天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
俺たちはついている。
あの日グランドラインに入り、その海の厳しさに飲み込まれ海の藻屑となろうとしていた俺たちだが、あの日が俺たちの運の最底辺。そこから一人の女性に救われてからはやることなすこと全てが順調だった。
襲う町には俺たちの欲しいモノが全てあり、そして俺たちを邪魔する海軍をあざ笑うかのように罠に嵌め、そしてその様を酒の肴として手に入れたものを積み上げ恐ろしかった海上で宴会をする。
この海に入り、一時は200人を超えていた船員が100人以下にまで減ったが、今では500人以上。海賊船も大きくなり、懸賞金も500万から1000万に跳ね上がった。
全てが上手くいっている。俺が海賊王に、俺が海賊王の財宝を手に入れる。そんな壮大な夢もこの調子なら叶うと信じていた。
信じていた。だが!
何故、何故、何故!
いくら電伝虫に指示を仰ごうが帰ってくるのは笑い声のみ。これはどういうことだ!
目の前でいきなり強くなった人々に殴られ、斬られ、撃たれ、倒れ伏す仲間の姿、そして逃げようにも背後には俺たち以外の船が無防備な俺たちの船を攻撃している。
積み上げた物資が、築き上げた海賊としての力が目の前でどんどん消えてゆく。
「船長!あれは革命軍なのでは!」
部下が怯えたように民衆の前で旗を掲げる女性を指さし報告をしてくる。
おかしい。ここには俺たちの敵になる奴はいないはずでは!ここでは簡単に食料だけでなく戦闘に必要な物資が入るのではなかったのか。
そこまで考えて、俺は背後に積んでいた物資をハッとなって見る。
まさか!この物資は革命軍のモノ?
未だ電伝虫から聞こえる狂ったような笑い声に俺は、自分がはめられてことに気が付いた。
「てめぇ!嘘を、俺たちに嘘をつきやがったなぁぁぁぁ。殺してやる!絶対にだ」
昔の俺とは何もかも違う。あんな女の力などなくともこの懸賞金一千万の力とこの海を乗り切ってきた戦力、そしてここにある物資を使えばまだ戦える。
そうだ。ここにいる敵を殺し、奴を殺す!
もう奴の力は必要ない。海軍の動きも人身売買の商売に参入してからは漏れてくるし、金もここであの革命軍の女さえ捕まえれて売ればまだまだ巻き返せる。
そうだ。奴は頭は良いが、俺たちとは余り関わっていねえ。だから俺たちがどれだけのものか理解できていないに違いない。まさか、俺たちがこの窮地を乗り切るだけの力があるなんて思ってもいないだろう。
俺たちには新兵器がある。俺が苦労して手に入れた街をも吹き飛ばす新兵器が!
俺は現状打破するために町を1つ軽く吹き飛ばせるという砲弾を部下に用意させるべく背後にある大砲にその砲弾を詰める様に指示をしようとして手に持つ武器を手をとしてしまう。
「なっ!やっやめろぉぉぉぉぉぉ!」
俺の目に信じられない光景があった。
俺の部下がその砲弾に火を向けていたのだ。
「止めろ!それにっ、そのバギ」
それ以上、俺の口は動かなかった。
最後に見た部下の虚ろの目が、自分の今までなしてきたこと、そして己の人生そのものが虚ろであったと言われているような感じがし、怒りが湧いたが、火に飲み込まれる部下と、目の前に迫る爆発によりできた炎の壁が、俺のちっぽけな怒りを恐怖に塗りつぶす。
「あっ」
俺は体がバラバラになる感覚を味い、意識を手放した。
「いやー、まがねさんも極悪非道ですね」
自分たちが今まで属していた海賊が滅んだのを爆発音から察した男たちは、海賊船が停泊していた場所から離れ、地元民ですらこないひっそりとした砂浜で、不気味に笑う少女にそう声を掛けた。
「でもこれで、世界中がこぞって欲しがる革命軍の情報を入手出来ましたし、海軍だろうが、大物海賊だろうが、取り入るのも、商売するのも簡単ですね」
男たちは死んでいった船長や仲間のことなどもう忘れたのか、これから自分たちの元に入り込んでくる利益に目をくらませていたため気が付かなかった。
いつもの様に不気味な笑みを張り付けているまがねが、その雰囲気を殺伐とさせていたことに。
彼らは安心しきっていた。自分たちは彼女と同じ裏切り者、同族、仲間意識、そんなちゃんちゃらおかしい、何の意味も持たないものを自分たちの絆、もしくは組織の一員と考え、自分たちは狩る側だと思い込んでいた。
所詮、彼女からすれば先に始末した、哀れでバカな海賊と全く変わらないということに、気づくことは無かった。
「しかし、船長も間抜けですよね!今まで利用されてきたことも、自分たちのクルーが徐々に信頼できないものに変わっていたことも、何もかも知らずに海賊王になるなんて、笑えますよね。単なる駒の分際で……え?」
男は愉快そうに笑い、まがねに同意を得ようと振り返ろうとして、自分の胸に生えた腕に疑問を感じ、その生えてきた腕に己の手を当てようとして、全く動かないことに更に疑問を募らせる。
「あれ?」
「ほんと、愉快だよね」
耳元で囁かれる底冷えする声に、体の芯まで冷やされたように、自分の体から熱が失われていくのが感じられ、男は未だに事態を理解できないながらも、死という絶対的に逃れられない事象に、生物の本能として反応し、恐怖する。
腕が引き抜かれ、男が絶望を顔に張り付け砂浜に倒れた時、その場にいた残りの四人のうち一人は額にナイフを生やし、仰向けに倒れる。
雑魚海賊とは言え、荒事をこなしてきた男たちはすぐさま武器を構えるが、反応が遅すぎる。
仲間が倒れた音に反応して武器を構えた彼らと、既に殺意を隠すこともせず、むしろ圧倒的プレッシャーとして周囲に放ち、既に狩りを始めている彼女とではその一瞬は、彼女と彼らの実力差もあってか、もはや奇跡も入り込めぬ絶望的な時間を、隙を作り出す。
「ひっ」
一人が殺意に下半身を緩ませ、一人はようやく視線を仲間から敵の方に移し、最後の一人は、この三人の中で最も前にいたせいか武器を構え怒りを宿した表情を二人に向けて事切れていた。
砂が舞う。
「クソ」
武器を構え、倒れてくる死体に目もくれず周囲を見渡す彼は、突然視界を砂に奪われ悪態をつくが、彼は違和感を感じる。
自分の下半身の感覚が全くないのだ。この砂が舞うエリアから離れようとどんなに足を動かそうとしても下半身が言うことを利かない。
それどころか自分の視線が徐々に下がってきている様にすら感じ、更に自分の視界に太陽が見えるおかしな事態に、下を見て、自分の体が下半身と上半身でバッサリと切れているのを見てしまい、自分の死を認識した。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃ」
最後の一人は砂に襲われ体を綺麗に二等分された仲間の死体を見て腰を抜かし、恐怖で動かない体を無理してでも動かし、死に抗おうとするが、彼の目にも死の風が吹く。
「あ?っ!ひぎゃぁぁぁぁっぁぁ」
彼はいきなり腕が動かなくなり、無様にも顔面を地面に擦り付け、口に多量の砂を含むが、いきなり動かなくなった己の腕を見ると、死の恐怖が沸き上がり、口の中の砂利や、目に入った砂による痛みなど気にしてられなかった。
彼の腕はミイラの様になり果てていたのだ。
「ふふふ、駒の分際ね。ほんと、笑えるよね。これほど滑稽なことは無いもの」
それでも必死になって動かない手の代わりに足を使い、目の砂を払うことも口の中に入った砂で口を切っていようが逃げようともがく哀れな駒を見て、彼女は楽しそうに、それは無邪気に、子供が玩具や昆虫を壊す様に無造作に、その手足を捥ぎ、その綿を抉る。
「時間が無いから、四人はさっくりと殺しちゃったけど、貴方は運が良いね。有効利用してあげるよ」
もう首しか動かせない体で、彼は背後にいるであろう少女を覗き、絶望する。
「楽しもうよ」
そこには既に己の死を確定させた悪魔の笑みを浮かべた化け物しかいなかった。
「あーあ。この力があったら昔はもっともぉぉぉと楽しめただろうなぁー」
砂しか残らぬ砂浜で、唯一ここで殺人があった名残をその頬に残し、彼女は過去へと思いをはせる。
ああ、あの時死体を砂に出切れば、完全犯罪どころか、何時までもずっと殺しだけを、その処理に悩まず楽しめたのに、とグチグチ言いながら、手に残る僅かな砂を払う。
「うん、まあ、いっか。そこそこの駒で結構楽しめたし、本当に仕込みたい駒は潜入させられたから良しとしよう。過去に罪なし、未来に功あり!まさにまがねちゃんは未来に生きるのだ!」
手に入れた情報を記した紙を手に、楽しみな未来を思い浮かべその場を立ち去るのである。