天竜人は地に落ちた。まがねちゃんはそう嘯く 作:kurutoSP
サンジは部屋の隅で牛乳を飲む少女の存在が物凄く気になっていたが、沈みゆく部屋に、檻のカギを見つけなければ全滅と言うことをビビから聞いていたため、少女に攻撃の意思もなさそうなので一旦カギを食べてしまったバナナワニを見つけるために、バナナワニ退治に専念する。
「おら、おら、おらぁぁぁぁ!」
「すッ凄い!」
ビビはサンジの戦闘をこの麦わらの一味と一緒になって見たことが無かったため、巨大で自分が全く歯が立たなかったバナナワニを一瞬で倒していき、そこら中にバナナワニが水に浮かんでいるのを見て驚き、サンジを素直に褒める。
もちろん、女好きなサンジは調子に乗りカギを探すことを半ば忘れかけ、ただ目の前のワニをどれだけカッコよく倒せるかに専念し始める。
「どうだビビちゃん。惚れるかい?」
「たく、あのバカ。鍵のこと忘れてないか」
「ちょっ!サンジ君鍵!急いで鍵も探して頂戴!」
「了解だ、ナミさん!」
恋の奴隷もとい、ナミの奴隷たるサンジはナミの命令ですぐさま通路の向こうに控えているバナナワニは一旦無視して倒したバナナワニからカギを探し始める。
しかし、彼がカギを探し始めようとして、一匹のバナナワニから白い球体状の大きな何かが吐き出される。
その白い物体は即座に割れて、中から一人のミイラと見まごうばかりの男が出てきた。
「みっみず~」
その男は乾燥わかめが水に漬けたら瑞々しく戻るように麦藁たちが見た覚えのある男に戻っていく。
その男、包帯こそ巻いて少しばかり顔は分かりにくくなっていたが、その頭の3の髪型はとても見覚えがあった。
「誰だあれ?」
「ミスター3。リトルガーデンで私たちを襲ってきた男よ!」
「本当かビビちゃん。たく、こんな忙しい時に厄介だな」
そう、その男、リトルガーデンで麦わらの一味およびアラバスタ国王女ネフェルタリ・ビビの抹殺指令を受けて、彼等を卑劣なまでの罠で追い詰めはしたものの、結局負け、更に、サンジのせいでうその報告を上げたことになり、自分に逆に抹殺指令がおり、更には汚名返上、名誉挽回のためにボスに直接会った際には、何故だか初めからお怒りモードでいらっしゃったため、自分が奏上する前に一旦ひとまずボコられたのちに報告後、クロコダイルにより水分を抜かれワニの餌にされた哀れなミスター3である。
彼は自分が死んだと見せかけて能力で自分を覆い、抜け出すチャンスをうかがっていたのである。
そして、何とか窒息死する前にワニの中から出ることに成功した彼は水を飲んでいる際にその手に何かが振れ、それを水の中から引き上げる。
「何だがね?鍵?」
「あぁぁぁ!それこの檻のカギだぁぁぁぁ」
「ちょっ!バカルフィ」
ウソップが慌てて叫ぶルフィの口を塞ぐが時すでに遅く、どんな状況か把握しようとしていたミスター3の明晰な頭脳は事情を全て理解したわけではないが、この手に持つ鍵、どんどんと水が入っていき沈みゆくこの部屋、その部屋に捕まる麦わらの一味、そして自分の抹殺対象である王女と変な眉毛をした男が何かを探している。
彼の顔はその考えて出た結論が丸わかりの表情だった。つまりはあくどい笑みと言う奴だ。
「なるほどだがね」
「「「鍵がぁぁぁぁ!」」」
適当に投げられ水の中に沈みゆくカギを見て牢屋のルフィ、ウソップ、ナミは絶叫する。その様子を見て顔をこれでもかと歪めるミスター3だが、彼はこの部屋にいるもう一人の女性には気づかない。
「テメェ」
サンジがミスター3を睨みつける。しかし、ミスター3は焦らない。何故ならばこの状況は彼にとって有利な要素しかないのだから。
「ふふふ。私に敵意を向けるのはいいのだが、そんなことをしている暇が君たちにはあるのか少しばかり疑問に思うのだがね」
ミスター3は自分がカギを投げたあたりを見つめつつ攻撃しようとしていたサンジに牽制をするように言葉を投げかける。
サンジの動きが止まったのを確認すると彼は更に言葉を重ねていく。
「理解できたようだがね。カギを見失わないといいのだがねぇ」
「このくそ野郎が」
「もちろん、私もその邪魔をするつもりですし、王女の命も狙うつもりだがね」
ミスター3の脳裏には自分の能力で遠距離からチクチクと王女をいたぶりつつ、それを防ぐために目の前の男が身動きが出来なくなり、そしてそうして時間を浪費させていればカギを見つけるのは不可能になり、此処が沈む前に逃げれば彼等は勝手に全滅してくれる。そしてボスについては自分を死んだものと扱っているであろうから、此処にいる目撃者は全員死んでいくため追っ手もなくなるという完璧な未来を見ていた。
まあ、この場にいる彼女の存在に気づいていないだけで穴だらけの作戦ではあったのだが、ミスター3と同じく悪だくみが得意なウソップの何気ない一言により盤面はひっくり返される。
「あれ?あいつの能力でカギを作り出せばいいんじゃないか?」
「へ?」
「おおー。ウソップお前頭いいなぁ。あいつの蝋はいろんな形になるもんな」
「なるほど」
「ちょっ!ま、まつだが……」
ミスター3は自分の力に自信を持ちつつも過信はしていない。だから彼は野蛮な戦いを好まないと言い訳をよくしており、決して正面からの戦いはしない。
つまり、彼は汎用性の高いドルドルの実の能力者であり、その能力と頭脳をもって罠にかけて戦い、相手の戦闘能力を極限まで削り戦うことによりバロックワークスでは3の地位をもつ強者でいられるのであるだけであり、その戦闘能力自体は悲しいことに高くはない。
なので、この状況でサンジの目的がカギ探しと王女の護衛が優先順位の上にあるのならば有利でも、自分を倒すことが優先事項になった場合、サンジの攻撃は自分に集中することになる。
つまりは、顔面を膨れ上がらせ、憎き敵にへこへこと頭を下げつつ檻の前で能力を使う哀れな男が一人出来上がることになる。
『くそ!このままでは済まさないぞ麦わらめぇぇぇぇ!』
心の中で怒りをメラメラと燃やしつつもその顔に出さないように、もしくは出してしまった際に顔を見られないように下を向いていた。
「ん?何の影だが……ブベラッ」
水面に映る陰にミスター3は上を向き、顔面に強い衝撃を食らい気絶してしまうのである。
「あースッキリ。やっぱ一回殺したものはちゃんと死んでないといけよね。それに希望は目の前で潰すのが最高だと思わない?」
ミスター3の顔面を両足で踏みつけたまがねちゃんがルフィ達に笑いかける。
「どうしたの?私はあなた達の敵だから邪魔するのは当たり前だと思うのだけど」
まがねは目の前で目を見開き動きを止めている彼等を見てもう一度笑いかける。
「テメェ」
サンジの蹴りがまがねの顔に向けて放たれる。だが、まがねは面白そうにその攻撃を見るだけである。
「攻撃に殺意も私を攻撃する意思も乗っていない。サンジだったっけ名前。ふふ、私も狂ってるけど君も相当にイカレているよね」
まがねは自分の顔の横にあるサンジの足を横目に見ながら、その拳を握る。
「まがねちゃん少し嬉しいかな。私を女性扱いする人なんて久しぶりだもんね。お礼に殺してあげる」
サンジは慌てて下がろうとするが、体勢が悪くまがねの拳が腹に突き刺さり吹き飛ばされる。
「うーん?普通の人なら内臓破裂するはずなんだけどな~」
まがねは手を開いたり閉じたりしながらその彼を殴った時の感触を思い出している。
明らかに敵対行動を見せるまがねにビビは彼女に突撃をし、その小指につけたアクセサリーの様な武器を使い彼女に攻撃を仕掛ける。
「上手く避けられちゃったか。残念だなー」
王女の攻撃をまがねはその場から動かずに躱し続け、逆に彼女の手首を捕まえ自分の方に持ってくる。
「ああ!」
「ふーん。王女様はなかなかお転婆ですねぇ。そんなに焦らなくても殺してあげるよ。貴方は生きているよりも死んでいた方がまがねちゃんにとって価値が高いからね。大丈夫、クロコダイルみたいに負の価値があるから捨てるんじゃないから安心していいよ。私はちゃんとあなたの価値を分かっているから死んでいいんだよ」
まがねはそっとビビの白い首に手を当てるとその細い首に指を一本一本かけていく。
「いっ、いや」
ビビは手袋越しに感じる冷たい指の感触に震え、拘束から逃れようとする。
まがねはそんな彼女の様子を楽しげに見ながらも首に全ての指がかかると、ゆっくりと力を込めていきその苦痛に歪む顔を真正面からよく観察する。
「コーザってあなたと幼馴染だったけ?彼どんな顔するかな。想像するとゾクゾクしない?」
ビビにだけ聞こえるようにその顔を悪意に歪め微笑みかけるまがねに彼女は恐ろしいモノを感じ、それと同時に怒りを感じた彼女はまがねの拘束から、死の運命から逃れようと暴れる。
しかし、そんなビビの行動はまがねを楽しませるだけであり、彼女は苦痛にあえぎ、その目から零れ落ちる涙を顔を近づけなめとる。まがねはその強い意志を灯った眼球を直接舐め、そして抉り出したくなっていた。
「ビビから手を離せ!」
まがねの欲求は大声で注意を引き付けられたため、一旦は収まった。ただ、新たなる欲求のはけ口を見つけただけでもある。
まがねはビビに近づけていた顔を少しだけ彼女から離すと、檻に近づき、怒りを露わにしたルフィを見る。
「君には驚かされてきたよ。まがねちゃんみたいに言霊を操るでもなしに言葉を現実にするさまは驚嘆に値するよね。でも、君は結局死の運命からは逃れられない。それともまがねちゃんの条件を呑んでくれるかな?」
「ビビを放せ」
「それは無理な相談だよ。まがねちゃんは目の前に美味しいモノがあったら迷わず食べちゃうからね。」
「放せよ」
「良い目をしてるね。本当に美味しそうだよ。ゾクゾクしちゃう」
「いいから、ビビを放せ!」
まがねはルフィの叫びを全く意に介さず、その指に掛ける力を強める。そして深い笑みを浮かべ彼に悪魔の選択を迫る。
「放してもいいよ。君の仲間の誰かと交換でだけどね。最も役立たずな仲間を見捨てるのを推奨するよ。それとも王女様は仲間じゃないのかな?君たちには価値は無いのかな」
まがねは笑う。選択を迫られる者に対して笑う。捨てられるであろう者に対して笑う。見捨てられるであろう者に対して笑うのである。
沈みゆく部屋で、どの選択肢を取ろうが最終的には死んでいく彼等を思い浮かべ。その顔が苦渋の決断により歪むさまを、高潔な精神が、無垢なる心がけがれるさまを間近で見られるこの機会にまがねの心は踊っている。
彼女の嘘は、人をどれだけ愉快に殺せるか。その為だけに彼女は嘘をつく。
だからまがねはビビを即座に殺せるように、分かりやすく死んだと見えるように、ビビの武器を指に挟み頸動脈にあて、その答えを待つ。
彼女はここで前菜を食べることにし、その狂った心を満たそうとする。
それに対して彼等は彼女により決められた逆らい難い運命の中で一つの決断をし、この場に一人の血が流れ、彼女は狂ったように笑うのである。