天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんは化け物だ

「いやー。お嬢さん、きれいな顔して容赦というものが一切ない。おかげで私は今日もここ安酒を飲む他ないのだから」

 

 シャッキー'S ぼったくりBARでグラスを傾けるレイリーは隣のカウンター席に座るまがねに対して笑いながら彼女にも同じ酒を追加注文する。

 

「ただで出してあげているのにひどい言われようね。今までの分はちゃんとツケとして計上してあるのだけれども、どうしたらいいのかしらね」

 

 レイリーのこぼした愚痴に、このふざけた名前の店主たるシャクヤクは酒瓶を準備しつつも、領収書らしきものをレイリーに見せつける。

 

 明らかにボッていた。その額は偶然であろうか、レイリーにつけられた賞金額と同額である。

 

 その額ををみてシラフに戻ったレイリーは、そこから目を反らし、自分が安酒を煽る羽目になった原因に目を向ける。

 

 視線を向けられた少女は微笑み、そして酒をワザと零してから、雰囲気の変わった女店主を完全に視界から外して、レイリーだけを見つめて口を開く。

 

「ワンピースって何?ロジャーは何を残したの?そしてあなたは何を、どこまで知っているのかな」

 

 レイリーに向けてまがねは問いかける。

 

「ひと目見たときからお嬢さんにはなにかあると思っていたが、中々凄まじいことを聞いてくるものだね」

 

 まがねから漏れ出る不穏な空気に触発されてか、グラスを静かに置くと彼はレンズ越しに細めた目で彼女を見る。

 

「返答は?」

 

 まがねはかけで買った金や借金をちらつかせる。

 

 それを見てレイリーは苦笑をする。

 

「それを見せられるとこちらも辛いな」

 

 しかし、言葉とは裏腹に彼の顔は辛そうには見えなかった。

 

「しかし、お嬢さんは我々が待ち望んでいた者ではない。ロジャーの意志を次ぐものは別にいると私は考えているのでね」

 

「それがあなたの返答?」

 

 まがねは持っていた金を適当に放り投げると、席から立ち上がる。

 

 そんな彼女を見ながらレイリーは静かに語る。

 

「ああ、君は強い。君からの殺気、覇気ともに新世界でも十分通じるだろう。そして、我々の待ち人は強きものでなければならない。だが、君の強さは、それは人の心が持つ強さではない。人の心を捨てたが故の、化物としての強さだよ。イカれているものは強い。何せ人の持つ心の弱さを持ちえない。もしくは欠落しているから、それは当たり前なのかもしれない。だが、先に言ったとおり、我々の待ち人は人であり、化物ではない。これが私の返答だよ」

 

 レイリーは静かに立ち上がると、膨れ上がる殺気に反応して、その手にいつの間にか持っていた剣を振り抜く。

 

 彼が振り抜いた剣には少量の血が付着し、彼が剣を振り抜いた先には腕を抑えたまがねが笑っていた。

 

「私も年をとった。こんなセリフを自分が吐くようになるとは思わなかったよ」

 

 彼は一部が砂になったマントを見ながらそうつぶやくのだが、いつの間にかまがねとレイリーからしっかりと距離をとったシャクヤクはその発言に呆れ、加えていたタバコを落としそうになる。

 

「未だに美女あさりも酒も辞めずに元気にハッスルしてる者の発言じゃないわね」

 

 殺伐とした空気を感じさせないやり取りだが、まがねの腕から流れた血は服を赤く染めており、彼女の放つ殺気もまた凶悪なものだった。

 

「そうかね?以前の私なら今ので腕を一本切り落とせたと思うのだがね」

 

「今も昔も変わらず自信家なことね」

 

 シャクヤクは口から落とし、空中でキャッチしていたタバコを加え直すことはせず、そのまま灰皿で火を消すと、店の奥に引っ込む。

 

「そういう君も昔と変わらずきれいだよと言いたかったのだが、言う相手がいなくなってしまった。私はどうするべきだろうか」

 

 あまり様子の変わらないレイリーに一対して少しだけ顔を歪めたまがねは自分の座っていた椅子をチリに変える。

 

「まがねちゃんにも綺麗だと囁やけばいいと思うよ」

 

「そうかね。しかし困った。このままでは私のつけは増える一方だ」

 

 まがねちゃんが砂にしてしまった椅子を見て悲しそうに言うレイリーに対して、まがねちゃんはその笑みを突然深くする。

 

「なっ!それは困る」

 

 レイリーは慌ててまがねに斬りかかり、カウンターを破壊する邪魔をする。

 

「どうせ得るものがないのなら、あなたの不幸を味わって帰るとすることにした」

 

「わざわざ宣言してくれてありがとう。どうか外に出てくれないかな?」

 

 レイリーはまがねとのあいだにあった距離を瞬時に詰めると、その剣を鋭く振るう。

 

 先よりも鋭いその一撃を今度は紙一重でかわすと反撃に出る。

 

 彼女の手から砂の斬撃が幾重にも重なりレイリーをみじん切りにしようと襲いかかるのだが、その行動を読んでいたのかすでにまがねの腕は捕まれ、その手のひらを天井に向けられていた。

 

「美しいお嬢さんを斬るのはあまり好きではないが致し方ない」

 

 レイリーは下から振り上げるようにして斬りつけた剣を今度は振り下ろそうとし、地面に彼女の能力により塵となった店の備品の砂が自身の足元に不自然にあるのに気が付き、彼女から距離を取る。

 

「強いなぁ〜。まあ、でもいっか」

 

 まがねはレイリーがさっきまでいた場所に砂の槍を生やしながらぼやく。

 

 一方でレイリーは崩れゆく砂の槍が、この店の備品を串刺しにしているのを見て、顔をしかめる。

 

「再度言うが、本当に容赦のないことだ」

 

 レイリーは剣を振るい砂の斬撃を切り裂くと、まがねが操る砂よりも早く、そして彼女の攻撃を全て読み切り、砂が舞い、彼女の領域となったこの店内を縦横無尽に駆け、一太刀、また一太刀と確実に彼女の体にダメージを与え、かつ、彼女の反撃を許さない。

 

 まがねも一方的にやられているわけではないが、彼女の攻撃は全て掠るのみ、一方レイリーの攻撃は致命傷にこそならない様に避けているが、彼女の服に、そしてその肌に切り傷が増えてゆく。

 

「さすが、海賊王の右腕。このままじゃーじり貧だね」

 

 まがねちゃんは体に傷を増やしながらも、いつもと変わらぬ笑みをその顔に張り付け、レイリーが接近するのに合わせて、砂の衝撃波を無差別に放つ。

 

 彼女の広範囲にわたる攻撃だが、レイリーは無理をせず距離を取り、そして自分に迫る衝撃波を切り裂く。

 

「勝負は見えていると思うのだが、まだやるかね?」

 

 一旦距離が離れたことと、彼女からの攻撃が止んだことで、レイリーはまがねに切っ先を向けるが、攻撃はしない。

 

 一方、まがねは切り裂かれ胸元が見える様になってしまったセーラー服をほんの少しだけ寂しそうに見ていた。

 

「お気に入りだったんだけどなー」

 

「それはすまないことをした。だが、此方もお気に入りのマントをボロボロにされたのだから許して欲しいモノだ」

 

「本当に服が切れたら困るよね~。でも謝らなくてもいいよ。服は斬れていないから」

 

 まがねは切り裂かれた服を脱いで、血まみれになった服を裏返しにして切り裂かれていない背中側をレイリーに見せつける様にして、切れていない、きれいな服でしょと笑いかける。

 

「?何が言いたいのか私には分からないが、現実逃避をしても服は戻らないと思うのだが……」

 

 レイリーはそれでも綺麗な面をこちらに見せて笑う彼女を気の毒そうに見ていたが、まがねが服を徐々に砂にしてゆくのを見て、下げていた剣の切っ先を元に戻す。

 

「ロギアの能力を持っていても覇気により斬られたものは元には戻らない。それが分からないとは思えないのだが、何をしているのかな?」

 

 まがねはその問いに自身の体を砂に変え、更に笑みを深くして答える。

 

「それは貴方が私を本当に斬っていたらの話でしょ?私は斬られていない。全ては貴方の勘違い。傷も服も、そんなものあるはずないでしょ?」

 

「ロギアは無敵ではない。そして私は自分の力をよく理解しているつもりだ。致命傷こそ与えられていないが、無傷のはずはない」

 

「はったりだと思う?私があなたに斬られていないことが?それともあなたは自分の感覚が全て正しいと思うの?それと今見ている光景が正しいとでも?私がロギア系だと何故断定するのかしら?貴方は自分の感覚を信じるのかしら?それが誤りの可能性を考えないのかしら?」

 

「無駄な問答に付き合う気はない」

 

 レイリーは砂で崩れ行く彼女の体を斬る。

 

「斬れてない」

 

 だが、彼女の表情は全く動かない。それどころかその顔に深い笑みを浮かべる。

 

「やせ我慢はしない方がいいと思うのだが」

 

「やせ我慢?どうしてそう思う?どうして私の言葉が嘘だと思うの?きれていないことがそんなに信じられないの?」

 

 まがねの問いかけにレイリーはまだ崩れていない彼女の顔に向けて剣を振り下ろす。

 

 彼が剣を振り上げるのをただじっと見つめているまがねは回避行動をとらず、その剣を変わらず見て笑うのだ。

 

「斬れないよ?それが真実」

 

 地震の命を刈り取り剣を避けもせず、斬れないと嘯くその彼女の姿に、その真っすぐな目にレイリーの意志がほんのわずかに揺らぐ。

 

「信じられない?でも揺れた。きれないんじゃないかと思ったんじゃない?でもそれが真実。貴方の嘘と私の真実。ただそれだけ」

 

 笑みを深くし、笑いかける彼女の姿に、その言葉に自身が揺らいでいることを自覚した彼は一度目を瞑る。

 

「斬る。斬れない筈がない。この剣は君を切り裂く。避けないなら死ぬぞ」

 

 そして目を開いたその時には彼の心は凪いでいた。

 

 それでも彼女は変わらず笑う。

 

 その剣が彼女の首から胴体にめがけて振り折らされているのにもかかわらず。彼女は不気味に笑うのだ。

 

「嘘の嘘、それはくるりと………」

 

 パチン

 

 砂が舞う。

 

 そして首のない体が一つ、床に倒れる鈍い音がしたのだった。

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