天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
まがねちゃんは賭けるのが大好き
「黄金帝ね」
まがねちゃんは降り注ぐ金粉と一面金色の景色にこの海上に浮かぶ島の如き船、巨大黄金船「グラン・テゾーロ」を見ていつものように笑みを浮かべて入る。
「ゴルゴルの実、恐ろしいね。これは怪物って言われるわけだよ」
まがねはそんな光景を恐ろしいと言いながらも何故か七ツ星カジノホテルの最上階のVIPルームでギルド・テゾーロと相対していた。
そこには彼の信頼できる部下、タナカさん、ダイスがテゾーロの後方に控え、バカラがまがねの真後ろに位置していた。
「怪物とは、本人を目の前にしていい度胸だ」
「嫌だなぁ~本気にしないでよ。冗談冗談」
「冗談か…。なら、俺様の部下をやってくれたのも冗談と言う訳か?」
まがねの血に染まる右手を見て、テゾーロは不機嫌そうにつぶやく。
「別にいいでしょ?そこに居る人たちならともかく、一山なんぼのゴミでしょ?そんなのにいちいち気にするなんて、黄金帝の名にふさわしくないよ」
たくさん金あるでしょと言うまがねに対して、テゾーロは矜持の問題だと言う。
「俺様の国で俺様のモノを勝手に扱うのは許されないんだよ」
「ん~、で?」
「本来なら即刻殺してやりたいところだが……」
テゾーロは背後のダイスに目をやる。
そこには服がボロボロで、体中に切り傷を至る所につけ、気持ちよさそうに立っているダイスが、まがねに熱い視線を向けている。彼が目を向けないだけでタナカさんの頭部にも足跡がくっきりとついていた。
「お前の力は惜しい」
テゾーロは自分の奴隷が傷つけられただけでは、わざわざ自分が出向きVIPルームに招いたりはしない。
ではなぜ彼女が此処にいるのか、それは彼女がこの島に来て少ししてからのことだった。
「ふわー。これは凄い。普通に楽しそうだね」
彼女はクロコダイルから奪ったバロックワークスの資金と社員の力を使い、新世界に来ていた。
そして、グラン・テゾーロに来ると、金ぴかの光景に素直に驚く。
「さてさて、情報が正しいといいんだけど」
彼女は迷うことなく、この巨大黄金船を歩き、何故か目玉のカジノではなくその裏手に回り、暗闇に消えた。
「たっ!大変ですタナカ様。警護の者どもが複数殺されていると報告が入りました」
転がり込んでくる部下をそのデカい顔を圧迫しつつ、このテゾーロの庭で不届きを働く者の居場所を聞くと、タナカさんは軽く思案する。
『ふーむ。ここでこんなことをするのはよっぽどの馬鹿としか言いようがありませんねぇ。しかし、既に死者は十人を超えています。それも見回りの定時連絡の短い時間の間にです。これはなかなかの腕を持っていますね。だが、死体は全て暗闇、そして単独行動のモノのみ、同じ巡回路でも二名以上は襲われていないところを見ますに、暗殺に特化した者の仕業と考えるのが妥当でしょうか。なら、この行動は何を意味しているのか』
暫く考えてたタナカさんだったが、その後ももたらされる死者の情報に、敵をほっとくわけにもいかず、最終的には犯人を捕らえてしまえばすべて解決することだと思考を打ち切り、部下に命令を下す。
「するるるる。敵は恐らく一人です。囲んでしまえばお終いですが、それでは面白くありません。あなたたちがすることはただ一つです。この区画を囲んでください」
「囲んだ後はどうすればよろしいでしょうか?」
「何もしなくてもいいですよ」
「は?それはどういうことでしょうか」
「今回の蛮行は滅多にあることではないでしょう?だからこそ、せっかくの機会を盛り上げなければもったいないでしょう」
そのデカい顔に分かりやすいほど悪い笑顔を浮かべ、部下に作戦を話す。
「敵は強いですが、純粋な戦闘力はそこまでは無いと推測されます。居場所さえ割れてしまえばどうとでもなるでしょう。だからこそ、あなた達が囲いとなり、敵の居場所を区切ってしまい、そこに大量の目を投入すればいいのです。しかし、これでは面白くありません。分かりますよね?ですから、ここは暗殺者とダイスの鬼ごっこを提案します」
「おひとりで大丈夫でしょうか?もうすでに30人に達しようかとしておりますが」
次々と上がってくる悪い知らせに弱気になった彼は我々も加わりましょうかと言おうとして、ほぼゼロ距離のタナカさんの顔面に驚き、腰を抜かす。
「あのダイスが負けるとでも?敵がいくら暗殺術に長けていようが、彼を一撃で殺すのは不可能。というか、あの変態を倒す存在が此処まで自分の情報を漏らさず確実に一人一殺なんてしませんよ。それにせっかくの鬼ごっこがつまらなくなります。ゲームはパワーバランスが命です。少なくとも表面上はつくろわなければ見ている観客は楽しくない」
彼は腰を抜かし、自分との顔面の距離が離れた部下に、更にその巨大な顔を近づける。
「これはエンターテインメントです。それを理解して動いてくださいね」
腰を抜かした部下に一方的に命令を下し終えたタナカさんはダイスに気持ちいい鬼ごっこをすると伝える。
そして部下がいなくなり、一人になったところでテゾーロに連絡を取る。
「テゾーロ様、ダイスを動かしますけどよろしいでしょうか?」
電伝虫の向かうから、テゾーロがなにをするつもりか聞き返してくる。
「いえ、凶暴なネズミが入り込みましたので、それを捕らえるのにダイスを使うのです。ええ、ご安心を、ちゃんと映像に残すようにしております。ええ、必ずや最高のエンターテイメントをお届けいたします」
電伝虫の向こう側から楽しみにしているという連絡が入り、今夜の舞台が揃った。
はずだった。
「たーのしいな、楽しいな」
彼女は普通にカジノを満喫していた。
普通に?
普通に?何処が?そして彼女の普通とは?
まがねは確かにスロットマシーンでカジノの決められたルール通りに遊んでいる。
自分に向けられたダイスを後ろに引き連れ、その彼の財布を使ってカジノで遊んでいるということでなければ、だが。
そしてその二人の少し離れたところではタナカさんが慌てて、周囲を黒服で囲んだり、連絡を取ったり、彼女が遊び感覚で殺そうとするお客様の誘導にと、その顔に疲労がたまっているのが一目瞭然であり、精神的につらいのか、彼女が声を上げるたびに、胃を押さえるのである。
タナカさんは、今もハアハアと息を荒げ財布の中身を無理やり使わされている巨漢のダイスが、うら若き乙女(死)に足蹴にされている光景など見れたモノでないのに、この場で彼女に対応できるものが彼以外にいないため、逐一見ないといけない。今日もっとも不幸な人物であろう。
「どうしてこうなったんですかねぇ~するるるるっ、ああ、胃が痛いです」
彼の手にはいつの間にかまがねから受け取った牛乳が空になった状態で握られているのであった。