天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
「何だ?これは、誰が俺の獲物を横取りしやがった」
ミスターゼロとロビンに呼ばれていた男、王下七武海のクロコダイルはアラバスタから逃げた海賊を追い、岸でフラフラと波に揺れ動かされる目的の船を見つけ乗り込んだのだが、その船には死体しかなかった。
「ちっ。ふざけた真似をしやがって」
クロコダイルは死体を踏みつけ、ミイラにする。
少しだけ気分がすっきりとした彼は、この船を襲った何ものかに船の財宝は全て奪われてしまっていると考え、葉巻をゆっくりと取り出すと、火をつけ軽く一息つくと、船を出ようとする。
「おお!それが王下七武海クロコダイルのスナスナの実の能力かなー。おっそろしいモノだねー。まがねちゃんビックリ」
しかし、突然背後から拍手の音がし、クロコダイルは振り返る。
そこにはこの場に似つかわしくない綺麗な汚れ一つない服と整った顔立ちの少女が軽く積まれていた死体の山をイス代わりにして腰かけ、手を叩いている。
「何もんだ」
そんな場違いな少女に対し、クロコダイルは半ば確信を持ちつつも問いかける。
「おお、聞いてくれちゃう?聞いてくれるの?私は築城院真鍳だよ」
「聞いたことねえ名だな。何が目的だ」
「おやおや、王下七武海クロコダイルと言えばアラバスタの英雄ではございませんか!英雄に会ってみたいと思うのはファン誰もが持つ心じゃない」
大げさなリアクションにパフォーマンスに少しイライラしてきているクロコダイルは彼女の相手が面倒になり、葉巻を加えなおすと、右手を掲げ、振り下ろす。
「それは良かったな。じゃあ、俺様の獲物を横取りしたアホウは死ね」
彼から放たれる砂の斬撃とでもいう一撃が彼女の胴体に向けて振るわれる。
その一撃は彼女の元まで届くと、周囲の水分を根こそぎ奪いつくし、死体の山がミイラの山へと変化する。
しかし、彼の表情は変わらずしかめっ面である。
「ちっ」
「危ない危ない。いやー、怖い怖い。まがねちゃんもあと少しで乾燥ミイラになっちゃうところだったよ」
まがねは口では恐怖を口にするが、その顔は笑顔のまま、その服には砂一つついておらず、横っ飛びに避けたのか、片膝をついての着地姿勢のままクロコダイルを見ている。
「再度聞くが、何もんだ?」
手のひらで砂を操りつつ、クロコダイルは問いかける。
少しでも気に食わない答えだったら殺すと言わんばかりにその手をまがねに突きつける。
そんな命の危機にさらされた彼女は軽く指を顎に添えると、少し首を傾げる。
「んー」
そのまま少し考えるポーズを続けていたが、何かいいことでも思いついたのかその顔に笑顔を浮かべる。
「まがねちゃんはね、貴方の仲間になりたいの。手土産はこの船全部!話の続き聞く?」
「………ふん」
興味を持ったのか、掌で渦巻く砂を握りつぶし、先を促す。
「おお!世迷言と切り捨てず、聞いてくれる!感謝歓迎雨あられ、まがねちゃんは」
「さっさと話せ」
「おや、せっかちだなー。怖い雰囲気を和やかにさせようとしたのに。まあ、いいか」
まがねちゃんはニコニコした表情を一変させ、真面目な空気を纏った。
この空気の変わりように、相当場慣れしているクロコダイルさえ呑み込まれ、彼女を見て、その次の言葉を静かに聞こうとする。
「まず、仲間にしてほしいってのは本当だよ。だから、この船にあるモノ全てをあなたに献上すると同時に私の有益さをアピールしているってわけさ。戦力が欲しいのはどこも同じだと思うんだ~まがねちゃんはね。後は、あなたは情に流されないから組むには最適だしね。王下七武海のあなたにとっては何ら珍しい話でもないよねー。だから
まがねの浅い言葉にクロコダイルは騙されない。
彼は人を信じない。だから、いつも冷静に自分の考えで物事を測ることが出来る。
だから、彼はこんなガキに時間を無駄に使ってしまったことを後悔するのと同時に、格の違いを見せつけることにした。
「思ってもねえことを口にすんじゃねえよ。俺はガキや俺に嘘を吐く奴は嫌いだ。仲間も部下もいらねえよ!」
まがねは口が裂けんばかりに笑う。クロコダイルはそんな彼女の様子が気に食わないのか加えていたはずの葉巻を噛み千切る。
さっき握りつぶした砂の渦巻きを再度手の中で作りだし、それを投げつけるような姿勢に入る。
「俺とお前との格の違いを理解してから言うんだな」
そしてまがねをもろともこの船を吹き飛ばそうとし、彼の耳に彼女の声が届く。
「嘘の嘘、それはくるりと裏返る」
彼の動きが止まる。それを見たまがねは彼にそっと近づく。
「私も仲間も部下もいらないんだー。気が合うね。これからもよろしくね砂鰐ちゃん」
彼女はさっきまで自分を殺そうとしていた男に何も躊躇なく近づいたかと思えば肩に軽く触れる。
「次その名前を言ったらぶち殺すぞ」
彼は乱雑に肩の手を払いのけるが、殺気は全くと言っていいほどない。
そんな彼の様子が面白いのか、彼女はわざと彼に近づき耳元で囁く。
「了解。でも私のことはま・が・ねちゃんでいいよ」
初めての仲間にどう反応していいか分からないクロコダイルは彼女を強引に押しのけると、自分の様に空中を移動できない彼女のためにボートを海に落とす。
「まだ仲間になったばかりで何も分からねえだろうから、俺の目的と計画を話してやる。だが、まずはこの船を出るぞ。だから、さっさと荷物をまとめとけ。でないと置いていくぞ」
不器用ながら優しさがある対応に、人の心に敏感な悪魔は笑い、その神経を逆なでにしつつも、彼の命令を素直に聞く。
「仲間を信じない人間が信じる唯一の仲間。いいね。これが壊れたらどんな反応をするかな」
船内で一人になった彼女は財宝に移る歪んだ自分を見ながら、一つ一つ自分の歪んだ思いをしまい込むように袋に詰めていく。
されど、それでもしまいきれない彼女の底知れぬ悪意は口からあふれ出る。
「楽しみだなー。ああ、本当にたのしみだなー。アハ!アハハハハハ」
「新しい仕事仲間だミス・オールサンデー」
「初めまして、築城院真鍳だよ。気軽にまがねちゃんと呼んでね」
ニコ・ロビンはにこやかに笑う彼女をどう扱えばいいのか分からなかった。
だから無難に自己紹介をし返す。
「私はミス・オールサンデー。あなたの隣にいるミスター・ゼロのパートナーよ」
二人の自己紹介が終わったと見たクロコダイルはロビンに命令する。
「こいつはお前の補助だ。こいつにバロックワークスのことを教えといてやれ」
そう言うと一人先に帰るクロコダイル。
取り残されたロビンは自分を楽しそうに見るまがねをどう扱っていいのか、そもそもクロコダイルとはどんな関係なのか分からず途方に暮れていたが、とりあえず、会社のことを説明しつつ拠点に帰ることにする。
ニコ・ロビンがバロックワークスの説明をするのを静かに後ろで聞いているまがねは、クロコダイルから得た情報と照らし合わせつつ、彼から聞いた彼女の情報を思い浮かべていた。
「ニコ・ロビン。世界の嘘に、世界の真実にたどり着ける存在。まがねちゃん運がいい」
彼女はクロコダイルに渡すべき財宝の一部を手でいじりながら、その綺麗な財宝が風にあおられた砂で汚れていく様を楽しそうに見ながら、それを掲げると、地に落とす。
「悪魔の子が真実を知るすべを持ち、神様は嘘を吐く。舞台はそろったかな?」
彼女は落とした財宝に見向きもせずに、前を歩くニコ・ロビンを見て、そして空を見る。
「後は落ちている真実の欠片を手に入れ、嘘の断片を混ぜるだけ」
彼女は今度はいつの間にか拾っていた石っころを地面に落とし始める。
彼女は後ろを振り返り、ただ砂が広がる大地を眺める。
「後は風が吹くままに。最高のタイミングで幕を開けるだけ」
楽しそうに何もない砂漠を眺めつつ、少し離れ、歩くのを止め待っているロビンの元へ駆け寄り、珍しく真実を言う。
「まがねちゃんはあなたの事が大好きだよ」
ロビンの反応を見て、まがねちゃんは満足して歩き始めるのである。