天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんは悪魔になる

「生きたい?それとも死にたい?選ばせてあげる」

 

 まがねは笑っていた。

 

 その手には奴隷を縛る首輪が握られており、その首輪は今もその爆破機能を有したまま一人の奴隷を縛り付けていた。

 

 そしてもう片方の手には鍵が握られていた。

 

 一人の人間の生死を掌握した彼女は自分を呆然と見る奴隷に再度問いかける。

 

「生きたい?それとも死にたい?それとも復讐がしたい?」

 

 その手に握られている鍵は生への自由を、その手に掴まれている首輪は死への自由を、そしてその顔は狂気に歪んでいた。

 

 少女は奴隷である己が身を縛る枷に意識を向けたが、最後の言葉が、まがねの笑みが奴隷の少女を惹きつける。

 

 最後の言葉に奴隷は自分の首輪を握る手を力強く握り返し、唸るようにしてまがねを睨み口を開く。

 

「アイツを殺す!それがっ!それが私の選択だ!」

 

 一人の無力な奴隷の少女はその心のドロドロとした負の感情を剥き出しにして、滅びへと誘う手を強く握る。

 

「じゃあ、殺そうか」

 

 まがねは奴隷の少女に見えるように首輪の鍵をチリにする。

 

 しかし、少女はその鍵に一切見向きせずに、まがねの顔だけを見る。

 

「壊して、奪って、縛って、殺そう。怒らせ、悲しませ、屈辱を味わせ、絶望に浸らせて殺そう。そして、教えてあげようよ。あなたの嘆き、苦しみ、後悔、その全てを心に、体に教えて殺そうよ。」

 

 まがねはそんな少女に語りかける。その血に彩られた顔で、その黒ずんだ手で、少女の復讐心に語りかける。

 

 奴隷の少女は静かにその言葉を聞く。その心を復讐に焦がしながら、じっと今はその時ではないとそのはやる気持ちを抑えながら、歪む顔を手で隠す。

 

「安心して、約束するよ。だから今はこれで我慢して」

 

 まがねは優しく力がこもった少女の手を一本一本丁寧に、その腕から外すと、首輪から手を離し、自由になった両手で少女の手を包み込む。

 

 そして、自分が立ち上がるのと同時に、オリの向こうの奴隷の少女を立ち上がらせる。

 

「あなたを殴ったのはこいつでしょ?」

 

 少女の視界いっぱいにいた女が退き、少女の目に血だらけで呻くだけのこの人材斡旋所と称した奴隷商の一員が倒れているのが映った。

 

 しばらく少女はじっとその苦しむ様を見ていた。そして、突如壊れたように笑い出す。

 

 そしてその目はまがねを捉え、最高だと言っていた。

 

「さて、まがねちゃんが提供する品物に満足していただけたなら、対価を貰おうかな」

 

 檻の外が騒がしくなっていたが、少女にはまがねの言葉がはっきりと聞こえた。

 

「騒ぎが起きたら殺すだけ。あなたの復讐相手を殺すだけ。ただ、その時にこれを舞台上で使用してくれればいいから」

 

 そっと少女の手にまがねは丸い何かを手渡すと、微笑む。

 

「対価はいつでも等価交換。貴方の願いを全て叶えてあげる。奴隷の身分からの自由。復讐の自由を、全て叶えてあげる。これは契約」

 

 まがねは勝手に指切りをするとその場を立ち去り、残された少女は檻の中で大切に約束の、悪魔との契約の品を手に持ち、来る日を待ち望む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャボンディ諸島、まがねは楽しそうに口笛を吹き、奪った牛乳瓶を片手に一番グローブを颯爽と後にする。

 

「さて、これでちょっかいの準備は出来た。後は海軍だけど、どうしようかな?彼女はまだ素直じゃないし、手札として切るのはもったいない。かと言って他にいいカードが無いのも事実。う~ん………、いっそ、本部かインペルダウンに向かうのが良いのかな?」

 

 そこまで考えて、騒がしい声が彼女の耳に入り、思考が中断される。そしてその騒がしい方向を向いたまがねの視線は一か所に釘付けになった。

 

 彼女の視線の先には賭博をしている男たちの中に紛れる一人の老人がいた。

 

「オイオイ爺さん弱すぎるぜ」

 

 男たちは楽しそうに酒を飲み、積まれた札束を嬉しそうに数え、賭博に負けたとみられる老人は負けてしょげているのかと思えば、即座に酒の追加を頼み、流れる様に借金をして再度賭けに参加しようとしていた。

 

 その老人、ただ、賭けるのが大好きな様で、一瞬で金を溶かしてしまっていた。

 

 周りの観客もそのあまりにも豪快過ぎるベットの仕方と、流れるような借金の仕方、そして止まらない負債に驚愕しつつも、人の不幸が上手いのかいつもよりも酒が進み、ヤジが飛ぶ。

 

 その一角だけお祭り騒ぎだが、彼女はそんなお祭り騒ぎに便乗することなく、目を細め、老人の所作を観察する。

 

「やれやれ、もう少し老人をいたわって欲しいモノだ」

 

 老人はそう言いつつもその手は止まらない。一方、まがねは老人の顔を見ようと彼らの賭けをしているテーブルに近づく。

 

「そう思わないかねお嬢さん?」

 

 老人はまがねが近づきその顔を確かめようとした瞬間、突如振り返り、彼女の方に顔を向け笑いかける。

 

「そうかもね。代わりに私が相手をしようか?手加減は得意だよ」

 

 驚きを笑みの下に隠し、まがねは老人の隣の席に座る。

 

 一方、いきなり勝負に割り込まれた形になった男たちはカモが奪われたと慌ててテーブルを叩き、まがねに対して怒鳴る。

 

「いきなり何の真似だ!こいつとは俺たちが勝負っ!」

 

 男の首元にナイフが突きつけられる。

 

「あんまり欲張ると、欲につられたナニかを呼び込んじゃうかもしれないよ?………例えば、殺人鬼とか?」

 

 突きつけられたナイフが男の酒で赤らんだ顔を青くさせる。

 

「あっ兄貴、この女………」

 

 身動きが取れなくなった男の傍にいた弟分がそっと何かの手配書を兄貴に見せつけ、その手配書を見た男は顔を引きつらせ、誤魔化す様に笑い、椅子から転げ落ちるようにしてナイフから逃れると慌てて去って行った。

 

「あらら?ラッキー」

 

 まがねはテーブルに残された金をそのまま懐に入れると老人の対面に座りなおす。

 

「お嬢さん、それは一応私の金なのだがね」

 

 老人は苦笑しつつも気にした様子もなく、少なくなった酒を寂しそうに見ると、立ち上がる。

 

「じゃあ、私は借金取りに追われる身なので、また機会があったら会うこともあるだろう」

 

 老人が立ち上がる間際、まがねは懐からトランプを取り出し、男から奪った金を全て机の上にばら撒く。

 

 老人が浮かせた腰を途中で止めたのを確認した彼女は更に2人分の酒を頼む。

 

「賭けてみない?」

 

 まがねちゃんは何時もの様に笑いかけ、老人は目を細め椅子に座りなおす。

 

「ふむ、名を聞いていなかったね。私はレイリーだ。君の名を知りたいのだが、教えてくれるかな」

 

 まがねは老人の名を聞き、その笑みをますます深くする。

 

「あのレイリーね。まがねちゃんはまがねちゃん。気軽にまがねちゃんって呼んでいいよ」

 

「そうか、まがねちゃんか。楽しい勝負になりそうで嬉しいよ」

 

 トランプを挟み二人の視線は絡みあう。

 

「ええ、じゃあ、何懸ける?」

 

 かなりの額になった金を見て彼女は問いかけるのであった。

 

 それに対して、レイリーは何の疑いもなく、彼女からのトランプを受け取り、気負うことなく口を開く。

 

「この私でどうかな?」

 

 その答えを聞き、彼女の口は裂けんばかりである。そしてその口を隠す様に手札を広げる。

 

「じゃあ、全てを掛けようか」

 

 まがねは宣言すると、空気がピリッと締まる。

 

 周りの群衆は二人の和気あいあいと笑いあいながらの賭けトランプに、そして先ほど以上に狂った賭けの内容に盛り上がることは無かった。

 

 ただ、笑いあう二人に呑まれ、その場を動くことも出来ず、固唾を呑んで見守る。

 

「「さあ、始めよう」」

 

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