天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
グランテゾーロ。それは正しく金が全ての国。
世界政府に天竜人への天上金を肩代わりして払うことにより、特例的に中立的な国家として、海軍だろうが、犯罪者だろうが、外の法律が何も適用されない誰もが一獲千金を狙え、金さえあれば、世界最高のエンターテインメントを楽しむことが出来る夢の国。
金が全て、それを象徴するようにこの巨大船は至る所に金をあしらい、金があふれる町の光景は、世界で美しい町は何処かと問われれば必ず上がる町の一つである。
そんなグランテゾーロは立った一夜にして滅びた。
この世界で国が亡びることは多くは無いが珍しくもない。ただ、世界政府加盟国は、更に力がある国が亡びることは珍しいだろう。
そしてグランテゾーロはその中でも、金にモノを言わせた力だけでなく、武力も、権力も持っていた。
権力に関しては、もう天竜人を抱きかかえていると言っても過言でなく、世界政府ですら動かすことが出来る。これほど馬鹿げた国が一夜にして滅んだのだ。
世界経済新聞が世界中にこの報道を伝えたが、グランテゾーロ、その支配者であるギルド・テゾーロの怪物という異名を知っている人間ほどこの報道を信じられなかった。
だが、裏の世界の人間は見方が違った。
「モルガンズ社長、これは一大ニュースですね。それにしても海軍は上手くやりました。テゾーロマネーを独り占めですから」
その中でも、この情報を世界に報道した世界経済新聞も情報を操り、政府と密接にかかわる裏の世界の帝王と言ってもいいだろう。
裏の世界の住人の中で最も情報に精通しているこの会社の社長モルガンズは部下の報告を聞き、素直にうなずかなかった。
「果たしてそうでしょうか。私たちの部下たちもあそこにいたのですが」
「確かにおりましたが全員死んでしまいましたよ?」
モルガンズは机の上に置かれていたつまみを一つまみし、もう片方の手で小さな紙切れを積み上げられた束の中から抜き取る。
「そうですね。だが、その途中に報告がありました」
モルガンズは立ち上がり、彼らが命懸けで上げた報告を読み上げる。
「テゾーロの部下が観客を銃撃。しかし、客の中に自爆したものおり、これがテゾーロの指示か疑問が残る。さらに、その天空闘技場にて処刑される罪人まがねにも何らかの疑問が残る。テゾーロは彼女を殺し損ねていたとありますね」
すらすらと読み上げた内容に、ようやくこの会社の幹部に上がれたばかりの彼は顔を引きつらせていた。
「あの、社長。どうやってその情報入手したんですか?」
彼が顔を引きつらせているのも仕方ないであろう。
あの場は海軍が目を見張らせて情報統制をしていたのであり、この会社にも海軍から、余計なことを言わないようにと言われているが、それが何かまでは追及されていない。つまり、海軍も此方が情報を掴んだか分かっていないのだ。
電伝虫の通信は傍受されるのでそれ以外の方法だろうが、あの場でグランテゾーロにいた人間は全て、殺されるか、逮捕、または一時拘束や軟禁という形をとっている。どうやってこの情報を入手したのか果てしなく疑問が残る。
モルガンズはその彼に対して、
「ビッグニュースだよこれはそれを記者が伝え忘れることは無い。君もこの会社の一員ならその心を忘れてはいけないよ」
モルガンズはその紙きれを握りつぶし、持っていたつまみをこの部屋に飾られている水槽に持っていく。
「もっ勿論です」
「ああ、でもその心構えは人間でなくても持っているかもしれないね。例えばあの場に大量にいた亀とか」
モルガンズは水槽の中で美味しそうにつまみを食べる亀を見つめていたが、また彼に視線を戻す。
「まあ、ともかく情報がきましてね」
「ええ、でもどうみても政府が言ってきたように、テゾーロが天竜人を殺したための報復にしか見えないのですが」
「わが社の社員の情報を見てもですか?」
「これはテゾーロが天竜人を殺してしまって自棄になったのでは?自分の街を自分で壊していますし」
彼は海軍から提供された写真を思い出し、そう答える。
「確かにそういう見方もできるでしょう。ですが彼は裏の世界を生き抜く住人ですよ。そしてこの世で最も権力を持つ人間の一人。力の使い方。その在り方を間違えるはずがない。そんな男なら此処までの力を持たないはずです」
「では、それ以外だと何が?」
「このまがねという少女が関係していそうですね」
「たった一文しかない少女に?」
「そうです。だってこれ見てください」
モルガンズは新しい手配書を取り出した。
「これは!なんとも」
「でしょう。この金額。ちなみにアラバスタの事件はいろいろと改ざんされましたけど、その中にはこの少女の情報もありましたね」
社長室に沈黙が下りる。
「結局誰が勝者なのですかね?」
「私は海軍が莫大なテゾーロマネーを得たという情報は聞いていません。ですから案外、この少女が勝者じゃないですかね。テゾーロが結局殺し損ねてますしね。それだとまさにビッグニュースだ」
「えっと社長?その情報もどこで」
モルガンズはそれに対して。
「人の口に戸は立てられません。それに戸を開ける工夫はしっかりしている」
札束を彼に見せびらかすようにして笑いかけるのであった。
世界経済新聞が新聞を発行する前、グランテゾーロが滅んだその夜のことである。
「まだ見つからのんか!」
大将赤犬は焼け焦げた街に腰降ろし、捕まえたテゾーロを監視しながら、怒鳴っていた。
「そっそれが、街に使われていた金はテゾーロの能力で生み出された金ですので、殆ど金になるモノはありません。そして本命のテゾーロマネー5000億ベリーは何処にもありませんでした」
部下からの報告を聞き、赤犬はテゾーロから聞き出した情報が嘘だった可能性に思い至り、吸っていた葉巻を噛み千切る。
「われ、嘘をついたんか」
海楼石の手枷をつけたテゾーロを睨みつける。
部下はその様子に威圧されながらも報告を続ける。
「いっいえ。それは無いと思われます」
「何ィ」
ジロリと睨まれ、腰が引ける部下だが、それでも長い付き合いなので彼が別段自分を睨んでいるわけでも、怒っているわけでもないので、呼吸を整え、言葉を続ける。
「金庫には確かに5000億はありませんでしたが、我々が来る前にそもそも金庫の鍵が開いていました。恐らく何者かに盗まれたかと」
「誰にだ!」
「フハハハハ」
「何がおかしい」
その様子にテゾーロは笑っていた。
「これを笑わずにいられるか。海軍の狙いは力を持ちすぎた俺の失脚もあったんだろうが、それ以上に俺の力、この国にある金が欲しかったんだろう。海軍は軍艦数隻の被害に付け加えて、殺した金持ちを敵にまわしてまで手に入れた宝箱が空っぽなど、最高に笑えるだろうが。フハハハハ。あの女、俺だけでなく、海軍にも希望と絶望を与えたのか。確かに奴のこそ本物のエンターテインメンツなのかもしれんな」
「黙らんかいわれぇ」
「あの、大将。センゴク元帥より電伝虫が」
赤犬はいらだった様子で乱暴に受話器をとる。
「何かいのぉ、センゴクさん」
「赤犬。そちらはどうだ!お前がやり過ぎたおかげでいろいろと苦情が来ているぞ」
「何にもありゃせんわ!」
「何!それはどういうことだ」
「誰かに金は盗まれた」
「誰かということは、もしかしてだが、我々に喧嘩を売った奴が全く分からんのか!」
「築城院真鍳だよ」
二人の話し合いにテゾーロが入り込む。
「誰もわれに聞いとらん」
赤犬が機嫌を悪くし睨むが、その発言を聞いた知将センゴクはテゾーロに聞く。
「それはどういう根拠があってだテゾーロ」
「もともと俺が暴れたのは奴が喧嘩を売ったからだ。それに奴は俺の金を狙っていた。そして、奴の公開処刑の時に何故か俺の命令を聞かない部下がいた。それにどうせ海軍はあの女を捕らえられていないのだろう」
テゾーロはその時のことを思い出したのか顔をしかめたが、海軍が出し抜かれたことを思い出しまた愉快気に笑う。
「それに客は殺すか捕まえて、殆どの船を見逃さなかったようだが、此処には何隻かの潜水艦が来ていたぞ。奴が乗って来ていたのも確か潜水艦だったような気もするなぁ」
テゾーロはまがねが何に乗って来たかなど知らない。ただ、潜水艦があった事実だけは確認しているので、それらしく言う。
赤犬はそれを聞いて額に筋を作る。
「急いで船の確認と近海に潜水艦が無いかも支部に連絡して調べろ。ワシらをなめてくれるなよ」
赤犬はその場を部下に任せて、この都市に海軍にふざけた真似をした女がいないか探しに行く。
一方、聖地マリージョアではセンゴクが頭を抱えていた。
「まったく。アラバスタに続いてこの女か!アラバスタの件は麦わらに手柄をやるわけにもいかんし、政府の落ち度を認める訳にもいかんかったが、小物と思ってた女がまさかここまで厄介な存在だったとは」
センゴクは不良海兵スモーカーがへそを曲げてこの件についてはあまり詳しい報告を受け取っていなかったのを思い出していた。
「どいつもこいつも、戦うばかりの脳筋どもがぁ!」
その彼から今回の事件で全く情報が無かった女のことを調べたのだが、その報告書を見て更にセンゴクは頭を抱え、胃を押さえる。
「何でこんな危険な女をほおっておいたんだ。覇王色の覇気の使い手だとぉ。逃げたクロコダイルも問題視していたが、そのクロコダイルも生きているか怪しい」
センゴクは更に追加情報で彼女が砂になったという情報に、手に持っていた書類の束をクシャリと握りつぶしてしまう。
「今回の件を何と報告すればいいのか。そもそも天竜人は納得するのか。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
どうしても深いため息が漏れ出る。
そして彼は目の前にあるおかきと熱いお茶を見て、目の前の書類にさらさらっと何かを書き込むと茶菓子が入った皿を引き寄せ、口に放り込む。
「茶が上手い」
口を茶で流し、一服して遠くを見つめるのであった。
そしてセンゴクが書いた書類には高額賞金首にするようにと書いてあった。
対処を放り投げたのだ。
「ふふふ。見てこれ!黄金と札束の山!」
まがねちゃんは目の前の札束と金貨の山に珍しくも不気味でない満面の笑みだった。
そして背後に控えさせている。部下に確認する。
「金はちゃんと全部回収したんだよね?」
「ええ、テゾーロマネーはほぼすべて回収いたしました」
「ほぼ?」
まがねちゃんの表情は変わらずにこやかだが、その目は笑っていなかった。
「どういうことかな?」
「そっそれが、この船に乗せるはずだった一部の金が何者かに盗まれたようでして」
「誰が盗んだのかな?」
部下は冷や汗を流しながらも説明をする。
「それがまがね様が言霊を用いて作った人形人間は単純な命令しかできませんでしたよね」
「まあ、言葉で縛ったことしかできないし、人によっては縛った状況が違うし、差異はどうしても存在するよね」
「ええ、我々みたいにまがね様の凄さ、そしてその為さんとしていることを知らない者は仕方のないことではありますが、そのうちの軽い状態である者が騙されたようで………」
説明を続ける部下だが、覇気を叩きつけられ顔を青ざめる。
「それで?被害は」
「被害は……1500億ベリーほどになります」
「30%も奪われたの」
まがねちゃんがつまんでいた金貨が潰れる。
「それと、潜水艦が一隻ほど」
「何してんの」
報告をした男はまがねちゃんの顔をみて尻もちをつく。
「でっ誰?まがねちゃんの計画にちょっかいを出したのは?」
男は震える手で一枚の紙きれを手渡す。
そこには「女の子は知恵で生きぬかないとね ウシシ♡」と書かれていた。
「誰だか知らないけど次見つけたら、必ず殺す」
まがねちゃんは作戦においてはじめての失敗を味わった。
一人の女性が日が昇り始めた太陽の下で金貨を指で弾き、テゾーロに宛てて出そうと思い、余りの力の前に出せずじまいだった一枚のカードにその金貨を添えて海に放り投げる。
そのカードには「怪盗カリーナ 参上!!」と書かれていた。
「ウシシ」