天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
タナカさんはVIPルームで新世界の怪物と呼ばれる彼らが王、ギルド・テゾーロを前にして不気味な笑みを止めない目の前の女に冷や汗を流していた。
そんなまがねちゃんの様子を逆にテゾーロは面白そうに見ていた。確かに信頼できるダイスを傷つけた目の前のオンナはいけ好かないと思うが、同時にその力と度胸は魅力的であるのだ。
「俺の物になれ」
「それって告白?まがねちゃんモテモテ、キャー、困っちゃうな~」
「そのままの意味だ。お前が出した被害分くらいは働いて貰いたい。それに聞きたいこともあるしな」
テゾーロの手からはこの黄金船グランテゾーロには存在しない砂を手から黄金のテーブルにこぼす。
まがねちゃんは目を細めた。
「ふふふ、嫌だって言ったら?」
テゾーロの手からバチバチと音が鳴る。
「それを許すとでも思うか?」
二人はテーブルを挟んだ短い距離で笑いあう。
だが、二人の目は笑っておらず、その手に各々の悪魔の実の能力が形を成しており、ダイス、タナカ、バカラは身構える。
しかし、この場で即座に戦闘は起こらなかった。
「だが、まあ。このまま力づくでってのは面白くもなんともない」
「そうかな~。まがねちゃんも楽しかったし、最初と最後を同じように締めるのも楽しそうだけどね。まあ、どこでもできるって言ったら、確かにこれじゃあつまらないよね」
「ああ、だから、ゲームで始まったことは同じくゲームで終わらせるのが筋だろう」
テゾーロがパチンと指を鳴らすと、後ろに控えていたタナカさんはあらかじめ準備されていたトランプを懐から出すと、まがねの後ろに控えるバカラにそのトランプを手渡す。
「確認して見ろ」
「ふふ。そうだね」
まがねはバカラからトランプを手渡しで受け取る。
その時、バカラはその何もつけていない手がまがねに触れたのを確認する。
トランプに仕掛けが無いか確認するまがねちゃんを見てテゾーロを含む四人はその姿を笑い、カクテルを用意させ、ゆっくりと確認が終わるのを待つ。
一方まがねちゃんはというと、トランプを自分の目の前で広げ、その愉快そうに笑う顔を隠す。
まがねはいつも通りの不気味な笑みを浮かべトランプを確認するように見せかけ、前方の彼らの様子を窺う。
『トランプには何もしかけなしか。まあ、予想通りだけど』
彼女はもはやトランプを確認してない。エンターテイナーを名乗るテゾーロがそんなチャチなことをするとは微塵も思っていなかったため、彼女はずっと彼らの顔、動作を自分のトランプを確認するフリに対してどんな反応を見せるのかずっと観察していた。
『トランプをいじっても特に変わらないし、彼らの視線はトランプよりも私の後ろのバカラに向かってる。彼女の悪魔の実が何か関係しているのかな?』
まがねはトランプをまとめると、後ろを振り向く。
「はい。普通のトランプだったよ」
まがねはトランプを手渡しで彼女に渡すが、その時バカラの手袋をしていない手が自然にまがねの手に触れた。
そのごく自然なしぐさにまがねは目を細める。彼女はバカラが受け取りやすい様にトランプの端を持ち受け取りやすい様に手渡したのに、バカラの手はそれが当たり前であるかのように彼女の手に軽く触れた。
『なれてるね~。彼女の能力は接触型かぁ~。聞いた話では確か彼女はラッキーガールだったけ。能力は分からないけど想像は出来ちゃうかな?』
バカラはそのトランプをシャッフルするとテーブルの中央に置く。
それを見たテゾーロは軽く体を前に出し、テーブルに両肘を着くと、手を口の前で組み口元を隠す。
「賭けるものは此方は被害総額、お前さんは自由。勝負はポーカー、一発勝負だ。勝てばチャラにしてやるが、負ければ……分るよな?」
彼の視線がトランプからまがねに移る。
「乗るよな」
まがねは微笑むと、彼女もその手をトランプにかける。
「もちろん」
トランプが二人に配られる。
「此方が配ってしまって良かったか?」
タナカさんがディーラーを務めているのだが、その様子をまがねが良く見ている様なのでテゾーロはディーラーが細工などしないことをアピールしつつも、不安ならまがね自信が配るかと聞く。
「ふふふ、それじゃあ、私が勝った時に疑われるでしょ」
不敵に笑いかける彼女に、テゾーロも自分が負けるなど一ミリも思っていないため、それに対し同様の笑みを返す。
「では、始めようか」
テゾーロは配られた手札を見る。その手札はフルハウス。
「なかなかの手札だ。私はこれで問題ない」
因みにこれはイカサマではない。彼らがしたイカサマはバカラのラキラキの実の能力でまがねを不幸な状態にしただけだ。だからこそこの彼の引きは、彼がどん底から新世界のバケモノにまで成り上がった勝負運とでも言えよう。
彼はすでに彼女が何をしようと負けるのは分かっているため、自分の手札が良かろうが悪かろうがどちらでも良かった。だからこそ勝ちが決まっている勝負において心理戦など繰り広げるつもりも毛頭ない。よって自分の手札が良いことをあっさりとバラす。
こうすることで相手は勝手に考えを巡らせ、そして最悪の手札を良く見せようとこちらに揺さぶりを掛けてくる滑稽な様子を見るのを、彼は好むのである。
そして彼は手札が最悪であろうまがねの顔を伺う。
「……勝負を捨てるつもりか?つまらん」
彼は配られた状態のままの裏返ったトランプを見て不愉快そうにまがねに問う。
「ふふ、私の手札はこれでいいの。勝負は始まる前についているもの。そうでしょ?」
彼女の視線は手袋をはめているバカラの手に向かっている。
その視線の意味を理解した彼は一変愉快に笑う。
「お前は気づいていてそれでも乗るのか!ああ、分からないな。なぜ負けると分かりきった勝負に乗る?」
まがねはそれに対して、キョトンとする。
「何を言っているの、私が勝つんだよ?」
「ん?バカラの能力を知ってなお勝つと?それとも私の勘違いでお前は底なしの馬鹿だったか?」
「いや、知らないといえば知らないけど、ある程度予測はつくよ。彼女がラッキーガールで、その手に常時手袋をつけていることからね?」
彼女はもう一度バカラを見てから、テゾーロに向き合う。
「まあ、運に関連した能力だと思うんだけどね?」
「ほぼ正解だよ。なら、なぜ勝てるなどというジョークを?もしかして私達のショーを手伝ってくれるのかな」
「いや、それでも私が勝つよ。その程度じゃあ、
彼女の声が不思議とこの場全員のジダをうち、その脳裏に響く。
自信満々の彼女の表情とその言葉に少しだけ疑問に感じた彼はバカラを見るが、バカラは確実に彼女の運はなくなってアンラッキー状態であると自分が吸い取って運気の量から分かるため、ハッタリであると余裕の笑みを持ってテゾーロの疑問に答える。
それを見て、やはりハッタリであったことを確認した彼はくだらないことを言い、相手を惑わし楽しみつもりがいつの間にか自分が惑わされていたことに少しだけ気分を害したテゾーロはくだらない嘘を切って捨てる。
「くだらない。そんな
彼はまがねが警戒すべき相手だったはずなのに、感情的になり彼女をよく見ていなかった。だから、パチンと指がなり、彼女が何かつぶやいていたのに気づかないし、その前の彼女の言葉が不自然に頭に響くこの不思議な感覚に抱いた何らかの違和感も黙殺してしまう。
「終わりにしようか」
彼は地道にいたぶってから彼女を奴隷にしようと考えていたが、楽しくなくなった彼はこの一回で決めるつもりなのか、彼女が弁償すべき巨大な金額をすべてベットする。
虚勢が剥がれ無様に慌てるさまを期待してまがねの表情を伺うが、その表情は変わらない。
「娯楽を、誰よりもエンターテイメントたらんとしているのに、こんなつまらない幕切れでいいのかな?」
「癪に障る言い方だな」
テゾーロが少し感情的になる。
それを見て彼女はより笑みを深くする。
「だからね、まがねちゃんがこの場を盛り上げてあげるのだよ。わーパチパチ。どう?」
棒読みでわーと言い、拍手をするふざけたまがねに苛ついた表情を浮かべて見るテゾーロ。
「さっさと終わらせるぞ。乗るのか?乗らないのか?」
「せっかちだな~」
テゾーロはまがねがここは一旦勝負を降りると予想していたが、彼女は彼の予想をとことん外させイラつかせる。
「乗るよ。だって
あまりにもくだらない嘘に彼は彼女を優秀な手駒として使う気が失せた。彼から殺気が漏れ出る。
「嘘に付き合う気はない。オープンだ」
その手札にできたフルハウスを見せつけて彼女を絶望させようとするが、ここまで来て少しだけ彼の冷静な部分がまがねの違和感を訴えかけてくる。
「ふふ」
それは彼女の笑みをみてより強く彼に警鐘を鳴らす。
彼女は右から一枚づつトランプをめくる。
10
一枚めくられて、場の雰囲気が狂い始める。
その手が二枚目をめくる。
J
テゾーロは彼女の今までの態度を思い返す。
そう、彼女は……。
三枚目がめくられる。
Q
彼女は…ずっと。
四枚目が裏返される。
K
彼女はずっと彼の予想を裏切り続け、そして今も、彼女は自分の揺さぶりに動揺を示さなかった。それはなぜ?
そして最後の一枚が彼らの視界に入る。
A
「ロイヤルストレート…フラッシュ」
誰かがかすれる声でつぶやく。それが自分かはたまた他の誰かかテゾーロには判断つかなかった。
テゾーロは愕然としてまがねを見つめる。その変わらぬ笑みを見る。
そして彼は気づくのだ。これは勝ちが決まっていたゲームだったのだと。
室内にタナカさんが愕然として手からこぼしてしまったトランプがバサッと音をたててばらまかれる。
だが、誰もが視線を動かさない。
まがねちゃんは笑ってた。