天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
タナカさんがカジノでまがねちゃんを監視して、胃を痛める少し前に時は戻る。
人通りのない裏通りがタナカさんの指示により完全に封鎖されたのを、こっそりと建物の中から見ているまがねはその姿に舌なめずりをする。
「ふふふ、ここまでは計算通り。さて、次は物量かな?」
彼女はナイフや拳銃を確認し、相手の動きを待った。
「ん?何かな?」
彼女の予想に反して、敵はどう考えても武器を持っておらず、何らかの器具をもち、この区画の中心の少し開けた広場に向かっている。
気になったまがねはコッソリと後をつけ、持っていった機材を組み立て何かする彼らを黙って観察した。
そして彼らは機材を全てセットし終わると広場から離れる。
まがねはその意味の分からない行動に疑問を浮かべつつも、あの機材を壊せばいいのかと拳銃を構え発砲しようとしたその時、この張り詰めた空気に全く合わない明るいミュージックが流れ始めた。
「ん?ん~、何か来る」
まがねは広場の中心を見据える。
それと同時にその中心がライトアップされる。
四方八方から光を浴びる広場の中心はまるでステージのようであった。
そのステージからはゆっくりと顔が大きい男がゆっくりと地面からせりあがって登場する。
「レディース・アンド・ジェントルメン!さあ、今宵はこの黄金船の皆様に最高の娯楽を提供するべく、一つのゲームを開催します」
顔面の大きい男、タナカさんの言葉の後、周りから拍手が上がる。
その拍手が鳴りやまぬうちに更に言葉を連ねる。
「今回はこの船の一区画を使った死の鬼ごっこ。ルールは簡単です。鬼に捕まったら死亡。そして挑戦者の勝利条件は鬼の討伐か、制限時間一杯逃げ切ることです」
一息つくと、大きく息を吸い込む。
「さ~て、注目の対戦を発表いたします。挑戦者はこの船に乗り込み、我々の部下を既に30人人知れず殺してきた凄腕の暗殺者!」
まがねの姿を知らないし、何処にいるか分からないため、適当に暗がりに向けて手を向ける。
「そして鬼は最高のショーを皆さまに提供し続けてきたこの男、ダイス!」
そう言うと、彼の隣から、ゆっくりと地面から大男が登場し、今度は拍手だけでなく歓声が上がる。
「さあ、会場はしっかりと温まってきました。皆さまも待ちきれないことでしょう。さあ、今から一時間!スタートです」
タナカさんは司会としての役目を終わると、部下が持つ撮影用電伝虫に向けてお辞儀をしながら地面に沈む。
『するるるる、これは録画。いくらでも編集可能、時間制限何てありはしませんのです。ダイスの恐ろしさに気づき、逃げるうちに時間を気にし、精神をすり減らし、時間を待ち震えることになるでしょう。するるるる、ダイスから逃げ切れるわけありませんが、仮に逃げ切れたとしても終わることのないゲームに気づき絶望することになるでしょう。するるるる』
彼はそのカメラに映ることのない顔に分かりやすい感情を浮かべつつ沈んでいったため、気づかなかった。
既にまがねちゃんが彼らの死角からタナカさんの頭めがけて飛び降りていることに……。
「するるるっブギャ」
「「「タナカ様!!!」」」
短い悲鳴と共に地面の穴とタナカさんはステージから消え、彼を踏んだまがねは彼の後頭部を足場にしてダイスに急接近し、その足を振り上げ、ダイスが振り向かせた顔面に蹴りをぶち込む。
まがねの蹴りは、このステージを見るために高い所にいたため、そこから飛び降り、更に前方に突進する力が余すことなく伝わった蹴りであったため、ダイスの巨体が吹っ飛び近くの建物の壁にめり込み、粉塵を上げる。
まさかの事態に硬直する彼らは目の前に敵がいると言うことを忘れていた。
短い銃声が静かになった広場に響き、茫然と見ていた彼らの命を狩る。
隣のモノが倒れるのを見てやっと正気に戻った彼らは武器を構えるがその間にも、銃声が鳴り響き、また一人と倒れていく。
「落ち着け、数は此方が上なんだ、囲んで撃ち殺せ!」
彼らも銃を構え撃つが、誰も彼女を捕らえられない。
それどころか、銃撃の合間を縫って彼らに接近する。
彼らが圧倒的強者の殺意に恐怖に縛られかけていたところに、ダイスの雄たけびが響く。
「きもちいい~」
顔面から軽く血を流しながらも、全くダメージを負った気配を微塵も見せず、瓦礫の中に悠然と立つダイス。
「もっと、もっとすごいのをくれよぉぉぉ!」
それを見て、彼らは立て直し、ダイスの戦闘に巻き込まれないように急いで広場から離れる。
「ふふふ、頑丈だね」
まがねは楽しそうに笑い、ダイスは快楽に笑う。
「気持ちよくて死なないでね?まがねちゃん困っちゃうから」
「楽しみだなぁ」
ダイスが大きな斧を振り上げつつ、その巨体に見合わぬ俊敏さでまがねに接近すると、重い斧を振り下ろす。
それに対してまがねは大振りな攻撃を避け、彼の懐に潜り込むとその手に持つナイフを心臓に向けて一突きするも、硬質な音を立てて、彼女のナイフは無惨に砕け散る。
「およ?ああ!武装色かぁ、かたいなぁ」
おもいッきり突き込んだだけにナイフが砕け、手にしびれが残る。
そしてダイスは懐に潜り込み体制を崩した彼女に向けて、その大きな拳を振り下ろす。
武装色で硬化していない一撃だが、それでもまがねを殺すには十分な一撃であった。
「ん?砂」
「新世界は化け物だらけだね」
彼の振り下ろした拳は彼女の右手を残して潰していたが、彼の拳の下には砂しかなく、宙に浮いた状況になった彼女の右手が斧を握る手を掴む。
「枯れちゃえ」
「なっなにぃぃぃ!」
砂となって散った彼女の体は、砂が集まり元の姿を形成しながら、先に戻った顔が、彼の腕を掴む右手を見ながら、その凶悪な能力を使用する。
その右手はみるみるダイスの腕の水分を吸い尽くしその手をミイラに変えてゆく。
「っ!離れろ」
どんな痛みにも快楽に換えてしまうダイスのM気質でも、その腕から感覚が抜けていくミイラ化の攻撃は気持ちよくなかったようだ。
彼の振るう拳は今度こそまがねを捕らえるために武装色で硬化され振るわれるが、その前に彼女は砂になり、常人では避けるのが難しい壁の様な巨腕を横に振るその一撃を、体を砂のように崩して地面にその体を構成する砂を撒き、避ける。
砂となった彼女を見つけるのは難しい。特に暗闇に紛れた彼女の姿をダイスは見失った。
「何処に」
ダイスはゆうことを利かなくなった腕から離れてしまった斧を無事な方の手で握り構えるが、彼女が現れたのは彼が視線を巡らせる場所とは全く別の場所であった。
「ぎゃ!」
短い悲鳴が彼の後方から聞こえ、何かが落下し、地面に鈍い音を立てる。
ダイスはそちらに視線を送るとミイラとなった部下が地面に落ちた衝撃で壊れており、そのまま視線を上に向けるとまがねがその手に何かを渦巻かせて、不気味に笑いかけていた。
「サーブルス・ペサード」
その拳が振り下ろされるとその右手に渦巻く砂が地面にぶつかり、衝撃と砂をまき散らす。
ダイスはその衝撃にその頑強な体で耐え切るが、その他の者はそうはいかない。
彼女の一撃は着地点の石畳を全て剥し、吹き飛ばし、着地点から離れた場所はその衝撃波が建物を壊し、彼女を囲んでいた者たちはその強い衝撃波に吹き飛ばされ、あるいは飛んで来たものに体を壊され、周囲を照らしていたライトは全て壊れ、砂が舞う広場は月明りさえ通さぬ暗闇に包まれる。
たった一発、彼女の一撃はタナカさんが用意した舞台を完全に破壊しつくし、彼女の舞台へと変わってしまう。
「きもちいい~、だが、こんなもんじゃ満足できないぜ」
ダイスの顔は快楽に歪んでいたが、その目は敵を油断なく探していた。
しかし、視界がこれほど悪い中、砂である彼女を見つけるのは見聞色の使い手でなければ難しいだろう。ダイスは武装色の使い手であり、その練度は並の能力者では絶望を感じるであろうモノだが、彼は見聞色は得意ではない。
周囲の音を拾い、彼女の姿をどうにか掴もうとすれど、聞こえてくるのはうめき声ばかりであり、砂に満ちた空間ではそれ以外には風に流される砂の音しか聞こえない。
「
地面を両断し、空間を裂き強烈な砂の斬撃が四発、彼に向かってきていた。
「そこか!」
彼は砂の斬撃に対して避ける動作を取らず、斧を思いっきり振りかざす。
彼の大振りの一撃よりも砂の斬撃が彼に先に届きその身を切り裂くかと思われたが、彼はそれを武装色硬化と自慢の肉体のみで完全受けきる。地面を深く切り裂くその一撃を四発全て受けながらも彼は微動だにもせずその腕を振るう。
「気持ちいいぃぃぃぃぃ」
喜びながらも、彼はその斧を地面にたたきつける様に振るうと、彼のあり得ないほどの力が、衝撃波を生み出し、前方の砂を全て吹き払い、攻撃をしたであろう彼女に向かう。
開けた空間に彼は即座に駆ける。
しかし、当たりをつけた場所に月の明かりが届いた時、彼が作った道には誰もいなかった。
「攻撃が来ればそこに敵がいると思うのは当たり前だよね。でも、私がロギアだってことを忘れていない?」
彼は横から聞こえる声に慌てて武装色を見に纏おうとするが、彼の集中力は乱される。
予想もしなかったまがねから発せられた覇王色の覇気をまともに浴び、彼は隙を晒してしまう。その隙はほんのわずか、しかし、達人、化け物同士の戦闘においては致命的な隙となる。
「サーブルス・ペサード」
ゼロ距離から放たれた衝撃を甘く纏った武装色を軽く突き破り、筋肉の鎧を突き抜け、彼の体に衝撃が走り抜ける。流石に浸透してきた衝撃は頑強なダイスをもってしても無視できない大ダメージを与える。
「きもち、いい」
しかし、それでも彼は立っていた。彼はそれでも耐え切って見せたのだ。
「…………」
だが、彼はその後の彼女の蹴りをたっていたナニにくらい、幸せそうに気絶するのである。流石にそこは鍛えることのできない男の急所であった。
「う、うーん」
顔面を地面にぶつけ鼻血を垂らして気絶していたタナカさんは凄まじい揺れに目を覚まし、起き上がる。
「はっ!何故私はこんな所で………暗殺者めぇぇぇ」
即座に彼は状況を理解する。
タナカさんは鼻血を拭い、さっきから頭上からホコリがパラパラおち、地面が揺れる衝撃を再度感じ、ダイスが大暴れしているのだと考え、少しだけげんなりする。
「するるるる、暴れすぎですね~。確かにそうした方がエンターテイメントとして良いのは分かりますが、その後始末をする私のことをかんがえてほしいですね~あの筋肉マゾが」
彼は静かになったのを感じ、戦闘が終わったのを理解して、慌てて身なりを整えて地上に顔を出す。残念なことに後頭部の足跡は消えていなかったが。
「するるるる。暴れすぎですよダイス」
彼は地上に上がり、人がいる方に向けて行ったのだが、彼はその後のゲームの終了宣告をできなかった。
「ねえ、暇だから何か準備してくれない」
大きな顔を掴まれて、こめかみに拳銃を突きつけられるタナカさんは、彼女の後ろにいる倒れ伏して幸せそうに気絶しているダイスを確認し、暗殺者の顔を確認して、自分の顔が引きつっているのを感じていた。
「ここって楽しいカジノがあるんでしょ」
彼の視線の先には不気味な笑顔を張り付けたまがねちゃんが笑いかけていたのだった。