天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
クロコダイルは目を開くと牢屋の中だった。
「ちっ、海楼石か」
自分の目の前にある不快な光景にそれを全て壊そうとした時、自分の体から力が抜ける感覚がして、悪魔の実の能力が発動しなかった。
彼はその現象に当たりをつけ、自分を拘束する手錠を睨みつける。
しかし、彼は睨みつけただけで、その手錠を外そうと言う努力をする気配は全くなく、そのまま寝転がる。
そして護送されているため揺れる牢屋の中でまた目を閉じ寝ようとした。
しかし、彼の目が完全に閉じ切る前に銃声があたりに響き渡り、更には大きな爆発音がしてこの牢屋を大きく揺らし、眠りを妨げる。
いきなり騒がしくなった外の様子にクロコダイルは全く興味を示さない。それどころかうるさそうに、そして迷惑そうに眼を細める。
普通に考えれば彼を護送している海軍を襲う誰かがいる状況下で、常人では興味を示さないのはあり得ないことだが、彼は常人とは違う。
『俺の部下がバカやってるのか、それとも身の程知らずの海賊か。まあ、どちらでもいいが、うざいな』
彼は結局目を瞑り今度こそ寝ようとするのだが、戦いの音が鳴りやみ背を向けている牢屋の扉が開く音がし、まだ眠れないことにクロコダイルはイラつく。
「ボス!お助けに上りやしっ!ぎゃ」
牢屋を開いた男は短い悲鳴を上げて冷たい牢屋の地面にうずくまる。
「煩いんだよ」
うずくまる男の隣には手錠を掛けられ、囚人服に身を包んだクロコダイルがそのフックに血をこびりつけ睨んでいた。
「ボッ、ボス。俺たちはあんたを助けに………」
いきなり仲間を殺されたバロックワークスの職員たちは驚きに身をすくませ、言葉に詰まりながらも捕まったボスをただ唖然と見る。
「誰が助けろと命令した?外で大騒ぎしやがって、おかげでゆっくり睡眠も取れやしねぇ」
しかしそんな社員を睨みつける彼は海楼石の手錠に繋がれ、力が封じられ更に弱体化しているようには全く見えず、助けに来た彼等は一様に固まってしまう。
クロコダイルは牢屋から出ずにその場に寝そべり、また目を閉じる。
誰もが口を出せない中、一人の少女の声が良く聞こえる。
「お疲れさまでした皆さん。最後は派手に散ってね」
そんな声と共に、牢屋の前に集まっていた社員のうち一人がその体に巻いていた爆弾に火をつけ、仲間諸共盛大に自爆し、周囲肉片を飛び散らかせる。
自爆した社員は他の社員の背後にいたため誰にも気づかれることなく全員を爆発に巻き込めたが、クロコダイルにはその爆発の余波は社員と言う肉壁によりほとんど吸収され、黒煙とすすが強風となって彼の体に降りかかっただけだった。
それでもいきなり体を汚された彼は聞きなれた声の主に文句を言う。
「煙たいだろうが。で?俺様の命令に従わずに王家の墓にいなかったお前が今更どういう風の吹き回しで俺の前に現れる?」
「おや?せっかく仲間の屍を文字通り踏み越えて、助けに来たというのに、その言い草は酷い!」
「仲間の死体じゃねえだろうが。嘘を言うな
明らかにまがねが何かして彼らを殺したと確信しているクロコダイルは呆れて彼女の嘘を指摘し、同時に手錠に繋がれてもいささかも衰えることのない王下七武海の名を背負う男の気迫を見せながら、自分の質問の答えを待つ。
「そんなに睨まれるとまがねちゃん怖い」
いつも通りの笑顔を張り付け怖いとのたまうまがねに対してクロコダイルはその眼前にフックを突きつける。
「冗談だよ、冗談」
「それ以上冗談を言うならその口削ぐぞ」
「ぶー。ツマラナイ。助けに来たって言うのに」
彼女の発言に胡乱気な視線を送るクロコダイル。
「それを素直に信じられるとでも思うか?お前が命令通りに動いたことがあるか?」
「仲間じゃない」
「違う。仲間だっただ」
その言葉にまがねの笑顔が少し固まった。
「何言ってるのかな?私たちは仲間でしょ?」
「あ?お前があの時俺の命令通りニコ・ロビンと一緒に行動していなかった時点であの女と同じく裏切りものだ」
「絶対の言霊がこの世界では弱まっているのかな?いやでも、完全に切れているのかな?」
「どうしたさっさと答えろ」
今までどれだけやらかそうが、殺意こそ向けられても敵意は向けられたことが無かっただけにまがねはクロコダイルから向けられている敵意に少し戸惑っていたが、またいつも通りの笑顔を浮かべその戸惑いを隠す。
「んー、まあ、そうだね。私にとって今回のあなたの作戦は序章に過ぎないの。だから私は作戦が成功しようが失敗しようがどちらでもよかったんだ。私にとって重要だったのは作戦を発動することだけだから。もうあなた自身には私は生かして利用する価値はない」
クロコダイルは彼女の目が笑っていないことに納得し、鼻を鳴らす。
「でもその悪魔の力を腐らせるのはもったいないじゃない?」
「なるほど」
クロコダイルの殺気が高まり、フックがそのか細い首に勢いよく振られる。
しかし、いかにクロコダイルといえど海楼石を身に着けている現状では全力とはいいがたく、簡単に避けられてしまう。
「危ないなー、もう。最後まで聞いてもいいじゃない?」
「ふん。計画が崩れ、もうこの国のことも世界もどうでもいいが、それでも俺は敵対する奴は殺す」
「敵対じゃないよ。ただ、欲しいモノがあるから頂戴って話だよ」
「悪魔の実を奪うなんて話は聞いたことがねえな。だが、まともな方法じゃねえだろう」
「聞いたことが無いだけで、これがあるんだよね。知りたい?」
まがねは攻撃の届かないところまで離れると横たわる海兵の死体に座り、意味深に笑いかける。
「興味ねえな」
「ええ~。聞きもしないの」
「お前が本当のことを言うとは思えないからな」
「いやいや、聞いた方がいいよ。なんたってまがねちゃんはこれからあなたの能力を奪うんだから」
クロコダイルは自信たっぷりにふざけたことを抜かす彼女をジロリと見るが何もせずその場で胡坐をかく。
「悪魔の実ってそもそも何だろう?そう思わない」
彼女はクロコダイルから戦闘の意思が薄れたのを感じる。
「ハッキリ言って物凄くおかしなモノだよね。食べただけで超人的な力を持つ。それもデメリットは海に嫌われる、つまりカナヅチになるだけ、デメリットという程ではないし、海楼石や水が溜まっている場所では力が抜けるけどそれもぶっちゃけどうとでもなる。まあ、海の秘宝とでもいうべきものだよね。調べてみても、海の悪魔の化身と呼ばれ、普通の果実の果皮に唐草模様が出ている実であり、二つはその身に宿せない。ハッキリ言って何も分かっていないと言っている様なモノ、海軍の情報でも、貴方の元にある情報もね」
「海軍?いつから通じていやがった。あれはお前の差し金か?」
クロコダイルは海軍の情報を持っているというまがねの言葉に反応し、そして英雄として信頼され海兵などいるはずの無いこの国に作戦当日に邪魔するように現れた海兵の存在を結び付ける。
「まさか!面白いと思って報告はしていなかったけど、あれは私の差し金じゃない!信じてよ。うう、全く人を疑うなんてひどい!」
泣き崩れる様に砂の大地にその手を着ける。
「それでよく俺に仲間だと言えたな」
あまり興味なさげに聞いていた彼であったが、少しだけそのこめかみに怒りが浮き出ていた。
「信じて。ただ、この国の近くに来ていた海軍にちょっかい駆けて混乱している隙にそれぞれのコードを抜き取って、本部に連絡とったりして悪戯電話をしただけ!それだけしかしていないの」
「十分じゃねえか」
怒りに震えるクロコダイルをさらに挑発するように、神の敬虔な信者とでもいうように腕を組み祈るように言うまがねは誰がどう見たってふざけている。
「まあ、いい情報を得たよ。ドクター・ベガパンク。彼の情報は面白かった。流石に機密情報は抜けなかったけど、面白い実験をしてるよね」
「ちっ、ミスター4のペアの犬か」
「そう、無機物に悪魔の実を食わせる。あれは興味深い結果だよね。使い切れているかはビミョーだけど」
「だが、あれを知ってどうなる」
「まあ、あれは今回の件に関係するかって言うと、何も関係ないんだ。ただ、何も分かっていないからこそ、いろんな可能性がある。あり得ないなんてないんだってね」
「で、何が言いたい」
「だからまあ、悪魔の実の移動方法を偶然知っちゃったていったら?」
「くだらねえ、どんだけ嘘をつけば気が済むんだまがね」
「そう!まがねちゃんは嘘つきだからね」
まがねは不気味に笑う。
「だから何度でも嘘を吐く。でも、貴方に私の嘘を見破れるかな」
「バカバカしい」
クロコダイルは彼女と普段通りに会話する。
「確かにバカバカしいよね、貴方の悪魔の実を私が奪えるなんてことは」
「そうだな」
「うんうん。所で、悪魔の実って人間のどこにその力を根差していると思う?私は人間の心臓、人の中心にあると思うんだよね。で、だから力を奪うには、
「本気でそう思っているなら病院をすすめてやる」
「ふふ、でも、
「やらなくても分かり切っている。答えは出来ないだ」
クロコダイルという男は冷酷非道なエゴイストかつ実力主義者であり、周到に策略を巡らせ野望の達成を図る謀略家である。そんな男が悪魔の実と言う訳の分からないモノについて何にも調べていないはずがない。
だからクロコダイルは彼女の分かり切った嘘をバッサリと切り捨て、
そしてくだらない嘘に付き合う気が無くなったのか、彼女に背を向けてしまう。
「嘘の嘘」
そんなクロコダイルの耳に不思議な響きを持つ言葉が聞こえる。
「それはくるりと」
後ろから殺意を感じ、クロコダイルは振り返りがてらにその腕に着いた武器を振るう。
「裏返る」
しかし、その手は空をきり、その体に衝撃が走ったと思ったら力が抜ける。
「何を?」そう言おうと思ったクロコダイルだが、言葉にならない。
一方、彼の心臓を貫き握りつぶしたまがねは何が言いたいのかその顔から察し、愉快そうに笑いかける。
「だって仲間じゃないんでしょ?」
この時になってクロコダイルは自分の今まで取ってきたおかしな行動に違和感を覚えた。
なぜ、今までこの明らかに危険な女を味方だと思っていたのか、そして今も仲間でないと知りながら無防備に背を向けてしまったのか、何故、誰も信じない、全ては目的のための駒であると決めていたのに何故この女に計画の全容を語ったのか。
死の間際になり、彼の呪縛が遂に解けた。
そのフックを再度振るおうとするも、その前にまがねの手が彼の体から抜け、彼女はその右手に握るモノを見せながら下がる。
クロコダイルは崩れ落ちる体を無視して彼女の命を狩らんとその手を振るおうとして彼女の右手にあるモノを見て、動きが止まり、地面に体を横たえる。
「これがスナスナの実かぁ~」
まがねが楽しそうに掲げて手に持つクロコダイルが食べたはずの悪魔の実を様々な角度から見ている。
そして地面に伏しているクロコダイルの表情を眺め、彼の近くに近づく。
「何故って顔をしているね。だから言ったでしょ、嘘を見抜けるかなって」
地面に広がる血と共に力が抜けるクロコダイルを見てまがねは微笑む。
「確かにあなたは私の嘘を見抜いたけど、結局私が仲間だと言う嘘を最後まで見抜けきれなかったね」
彼女は楽しそうに笑うと今頃歓喜に包まれているであろうアラバスタを見てその手に持つ悪魔の実をその口に持っていく。
「まだ、終わらない。まだまだ、私の物語は終わらない。今からが始まりだよ、麦わらのルフィ。そして世界」
「まずい、ふふ、ふっうぷ」
滅多にはがれることのない彼女の仮面がはがれ、真顔になっていた。
彼女の手にはまだ彼女の仮面を壊した兵器がまだ半分以上も残っている。
「これは予想以上にひどい」
彼女はそのままでは食えないと思ったのか牛乳と一緒に食べ、押し流す。
「これは、得も言われぬクソみたいな臭いが牛乳のまろやかな味に包まれてより悪魔の実のまずさを引き立てている」
彼女の手から牛乳が零れ落ち、大地にシミを作る。
しかし、彼女はそんなのを気にしてられない。
彼女の手は震え、その口を押えている。
「これは牛乳への冒涜。うう、もう終わらせたいこの世界」
そう言いつつ、彼女はその力を使い証拠を隠蔽し、無駄にした牛乳に黙とうをささげ、全てを砂に帰すのであった。