天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんは神を殺す

「It's a show time」

 

 花火が夜空を飾り、客席を埋める客がスタンディングオーベションをする。

 

「これは!」

 

 金庫の扉を破壊した女は目の前の景色に驚愕を露わにし、男はステージの中央で客の視線を一身に浴び、その両腕を広げていた。

 

「ふはははは。驚いたかね?貴様が私から逃げて何故目の前にいるのか分からないようだな」

 

 男は目の前の顔を愉快そうに眺め、女が驚愕しているであろう理由を客を盛り上げるため少し大仰な身振り手振りで懇切丁寧に説明し始める。

 

「まず先に君が訪れたこの場所は天空劇場。君が行きたかった金庫がある場所ではない!」

 

 未だ状況を飲み込めていないのか周りを見渡す女に残酷であろう真実を告げる。

 

「簡単なことだ、お前はここに来る間に手に入れた下っ端どもの情報と外部にワザと流された嘘の情報に騙されていたのだよ。哀れな女だ。私からの支配から逃れようとあの場から逃げようともこの船は全て俺の支配下だ!つまりここにいる以上俺の支配を逃れることなど出来ない。そんなことも分からず、金を得ようと涙ぐましい努力は最高だったよ」

 

 動かない女に対して、男はその神の如き能力で黄金の海を操り、女に差し向ける。いや、正確には天空闘技場にあるから湖、または池と言った方が正解だろうが、男の操る黄金の水は荒々しくも力強く波打ちとても大きな印象を受け、池や湖と言った限られて大きさの力には思えない。まさに海が起こす津波である。

 

 その黄金の波は女を一瞬で飲み込むと、手足を拘束し天高く、その磔刑に処された罪人を客から見やすい位置まで運ぶ。

 

 余りの動きにスポットライトが間に合わず、俯く女の表情は誰にも見えない。

 

 ただ、その俯いた顔の下にある絶望した顔を待ちわび、想像して男は高笑いをし、そして誰も逃れることのできない神の御業を発動する。

 

「貴様は実に優秀だ。お陰でとてもショーが盛り上がった。知っているかね?最高のショーに必要なモノを?」

 

 幹部が勢ぞろいし、女は捕まり、男はその生殺与奪の権利を握っていた。

 

「それは希望と絶望だ。どんな名作でも欠かすことのできない要素だ。その中でも奇跡は希望、これが輝いていることだろう。だが、それには大きな絶望が伴わなければ輝かない。なら逆もまたしかりだ。この場において希望こそが、俺の支配下の中、この場にたどり着くという奇跡こそが、この場において貴様をこの上ない絶望へと染め上げる。まさに最高、まさに究極のエンターテインメンツだろ。フハハハハ。さあ、笑え、この俺が笑うことを許可してやる」

 

 男が、幹部が、部下が、観客が女をあざ笑う。

 

 だが、絶望のせいか笑い声は誰にも聞こえず、ただ女がうつむいたまま肩を震わせる様子のみがスクリーンに映される。

 

「さあ皆さま。死に行くものに盛大の拍手を」

 

 男は拍手を求め、それに観客も答える。

 

「ゴールド・スプラッァァァァシュ」

 

 盛大に辺りに金粉をバラまき、そして女の実を黄金で固めてゆく。

 

「さぞ綺麗な彫像になることだろう。金で支配できないものなどない。金がこの世の全てだ」

 

 男にしては珍しく小さな声で、女に近寄りその顔を覗き込む時に、女だけに聞こえる様に吐き捨てる様に言う。

 

 その女の体は金に固められていく。その様を余さず照らすスポットライトは徐々に顔へと近づき、そして数が増えてゆく。

 

「俺は神だ。誰も俺の支配をのが…………」

 

 言葉が突然途切れる。

 

 そして黄金が止まる。

 

 笑い声が満ち、拍手が鳴りやまぬ会場も、なかなか進まない処刑に段々と笑い、拍手の音が減り始め、幹部はどうしたのかと近寄り、男と同じものを見て顔色を変える。

 

 女が会場の全てのスポットライトに照らされた時、その不気味に笑った顔を上げる。

 

「希望が絶望に変わる!」

 

 女は狂ったように笑うと、突然黄金が砕け、女の体が解放される。

 

 誰も何が起きているのか理解できない。だが、今まで黄金を噴き上げていた噴射口から海水が流れ、人々を開放する。

 

 あたりに歓声が響く。それと同時にテゾーロの部下が何故か銃を片手に観客席に乱入し、何人かの男たちがいろんなところで立ち上がり、その体に付けた爆弾を周囲に見せつける。

 

 そして銃声と爆発音、悲鳴が響く。

 

「血も流さない、死人が出ない、そんな安い絶望は存在しない。だから提供してあげる。本当の絶望を、本物の希望と共にこのまがねちゃんが」

 

 あたりに死体が生成される中、女は笑う。

 

 そして男は吠える。

 

「俺を笑うなァァァァァァ

 

 黄金が爆発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。あれは無い。まがねちゃんも困ったな~」

 

「何処に行ったァァァァァ!必ず殺してやる」

 

 まがねちゃんは民家の陰に隠れながらも、黄金の巨大テゾーロを見ながら、困ったように笑っている。

 

 あたりには瓦礫があふれ、テゾーロがやみくもに振るう拳、脚により、今も量産され続ける瓦礫。更には幹部と大量のテゾーロの部下があたりを走り回っていた。

 

「う~ん。もっと簡単に事が運ぶと思っていたけど、怪物は伊達じゃないね。流石に怒らせすぎたかな?最初は幹部たちを相手にして更に怒らせようと思っていたのに、既に怒りゲージがマックス」

 

 まがねちゃんはそう言いつつも、テゾーロの部下を人知れず処理しつつ、この船に連れてきた部下を使い、人々を扇動し混乱を助長する。

 

「仕方ない。時間を稼ぐためにも、彼に冷静でいられると困るし、もっと怒らせるか」

 

 まがねは気配を消し、闇に潜み移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「するるる。みつかりませんねぇ」

 

「まずいわね。このままだと被害が広がる一方だわ」

 

「それに俺たちが舐められる」

 

 幹部三人は怒りに任せて暴れるテゾーロを見て、それぞれ部下を引き連れて、バラバラになりまがねを探す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく。あの女、必ずテゾーロ様の元に連れて行く」

 

 鳴りやまぬ地響き、そして蜂起した人々の怒号が聞こえる中、バカラは悠然と歩く。

 

 彼女が連れてきた部下も既に何人かやられていたが彼女は気にしなかった。

 

「お前はテゾーロの………。お前のせいで俺の人生はっ!」

 

 一人の男が彼女たちの部下の元を通り抜けその手に持ったナイフを突きつける。

 

 完全に死角からの一撃、そして近くに彼女の部下はいても既に止められる位置にいた者は誰一人いなかった。

 

 だが、何故かいきなり転がってきた石ころに彼は足をつまずかせ、脚をくじきころがり、そのナイフが自分に突き刺さる。

 

「ゴフッ、何てツイてねえんだ。あと少しなのに………………」

 

 男は最後の力を振り絞り彼女に手をに伸ばすが。

 

「あら、ラッキー」

 

 それよりも先に気づいた彼女にその体を貫かれる。

 

「すッすみませんバカラ様」

 

 この隊の隊長がバカラに頭を下げるが、バカラはそれを気にもせず、男から剣を抜くと、血を振りはらい腰の鞘に戻す。

 

「良いわよ、私ついているから。でもちょっとツキが足りなくなりそうだから責任取るならね」

 

 彼女の手がその男に伸びる。

 

 男は彼女の能力を知るだけに短い悲鳴と共に少しでも離れようとするが、その前に彼女の手が男に触れる。

 

「ラッキー。残念だけど当たらないわよ」

 

「ん~。相変わらず悪魔の実って理不尽だよね」

 

 まがねちゃんの手がその男を刺し貫いていたが、その手はバカラに届くことが無い。

 

 崩れ落ちる死体に周りの者たちは慌てて銃を構えるが、バカラはそんな部下に対して冷めた目付きで見て、呆れたように命令を下す。

 

「そんなくだらないことよりもテゾーロ様に連絡を取りなさい」

 

「あれ良いの?私を一人で相手にするつもり」

 

 まがねは音もなく彼女に近づくとその右手をバカラに近づける。

 

「倒すのは難しくても、時間を稼ぐくらい簡単よ。私、運が良いから」

 

 バカラも無造作にその手袋を外した手をまがねに近づける。

 

 まがねの手が先にバカラにつきそうになったその時、突然の突風に無音で近づく際に砂にしていた下半身をさらわれ体制を崩し、攻撃を外し、無造作に伸びていたバカラの手に先に捕まってしまう。

 

「ラッキー」

 

「そんなに長くラッキーは続かないよ?」

 

 バカラを殺すのにまた失敗した。それでもまがねちゃんは不気味な笑みをバカラに見せている。

 

「ええそうね。でもあなたから貰うから問題ないわよ」

 

「ふふふ。試してみる」

 

 まがねちゃんの手が砂になり、刃を形成する。

 

 それを余裕の表情で見るバカラであったが、その攻撃が彼女を切り裂き、まがねの手が彼女の手を干からびさせていく事態に驚愕を露わにする。

 

「なっ何故」

 

「前にも言ったでしょ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だから減らないなら、奪えるわけないでしょ?」

 

 バカラはポーカーの時、彼女があり得ない手札を揃えたのを思い出した。

 

「そんなの、嘘」

 

 その言葉にまがねは満面の笑みを浮かべる。

 

「そう!嘘、嘘だよね。でも、嘘と現実。それは誰が決めることかな?そして誰に見破れるかな?嘘が現実になるとき物語は始まるんだよ?知ってた。物語は大抵実在しないけど、実在しないからこそ人々はその嘘を知っても楽しみ、現実の自分と重ねる。もう、物語は始まっている。嘘は現実に、現実は嘘となる。全てはくるりと裏返る」

 

 バカラの周囲にいた部下は電伝虫の向こう側から聞こえてくるテゾーロの呼びかける声に反応できない。

 

 すでにその場にいた全員が砂と化していた。

 

「さ~て、物語のプロローグは既に終わっているんだから、これは第一章、物語の続き。主人公の出番はまだまだ先。だから物語はまがねちゃんの手で進めなきゃ」

 

 まがねは落ちている電伝虫を拾い上げると、テゾーロに宣言する。

 

「神は死ぬ。そして死んだ。これが物語の一区切り」

 

 まがねちゃんは既にこの世界に比類なき、神の如き権力をもつものを殺していた。

 

 だから彼女は高らかに言う。

 

「あなたは神なら、貴方は死ぬ。それがまがねちゃんの現実」

 

 まがねちゃんは嘘をつく。その返答を聞かぬまま彼女は通信をきり、闇に消え、辺りに大量の砂を残して………。

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