天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
「こちら、LEVEL1看守室!檻から囚人が脱走。脱獄したのは道化のバギー!」
LEVEL6のフロアで、本来署長室で鳴るべき電伝虫が鳴いていた。
「ム―ムームー」
「?あの、そちらでも何かあったのでしょうか?」
電伝虫越しに、訝しむ声が上がるが、即座にそのうめき声と同じ声が貝殻越しに電伝虫に伝えられる。
「此方は問題ない。そちらはお前たちで大丈夫だろう」
「はっ。ではブルゴリを向かわせます」
ガチヤ
「ムー!」
電伝虫が眠るのと同時に大きくなるうめき声。
「煩いなー」
「ムゴッ!」
鈍い音が静寂なLEVEL6に響き渡り、短い悲鳴を漏らし、縄でぐるぐる巻きに縛られたハンニャバルが壁まで勢いよく転がり、壁にぶつかり止まる。
「さてと、面白いことになっているねー」
そして彼を蹴った下手人は、帽子を捨て、帽子の中にしまっていた長い黒髪を曝け出す。
「道化のバギー。来たことのない名前だけど、LEVEL1を脱獄で来たってことはそこそこ実力があるのかな?」
顔に着けていたサングラスが地面に落ち、黒服を脱ぎ始める。
「ム!ムッムー!」
頭にたん瘤を作っているハンニャバルが目を血走らせ、ビタンビタンとのたうち回りながらも、決定的シーンを逃すまいかと凝視する。
「ム?ムー」
しかし、彼の動きは直ぐに小さくなる。彼女が脱いだ黒服の下からはセーラー服が出てきたためだ。
彼は自分が身動きどころか一言もしゃべれない状態なのに、実に緊張感の足りないようだったが、彼女が髪を三つ編みにし始めたところから、その表情が驚愕に変わる。
「よしっと、本当は私が愉快に暴れてあげるつもりだったんだけど。まあ、いいか。これで、LEVEL1はしばらくは荒れるってことだし、この間に私はすべきことをしよっかな」
不気味な笑顔を張り付け、自分に近づいてくる犯罪者築城院真鑒の顔を見て、彼はこれから自分に訪れるであろう未来を、そのずきずきと痛むお腹から想像しつつ、なぜこうなったのかと嘆く。
「ねえ、インペルダウンの武器庫や食糧庫、それと鍵の在りかを教えてくれない?」
いつの間にか彼女の手に握られていた鞭を見て、ハンニャバルは悲鳴を上げるのだった。
「うーん。困った」
血のこびりついた鞭を片手にまがねちゃんは稼働するエレベーターを見ていた。
「誰か降りてきちゃうよね。どうしようかなぁ?」
パンツ一丁で全身血だらけのハンニャバルを見ながら彼女は考える。
「仕方ない。適当にこれは隠して」
エレベーターから死角になるLEVEL5への通路にハンニャバルを適当に放り投げると、まがねちゃんにして珍しく、いやそうな顔をしつつ、彼が来ていた服を着て、落としたサングラスをもう一度着用する。
「ふふふ、変装。っても、ここまで質の低い変装をするのは、まがねちゃん初めてだ。まあ、此処の職員の数からして問題ないでしょう」
「薄っぺらい嘘」と笑いながら言う彼女は堂々とエレベーターの入り口で待機する。
「しかし、見た目と違い、正義感の強い人でしたから、ついつい時間をかけて無駄な拷問をしちゃった」
拷問をしていた時のことを思い出したのか、その顔が嗜虐的になるが、即座におりてきたエレベーターに反応して顔が真面目な人間のモノへと変貌する。
「さっ、火拳のエースはこの先です」
部下も部下なら上司も上司、マゼランは鼻の下を伸ばし、海賊女帝ボア・ハンコックを案内する。
どんどん進む彼らを見送りながら、ハンニャバルを迎えに来たドミノはこのフロアにハンニャバルの姿が見えないのを気にしていた。
「副所長は?」
変装したまがねとは知らず、エレベーター付近で待機していた職員に尋ねる。
「副署長でしたら、先ほど、LEVEL5に向かわれました」
「LEVEL5?」
「ええ、私を此処に呼んで、後から来るものに説明するように命令されました」
「何故上へ?」
「何でも、客人にインペルダウンの堅牢さとその拷問の凄さを知らしめると意気込んでおられました」
「そうですか」
「それはそうと、あの美しい女性は誰でしょうか?」
「?全職員に通達してあったはずだけど、聞いていなかったのね。海賊女帝です」
まがねはサングラス越しに、ドミノの背後の光景を盗み見る。
そこには、囚人達を攻撃しているマゼランと、攻撃され、騒いでいる囚人たちを尻目に、火拳のエースに何かを囁いている海賊女帝を確認する。
「何を言っている?」
囁くように独り言をつぶやくまがねちゃんだが、近くにいたドミノに聞こえたようで、訝し気に見られる。
海賊女帝と火拳のエースとのやり取りを覗いていたいまがねだが、ドミノの視線を無視するわけにはいかなかった。
「いえ、署長が大暴れしているので、何事かと思いまして」
「そうですか」
ドミノが顔を正面に向け、マゼランの様子を窺う。
ドミノの視線が外れたのを見て、まがねも視線を戻すが、既に女帝は檻に背を向け、此方に来ていた。
「用はすんだ。わらわはもう帰る」
ずんずんと周りの騒がしさも気にせずマゼランや他の職員を全て置き去りにしてエレベーターに向かう。
「どうしたのじゃ?わらわはかえると言うておる」
目の前に来た、女帝が首を傾げドミノを睨む。ドミノはその不機嫌そうな声に我にかえり、今まで自分が彼女に見惚れ為すべきことをし忘れていたのを自覚すると、その頬を赤らめ、咳をする。
「ん、すみません。ではこちらに」
後ろから慌ててこちらに来るマゼランを確認しつつ、ドミノは女帝をエスコートするため、その場をさるのであった。
その際、通路から激しいうめき声と何かが落ちる音がしていたのだが、何時もは静かな監獄の騒がしさと女帝の存在により、誰一人としてその違和感に気が付くものはいない。
鳴り響く金属音をバックに、まがねちゃんは服を脱ぎ捨て、LEVEL6の無間地獄に足を踏み入れる。
「ふふ、ふふふ。さあ、嘘をつこう」
砂が舞い上がり、エレベーターからの入り口が静かに崩れ去る。
その異変は静かなれど、このフロアの囚人達は漠然とだが何かが起きているのを感じる。
「砂?」
囚人の一人がこのフロアに存在しない砂を通路に見て、それが夢幻か確かめる様に同じ牢の囚人の顔を見る。同じことを思った彼の隣にいた囚人も彼の顔を見てお見合い状態になる。
「何でこんなところに?」
「何でだろうね?」
若い女の声に、二人は振り返り悲鳴を上げる。
彼らの檻が砂になり、その砂が舞い、視界が悪い中、暗闇に朧気ながら浮かぶ不気味な笑みに二人は腰を抜かす。
「死にたい?それとも殺されたい?」
いつの間にか、その笑顔が自分たちの背後にあった。いや、彼らは背後など見ることはできない。しかし、彼らは自分の後ろに女性の笑みを確認した。
「へ?」
一人が間抜けな声をあげ、もう一人は声も上げられずにその視界が地面を移す。
「ふふ」
笑みを浮かべるまがねちゃんを首から上だけで確認した男たちは次の瞬間、彼女の掌で砂になる。
「おっと、時間は有限。こんなところで遊んでいる場合じゃなかったね」
彼女の服で先ほどから鳴りやまぬ電伝虫を取り出し、楽しそうに目的の牢に足を向ける。
「どうした」
「あっ、やっとつながりました。えっえっと、ドミノ副看守長でありますか」
電伝虫越しの通話相手は、署長室にあるはずの電伝虫から女性の声が聞こえたことからその相手をドミノだと勘違いしていた。
「ええ、そうです。何かありましたか?」
相手が勘違いしていることにかが付き、なるべく声をドミノに似せつつまがねは促す。その間も彼女の歩みは止まらず、火拳のエースが捕らえられている牢に近ずく。
一方、通信相手はドミノの声に違和感を感じながらも、よっぽど慌てているのかそのまま報告に移る。
「LEVEL1にて確認された脱獄犯に共犯者の存在を確認。その正体は麦わらのルフィ!」
まがねの顔から笑顔が消える。
「麦わら?」
「ええ、インペルダウン史上初の侵入者です!どうしましょう」
「どうやって?」
指示を繰り返し求める声に彼女は答えない。ただ、足を止め、その場に立ち尽くす。
彼女が動きを止めている間、通信越しに聞こえる切羽詰まった声を聞いた囚人どもは暇を持て余しているだけあって、ざわつき始める。
「ブルゴリをどうやら突破されたようで、今我々が管理するLEVEL2に、ってうわぁぁぁ」
電伝虫から、悲鳴と石が崩壊する音が聞こえ、通信が終了する。
「ふうん。面白いね。本当に面白い。これが彼の物語なのかしら?それとも私の物語?ふふ、どちらでも、変わらないか。ただ嘘をつき続けるのみ」
彼女は電伝虫を投げ捨てると、何故か唖然としている火拳のエースの牢の前にしゃがみこみ、笑いかける。
「