天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんは暗躍する

「これで、四つ目と!まあ、こんだけやればトップまで行きつくかな?」

 

 海賊が暴れ、建物に火が放たれる光景を見てまがねは口笛を吹き、持っていたリンゴに噛り付くと楽しそうに笑う。

 

「革命軍、海軍と仕込みはなかなかっと。楽しみだな~。後は海賊だね」

 

 彼女は電伝虫を使い、何やら指示を出すと、海賊の動きが変わる。

 

 海賊たちは今まで建物を壊し、人を襲っていたが、その場に戦える者が減ったと判断したのか、略奪に精を出し始めたのだ。

 

 次々と運び出される物資、それは海賊たちが船までリレーをして、即座に船に積み込まれていく。

 

 未だ、戦闘が完全に終わったわけではないが、人々は大胆にも運び出されていく物資を眺めるしかなかった。

 

 その場の人間は海賊の行為を見詰めていたが、彼らは気が付かない。ある建物から運び出された物資の一部がひっそりと別の場所に運び込まれていることに。

 

 おかしな海賊の動きだが、襲われている方にそれに気が付くことが出来るはずもなく、戦況はクライマックスを迎える。

 

 海賊と襲われている人間との戦闘は、守る側に一人の旗を持つ女性が加わったことにより、盛大に変わり次々と海賊が倒れ、そして海上でも、革命軍の船が暢気に停泊していた海賊船に奇襲攻撃を仕掛け、大砲により海賊船に次々と穴を開けていく。

 

 陸の突然の反撃と、海上の奇襲により混乱に陥る海賊はただ打ち取られていく。

 

「ふ~ん。あれが軍隊長。面白い能力だ」

 

 そんな燃え盛る海賊船と次々に倒されていく海賊を楽しそうに鑑賞しながらまがねはその場を離れていく。

 

 去り際、彼女の電伝虫が激しくなっていたが彼女は全く気にせず、むしろその切羽詰まった音を聞き、その不気味な笑みを深くして暫くその音楽を楽しみ、受話器を取った後、受話器の向こう側の人間が大声で話しかけてくる声を聞き、我慢できず狂ったように笑い、その笑い声が終わらぬ内に戦場にひとしきり大きな爆発音が響くと、電伝虫の通信を終えた。

 

「ふふ。嘘つきだなんて。今までの成功全てが本当だと言うつもりかな。ああ、バカな海賊たち。自分たちの行為が何かを知らないなんて。哀れな海賊たち。自分たちが主人公だと勘違いするなんて」

 

 彼女は慈しむように電伝虫を撫でると、その場を今度こそ離れる。彼女が去って程なくして、海賊は駆逐され、人々は勝鬨を上げ、革命軍を称賛する声があちこちで上がる。

 

 そんな歓声が上がる中、数人ほどテンションが低かったが誰も気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはどういうことだ?」

 

 革命軍本部バルティゴにおいて、そのリーダーたるドラゴンの声が部屋に響いていた。

 

 いつもであれば彼の問いかけに何かしらの答えが返ってくる。

 

 それは彼のカリスマ性故か、この世界的犯罪組織革命軍は優秀な人材を揃えていたのだが、今回ばかりは誰もが理解できなかった。

 

 参謀総長たるサボもいつもなら何かしらの考えを述べるのだが、彼も口を閉じたままだ。

 

「なぜこうも革命軍の支部がこの短い期間に海軍、海賊問わず襲撃を受けている?」

 

 ドラゴンはテーブルに広げられた地図上に記されたバツ印を見て唸る。

 

「被害のほどは」

 

 既に4か所に襲撃をあったことを意味するその4つのバツ印を見ながら、状況確認をする。

 

「此方の被害はほぼ人的被害のみで、物資は全て避難に成功している」

 

 情報収集をしていた一人がそう答える。

 

 それを聞いていたもう一人は、被害状況を見て何かに気が付いた用に呟く。

 

「海軍にしろ、海賊にしろ、何故この支部なんだ?それに敵方に出ている被害も多すぎないか?」

 

 彼がそう思うのも仕方がないだろう。何せ、支部は被害を受けてはいるものの、中継地点としての意味合いしかなく、そこまで物資を詰め込んでもおらず、人員もそこまで割いていない支部だった。

 

 だが、それなのに海軍、海賊が被っている被害が大きすぎる。

 

「それは幹部の方が偶然近くにいらっしゃったからかと………」

 

 ドラゴンは癖のあり過ぎる四人の軍隊長を思い浮かべ、報告された結果に一応納得はする。

 

 だが、やはり不審な点が存在するのは否めない。

 

「確かに被害や損失はそれで説明がつくだろうが、それ以前に何故、巧妙に隠蔽されている支部がこの短い期間に襲撃されているんだ?海軍だけなら奴らの情報網にかかったと分かるが、海賊は他の支部ならどうとでもなる程度の規模の戦力しかないし、初めて聞いたような弱小海賊だ。こいつらが俺らの支部を見つけ出したとは到底思えないがな」

 

 サボがその不審な点を指摘する。

 

「そうだな。しかし、偶然と決めつければそれで片が付くほどのことではある。私も、もしこれが意図されたものだと考えてみたのだが、狙いが見えん。仮に海軍主導なら、革命軍の軍隊長のおおよその居場所程度は推測できるであろう。わざわざ近くに強敵を置いて攻略などせず、留守の合間を狙えばいい。囮にしても、海軍の戦力は少なすぎる。それに、これほど小さい支部なら、泳がせてみる価値もあると思うのだが」

 

 ドラゴンの考察に、他の者たちは確かにとこの不自然な襲撃を改めて考え始める。

 

「海賊たちにして見ても、利益の薄い場所を襲う意味は無いし、売名行為位しか思い浮かばん。海賊は偶然、海軍も偶然なら確かに片付くのだが」

 

 思考の深みにはまり、誰もが口を閉じ、静かになった空間に、扉の向こうから慌ただしく走る足音が聞こえ、皆が地図から顔を上げ、扉を見る。

 

 扉は思いっきり開かれ、慌てたように一人の男が入り、挨拶をするのもすっ飛ばし、報告する。

 

「また!また襲撃されました」

 

 室内にどよめきが走る。

 

「何処だ!」

 

 ドラゴンの声が響き、皆が即座に動揺を押し込め、報告をしてきた男を見つめる。

 

 男は急いで地図に近づき、人差し指で襲撃された場所を指すと、情報を付け加える。

 

「ここです。そして襲撃者はサイファーポールです」

 

「世界政府の諜報機関か‼被害はどうだ」

 

「此方の被害は支部長も含め23人の死者が出ており、負傷者は多数。実質全滅と言っても間違いありません」

 

「奴らの目的は何だった」

 

「やけに口の軽い、チャパパと口癖の男が漏らしていたことによりますと、支部長の暗殺が目的だったようです」

 

 その言葉に対し、こめかみに手をやるドラゴン。

 

「暗殺という言葉の定義を調べなおして欲しいモノだ。諜報とかけ離れていると思うのだが、まあいい。今回の件どう思う?」

 

「サイファーポールがこの支部を壊滅させる為の下準備か下調べだったっていうことか?」

 

 サボは自分で言った答えに自信が持てず、断言は避けた。

 

「まあ、自然に考えればそうだが、うーむ」

 

 同じ様にドラゴンも首を傾げる。

 

 二人とも政府の諜報機関の恐ろしさは知っているだけに、完全に納得していないが、それ以上の理由を並べた情報から推測するのが不可能であった。

 

「これは暫く内部を洗う必要があるか」

 

 ドラゴンは一度ため息を吐くと、活動を自粛する様に他の幹部に連絡を取るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~。この世界の人間は脳筋すぎるな~。革命軍は後回しかなぁ~。はぁぁぁぁぁ」

 

 まがねはニュースクーから新聞を受け取り、渋い顔をしていた。

 

 その新聞の記事によると、革命軍の支部をサイファーポールが襲撃し、幹部含む23人を殺害したことが記されていた。

 

 まがねは座っていた椅子から立ち上がると、荒れる海を眺め、ニッコリと笑う。

 

「今日もいい天気!」

 

 そう言い、さっきまで座って椅子として代用していた人間を船の甲板から荒れた海に蹴り入れる。

 

 その人間が海で溺れ、波に呑まれて行く様をジックリ見ていたまがねは顔にぽつぽつと水が当たり、その顔に着いた返り血を洗い流す感触に、天を仰ぎ見る。

 

「絶好の海水浴日和だよね」

 

 乗っ取った船の最期の生き残りを片付けた彼女はそれと一緒に新聞を海に捨てると何時もの笑みを張り付け、降り出した雨を避けるため血の匂いが残る船内に入る。

 

「まあ、それだからこそ、面白くもあるんだけどね。馬鹿と鋏は使いようってね」

 

 彼女が入った船内には、何かしらの悪魔の実と、スマイルを模った海賊旗が床に無造作に転がり、入ると同時に風で飛ばされた三億ベリーという高額の賞金首の手配書がひらりとその上に落ちる。

 

「さて、手札をどうきるか。まがねちゃんの腕の見せ所。ふふふ」

 

 エターナルポースはただ一つの島だけを指し示す。その指針はシャボンディ諸島を指していた。


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