天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
まがねの死体が砂に変わりゆくのと同時に舞っていた砂が地面に静かにつもり、レイリーの視界には荒れ果てた店内がうつる。
店のイスは無事なモノは殆どなく、至る所に血の跡と砂が残り、ソファーは座れば砂が舞い、歩けば床が抜ける程、床も風化したように穴が至る所に空き、ささくれ立っていた。
その中に、彼の斬撃の跡もあり、それが冷蔵庫やカウンターを壊していた。
「これ、私の責任ということになるのか」
彼は自分がつけた傷跡を見ながらため息を吐き、奇跡的に無事だったカウンター向こうにある酒棚の彼の人生の友たちを見詰める。
「どうせなら酒を飲むか。全部壊れたということにして」
レイリーは剣を鞘に戻し、勝手にカウンターに侵入すると、酒の物色を始める。
「ふむ、すべて飲むと流石に壊れたという嘘がばれてしまう。この上等なのを一本いただくとしよう」
レイリーは上等なモノをグラスに注ごうとして、その為のグラスが全て割れていることに気が付き、更にため息を吐くが、自分の持つ酒を見て気を取り直し、器用にコルクを指で抜くと、中身を煽る。
「さすがいい酒を揃えている」
彼は上機嫌になりながら一気に中身を傾ける。
「ええ、そうでしょ。なにせ、その一本で100万ベリーはくだらない一品ですもの。ちなみにこれは入手するにあたっての最低金額。このワインが作られているのは新世界。つまり、商船がこれを手に入れてここに売るころにはその値段は倍に膨れ上がる。この店では一杯200万でボッタくろう、もとい売ろうと思っていたのだけれど、どうかしら」
鼻歌を歌いそうになっていた彼はその手からからの酒瓶が零れ落ちる。
「ははは!流石にそれはぼり過ぎているだろう。それに私は瓶が割れて保存が難しくなったこの酒がもったいなくて飲んだだけだ」
シャクヤクはその酒が置いてあった位置を見て、その隣にある酒を何本か取り、レイリーの目の前に並べる。
「こんなに激しく荒れている中で、偶然この酒棚は無事で、その偶然にも無事であった棚の中でその一本だけが無事でなかったってこと?」
嘘が確実にバレている。そう思いつつも同時に、流石に彼女も完全な証拠もなしに払わせることはしないだろうとも考えていた。
流石のレイリーも、1000万を超えるつけは冷や汗もんであった。
「そうだとも。偶然さ」
「ふーん。でも、何であの酒が置いてあったスペースには傷一つないのかしら?もしくは瓶を割った何かが近くにあるはずなのだけれども、地面には砂しかないのだけど」
「…………よく見ている」
レイリーはひねり出す様にして言うしかなかった。その発言が自分の犯行を認めるモノだと理解しているがこれ以上の抵抗も意味のないもなだとも彼は理解していた。
「はぁ。貴方ならもう少しうまく戦えたんじゃない?わざわざ酒棚だけ守るように戦わなくても」
グルリと荒れた店内を見渡した彼女は、無事だった灰皿にタバコを押し付け、空いた手でカウンターに積もった砂を払う。
「いや、それは偶然だよ。それに相手もなかなかのものだったよ。何せ私が確実に殺す一撃を放って逃がしてしまったのだからね」
彼は笑いながら、いつの間にかその手に握っていた何時もの酒をその口に注ぐ。
シャクヤクは彼の言った言葉を軽く流して、勝手に飲んでいる彼に対して呆れながら、文句を言おうとして、流した言葉の違和感を感じ、笑う彼の顔を再度見る。
「逃した?あなたが?」
彼女は口に出したことにより、漸く彼の言った言葉の意味を理解して、カウンターの掃除に使おうとしていたふきんを落としてしまう。
「ああ、彼女にもいったが本当に年は取りたくないものだ」
ひょうひょとしてレイリーは酒を煽るが、シャクヤクは信じられなかった。未だに、酒や女に金をつぎ込んで借金をこさえてはそれを取り立てに来る荒くれモノに対して、彼は厄介なことにそんなモノから金を巻き上げ手返済をするというやんちゃぶりを知っているだけに、そんな彼が獲物を逃すなど考えられなかった。
「そんなに彼女は強かったのかしら?」
シャクヤクも昔海賊をやっていただけに、そこいらの、それこそ前半の海で粋がっている海賊を素手でのすことも容易い。そんな彼女からしてみたら、あのまがねという女は確かに強そうであったが、レイリーに敵うとも思えなかった。だからこそ、しっかりとした戦闘の跡が残るこの場と彼の服が一部ボロボロになっているのを見るに、まがねが逃げを最初からうっていたとは思えず、そして正面からの戦闘でレイリーが仕留めそこなうとも到底思えなかった。
「それとも、貴方が手加減していたのかしら?」
彼女はレイリーの酒を取り上げ、その目を見て言う。
酒を取り上げられ、正面から真っすぐに自分の目を見つめられている彼は、笑みを引っ込めて、真剣なまなざしを返す。
「私は本気だったよ。少なくとも最後の一撃に関しては。だが、彼女は生き残り、そして私の隙を突いて逃げた」
レイリーのその言葉に、シャクヤクは取り上げた酒をカウンターの中にいれてあった無事なグラスに注ぐと、軽く傾け、一息つく。
そうして落ち着いてから、灰皿を近くに取り寄せてから、たばこに火をつける。
「何があったのかしら」
一服してから、レイリーに問いただす。
「何、彼女の攻撃をいなし、そして斬りつけただけだよ」
「覇気であなたを上回っていたのかしら?」
「いや、彼女の覇気は中々なものだが未だ発展途上、まだ私の方が上だ」
「なら、どうして?」
「分からない」
レイリーは嬉しそうに笑いながら、彼女があっけにとられて様子を楽しそうに観察する。
一方の彼女は、暫くの間、無意味にタバコを短くさせていたが、燃え尽きた灰が自然に灰皿に落ちた時、頭を振り、そのタバコを口まで持っていく。
「………何でそんなに楽しそうに笑うのかしら?」
少し不機嫌そうにレイリーを睨む。
「いやなに、最悪の世代、七武海、四皇、世界政府、そして彼女。世界は大きく動き始めている。そしてそのうねりはもう誰にも止められないと思うとどうしても船長の言葉を思いだす」
彼は懐から火拳のエースを海軍が捕らえたことを報じる新聞を懐から取り出し、カウンターに置く。
「これから少しして世界は大きく荒れる。その選択肢は複数あれど、海軍は既にもう止まれない。世界はもう戻ることのできない分岐点に立っている。そう思うと、私が敵を逃したこともこの荒れた店内も些細なことだと笑えないだろうか」
そう言い、彼女が呆けていた間にカウンターに置かれていたグラスをその手に持つと、酒を注ぎ、彼女に笑いかけながら呑む。
その彼の言葉に思うことがあるのか、暫く煙をくゆらせ、彼が穏やかにグラスを傾けるのをじっと見る。
「そうね。確かに、今更あなたにつけていた額が少し増えたところで笑える程度の額よね」
彼女はタバコの火を消すと、落としていたふきんを拾うとカウンターの掃除を始める。
一方のレイリーはその笑顔が渇いたモノへと変わっていた。
「ははは!やはり私の責任になるのか」
情けなく笑う彼に対して、少しは溜飲が下がった彼女はふふっと笑うと、何かの紙の束と袋を取り出す。
「まあ、今回は臨時収入があったから別にいいわよ」
そうして彼女はまがねがカウンターに積んでいた巻き上げられたレイリーの賭博費を彼の目の前で数える。
「君は抜け目ないな」
シャクヤクの抜け目ない行動に苦笑しつつ、彼はその金が自分の元に変えることも、そしてツケの返済に回されることもないことを予感しつつ、彼女の言う通り、今更だと考え、酒をあおる。
「しかし、彼女の目的は何だったのであろうか?」
最後の最後までまがねの行動の意味を理解できなかった彼はそう呟き、彼女を斬ることが出来なかった己が愛刀に視線を向け、鞘に付着した砂を見つめるのであった。