天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
「ふーん。貴方たちが麦藁の一味だよね?」
どんどん水が入り込むこの沈みゆく部屋に一人の女性が、クロコダイルたちが出て行った通路から出てきた。
海楼石でできた檻に閉じ込められた麦わらの一味はみなそちらを向く。何故か一緒に捕まってしまっていた海兵のスモーカーだけは葉巻をふかして目を瞑り座り込んでいた。
「俺たちだが、誰だお前?」
「いや、ルフィ。クロコダイルとこいつは通路ですれ違っているはずだ」
ルフィはいきなり現れた見たこともない女にそのまま誰かと問いかけたが、ウソップはクロコダイルたちが出て行った時間と彼女が此処に入ってくるまでの時間差から彼女が敵か味方かだいたいの区別をつけていた。
「ん?ウソップ知ってんのか?知り合いだったのか。ならこの檻から出してもらえるように言ってくれねえか」
「いや、違う。こいつは敵だぜ、たぶん」
「そこの長い鼻の人間?でいいんだよね。もしかしたら人形かな。ちょっと悪趣味だとは思うけれど、それの言う通り君たちの敵になるかな」
「何!ここから今すぐ出せ!ぶっ飛ばしてやる」
「そうだ!この長鼻を馬鹿にするやつはゆるさねえ!ルフィやっちまえってああ!格子に触るなルフィ」
興奮したルフィだったがすぐに海楼石でできた格子に触れて力が抜け段々と水位が上がってきた水面に沈みそうになり、同じく興奮していたウソップが慌てて助け出す。
そんな愉快な光景を見て彼女は笑いだす。
笑っている彼女にクロコダイルが出るとともに解き放たれたバナナワニが大口を開けて襲い掛かる。
「なっ!あんた危ないぞ」
ウソップがつい声を掛けてしまう。しかし、彼は避けろ!のよの口で固まってしまう。
ナミも飛び散る血を幻想してしまっていただけに目の前に移る光景が理解できず。悲鳴を上げようとして大きく口を開いた状況で固まった。
バナナワニに襲われている彼女は振り返らずにその拳を振り上げ、きゃしゃな見た目からは想像できない威力の拳をワニの顎に叩き込み、その巨体を浮き上がらせる。
「今良い所だから邪魔しないで欲しいかなぁ」
「きゃ!」
ナミがいきなり吹き荒れた風により尻もちをつく。いや、室内なのだから風など吹くはずもない。ナミは彼女から発せられる何かに気圧されたのだ。
この不可思議な現象について麦わらの一味は誰も理解できなかった。ただ強い風が吹いた程度にしか感じなかった。しかし、この場にいたスモーカーだけは瞑っていた目を見開き葉巻を口から落としてしまう。
「覇王色の覇気だと」
彼の呟きは小さすぎて誰の耳にも入らなかった。しかし、彼は立ち上がると海楼石仕込みの十手を彼女の方に向けて固い声で問いかける。
「お前は何もんだ」
「およ?此処に来ているのは王女と麦わらの一味のみだって聞いていたんだけど、何で海兵がこんなところにいるのかな?これって笑った方がいいのかな。あはははははは」
彼女が放った覇気により、ルフィたちは彼女に無意識ながら気圧されており、鰐たちは急いで水槽に戻って行っていたため彼女の笑い声が良く響く。
「ふざけるな!」
「およ?煙」
彼女は突如煙へと変化するスモーカーを見てその不気味な笑いを止める。そして少しばかり上を向いて考えていたかと思うとまた不気味な笑みを張り付け、スモーカーを見つめる。
「怖いね。確か君は悪魔の実の能力者それも自然系だったかな。うらやましいなー、出世頭確定じゃないか。まがねちゃんもそういう力が欲しいなー」
「黙れ海賊が!俺の質問に答えてればいいんだよ」
「海賊?私が、海賊だって?何を根拠に言っているのかな?私は一般市民。誰がどう見ても善良な市民。
「此処にいる時点で黒だろうが!」
「まっそうだよね。でも、誰がどう証明するのさ」
まがねはゆっくりと彼等が捕らえられている牢獄に近づいていく。
そして、その檻を優しく撫でると、檻の中を一瞥する。
「ここにいる限り、死んでいくあなた達に私が善良な一般市民かなんて証明するすべもないし、あったとしても死んでいたら無意味だよね。なら、誰も私が犯罪者だって知らなければ誰も私が一般市民じゃないなんて言えないよね?だからまがねちゃんは
檻の格子ギリギリまで近づいたまがねの顔めがけてスモーカーの十手による高速の突きが放たれるも彼女は簡単にそれを避ける。
「危ない危ない。これじゃあどちらが正義でどちらが悪だかわかったもんじゃないね」
「悪はてめえだろうが」
「そうかな?はた目から見たら牢獄に繋がれる人相の悪い男が、か弱い少女に向かって暴行をしている様にしか見えない。これを聞けば誰もがまがねちゃんが正義で、君を悪だと思うんだけどなぁ~」
「その腐り切った性根がその顔に透けて見えなければな」
「酷いなぁ。こんなに美少女なのに」
「テメェが美少女ならうちのたしぎも美少女になっちまうな。はっ、それよりも質問に答えろ」
「つまらないなぁ。海兵はどいつもこいつもつまらない奴ばっかり。殺したら少しはましになるだけましだけど。やっぱり生きていると不愉快でしかないね」
「なに」
彼女の発言にスモーカーがピクリと反応する。
「ねえ、麦わら君たち。ここから出たい?」
「おい!俺の質問に答えろ!」
格子に触れるか触れないかのギリギリのところまできて彼女を睨みつけるスモーカーを無視してまがねはルフィに問いかける。
「出してくれんのか!」
「おい!聞いてんのか」
「条件次第では別にいいよ」
「本当か!お前いいやつだな」
「おいまてルフィ。碌な条件じゃねえぞ絶対!それよりもビビの帰りを信じて待とうぜ」
騙されやすくとんでもないことをしでかすルフィに不安を抱いたウソップは一旦彼にビビの存在を思い出させて冷静になるように仕向けつつも不気味に笑う彼女の方を決して見ずにいた。彼は極度の怖がりである。
しかし、まがねはそんな彼等に爆弾を投げつける。
「ビビ?ああ、王女様ね?クロコダイルが何か約束していたけれど。彼がそんなに優しい人間に見えるのかな?」
「何が言いたい」
「簡単な話だよ。王女はここで死ぬ。これが彼の計画では決定しているだけってことだよ。つまり君たちもここで死ぬってことだけど」
「嘘つけ!ビビは絶対に戻ってくる!クロコダイルなんて関係ねぇー!」
吠えるルフィを楽しそうに見つめるまがねは彼等に致命的な一言を言う。
「でも、クロコダイルはここにこの牢のカギを棄てたかのように見せていたけど、実際のところそれは偽物だったってだけの話。君らを救える人間などここにはいない。そしてこの国を救える者もね」
彼女の言葉に言葉を失う麦藁の一味。
彼女はそんな彼等を満足げに見渡すと、絶望を感じているであろう彼等に希望の糸を垂らそうとする。
「でもまがねちゃんなら………」
「関係ねぇ」
「ん?」
「そんなの関係ねぇ!俺はあいつをぶっ飛ばすし、ビビは国を救うんだ!」
ルフィの何の意味もない言葉にまがねは現実の見えない彼に対して興味を失い、懐に隠し持っていたカギを取り出すのを止めこの場を去ろうと檻に背を向ける。
「ガッカリ。君たちは私を楽しませてくれたし、今回も何か起こしてくれると期待してたのにがっかりだねぇ。まがねちゃんは現実の見えない子供に付き合ってられないかな。残念」
しかし、彼女は数歩歩くとその足を止める。
まがねの目の前には王女と見知らぬ男がいたのだ。
「助けに来ました皆さん」
「何仲良く捕まってんだよお前らって、見たこともないかわいこちゃんがいるぅぅぅぅ♡」
まがねはタイミングよく表れた彼等を見て、虚を突かれた表情になる。そして、麦わらの一味の情報を全て頭に思い浮かべて彼女の少しだけ納得したかの表情を浮かべる。
「なるほど、夢想家は夢想家でもここまでくると現実が見えていると言えるかな。嘘と真実は表裏一体。まだ使えるかな?」
彼女はワニが暴れて引き倒されたイスを手に取ると、彼等全体を見渡せる位置まで引き下がり、座る。
「意外と当たりかも。面白くなってきた」
彼女はルフィの意外性とその主人公性に大きな価値を見出し、それがどうすれば最大限輝せられるか流れている牛乳瓶をさりげなく掴むとそれを開け彼等の次の行動をゆっくりと待つ姿勢になる。
『この場ではスモーカーの性格を掴んでスナスナの実の能力の代わりに彼の力を貰おうかなって思っていたけど、本当に意外と面白くなるかな。彼等はついでにしか思っていなかったけど。一番最初に彼等を見た時に感じたモノは間違ってなかった。ああ!笑いが止まらない』
彼女は不気味に彼等に笑いかけているのである。