天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
「これは!」
テゾーロからの連絡を受け、ばらけていたダイスとタナカさんが合流し、バカラが捜索していた方面に向かうと、大量の砂を発見した。
あたり一面、建物の壁だろうが、石畳だろうが全て砂に変わっている光景にテゾーロとまがねの戦いを思い出したタナカさんは愕然としていたが、比較的冷静だったダイスはバカラが埋まっている可能性にかけ砂をかき分け、いやなモノを見つける。
「バカラの手袋だ」
「つまり………だが、彼女は幸運人間。こんな短時間で殺すなど不可能では」
バカラが生きている可能性を示唆するタナカさんだが、彼もバカラが死んだということは既に理解してしまっていた。
だからか、彼の言葉はバカラが生きている可能性を提示するというよりも、そのわずかな可能性すら論破することで彼女が死んだということをワンクッション間に挟むことにより受け入れようとしているのだ。
だが、彼はここでするべきことは戦闘態勢にはいることであり、仲間の死を確認することではない。
ここは生き物が何一つない、生物の営みの気配さえない死の砂漠と化していることを、身近に死が迫っていることを強く認識するべきであった。
結果、風が吹いて舞った砂に紛れた砂の槍に気づかず背後から脳天を貫かれ、タナカさんは自分が死んだことを認識できず死んだ。
血は大地に流れない。その血すら全て乾き、乾きにより死体は即座に塵と化し、風が止むのと同時に彼がいた場所には何も残らない。
一方、強烈な殺気を感じたダイスは咄嗟にテゾーロから与えられた黄金の斧槍を交差させ頭をガードすると、自分に来る他の攻撃は全て超高密度で硬い黄金の鎧に任せ己の感だよりに攻撃の方向に合わせ防御の姿勢をとる。
「同じ手は二度もくらわない」
体の鎧は砂の攻撃を全てはじき、頭に来た攻撃も斧槍を貫くことが出来ずに霧散する。
彼は攻撃が来た方角に合わせ覇気を纏った斬撃を繰り出す。
余計に砂は舞うが、斬撃の道には砂が裂け、空間を作り、正面の視界をクリアにする。
ダイスは自慢の怪力を見せつける様に体を回転させ、斬撃をあたり一面にばら撒く。
その斬撃は砂漠の領域を超え、その向こうの建物の壁を軽く切り裂き、逃げ惑う人、部下であろうが関係なく血の雨を降らす。
ダイスは油断なく目を見張り敵を探す。
しかし、まがねの姿は見当たらない。
このままではダイスは一方的になぶられ集中力を削がれるため圧倒的に不利な盤面である。
だから、彼は自分の力でこの場を打開しようと、強く、それは強く斧槍を握りしめ、地面に思いっきり叩きつける。
その威力はすさまじく、砂が吹き飛びクレーターを作り出す。
そしてクレーターの周りにある砂も全て吹き飛び、元の石畳や、その基礎が砂の合間に見える程度の砂しか残っておらず、彼の一撃は大量の砂を吹き飛ばした。
「もう一丁」
彼の戦術は単純であり、それでいて実行するのはほぼ不可能な策である。
なぜなら、不利な盤面を自分に有利な盤面に変えるということを彼はしているのだから。この場合砂を消し去るである。
言葉にするのは簡単でも、不利な盤面を有利に出来たら、戦争も、戦闘もスポーツでさえ流れと言う言葉や、名将、奇策などと言った言葉も、歴史に名を遺す偉業として後世にかたられることもないだろう。つまり彼がしているのは信じがたいほどあり得ないことなのだ。
だが、それを彼の筋肉が、そのあまりにもマゾすぎて強すぎる精神が不可能を可能にする。
彼の筋肉が鎧を打つ砂の攻撃による衝撃を全て吸収し、その体に訴える痛みはその精神でねじ伏せ、一心不乱に砂を吹き飛ばす。
そして彼の強い精神は、折れぬ心は強力な武装色の覇気を切らさずその斧槍に宿し続け振られるため、まがねちゃんも接近しその手で触れることは叶わない。
砂が幾度となく舞い、舞った砂は新たに舞う砂と共に衝撃波により吹き飛ばされ、クレーターはどんどん深くなっていく。
「?」
彼の斧槍の動きが止まる。
既に数分という短い時間に100を超える振り下ろしをした彼だが、周囲の様子がおかしいのに気が付く。
「何故砂が無くならねえ?」
彼の動きが止まった時、砂が蠢き、まがねちゃんの顔が浮かび上がる。
「底なしの沼や、アリ地獄って知っている?」
即座に振るわれる覇気を纏った攻撃を繰り出すも砂はその前に崩れる。
「あなたがしているのは自分から穴掘りをして埋まろうとしているだけの行為」
彼の耳のそばで聞こえる声に彼は振り向きながらその斧槍を振るう。
しかし、そこにあるのはやはり砂である。
「気づかない?ここが狭すぎることに」
「!」
彼は自分が最初に作ったクレーターが深く、そして狭まっていることにようやく気が付いた。
「武装色の達人のあなたを殺すのは大変。でも人って不思議なモノでね。こ~んな軽い砂でもただ目に見える程の厚みでも、埋まっちゃうと動けなくなっちゃうんだよね」
「しまった!」
まがねちゃんが何をするつもりかに気が付き慌てて出ようとするダイスだったが、足元が安定しない。強くければその足が砂に埋まり、逆にその体を砂の中に引きずり込まれてしまう。
そしてその抵抗をあざ笑うかのように砂が彼に振ってくる。
「ふふふ。どれだけ力があろうが関係ない。どれだけ吹き飛ばそうが関係ない。そこにあるモノを無くすわけじゃないし、邪魔者は先に消した。そして私が全てを操っている。希望は何一つない」
まがねちゃんの笑い声だけが聞こえる。
「クソ、クソ、クソォォォォォォォ」
吠えながらも両手両足を動かすが、脆く崩れる砂に感触などほぼ残らない。例えその力で大量の砂を吹き飛ばそうがそれ以上の砂が降ってくる。
砂の中を出ようとして登っても砂の壁は崩れ落ち、ジャンプしようにも足場がしっかりとせず、仮にジャンプできても、砂の壁が彼を垂直に飛ぶことしか許さない。
いずれ砂は降り積もり、彼の行動をさらに制約し、目に砂が入れば更に動きを制限される。
「隙だらけだよ。ふふふ」
彼女の乾きを与える手が彼の足に、いつの間にか張り付いていた。
彼の足は自由を失う。
慌ててその手でまがねの手を払おうとするが、此処は彼女の領域。
その手は砂に邪魔され、そして砂により視界を封じられ、砂により平衡感覚を失う。
肉弾戦においてこの世界でもトップクラスの男がなすすべもなくまがねちゃんに料理され、手足を奪われる。
「砂に生き埋めって苦しいらしいよ。すぐ死ねないし、絶望をゆっくりと楽しむといいよ」
『砂漠葬』
まがねは彼の耳元で呟くと彼を埋める。
「これで三人殺した。テゾーロはどうしようかな~」
上機嫌で呟く彼女の足元がいきなり暗くなる。
元から暗かったが、月明かりが出ていたので真っ暗になることは無かったこの場が他の場所と比べて明らかに暗くなった。
「黄金の業火」
「およ?」
上から声が聞こえ彼女が空を見上げると視界には黄金しかなかった。
「消え去れ」
大爆発が起き、何もかもを吹き飛ばす。
爆発が収まった後、何が起きたのか、遠くで見ていた人々は理解し、武器を手落とす。
テゾーロが作り上げた彼が言う神の姿、巨大なゴールデンテゾーロの拳が振り下ろされただけで辺り一面が薙ぎ払われ、建物だろうが地面だろうが吹き飛ばしていたのだ。
そのあまりの威力は、反抗していた人々の心を折るには十分だった。
その大きすぎる拳がゆっくりあがると、そこにはがりがりになった焼死体が一つクレーターの真ん中に出来上がていた。
「これが神の力だ」
激情に駆られていたテゾーロらしからぬ、低いトーンがあたりに響く。
彼は怒っているのは間違いないが、その怒りは振り切れ、逆に冷静になっていた。
「砂だろうが何だろうが、この力を前にしては無力!何が神は死ぬだ。この嘘つk………」
彼が最後まで喋る前にゴールデンテゾーロの巨体が爆発で少し揺らぐ。
「何だ」
彼は自分の周りが次々と吹き飛ぶのを見て、此処が砲撃されているのを悟り、攻撃先を見て、怒りを忘れ素直に驚く。
「何故海軍が俺を攻撃している」
そこにはかのバスタコールの軍艦十隻などと言った生ぬるい数ではない。軽く二十は超える軍艦が正面を見るだけでも存在し、四方にも少なくない数の軍艦がこのグランテゾーロを取り囲み、一般人だろうが、テゾーロの部下だろうが、動物だろうが構わず、全てを灰燼に帰そうと攻撃をかけていた。
「何故海軍が俺を攻撃している!この俺様の姿を見て攻撃を仕掛けてくる」
自分が築き上げてきたモノを全て破壊する彼らの蛮行に怒りを再燃させる。
「俺の金にたかる海軍が!俺に逆らうのか!ここに天竜人もいるのにか!」
彼は怒りに身を任せていたが、天竜人への配慮は怠ってはいなかった。部下をつけ、そして彼らに攻撃しないようにと気を付けてもいた。
だからこそ、海軍の蛮行が信じられ無かった。
そして天竜人さえどうにかできれば攻撃を止められると考えたテゾーロはまず、その天竜人の存在を奴らに吹き飛ばされる前にどうにかしなければと、邪魔な軍艦をある程度排除することにした。
「
強大な黄金テゾーロ目から光線が放たれ、軍艦を一気に焼き払う。
先頭の軍艦から異常に燃え盛る炎がたちのぼるのを見ると、彼はその作業を繰り返す。
されど、彼は天竜人を保護することも忘れない。その巨体を利用し、彼らがいるであろう場所を身を盾にして砲弾から守りつつ攻撃を繰り返す。
「これが神の御業。誰であろうとこの街で、俺が自由にできない奴はいない!」
「じゃけぇ、天竜人をやったんか」
ゴールデンテゾーロの顔がいきなり赤くなり溶け出す。
「なっ」
テゾーロはこのゴールデンテゾーロが傷つくとは想定しておらず、攻撃したものの姿を探す。
「大噴火」
空中からマグマの拳が降りかかり、固いはずの黄金が、彼が操っていた黄金が一瞬で解け、気化していく。
一瞬にして胸から上を無くし無惨な姿になったゴールデンテゾーロだが、テゾーロはそれよりも目の前の人物が此処にいることが信じられなかった。
「何故、大将赤犬がこんなところに」
そこには角刈り頭で、首元には花の刺青が覗き、海軍帽を被り、赤いスーツを着用した大将赤犬の姿がそこにはあった。
「己が神と勘違いしてワシ等世界政府に喧嘩売ってただで済むと思うとったのか」
赤犬の左半身からマグマが噴き出る。
「何を言っている?私が世界政府に喧嘩を売った?喧嘩を売っているのはお前ら海軍だろうが。ここに天竜人がいるのを忘れたのか?」
「何を言いよる。そんなモノ既におらん。そしてテゾーロ、お前はただの海賊」
赤犬の容赦ない攻撃がテゾーロの武器たる黄金を蒸発させ消していく。
「何を言っているんだ」
しかし、そんな命の危険に晒されているテゾーロは意味が分からず茫然とする。
「海軍のために有効利用してやるけん。安心して、往生せいや」
しかし、赤犬の殺気のこもった言葉に正気を取り戻すと、彼は急いでこの場から逃げようとする。
だが、ゴールデンテゾーロから、辛くも脱出した彼だが、その足は直ぐに止まる。
「砂が………、まさか」
『本当の絶望を、本物の希望と共にこのまがねちゃんが教えてあげる』
「この俺を、笑うなぁぁぁぁぁ」
彼は足場が不確かな砂に足を捕られ転びつつ、彼女の言葉とその顔を思い出し、様々な感情でごちゃ混ぜになった怒り諸共叫ぶ。
もはや、彼の身を守るモノは既に誰もおらず、支配していた者にも逃げられ、何もかも無くした彼は叫ぶしかできなかった。
彼は大きな声で、肺の空気を全て空っぽにする勢いで叫ぶ。そうしなけば、ここにあの女が来てから、と想像し、今の現状も奴がと思うのをどうしても止められず、絶望に呑まれてしまいそうだった。だが、それは大きな隙になった。だが、それでもあの女の言葉を本物にしたくなかった。その一心で手の黄金指輪を槍にして、武装色を纏い意味もなく、地面に突き刺す。
逃げ遅れた彼を、隙を晒した彼を歴戦の将、そして僅かな悪すら見逃さない赤犬が見逃すはずもなく、一瞬でマグマに呑まれテゾーロは意識を失う。
ここに、天竜人をもしのぐと言われた新世界の怪物が作り上げた楽園がたった一夜にして崩壊したのである。
「ふふふ。流石怪物。神になった男なだけはあるね~」
まがねちゃんは腹に大穴を開けつつも、赤い火炎に沈むグランテゾーロを眺めながら、「自分の血、前は直ぐに水で流れちゃったけど、これも悪くないかもね」と自分の血を楽しそうに触り、嘯く彼女はやはり狂っている。
「これにて第一章の終わ~り~」
まがねちゃんは楽しそうに笑いながら手にした黄金のコインを指ではじき、そう宣言し、終わりという真実を口にするのであった。
黒帽子、瑪瑙@趣味→誤字報告、ためすけ、通りすがりの読む人、Sheeena、皆さん誤字報告ありがとうございました。
次でゴールド編が終了します。