天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんは急いでる

「これは!ふふ、これは面白いね」

 

 まがねは新聞を見て興奮していた。

 

 彼女が見る新聞には懸賞金が跳ね上がった麦わらのルフィの情報が載っていたが、彼女を興奮させたのはこれではない。

 

 この情報も彼女を十分楽しませたのだが、それよりも彼女の心をくすぐる途轍もない情報を手に入れたからだ。

 

「無名の海賊に、白ひげ配下一番隊隊長火拳のエース破れる!現在はインペルダウンに幽閉されている模様、か」

 

 彼女はもう一度その内容を確認するように新聞を読み上げ、興奮を抑えるために、手に持つ牛乳を一口、口に含み、冷えたその液体を舌で感じ、冷静さを引き戻す。

 

 それでも、一旦引き締められた顔は直ぐに笑みを、それは深い深い笑みを顔に刻み込む。

 

「情報が少ないし、新世界の情報はまだ全然集めきってないから策を弄するのも難しいと思っていたけど、これは面白くなったきた!最強の海賊白ひげ、彼は仲間の死を許さない。なら、海軍の取る手はそこまで多くないはず。処刑?世界を亡ぼす力を持つ白ひげと海軍は果たして戦争をする?」

 

 まがねちゃんは興奮冷めやらぬまま、しかし彼女の思考は冷静に、それでいて自分が最も楽しめる残酷な計算をし始める。

 

「今、ルフィ君のおかげで世界政府の諜報機関は少なからずダメージを負っているはず。いやー、流石ルフィ君ナイス!今、世界政府の監視の目は弱っていると仮定すると、その穴は海軍が補強するほかない。その現状で白ひげとの戦争?他の四皇の存在がどう出るかの予想は難しいし、仮に読めて、そして策を弄そうが情報が少ないというのは得てして不確定要素を想定外にしやすいもの。さてさて、海軍は圧倒的被害が出る白ひげとの戦争、それも爆弾を戦争中、そして戦争後において抱えるかな」

 

 彼女は新聞を綺麗にたたむと、それを塵にかえ、残った牛乳を飲み干す。

 

「私だったら混沌として嬉しいんだけど、今のトップは仏のセンゴク。この世界の脳筋だらけの人間たちの中で珍しい知能派でもある。戦略も理解しているだろうからいくら戦力が上だろうと戦闘はしたくないはず。なら、交渉?」

 

 そこまで考えて彼女ははためく海軍の旗を思い浮かべる。

 

「でも、新聞にこの情報を載せている以上、海軍の絶対正義とやらが、交渉なんて手を取るのかな~?………」

 

 まがねは暫く目的地に向かって今までずっと動かし続けていた足を止め、その場に立ち止まり、人差し指を顎に当て、少し首を傾げる。

 

「う~ん。海軍の沽券と世界政府の三大勢力のバランス政策、四皇のラフテルへの競争………」

 

 静かに、だが、その口は留まることを知らず、一人ブツブツと様々な情報の断片を呟く。

 

 そんな彼女は一見するとかなり隙だらけに見える。そして彼女が今いる場所はシャボンディ諸島。新世界への入り口となる魚人島の一つ前の島、つまり、海賊ども、それも前半の海を乗り切ってきた猛者どもがたどり着く島である。

 

 つまり、高額な賞金首がおり、広い諸島は、海軍本部に近いため、その高額賞金首も迂闊な真似は出来ないが、しかし、広いのである。故に治安がいいとは決して言えない場所などごまんとある。そして、同時に賞金首がいるなら、賞金稼ぎもいるのは道理である。

 

 それも、治安が悪ければ悪いほど大量に。彼らも高い首が欲しいと考えるのは当然である。

 

 そしてまがねは海軍から大金を奪った大罪人である。正確には海軍の金になるはずだった金ではあるが、とにかく、海軍としてはこれを逃すのはプライドがズタボロにされっぱなしで許すということである。

 

 いくら、彼女の拠点と組織を潰し、ある程度の額を回収できたとは言え、死体を見るまではその首にかけた懸賞金を下すはずがない。

 

 その首にかけられた額は一億。

 

 天竜人の殺害、天井金も含めた多額の資金の強奪、アラバスタでの暗躍、そしてスナスナの実。これだけの情報が揃って一億は少しばかり安いが、政府もあまり額を上げ過ぎて自分たちの失敗を表には出したくない。でも逃したくはない。

 

 それが初頭手配にして、いきなりの億越えであると同時に、前半の海を乗り切った海賊、そして新世界ではありふれた額で、そこまで目立ちすぎないようにと苦心した配慮である。

 

 まあ、海軍や政府の苦労はこの際関係は無い。ここで重要なのは高額な賞金首であること、そしてその首が隙を晒していることである。

 

「貰ったぁぁぁ」

 

「ひゃっほー」

 

 ヤルキマンマングローブの木々の陰から数十人を超える屈強な男たちが叫び声を上げながら飛び掛かる。

 

 彼らは多数で、そして地形を生かして高額賞金首を狩ってきた。それだけに全員強さはそこそこあり、そしてその数は脅威であり、新世界に入ることなく、此処で消える海賊も珍しくはない。

 

 つまり、質も大事だが、戦いは数だということだ。

 

 しかし、そんな脅威を前にして、まがねはその指を下し、ガッカリしていた。

 

「はあ~。それじゃあ、奇襲の意味ないよね」

 

 彼女は大声を上げつつ、此方に近づいてくる敵のしょぼさに、やりがいの無さを感じていたのだ。

 

 ちなみに、彼女は戦闘狂ではない。あくまで人を殺すのが好きなだけだ。それも気まぐれに、そして愉快に殺すのが大好きなのだ。だから、正確には人の生死をもてあそぶのが好きなのである。

 

 ただ、それでも、彼女にも好みというモノは存在する。楽しくない殺しは彼女の流儀に反する。

 

 いたぶって殺すなら、一般人でいいし、粋がっている馬鹿を殺すならチンピラでいい。

 

 なら、彼女が今回のターゲットに期待したのは、狩人が自分が単なる兎だったと気づいてしまう。そして目の前にいる狩人に絶望し、罠にもがき苦しむ様を見たかったのであり、最初から狩人になった気でいる兎を狩るつもりなどない。見るだけなら滑稽で面白いが、いちいち自分が処理するのは面倒くさいし、何よりも使い方が違う。

 

 彼らの使い道は強者の羽を捥いで、弱者にいたぶらせる様を観察して楽しむ時に使う駒くらいでしかない。

 

 彼女は期待していたのだ。ここに来る海賊を狩れる彼らに。

 

 だから期待と現実との落差のひどさに、表情がはがれる。

 

 ちなみに、彼らを弁明しとくならば、彼らの戦法はそこまで間違ってもいない。敵にあえて自分たちの存在を知らせ、ひるませる。そして彼らは所詮その場にいる賞金稼ぎのチームだ。連携のために、最初の一斉攻撃の合図として、そこまで無意味ではないのだ。

 

 大きな声、囲まれる状況、全方位からの同時攻撃、そしてそれが奇襲気味にと、作戦としては意外と悪くないのである。

 

「面倒だな~」

 

 彼女はゾクリとする声を上げると、突っ込んでくる相手に対して何もしなかった。

 

 彼女の頭に、弾丸が穴を開け、通り過ぎる剣が体を切り裂き、槍が体を串刺しにする。

 

「これで一億が山分けだ」

 

 男たちの一人が嬉しそうに自分の手元に入るであろう金を思い浮かべ満面の笑みになるが、その笑みもすぐに固まることになる。

 

「面倒だし、面白みもないけど、折角殺すんだし、精一杯楽しもうか」

 

 致命傷を負ったはずの女が穴だらけの体でしゃべる。

 

 その光景にほとんどの賞金稼ぎは信じられず、動きを止める。

 

 そして少数ながら、長いことこの島で賞金稼ぎを続けている者は彼女が悪魔の実の能力者、それもロギアであることに気が付く、慌てて逃げようとする。

 

 だが、誰も死からは逃れられない。

 

「サーブルス」

 

 砂嵐がその場の全てを吹き飛ばす。

 

 嵐が消えた後には、空から落ちて体中を壊した者と、人間だった者と、単なる奇怪なオブジェしか残らない。

 

「さて、じゃあ、鬼ごっこでも始めるかな」

 

 まがねは数少ない比較的軽症で、今もこの場から必死に逃げようとしている者に狙いをつけて足に力を入れる。

 

「人は死に敏感になると、面白い。ああ、彼らの恐怖の声が、理不尽に対する呪詛が、生きたいという願いが、日常への回帰が聞こえてくる。それらの強い思いが奇跡を生む反面、それらの強い思いが彼らをより死に誘う。中々面白いショーになりそうかな」

 

 まがねは見聞色が拾う強い声を楽しそうに聞きながら、先ずは動ける者を、そして次に何とか動ける者を、そして最後に動けないものに目を向け笑う。

 

 辺りに悲鳴が木霊し、笑い声が響き、絶望が広がり、死に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、この島での仕込みはほどほどにして、今のうちに海軍と政府に急いでちょっかいを出すべきだね。さ~て楽しみだな~。そして、最高!本当にワクワクする」

 

 そう言いながらも彼女は大量に生まれた砂の上を歩き、その顔は一番グローブを向いていた。

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