天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんの初めて

「あー死ぬかと思った。全く伝説は伝説ってことかぁ~。はあ、普通伝説、英雄譚、歴史何て誇張されてしかるべきでしょうに、噂通りってどういうこと?ていうよりも噂よりも強いんだけど。あ~あ、やってられない!」

 

 まがねちゃんは至る所を切り刻まれた服を着ているため扇情的であり、周囲の無法者どもの視線を集めていたが、誰一人彼女に近づく者も凝視する者もいなかった。

 

「あ~あ、どこかに殺せる人間いないかな~」

 

 それは彼女の呟きからも分かるように、男たちが視線を体からその美しい顔に挙げると、彼女の笑みとその目を見て、その股間の息子を萎ませる。

 

 しかし、そんな誰もが視線を逸らす中、群衆に紛れて彼女をさりげなく見る黒服たちがいた。

 

「っても、流石にここで殺すと海軍が本気で襲ってくるだろうし、大将黄猿だと詰みだしな~」

 

 彼女は周囲の様子など気にせず、そして人を殺すことを諦め、その殺意を抑え込む。

 

「およ?あれは牛乳かな。うん、こういう時は美味しいものを食べるのが良いね。女子らしいし、ストレス解消になるし、牛乳のカルシウムは今の私にピッタリの3つ揃って完璧だよね」

 

 そうして、彼女は牛乳を売る屋台を見つけると、迷うことなく店に近づき、牛乳を買うと、横目で周囲の様子を軽く確認する。

 

 ふふ

 

 牛乳を貰い、一口含むと彼女は笑う。

 

「うん。ちょっとゆっくりしていこう」

 

 彼女は自分の服を見て、そして周囲が己の服を見ているのに気が付いてか、落ち着ける人気のない場所に向かう。

 

 彼女は暢気に鼻歌を歌いながら、賑やかな街を離れ、ヤルキマングローブの根に腰かける。そうして彼女は牛乳瓶を傾ける。

 

「今だ!」

 

 彼女が油断し、牛乳瓶を煽るようにして飲んでいるのを確認してから、気配を隠していた黒服の男たちが一斉にヤルキマングローブの木々から彼女を囲うような形で現れる。

 

 周囲の男たちは二つの役割に分かれていた。一つ目の役割の者たちは、彼女が視線を上を向けた瞬間、彼女の死角から一気に忍び寄る。

 

 そのスピードは恐ろしく速く、少し前に彼女を襲撃した賞金稼ぎ達とは比べ物にならない。彼女が声に反応して体を砂かさせようとしているが、彼女が身体を完全にその体を砂にする前に彼女の元に彼らはたどり着きそうな速さである。

 

 そして、もう一つの役割は彼女を遠距離から監獄弾を持って捕縛する役目だ。彼女の自然系の悪魔の実の能力者であることから、海楼石入りの捕獲網である監獄弾を確実に当てる必要がある。

 

 だから彼らは広範囲に打ち込み、逃げ道さえ塞ぐ。

 

 黒服たちは網が彼女を捕らえ、余裕の笑みを浮かべていた彼女が驚愕の表情に変わるのを見てを包み込んだのを見て勝利を確信した。

 

「砂になれない?これは海楼石?」

 

 一方まがねは力が出ない体に、悪魔の実の最も有効的な対策を取られたことを理解した。

 

 彼女が自分の置かれている状況を考えている間に、接近している男たちは身動きが取れない彼女に海楼石の枷をかける。

 

「確保完了しました」

 

「よし、ならインペルダウンにぶち込み、テゾーロマネーの行方を吐かせろ」

 

 黒服たちは一億の賞金首を確保できたことにホッとし、気が緩む。

 

 一方まがねちゃんは捕まった時こそ驚愕の表情を浮かべていたが、今はいつも通りの笑みを張り付け、そしてその手にある枷と彼らの話に更に笑みを深くしていたが、彼らの気のゆるみが無くなるのと同時に彼らの視線が自分に戻る前にその顔を屈辱に歪んだものに変える。

 

「あなた達何者?私にこんなことしてただで済むと思っているの」

 

 怒気を発し、彼女は自分を囲む黒服たちを威圧する。

 

 それに対して彼等は気おされるが、すぐに彼女が何もできない状態であることを思い出し、彼女を連行する。

 

 その時に怖くて彼女自身ではなく、彼女を捕らえている網を持って引きずる彼らは少しだけカッコ悪く見えたが、それは仕方ないことであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!殺せ」

 

「……………………」

 

「これ以上恥をさらすつもりはない!」

 

「……………………」

 

「はぁ」

 

 まがねちゃんは大きなため息を1つ吐くと、

 

「あーあ。ひまひまひまひまひまひまぁー!くっころ以外にすることもないし、反応無いからツマラナイし、ひまぁ~~~」

 

 黒服達に連行されたまがねちゃんは海楼石の錠に繋がれ、体を縄でぐるぐるに縛られ牢屋の床に転がされているのだが、彼女はその状態で1時間近く静かに寝転がっているのに飽きたのが、器用にも縦横斜めと自由自在に牢屋の中を転がりながら、目の前の牢屋を見張る黒服の一人に向けて聞こえるように、そしてチラチラと視線を向ける。

 

「ねぇ、暇だよー。このままだとまがねちゃんは死んじゃう〜。暇すぎるよーひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまひまぁー」

 

 駄々っ子のように段々と大きくなる声と激しくなるローリングに黒服の組んでいる腕がピクピクと反応し、彼のこめかみには血管が浮き始めていた。

 

「聞いてる?聞いてない?ねぇ、暇だよー。ひまひまひまひ……」

 

「だぁぁぁー。うるさい。ンなに叫ばんでも聞こえるわ!というかそもそもお前は囚人!捕まった犯罪者だぞ。何でそんなに呑気でいられるんだ!」

 

 本来ならば彼ら黒服達は任務以外のことをしない。彼らは闇の正義の代行者たるCPの一員であるため、任務に忠実であり、余計なことを嫌う。

 

 だが、あまりにもふざけた彼女の行為と喧しさに黒服の一人が耐えきれずに口を開く。

 

「おー、やっぱりコミニケーションは大事だよね。人類が人類である証、他の猿よりも先んじて進歩し、その勢力を拡大させることが出来た要因だよね。あ!知ってる。私たちが猿から進化した存在だって。いや、もしかしたら退化かも?まあ、いいや。どちらにせよ人の敵は人。素晴らしきかな知性!。そしてそこから生まれる高度なコミュニケーション。その意志疎通は知恵ある生き物なら誰もが成しえる。その一方で、その意志疎通に明確な知性、本能と切り離された理性による行動は素晴らしい。他の狩をする畜生を見てもその効率の良さは明白なのに私たち人間はその更に上を行く!これって凄いよね、興奮しない!興奮するよね。つまり何が言いたいのかと言うと、意思疎通は人が人である為に最も重要であり、組織に属そうが個人であろうが切り離すことのできない人の一部であるってわけ。つまりコミュニケーションの取れないまがねちゃんは暇で、退屈で、このままでは人として死んでしまう危険に対して、その人として有らんとする欲求に素直に従いあなたに話しかけているのであり、その行為に対して呑気と言う言葉は甚だ今の現状を表すにはかけ離れているとまがねちゃんは懇切丁寧に説jしてあげているんだよね~。お分かり?コミュニケーションの取れない私に劣るおサルさん」

 

 檻の中でぐるぐる巻きにされた少女は牢を見張る二人の男たちに嘲る様子を隠そうともせずに喋り続ける。

 

「ふふ。何も言わないの?それとも言われたことが理解できない?猿だから?なら目の前にいる人の形をした畜生に高度な人間様特有の、そして人にしか許されざる領域の次元で話すまがねちゃんは愚かだったにゃぁ~」

 

 二人はいきなり自分たちを嘲り、マシンガンの様に喋りまくる少女に唖然としたが、最後の彼女のフザケタ語尾に、漸く自分たちが盛大にバカにされていることに気が付き、そして圧倒的優位にいるはずの自分たちが見下されていることに怒りを感じ始める。

 

 男の一人は少女の立場を分からせるように格子を蹴りつけ、銃を抜き、声を荒げる。

 

「犯罪者が!立場ってもんを弁えろ。俺たちはいつでもお前を処刑できる。理解したか?」

 

 格子を蹴りつけた音にびっくりして少女が黙ったと勘違いした男は少しだけ気をよくし、牢屋に近づきしゃがみ込む。

 

「所詮能力者なんて海楼石に繋がれたらただ人以下、少しでも長いきしたけりゃ俺たちに媚びへつら、うぎ!」

 

「なっ!てめ!ふざけた真似を」

 

 短い悲鳴を上げ、指を押さえて背中から倒れ、蹲る同僚に、傍観していた男は慌てて、ぐるぐる巻きの少女に蹴りを入れ、牢屋の格子から引き離す。

 

 蹴られた少女は苦痛に顔を歪めるわけでもなく、血で真っ赤に化粧された唇を震わせ笑う。

 

「小説で食人について読んだことはあるけど、それほどいいものでもないね。でも人の体を削り、血を滴らせ、壊していくのも悪くは無いと思うだよねー。まずい、おいしい、そういう二面性で判断すれば狂っているかもしれないけど、楽しい、興奮する、嬉しい、癖になる、そういう別の価値観で判断すれば、猟奇的で、素晴らしい理由に思えるし、何より、食われるのはいつも愚か者と相場が決まっているのも醍醐味なのかな?」

 

 自分を蹴り飛ばした男に語る少女の目を見た彼はそれまで感じていた怒りが言い知れぬ恐怖に塗り固められ、無意識のうちに一歩足を下げていた。

 

 この時彼は少女に全ての意識を持って行っていた。だからであろう、彼は仲間の行動に気づけなかった。

 

 銃声が部屋に一発響く。それと同時に笑っていた少女の声が途切れ、牢屋の冷たい床に暖かい液体が広がる。

 

 船内で突然鳴り響いた銃声に船内はあわただしい気配を帯びるが、男は牢屋に倒れ伏す少女と目の前で銃を構える同僚をみて、目の前が暗くなったような気がした。

 

 あの少女の狂った目を見た時から自分たちの運命が狂ったような気がしてならない彼は、室内に流れ込み自分たちを抑え込む仲間たちにより身動きが取れない状況の中、ただ、血を流し、倒れ伏した彼女の顔半分を隠す髪の下に隠れたその顔が自分たちをあざ笑うように笑みの形を模っている気がして、連れ出されるまでずっと見ていた。

 

 そして牢屋の部屋の扉が閉じる際、身動ぎをした際に揺れた髪の隙間から見えた彼女の顔を彼は忘れないであろう。

 

「狂ってる」

 

 ぼそりと呟かれた言葉はわめく同僚の声に潰された。

 

 少女は自分の体を濡らす液体の正体に気が付き、その鮮明な赤色を見て確かに笑っていたのだった。


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