない。