天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く   作:kurutoSP

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まがねちゃんは口で災いを呼ぶ

 レインベースのクロコダイルが経営するカジノの一室においてクロコダイルとまがねが対峙していた。

 

「これはどういうことだ?」

 

 クロコダイルはイスに座りながら、手に持つ書類をまがねにテーブルを滑らして渡す。

 

「何?どこか問題でもあったの?」

 

 まがねはその書類を一切見ない。そんな彼女の様子にクロコダイルは額に筋を浮かべる。

 

「ああ、俺はこれまでこの会社が稼いできた資金を全て武器火薬にまわすように指示を出した。これを反乱軍に渡せばもう止まらないからな。だが!」

 

 クロコダイルは感情が高ぶったのか右手の能力が発動し、イスの取っ手が干からび始める。

 

 彼の悪魔の実の能力によりその場の空気は乾燥し始め、彼の怒気が空気にビリビリと伝わっているようであり、クロコダイルの背後に控えていたニコ・ロビンは緊迫した表情を見せる。

 

「だが、何故その資金の一部が社員2000人分の3日間のミルク代に化けてやがるんだ!」

 

 クロコダイルが問題を指摘して初めてまがねは渡された書類に目をやる。

 

 その書類はクロコダイルが計画にない資金の流れのあるページがクシャリと握り潰した跡があり、しわだらけになっていた。

 

 まがねはそれを丁寧にしわを伸ばしつつその手に取ると、クロコダイルにとある一点を指さして彼の眼前に突きつける。

 

「何だ?」

 

「社員2000人分だけじゃない!正確にはそれと幹部専用の高級ミルクを手配してあるんだなー。まがねちゃんは抜かりない女なのだ」

 

 何かがキレる音がする。

 

 それを敏感に察したニコ・ロビンはクロコダイルから距離をとる。

 

 最初に読んだときには我慢して握りつぶす程度だったその書類を今度はそのフックで完全に切り裂き手元に落ちた切れ端はチリにする。

 

「どうでもいいんだよ!俺がミルクを嗜む男に見えるのかテメェは」

 

「ええー。でもでもですねー。以前まがねちゃんが頼んでいた高級ミルクを自分の寝室で飲んでいたじゃない?」

 

「あれは疲れていたせいだ。そもそも俺の部屋にテメェのミルクをおくんじゃねぇ」

 

「そんなこと言われても困るんだよ。まがねちゃんの部屋には冷蔵庫が無いんだもの」

 

「んなもん買ってやるから俺の部屋に置くんじゃねえよ」

 

「えっ!おごり?ラッキー」

 

「ボス」

 

 まがねとクロコダイルの話がアラバスタで彼が計画した最終作戦ユートピアから離れていることに気が付いたロビンは声を掛ける。

 

 ニコ・ロビンはクロコダイルのことはあまり好きではないし、まがねも気味の悪くクロコダイルの部下であるからして同様に好きではなく、なるべく関わりたくなくドライな関係でいたいため、二人の会話に関わりたくなかった。しかし、まがねのミルク談義は彼女にとっての一種のトラウマになっており、彼女の口からミルクに関することを聞きたくなかったということが声を掛けることにした最大の要因であろう。

 

 ちなみに余談であるが、ニコ・ロビンの部屋にはいつの間にか牛乳瓶が常備されており、彼女自身は呑んだ記憶が無いのに毎日冷蔵庫から数が減り、無くなると補充されていることに言い知れぬ恐怖を抱いてしまうため、彼女は冷蔵庫を捨ててしまった。

 

 ニコ・ロビンはクロコダイルが少し落ち着いたのを見て再度声を掛ける。

 

「かなりの額がこのミルクにつぎ込まれていることを言いたかったのでしょう」

 

「ああ、すまねぇな。その通りだ」

 

 冷静になったクロコダイルは葉巻を取り出し火をつけ、目を瞑り一服する。そして部屋の片づけをニコ・ロビンに命令し、まがねと向き合う。

 

「でだ。これはどういうことだ」

 

 クロコダイルは冷静になってはいるがその怒りはちっとも収まっておらず、その右手は水分を吸い続け、ふざけたら殺すとその目は語っていた。

 

 流石のまがねもこの緊迫した空気の中でふざけることは無いだろうと不安に思いつつも地面に散らばる紙片を集めるロビンは彼女の表情を見て、後悔した。それは彼女はいつもと変わらない不気味な笑みを張り付けており、全く何を言うのか分からなかったからだ。

 

「ミルクを飲まないとは人生損して………」

 

 まがねの顔めがけて灰皿が飛んでいく。もちろん彼女は首を軽く動かし躱すため、壁にぶつかり大きいガラスの塊が壊れる音がする。

 

 ロビンは片付けるものが増えうんざりしつつも、その顔は引きつっている。

 

 それは灰皿が壊れる程の力を込めて投げたクロコダイルの殺意ある彼女への対応にそれをこともなげに躱す普段と変わらない彼女、この二人のコミュニケーションの様子は見ていて気持ちのいいモノではない。ハラハラする。

 

 まがねは割れた灰皿の音に首をすくめる動作こそすれど、やはりその顔に一切の変化などない。

 

「半分ほど冗談なのに怖い怖い」

 

「次はこれだ」

 

 クロコダイルはフックをまがねに見せつける。

 

 まがねは死刑宣告を聞かされても額に軽く叩くだけで、ハナハナの実の能力者であるロビンの片づけを興味深げに見ている。

 

 見られているロビンはあまりいい気分ではない。だが、何も対応しないのも何をされるのか予想できないのでより事態が悪化する可能性が高いため胃がキリキリするのを感じつつも彼女に尋ねる。というか、さっきから彼女のクロコダイルへのおざなりの対応が彼のイライラを増幅し続け、部屋の調度品がまた一つとチリになっていくのである。

 

 ロビンはこれからオフィサーエージェントを招く部屋がボロボロになるのは避けたかった。彼と彼女とのやり取りの後を片付けるのは毎度ロビンの仕事であったためだ。

 

 普通なら他の社員を使えばいいだけの話なのだが、此処は秘密犯罪会社バロックワークスの社長室とでも言える場所、社訓は徹底した秘密主義であるからして最重要機密事項である社長の情報などが漏れるわけにはいかないため、ロビンがクロコダイルの裏の顔として活動しているので、大抵の雑事も彼女がこなす。

 

 つまり、簡単な雑用は彼女の仕事でもあるのだ。もちろんクロコダイルも普通なら何らかの手を取るだろうがロビンの能力は便利すぎたのだ。

 

 しかし、まがねが来るまではロビンに此処までの負担は無かった。そしてこの負担が今日で最後となる日にこの部屋を何とかしないといけなくなるような負担を負いたくなかったのだ。

 

 一方、ロビンにどうしたのかと問われたまがねは彼女に負担をかけていることを理解しつつも自分の楽しみを優先する。

 

「いやなに、いつ見ても面白いなーって思っていたのさ」

 

 そしてクロコダイルの方を見ると、さも今思い出したと言わんばかりに手の平に拳をポンと叩きつけちらりとロビンに視線を送りつつもクロコダイルの方に体を向ける。

 

 一瞬視線を送られたロビンは嫌な予感がして失礼を承知でその口を塞ごうと思ったが、彼女の能力発動は少しばかり迷いにより遅れ、その隙にまがねはさらっと言ってしまう。

 

「そうか、私はこれが見たいがためにあなたをおちょくってしまうのか!」

 

 クロコダイルの座るイスの右側の取っ手は完全にチリになり、きれいな大理石のテーブルにはフックで穴が開きそこからヒビが走り、地面には噛み千切られた葉巻が落ちる。

 

 ロビンはこの時点で能力を使用するのを諦めて部屋から出る。彼女は悟ってしまったのだ。もうどうしようもないなと。そして言い訳するならばこの部屋は証拠隠滅のために使われるのが今日で最後である為、どうせなくなる部屋を綺麗にしても無駄だと思ったからだ。決して自分の努力が意味をなさないからではないし、これ以上この部屋にいたくなかったからではないと自分に念を押しながらやはり早足に部屋から出る。

 

 ロビンが出た後、部屋からは怒号と笑い声が響き渡った。

 

 

 

 結局彼女が入れたのはオフィサーエージェントが来る30分前で、既にまがねに資金の使い方を詰問する時間など残っておらず、この部屋のありさまロビンは途方に暮れ、クロコダイルはなおも怒りが収まらない様子で、そして元凶は楽しそうに笑っている。

 

 この部屋で秘密犯罪会社バロックワークスの最後の作戦が行われようとしているはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スパイダーズカフェからきたオフィサーエージェントたちはロビンに通され部屋に着いた時には通される前まで通ったきらびやかなカジノや通路を見てきただけに部屋のありさまに皆に緊張が走る。

 

 その部屋にはこの会社の社長が座るであろう立派だったイスに、穴が開きヒビこそ入れども高級感あふれる大理石のテーブルに彼等に用意されたところどころ砂を被り、物によっては傷がついているイスはこの部屋の主の性格を物語り、そしてテーブルにグラスに用意されたミルクがここに来た社員のためにあるものだとは分かるのだが、余りにもこの空間には似合わず、秘密犯罪会社として何か意味のあるモノではないかと各々が考えながらも席に座るため誰も手を付けない。

 

 誰もが此処までに来るまでに煩く騒いでいたのに、今ではすっかり借りてきた猫のように静かである。

 

 その様子にロビンはこのままでは先に進まないかと思いさっさと社長の説明をする。

 

 そして現れた社長クロコダイルに誰もが息を呑むのと同時に彼から感じる怒気はアラバスタの英雄というのが仮面であり、まさしく犯罪会社のボスに相応しいと納得してしまう。

 

 彼等は余りに格上の存在とこの部屋のありさまにますます縮こまる。

 

 クロコダイルはその様子を満足げに見つつ、自分が圧倒的上位者として振る舞えていることに少しばかり溜飲を下げると、計画を彼等に話すのである。

 

 しかし、この光景を見るニコ・ロビンは複雑な感情が入り混じっていた。

 

 彼女は結局荒れに荒れ果てたこの部屋を直すことは不可能だと悟りどうしようか迷っていた時にこの現状をつくった原因に助けてもらったためだ。

 

 結局、まがねはクロコダイルにこの部屋を利用してここに来る能天気なオフィサーエージェントに威圧することを提案したので。

 

 もちろんクロコダイルは最初は反対していたが、彼女の口八丁手八丁により結局グラスに注いだミルクを用意させることまで確約させたのだ。

 

 その経緯を知るだけにニコ・ロビンはこの会談をひっそりと陰ながら見ているまがねの存在にまたクロコダイルが激怒しないか、そして少し前まではこうではなかったのにと思わずにはいられなかった。

 

 そして彼女はクロコダイルと長いこと一緒にこの会社にいたため、彼が仲間を信用しない性格で、彼と結んだ計画と自分の思いが最終的にかみ合わないことを理解している。だから彼女はいつでもクロコダイルに裏切られても良い様に準備をしているわけだが、この頃どうしてもクロコダイルに殺されるよりも先に心労で自分が死んでしまうのではないかと思わずにはいられなかった。

 

 彼女は昨日乗った体重計の結果を何故かこの場で思い出し、その結果が女子にはうれしいモノだったがその要因を推測できるだけにそれを素直には喜べなかった。

 

 彼女はこの会談に胃薬を持って臨んでいるのであった。

 

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