天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
「ようこそいらっしゃいました。署長の、あ、間違えた。副署長のハンニャバルでしゅ」
大監獄インペルダウンの署長室にて、CPの面々を満面の笑みで出迎える副署長のハンニャバルは目の前の少し不気味な、されど怪しいからこそ放たれる魅惑に鼻の下を伸ばしつつ、その素敵な女性が確保する今回の罪人と思われる女性であろう人物に顔をしかめる。
「あー、その女性が………」
手に持つ手配書と、その女性とを見比べようとして、困ったように罪人を捕獲し、囲んでいるCPの顔を伺う。
その視線を受け、この集団の先頭にいた帽子をしっかりと被りサングラスをして、顔を隠していてもハンニャバルを魅了した女性が一歩前に進みでると、その手に持つ鎖を引っ張る。
引っ張られた罪人は手をつくこともできず、その醜く膨れ上がった顔面を地面でする。
「ええ、その手配書の築城院真鑒で間違いありません。拷問する前の写真はこの通り」
手渡された写真と、手に持つ手配書を見比べる。
「たしかに。しかし、これは」
確認して、必要な書類を準備する傍ら、残念そうに写真と、身体中包帯だらけの罪人を見比べる。
「罪人護送の際、こちらにも怪我人が出ました故、死なない程度に、それでいて、我々の目的を果たすために少しばかり余計な怪我が増えましたが、やむを得なと思っております」
「なるほど、それで到着日時がこれほどずれたわけですな、っと、書類書類」
署長の机から勝手に書類を取り出したハンニャバルに、罪人が包帯姿の理由を説明しつつも、署長室にいるべきはずの人物がいないことに首を傾げる。
「それよりも、署長は?」
副署長の勝手な行いに苦言を呈し、「いずれ私がすることだ。別に良かろう」と流された副看守長ドミノが応える。
「監獄署長マゼラン氏は、勤務時間の殆どをトイレでお過ごしになられております。今も、朝昼晩と懲りずにお食べになる毒のスープの影響下、あなた方が来られる1時間以上前から署長室備え付けの署長専用トイレに篭っております。因みにですが、インペルダウン全階層に備え付けられているトイレはマゼラン氏のトイレ事情を考慮して、全て最新式の水洗トイレです。便座は長時間座っても痛くなく、そして冷たい監獄とは対照的な暖かい便座は、世界政府機関のどのトイレと比べても最高であると断言しておきます」
「……………」
「ゴホン!それではこの書類にサインをお願いします」
何とも言えない空気にハンニャバルは取り出した書類にペンをつけて渡す。
「…、これでよろしいでしょうか」
無言でサインを書き終わると書類を手渡す。
「ハイハイ、確かにっ!」
「ところで、この罪人は何処に収容されるのでしょうか?」
「え、えーと、それはですねぇ」
書類を受け取る際に握られた手の温もりと、腕にしなだれ掛かるパリッとした厚手のスーツの上からでもわかる柔らかさに、相貌を崩ししどろもどろに応えるハンニャバルは、女性の片手が自身の背後に回っていたことに気がつかない。
「それは?」
耳元にかかる生暖かい空気に目をハートにする彼からは副署長の威厳のかけらも感じさせない。そんな彼に変わり、ドミノが彼から書類を奪い、確認を終えると、サングラスに手をかけ応える。
「今回の罪人の収容は、その懸賞金の額から言えばLEVEL4の灼熱地獄またはLEVEL5の極寒地獄が妥当と判断されますが、犯した事件と海軍、世界政府の両方の事情を考慮してLEVEL6の無間地獄に収容することになっております」
「それは、署長の判断かしら?」
女性はトイレに視線を向けてから、ドミノを見る。
「勿論です。あなた方から頂いた情報を元に判断されてます」
「では、罪人を収監致します。CPの皆様、罪人の護送ご苦労様でした」
復活したハンニャバルが、女性の手を握りつつ、部下に罪人をLEVEL6に送るように指示を出そうとして、握られた手がいつのまにか女性の顔の目の前に近づいており、いわゆるお願いのポーズにと移行しているのに気がつく。
「すみませんが、罪人の収監をこの目で確認してもよろしいでしょうか?」
「それは規則上」
「分かりました!」
「……………あの、副署長」
「さあ、こちらに。何をしてるんだお前たち、罪人の収監の準備をしないか」
「もう時間がありませんが」
「あれは署長に任せればよい。客人をもてなすのに、此方から誰も出さんわけにはいかんだろうが」
ドミノは深い溜息をつき、指示に従うことにする。
「代表者1名。それ以外の皆様はこの署長室にて待機していて下さい。皆さまにお茶を」
「ささ、こちらに」
ドミノがテキパキと動いている間、ハンニャバルは一人先に、女性の案内を買ってでて、LEVEL6に繋がるエレベーターまで先頭を歩く。
「ふふふ」
「何か気になることでもありましたかな?」
「いえ、何も。それよりも、さっさと下に降りないのでしょうか?」
「いえいえ、ここから先、極悪な罪人を収監していますので、客人に万が一がございましたらいけませんので、護衛のため、他の職員を待ってからの出発となります」
ガチャン
「あれ?」
ハンニャバルはエレベーターに女性と一緒に入った瞬間聞こえてきた音に振り返り、閉まっている扉に首をかしげる。
「副署長さんはとってもお強いのでしょう?私くらい余裕でお守り出来ないのですか?」
「えっ!そんな!私の強さが溢れ出て感じ取れるほどだなんて」
「二人っきり。暗闇。男の強いところみたいです」
「分かりました!部下には後から来るように言っておきます。では二人っきりで参りましょう」
エレベーターは深い暗闇の中を、ギシギシと鎖を軋ませどんどんと潜っていく。
「……………これはどういうことでしょうか?」
ドミノはエレベーター乗り場の前まで来て、乗るはずのエレベーターが既に動いていることについて、引き連れた部下に聞く。
しかし、何も知らされていないことをこの場に居るものが知るはずもなくただ、お互いの顔を見合うばかりであった。
「先に行かれたのでは?」
誰もが離さない中、一人が動くエレベーター、そしてこの場にいないハンニャバルとCPの代表の女性から導き出される答えを言う。
ドミノはもう一度エレベーターを確認し、少し前までのハンニャバルの醜態を思い出し、踵を返す。
「副所長がおられるので大丈夫でしょう。それよりも、そろそろ時間ですのでお出迎えの準備をしないといけません」
「此方の罪人はどういたしましょう?」
「今の状態では、釜での消毒は不可能ほど弱っています。それに海楼石で能力も封じてありまから、抵抗は無いでしょう。エレベーターも使えないことですし、今は階段で降りて、LEVEL1の開いている地下牢に一時的に入れときましょう。急いで戻りますよ」
彼女は一部の職員を残し、その場を去る。残されたのは、歩くこともままならぬ罪人を担架で運ぼうとする数人の職員だけになった。
「っと、すまねえな」
「何罪人に謝ってんだよ。こうなったのは自業自得だろ。ここで死んでも本来は文句なんて言えん輩だぞ」
運ぶ際にうめき声と、濡れる包帯を見た職員が手を止めたが、別の職員が、即座に中断していた作業を引き継ぐ。
この場の誰もが、その女の涙の意味を知らなかった。
「ふー」
署長室のトイレから、ズゴゴゴという何かを流す音が聞こえると同時に、このインペルダウンで囚人達に恐れられている男、マゼランが腹を抑えながら出てきた。
「今日も大激闘だった。さて、確か今日は客人が来ているはずだが」
マゼランは署長室を見渡し、微動だにしない黒服の集団を見つける。
「んん?今日は七武海が来ると報告が来てたはずなのだが?何故CPがここに?」
彼が首を傾げ、何故ここにいるのかを問おうとして、自分の机の上にある電伝虫が鳴り始め、その受話器を先にとる。
「え~、此方署長の、あっ!間違えちゃった。ん、んん、副署長のハンニャバルだ。今、CPの代表をご案内しているところだ。罪人はそちらに任せたぞ」
早口で用件だけ言ってすぐに切れたため、彼は開きかけた口はそのまま閉じることなく、ゆっくりと空気を吐き出すと、頭に手をやり、イスに深く座る。
「ふむ。どうすべきか」
もう一度微動だにしない黒服集団を見て、困ったように呟く彼だが、その手は流れる様にコーヒーを注ぐ。
「そもそもなぜ、こんなにインペルダウンに人を入れているのだあのバカは」
ここにはいないハンニャバルに文句を言いつつ、その手に持つ禍々しい何かと砂糖をカップに入れ混ぜて飲む。
ズズズ
一息つくと、席から立ち上り、黒服たちの前に立つ。そうして、一旦外に出てもらおうと、声を掛けようとして、彼の表情が一気に変わる。
「ムッ!ムムム。来てる!来てるぞ!」
彼は両の掌を力強く握りしめ、尻を後ろに突き出すようにして前かがみの姿勢になると、そのまま、強く握りしめていた拳を開き、勢いよくその手を伸ばす。
トイレの個室のドアノブに。
………
………………
………………………………
「…………まだトイレですか」
マゼランが再びトイレに籠ってから数分後に戻ってきたドミノは、署長が未だに不在という事態にため息すらつかず、慣れたように部下に指示を出す。
「ともかく、正面入り口には海軍の船が来ることを通告。降りてくるモモンガ中将と七武海ハンコックを中に入れてください。二人は別々の部屋でボディチェックをします。七武海は私が担当します。なのであなた達はモモンガ中将を頼みます。モモンガ中将は終わり次第あなた方がこの部屋まで通して構いません。それとあなた。ガスマスクをして、署長のトイレをせかしてください。それと解毒剤の確認も怠らないでください」
慌ただしく動く彼らだが、ガスマスクを持たされた一人は顔をげんなりとさせていた。しかし、時は有限。皆が動く中、自分が動かないわけにもいかず、一人寂しくトイレに向かう彼を尻目に、三叉槍と監獄弾入りバズーカにと必要な武装を整え、ドミノの前で整列をする。
そうして、準備を終えた段階で電伝虫が鳴り始める。
「此方、署長室。署長がこの場におられないため、副看守長のドミノが代わりに指揮を執っています。要件は?」
「此方正門前。恐らくモモンガ中将と七武海ボア・ハンコックを乗せた軍艦が近づいております。後数分で到着かと思われます」
「了解です。では、降りてきた二人をお通しししたら、すぐに門は閉じる様にお願いします。私たちもそちらに向かいます。それと、CPの皆さま。恐れ入りますが、ここに七武海をご招待しますので、そろそろ船で待機していただけないでしょうか。ご案内は私がついでにしますので」
通信を終えた彼女はこの場に見えている全ての人間を連れて入り口に向かう。
ドミノ達が出て行ってほんの数十秒してから、トイレからガスマスクをつけた職員が飛び出し、床に膝をつきながら、急いでマスクをとる。
「ぷっはー。空気が上手い。ガスマスクつけていれば大丈夫だって分かっっていても、あの色の付いた空間に長居はしたくねーよ」
彼は慣れた手つきで服に解毒剤を散布する。
「ふー、生き返る。………、ん?あれ、あんた一人だけ?」
「…………」
彼は仕事中にも関わらず服に隠し入れていたタバコに火をつけ、一服すると、誰もいないはずの部屋から音がしたので、顔を動かし、署長の机の傍に無言で立っている黒服を一人発見した。
黒服はそのまま何も言わず、部屋から出て行った。
「何だったんだろう?」
首を傾げるも、答えはです、手に持つタバコから無駄に消費される煙を見ると、考えるのを止める。
「まっ、別にどうでもいいか。今はこの一服に集中すべきだな」
彼は気づかない、署長の机の上に置いてあった電伝虫が変わっていることに。