天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
反乱軍と国王軍の戦いは宮殿前で一時の静けさを生み出している。
両者ともに国を思い戦うだけに、そして反乱軍は正規の軍ではないため指揮系統がほぼなく数で戦っている状態の為、一度戦いだしたら止める手段がほぼない。だが、この場だけではあるが反乱軍の動きが止まっていた。
この状況が生み出せるのはこの国には一人しかいない。反乱軍リーダーのコーザである。
彼が王国軍の中から現れたため、彼等は動きを止めたのだ。
一方、コーザはどうしてもかつての国王の姿を思い出し、この国を亡ぼす前に国王にもう一度会いに、子供の頃王女ビビと砂砂団をしていた頃に利用していた隠し通路を使い王宮に忍び込んでいた。
なので、彼はそこでクロコダイルたちの姿と、彼等に追いつめられる王族と倒れ伏す兵士を見て自分の戦いに、自分が掲げた正義が揺らぐのを感じつつ、今自分たちがしていることが最悪の結果なのではないかという思いに支配されながらも、言葉を絞り出し、王にそして行方不明になっていた王女に何が起きているのかと問う。
そこで知らされる真実。それは余りにも最悪なモノであった。
このままでは戦争を止めるために、国を思い立ち上がるモノ、国を守るモノが全て消し去られてしまうことに彼は手の震えを隠せずにいたが、王の言葉、そしてビビの言葉にこの戦争を止めるために反乱軍に自分の言葉を伝えようと、国王軍の中をかき分け反乱軍を止めようと立っていたのだ。
ただ、結果からすればコーザは、そしてビビは選択を誤った。
より良い結果を、理想を求めるばかりに戦争を止める最後のカギは、火を劫火に変える油となった。
「前にも言ったと思うが、お前には何も救えない」
クロコダイルの声がビビの耳に届くが、彼女はそれに対して以前のように睨むことさえできない。
彼女の眼前には国王軍に扮したバロックワークスの社員に撃たれ、反乱軍の目の前で倒れ伏すコーザの姿が、そして騙されたと感じた反乱軍が怒り狂い目の前の兵士に殺意を向け、もう止めることが不可能ではないかという血みどろの争いを始めている光景が広がっている。
王宮の庭から戦争を見るビビは国が傷つく有様に涙を流す。
「ああすれば、こうすれば、理想は口にするのは結構だが、いい加減目を覚ましたらどうだ。理想とは実力の伴う者だけが口にしていい現実だ。分かるか?」
そんな王女の襟首をつかむと強引に此方を振り向かせるクロコダイルはその涙を見て吐き捨てる様に言葉を連ねる。
「見苦しいんだよ。その涙は何だ?くだらない。すべて何も切り捨てることのできない弱いお前のせいだと言うのに、お前に泣く権利などあるのか」
激化する戦い、増える反乱軍を見て、クロコダイルは王女にその光景を見せつける様に頭を押さえつける。
「見ろ。奴らは自分たちの運命を知らずにどんどんここに集まってきやがる。もうすぐ砲撃でここら一体が吹き飛ぶと言うのになぁ。分かるか?お前が理想を言い、コーザはそれに従った。ここで奴等に真実を言えば奴等は混乱し、被害がでる?ああ、そうだ。そうだが、お前は何を言ってるんだ。もうすでに大量の血が流れてるんだ。奴らが混乱してそれでまた大量の死がまき散らされようとも、それ以上の命が助かると言うのに。既に何千人単位の死者が、万単位の負傷者が出ているのに、被害を最小に?そんなお前の理想が、実力の無いお前の妄想が奴等を殺す。お前が滅ぼす国をよく見とけ。滅びる国の愚かな国民をその目に焼き付けとけ」
クロコダイルはビビの首を掴むとゆっくりと彼女の体を地面から離し、王宮の外に運ぶ。
彼女の足元は遥か下にあり、このまま手を離されれば死は免れない。よしんば死ななくても瀕死になることは間違いなく、そんな彼女に戦争を止めるどころか、この戦争で自分の身を守ることも出来ないだろう。
せめてもの抵抗としてクロコダイルを睨む。それを見てクロコダイルは嘲笑う。
「笑え。見てみろ、笑えるだろうが。最初から最後までこの国の人間どものしてきたことを見てきて笑うしかないだろうが。誰もかれもが国を救うと理想をのたまい、その目を曇らせ、救えるもんをそこら中に捨ててきて、最後にその国と心中する。これほど愚かで救いようのない馬鹿を笑わずしてどうするんだ」
クロコダイルは愉快そうに笑う。そして眼下のゴミを見る。
「王族の死に、その昔は国民を生贄に捧げたと言う。ここがお前たちの墓であり、奴等が生贄だ。せいぜい地獄で馬鹿どもと理想を語るんだな」
クロコダイルの手が砂となりて消え、ビビは地面へと重力に引かれ、その体がゆっくりと地面に向けて加速しつつ落ちていく。
そんな彼女を見てクロコダイルの笑い声が響き渡り、アラバスタ王国の王コブラの叫びがむなしくその場の人間の耳朶を打つ。
「ようやく来た」
そんな中、まがねは一人空を見てポツリと呟く。
「まだ、幕をしめるのは早いよクロコダイル。だってまだまがねちゃんは満足してないんだから」
空を仰ぎ笑い始めたクロコダイルは太陽に不思議な影を見てその笑いが止まり、それが徐々にこちらに近づき、その姿を視認すると驚きに固まる。
クロコダイルとまがねが見つめる先には大きな鳥に乗り、樽を体に括り付けた麦わらのルフィが此方を睨みつけているのだ。
「クロコダイルゥゥゥゥ」
遂に物語の主人公が現れたのだ。
「あ~あ。ボスだけ楽しんでずるいな~」
まがねはロビンとロビンに拘束されてポーネグリフの在りかに案内させられているコブラの後をついて行きながらも宮殿の方をチラチラ見て愚痴をこぼしていた。
そんな彼女を見て、ロビンは彼女の奇行になれ、相手をするだけ無駄だと理解しているが、コブラはそうではなかった。
「君は何を見てそんなに楽しそうだというのかね?」
コブラの質問に、まがねはこんな状況下で質問されると思っていなかったのか、彼女には珍しくきょとんとしていた。
「ああ、いたね」
どうやら、まがねにとってコブラの存在は既にどうでもいいようだった。彼女にとってコブラは既に死んだも同然の存在ゆえに気にかけておらず、利用価値ももう生まれないため、半ば忘れかけていたのだ。
その彼女にとっていなくなった存在に話しかけられて驚いたようだった。
「で、何が楽しそうだって?」
まがねは軽く早足で二人の前に出ると、クルリと振り返り、両手両腕を目いっぱい広げ、楽しそうに答える。
「すべて」
無邪気に彼女は答える。
ロビンとコブラの足が止まる。
「硝煙、剣戟、爆発、崩壊、悲鳴、粉塵、殺気、死体、凶器、狂乱、欠損、欠落、思い、屈辱、叫び、嘆き、殺意、血潮、自衛、暴行、利益、対立、暴力、精神、闘争、破壊、陰謀、謀略、教義、矜持、殺人、拷問、自殺、火災、苦痛、憎悪、困難、奇跡、不安、嘆き、快楽、不幸、憤慨、諦念、苦悶、慈悲、軽蔑、落胆、欲望、無念、失望、絶望、嫌悪、喜び、困惑、嫉妬、羨望、興奮、敵意、恐怖、心酔、侮蔑、激昂、拒絶、傲慢、良心、孤独、重圧、執念、衝撃、悲痛、後悔、悪意、善意、同情、共感、亡骸、感傷、悲観」
まがねはそこまで言うと、開いた両腕で何かを抱きしめる様に優しく腕を動かし、そして優し気に微笑む。
「この場の人間の全てを騙して生み出しているこの現状の全てが楽しい」
そういう彼女は、慌てて人気のない所に逃げ込んできたであろうこの国の住民である親子が彼女たちの間を通り抜けようとした瞬間、その子供諸共その首を簡単にへし折る。
「誰も私を咎められない。誰もが死んでいく。だから私が殺しても何も問題ない。これが楽しくないはずがない」
簡単に人を殺すまがねの邪悪さにコブラはうめく。
「お主は……」
「なに?まさかこれが悪だと言うのかな?何で殺しちゃいけないのかな?あなたの軍はこの国の住民を私以上に殺している。貴方の一声で簡単に殺せちゃう。それなのにたった二人殺しただけの私を、大量殺人を良しとしているあなたが、何を言うのかな」
「確かに今の現状は私に罪があるかもしれん。だが、それで貴様がこの国の民を殺していい理由になどならん」
「理想を騙っていいのは実力のある奴だけだよ。今まがねちゃんを止められる法などどこにもない。だいたい、人が人を殺すのはこれは当たり前のこと。それもここは戦場だよ?」
まがねを咎めるコブラに対して、まがねは殺した子供の亡骸を踏みつつ問いかける。
「何を忌避しているのか、まがねちゃんには分からないな~」
「私には何故お主がそんなに簡単に人を殺せるか不思議でならない」
「何故?人なんて簡単に死ぬ。いつでもどこでも、大量に生まれて大量に死んでいく。当たり前でしょ?人の命は特別でも何でもない。そこらに生えている雑草と同じようにどこにでもあるモノ。そういう意味では動物の命の方が特別かもね」
まがねは踏みつけている死体に興味が無くなったのかまた歩き始める。
「今ここで死んでいく命に価値があるとでも?今まさにバタバタ無意味に死んでいく人間に価値があるとでも?なら何で天竜人は人を殺してもいいのに、私は駄目なの?彼等は人間じゃないと本当に思っているの?世界政府創立に貢献した二十の王の一人であるあなた達はこの地で人間として生きているのに?彼等とあなたの違いが本当にあるとでも?それでも人間の命に価値があるとでも?もしあるのだとしたらあなた達の命の価値はやっぱりゴミみたいなものだと思うんだけどなー、まがねちゃんはさ」
彼女は振り返らない。もうすでにコブラを見る気が無い。彼女にとって問答する価値もコブラにはすでになくなりつつあった。
「所詮、権力。つまり力さえあれば、人間の命はいくらでも摘み取れるものだってことだよね」
彼女は最後に「良い世界だよね。だから楽しい」と吐き捨てると、勝手に歩いて何処かに行ってしまう。
そんな彼女に、この地で自分たちのために死んでいく兵士の重みを背負っている王は、軽はずみに否定など出来なかった。今まさに自分がその大切な命を摘み取っている立場になってしまっているがゆえに。
ただ、下を向き、死んでしまった子供とその親の亡骸をみて歯を食いしばり、すまぬと謝ることも、まがねに彼等の命の重さを説くことも出来ず、自分の為すべきことのために前へ歩く。
一方、ロビンも何かを思い出したのか、拘束しているコブラの手首を強く握りしめ、その目は王に何らかの憎悪を向けていたが、すぐに消え去り、彼女もまた自分の目的のために前に進む。
二人とも止めるべき言葉を持たぬため、自由にしてはならないものをこのアラバスタに解き放ってしまった。しかし、彼等は気づかないし、気づけない。誰もが目的が近づき、その道が輝いているため、そばにある影が濃くなっていることに気が付きもしないのである。
誰にも聞こえないがまがねちゃんは笑っている。密かに反乱軍、革命軍共に兵隊の一部がおかしな動きをしていたが誰も気づかないのである。