天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんの嘘は秘密結社をも騙す

「んー?それ本当?」

 

 まがねは正面に座るクロコダイルを見ながらいつになく真剣な表情をしていた。

 

 だからかそれにつられたわけではないが、クロコダイルの方も、もともと悪役のボスの雰囲気を持つ男であり、秘密結社と言うよりもマフィアの会合の様な重苦しくそして厚みのある空気を作り出している。

 

「ああ、ミスター・3から報告を受けた。奴は卑劣なまでに手段を選ばずに任務を遂行する男だ。そんな奴のことだ。確実に麦わらと王女は始末し終えている」

 

「ふーん。でもでもですねー。さっき2番に3番の抹殺指令出してなかったっけ?何かイレギュラーが起きたんでしょ?」

 

 彼女はグラスを片手に持ち、液体をそそぎなから、彼女は麦わらの死を疑問に思いつつも、死んだ場合を想定して、脳内で計画を練り直すも、前菜が無くなってしまったことにがっかりしていた。

 

 クロコダイルはその様子を見ない様にして座り心地の良さそうな上質な椅子から立ち上がると、花さしに差してあった花を軽く手に取りガラス張りの壁までゆっくりと歩いていく。

 

「イレギュラーか。各地で少しばかりトラブルが起きてるようだが全体的な計画になんら問題にはならないだろう。だが、奴は俺に嘘の報告を一度あげやがった」

 

 まがねはボスの険しい顔を鏡の様なガラスから見つつ、手に持ったグラスを口に近づけ、ゆっくりと回しその匂いを楽しみながらもその背中に問いかける。

 

「およ?一回の失敗で殺しちゃうの?おお!何と冷徹無慈悲な男なんだ!まがねちゃんは怖くて怖くてゾクゾクしてきちゃったなー。それ、私がやってもいい?もっとゾクゾクできる気がしてならないねぇ」

 

 彼女はグラスを一旦テーブルに置いて立ち上がる。

 

 そしてワザと大きな音立てて椅子を倒し、クロコダイルの視線がガラス越しに向いたのを確認すると大袈裟に手を広げ、クロコダイルの恐ろしさを表現したと思ったら今度は体を抱きしめ、顔をうつむかせ恐怖に震えるふりをして、最後に笑いかける。

 

 その際に再度グラスを取るのを忘れない。

 

 グラスはクロコダイルに向けて突き出されている。

 

 そんな彼女の様子にクロコダイルはその手に持つ花を枯らさせることで答える。

 

「うざい。それと奴の価値は確実に任務を遂行する能力だ。それが出来ないなら必要ないし、仮に何処かの勢力に今寝返られると面倒くさいことになるだろうが。いちいち説明しなくても分かるだろう。それと俺は嘘をつく奴はきらいだ」

 

 枯れた花を地面に捨てるクロコダイルを見て、まがねは肩をすくめると彼がさっきまで座ってた椅子に座る。

 

 そして今度こそ彼女はグラスを傾けその喉を潤す。

 

「んっ、プッハー。ああ、美味しい。この深い味わいはたまらないですにゃー。てまがねちゃんは思うんだけど、いる?」

 

 彼女はその口でテラッと濡れたグラスの先端を彼に向け突き出しつつも、空いているもう片方の手で少し垂れた白い液体をツッとその白い喉からその口までゆっくりと這わせて最後にその指ごと口に含み、時には指に舌を這わせる様に妖艶に舐めとっている。

 

 そんな光景を見た彼はまがねに無言で近づく。

 

 彼女はグラスを傾け少しずつ中身をこぼしその手を濡らしていく。

 

「それとも舐めたい?」

 

 彼女は微笑む。いつものように不気味に微笑む。だが、その頰はいつもよりも少し緩み、その美貌は長い髪に少しほど隠されミステリアスな雰囲気とともに怪しい魅力を醸し出している。

 

 尚も無言で近づくクロコダイルに彼女は微笑みつつもその両手を前に差し出し、彼を迎え入れる準備をする。

 

 そしてクロコダイルは彼女のその濡れた手を掴み自分の方に引きつけると彼は!

 

 

 

 

 

 

 

 彼は彼女を思いっきり上方に引っ張りあげつつその椅子から退け、自分が座ると彼女を適当にほうり捨てる。

 

「ここは俺の席だ。勝手に座ってんじゃねえよ」

 

 彼は脚を組むと、テーブルの上に置いてある葉巻を一つ一つ見比べて、その中の一本を加えると火をつけ、煙を吸うと深々と椅子に座りながらゆっくりとはく。

 

「お前がふざけるせいで部屋が散らかるだろうが」

 

 まがねはオヨヨヨヨヨと膝をつき片手で上半身を支え、地面を向き、もう片方の手で泣き真似の如く顔に持っていき、顔を隠すが、そんな彼女をクロコダイルは冷めた目で見るだけであった。

 

 流石に彼をからかってもいい反応が取れなくなったまがねはしばらくすると諦めて立ち上がり、何もなかったかのように倒した椅子を元に戻して坐り直し、グラスにまた注ぎ直す。

 

「巫山戯るなんて!私はこんなに真面目にあなたのことを考えてやっているのに!まがねちゃんが遊んでいるとでも!」

 

 そしてまたすぐに立ち上がり、椅子を倒す。

 クロコダイルはそんな彼女を見向きもせずに葉巻を吸い、ガラス越しに自分が飼っているバナナワニを眺め、彼女の方には椅子が倒れた時のみ視線をやっただけだった。

 

 無視を決め込むクロコダイルの意識をこちらに向けようとまがねは倒した椅子をまた元に戻して、今度はテーブルを手のひらでバンバン叩き始める。

 

 流石に煩かったのか、彼女の方を向き葉巻を彼女の方に突きつける。

 

「黙れ!わざわざワイングラスでミルクをさも大人の飲み物のように飲みながら真面目に話そうとする奴を巫山戯た奴と言わなくてどうするんだよ。見たくもないものを強調してわざわざ俺に見せびらかしやがって。飲みたくねえんだよ」

 

 彼は彼女が持つグラスの中の牛乳を見ながら指摘して、指摘した後に後悔した。

 

「わかってないなー。本当にわかってないなー。いいかなぁ?言ってもいいかなぁ?言っちゃうよ。説明しちゃうね!」

 

 彼女はここから饒舌に牛乳の魅力について長々と説明しだし、クロコダイルはその話をウンザリとしながら聴きつつも、呼び出したニコ・ロビンが早く来てくれと切に願うのである。

 

 

 

 

 結局ニコ・ロビンが来る30分間それはクロコダイルを洗脳し尽くすかというほど彼女の牛乳への愛を聞かされ、彼はニコ・ロビンが来た時には疲れ果て椅子に全体重をかけ背もたれに頭をくっつけると上を向き、倒れ伏しているようにしか見えない状態であった。

 

 もちろんそんな今まで見たことのないクロコダイルの姿にどう反応すれば良いのか困り果てるロビンだが、その下手人はその魔の手をロビンにも向ける。

 

「…どうしたのかしら?あなたがそんなに疲れるなんて、誰か失敗したのかしら?」

 

「…………………」

 

「本当に疲れているようね?まあ、疲れている理由は聞かないでおくわ。それよりも私に何か指令があるのではないのかしら?」

 

「…………………ミスター2にミスター3の抹殺命令を出せ。俺は部屋に戻る。電電虫はここにあるのを使え」

 

 そう言うと、さっさとこの部屋から出て行ってしまう。

 

 残された彼女はこの部屋にいたもう一人に視線を向ける。

 

「彼は何故あんなに疲れているのかしら?」

 

「さあ?まがねちゃんに彼の崇高な考えなんて分からないのだよ。それより私の話を聞いてくれる?」

 

 彼女の不気味な笑みには人を惹きつけ離さない何かがあるのか、ロビンは訝しげにしつつも、近くの席に座ってしまう。

 

 それを見てまがねは牛乳をロビンの分まで取り出し渡すと手を組み話し始める。

 

「ロビンちゃんは牛乳好きかな?」

 

 長い長い話が彼女を拘束するのである。

 

 ニコ・ロビンからミスター3の抹殺指令は結局その二時間後となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミスター3はリトルガーデンで百年もの間闘い続ける二人の巨人を利用し麦わらの一味と王女をいいところまで追い詰めたが、結局彼の立てた計画は全て打ち破られてしまい、麦わらに顔面を蹴り潰され気を失っていたが、麦わらの一味がこの島を去ってから目を覚ました。

 

 

「フワァ。気持ちよく眠ってしまっていたがね」

 

 彼は立ち上がり、ゆっくりと立ち上がり周りの状況を確認すると、顔面を汗で覆い尽くし始める。

 

「眠っていた?今は何時だかねって!マズイだがねぇぇぇぇえ!」

 

 彼は過ぎ去っていった時間を知り膝をつく。

 

「麦わらと王女の暗殺失敗に、その失敗を取り繕うにもこんなに時間が経っていたら奴らはもういないだがね。つまり私はボスに始末されるがね」

 

 彼は自分の置かれている立場を直ぐに理解し、このリトルガーデンから隠しておいた船で出ることを決める。

 

「急がなければ、もう追っては近くまで来てる可能性が高いだがね」

 

 彼は急いで船をだし、ボスに許しとチャンスを貰いにアラバスタに向けて船を出す。

 

 だが、彼は知らない。追っ手たるミスター2はただ踊っているだけなど。ましてや、本来なら即座に出された命令が遅れたことにより彼への追っ手は未だにアラバスタから出てはいなかったことなど彼は知らない。

 

 ただ言えることは、彼は無事にアラバスタに着くことができるということだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロコダイルはロビンを生贄にまがねから解放されて安堵していた。

 

 まさに部下を駒のように使うこの男の冷酷さが可能にするまがねに対する最高の一手であろう。

 

 彼はすっかり短くなってしまった葉巻を灰皿に押し付けると、グラスと氷を取り出すと、牛乳をそれに注ぐ。

 

 カランといい音を立てて氷が溶けるのを目で見て楽しみつつ、ソファに座る。

 

「奴にあの話題を振ってはいけなかったな。はぁ、無駄に疲れた。さっさと休むとするか」

 

 彼は気づかない。

 

 いつもウイスキーを入れているグラスに牛乳を注いでしまっていることに、そして牛乳がこの部屋にいつのまにか用意されていることに気づかない。

 

 彼はそれをウイスキーをいつも飲むように香りを楽しみつつ飲む。

 

 だけど彼は気づかない。それが自分がさっきまで全く飲む気のなかった牛乳であることに気づかない。

 

 彼は口元に白い髭をつけつつも満足して眠ってしまう。

 

 だが気づかない。彼女の嘘はいつでも真実であるがために彼は気づかない。自分の日常が侵され始めていることに気がつかない。

 

 こうして彼女の思いは密かにバロックワークスを駆け巡る。

 

 そして今日は更にもう一人、彼女の嘘を信じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、バロックワークス向けに牛乳が大量に届くことになったのである。




まがねちゃんの追加情報
 知らない人のために、まがねちゃんは牛乳が好きになのだ。
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