色ボケのガッシュ 作:ぜがるん
魔王ガッシュ・ベル。
彼は疲れていた。
人間界での戦いを経て、王座についてからというもの、実に十余年である。
始めの頃はまだよかった。覚えることは無限のように存在したが、優秀な臣下がサポートしてくれたし、遊ぶ時間も沢山あった。
親友との遠乗りは正に至福の時間だったと回想。
家族と毎朝毎晩食事を共にして、おはよう、おやすみを言える生活。魔界へと帰ってから少しの間は人間界の生活が懐かしくて涙することもあったが、幸せな日々だった。
ずっと、そんな生活が続くと思っていた。続いてほしかった。
変わったのは、四年ほど前か。いや、それ以前から周りは変化していたのだ。ただ、気づかない振りをしていただけ。
ある日の、夕食の席での出来事だった。
結婚の話が出た。出所は、過去はどうであれ、今では信頼しかない愛する兄上からであった。誰を妻とするかを尋ねられたのだ。
魔王にとって、その手の話は得意ではなかった。
忙しい日々の中で、恋愛ごとにうつつをぬかしている暇はなかった、と言えば聞こえがいい。加えて、彼は王としての精神は持ち合わせていたが、“下”的な精神的成長は遅れていた。ましてや恋愛経験などは皆無だった。
魔王は「そのうちに…」と話をうやむやにした。しかし、話は何処からか漏れてしまう。
受難の始まりである。彼に懸念していた女性達が、勝負に出たのだ。
そして、何やかんやドロドロぐちゃぐちゃな愛憎劇を経て、魔王は同時に三人の妻をめとった。
しかし、彼がホッとしたのも束の間。ここから、第二ステージ。
魔物とは、種族差はあるが、人間と比べると総じて長命な種である。それゆえの弊害か、はたまた神の調整故か、子ができる確率が低かった。五年間共同作業を続けても成功しないのはザラである。
話を戻す。
誰が言い出したのか、一番始めに身籠った妃が、正妻である。そんな噂が流れた。
その日から始まった、毎晩毎晩途切れることのない共同作業。三人とのーーいや、正確には四人だろうかーー日々は続いた。
毎日の王としての政務に、毎夜の性務。
回復魔法があると言えども、精神を癒す魔法があると言えども、彼の心の芯は悲鳴を上げていた。
もうやめたい、という気持ちはあった(夜の方である)。しかし、その度に思い出したのだ。あのドロドロのぐちゃぐちゃを。愛する人達がギラギラとにらみ合うあの時には戻りたくなかった。今では、「うらみっこなしね」と表面では仲良さげに言う彼女達である。
親愛なる兄上だけが心の支えだった。「自分が言い出したせいで…!」と悔やんでいた彼だったが、恐らく遅かれ早かれこうなっていただろう。だから、恨む気持ちはこれっぽっちもない。それ以上に、兄上に何度慰められたかは数えきれない。
多忙な日々の中、兄と飲み明かす夜だけが癒しだった。しかし、兄も既婚者。彼にも家庭があるのだ。だから癒しは、月に一、二度だけだった。
そして、運命の日。
魔王の二十歳の誕生日である。
朝から盛大にパレードが行われ、夕食は懐かしの、父、母、兄と四人での食事をたのしんだ。
そして、その夜。
「ガッシュ、ーー」
「ガッシュ、ーー」
「ガッシュちゃん、ーー」
幸せなはず…である。四人が横になってもまだ余裕があるベッドの上に、魔王は腰を下ろしていた。
結論を言おう。
長い間溜まっていた何やかんやから解き放たれた魔王はーーついに、燃え尽きた。
ーーおお、ガッシュよ、
しんでしまうとはなさけない…。
同時刻。
人間界において、一人の男が崩れ落ちた。
理由ーー既婚であるのに、親友とも呼べる女性に誘惑され、あっさり陥落。
一度で止めればまだしも、何度も繰り返したため、ついに妻にバレて後ろからグサリ。
ーーおお、きよまろよ、