天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
「「「テゾーロ様!!!」」」
タナカさん、ダイス、バカラの叫びが、今まで蠢いていた黄金が立てる音が消えたせいで、よりまがねの耳に鮮明に届く。
その声にまがねは笑顔になりながらも、しゃがみ込みその右手を黄金の床に当てる。
テゾーロの元に駆け寄ろうとしていた三人のうち、タナカさんはまがねが更に何かしようとしていることにいち早く気が付く。
「ダイス!止まりなさい。貴方はここであの女の警戒と、テゾーロ様の方へ来る攻撃を防ぎなさい。バカラはそのままテゾーロ様の元に」
タナカさんは驚きのあまり手放し、床に落としてしまった拳銃を片手に持つと、急いでまがねの元に向かう。その際にまがねの額に何発も鉛玉をぶち込む。
「ふふ、無駄だよ。全ては塵と化す」
まがねは穴の開いた額をタナカさんに見せながらも笑いかけ、その凶悪な能力を開放する。
「何にょ!」
タナカさんは目を見開らく。黄金の床が、黄金の柱が、黄金の調度品が、その全てが彼女の砂に沈む。いや、違う。全てが砂と化し、その砂に呑まれるように見えているだけだと彼は即座に気が付いたが、彼女を止めるすべなど持っていない。
砂はこのVIPルームの床をどんどん侵食してゆく。その砂の上にあったモノはその砂に沈み、そして砂となっている。タナカさんの足はいつの間にか止まり、ただそれを見て、触れないように下がることしかできない。
壁も天井も、ひび割れ、そして砂を降らす。
金の砂、砂金を降らすその光景は幻想的だ。
人の入り込めない領域とは人の手が加わっていないからこそ、自然の力を、人がなせぬ光景を作り出すからこそ幻想的な光景が作り出せる。
ならば、自然の力そのものの彼女が振りまく死の力も、そして何人も入り込めぬ彼女の領域も、この場においては只人には作り出せない光景であり、だからこそ美しかった。
ただ抗うことのできぬ猛威にタナカさんにダイス、そして助けに向かおうとしてつい後ろが気になり振り返ってしまったバカラが茫然と見つめる。
どうしようもない力に彼らが飲み込まれる寸前、黄金の床に電撃が走り、黄金が蠢き、黄金を飲み込む砂の浸食を止め、逆に侵食し始める。
彼らは即座に何が起こっているのかを理解し、この場を急いで離れる。
「するるる。一旦我々は引きましょう」
タナカさんの能力により、降りそそぐ砂の中、タナカさんと一緒にバカラとダイスはこの部屋から消える。
砂を飲み込まんと黄金が蠢き、津波と化し、一方砂は黄金の波を削るため、渦巻き、砂嵐と化す。
二つの力がぶつかり、黄金を飛び散らかせる。津波はこの部屋を飲み込もうとして、砂はこの部屋を埋めようとして、削り、そして押され、大きくなり、また小さくなる。
両者の力のぶつかり合いは、永遠に続くかと思われたが、どんなものにも終わりが訪れる様に、黄金の波が徐々に砂嵐を押さえ、変わりゆく砂の大地をまた元の黄金の床へ、壁へ、柱へ、天井へと戻していく。戻るたびに砂嵐は小さくなり、最後には砂嵐が居座っていた中心を飲み込むが、その勢いは止まらず、壁にぶつかりヒビを入れる。
この世のものとは思えない幻想的な光景が消え去り、部屋に静けさが戻った。
「買えない命などない。ただ、私が思っていたよりも貴様の値段が高かっただけだ」
静かになった部屋に、服がボロボロになり額から血を流す男があおむけの状態からゆっくりと起き上がろうとしていた。
「だが、ならば更に金を積めばいい話。釣りはいらない。ポーカーの勝利代金だ」
ゆらりと立ち上がる男、テゾーロは服に着いた砂を払い落とすと、ひびが入ったサングラスをかけなおす。
「服が汚れてしまったか、これでは相応しくないな」
彼はタナカさんを呼ぶため、奥の部屋に置いてある通信手段を取りに行った。
彼が去った後の部屋には青い稲妻が弾け、戦いの後を黄金で沈め、何時もの光景を作り出そうとしていた。
蠢く黄金はまがねが生み出した光景に驚き再度手から落とした
暫くしてまたいつものVIPルームに戻る。
そこに既に砂は存在していなかった。