色ボケのガッシュ 作:ぜがるん
「ぬぅ…」
目を開けると、懐かしい天井が広がっていた。
「んぅ」と声がしたので横を向く。そこには、安心した表情で寝息をたてる、コルルの寝顔があった。
思えば、気が動転している中でコルルの魔力を感知し、誘拐同然のように連れてきてしまった。身体が勝手に動いていたのだ。仕方ない。
しかし、この様子を見るに、きっと清麿が話してくれたのだろう。
「ぬ」
つい頬をついてしまっていた。ぷにっとした感触が心地好い。反応はない。熟睡しているようだ。
カリカリとした音が耳に届く。頭を上げると、机に向かい何やら書き物をしている清麿の背中があった。
「きよまろ」
あれ、自分の声はこんなに高かっただろうか。というか、何だか喋りにくい。
あ、身体が元の大きさに戻ったからか…?
いや、しかし、それでも違和感が…
疑問に思っていると、ふと視線を感じた。 清麿が此方を見ていた。難しい顔をしている。
「ガッシュ」
「きよまろ…おぬしやはり、あのきよまろなのだな!げすーー」
「いや、待て。それはもういい。それよりもガッシュ。…単刀直入に言う。たぶん俺は、お前の考えている俺じゃない」
「?」
どういうことだと、ガッシュは目で訴える。
清麿は居心地悪そうに目を反らした。
「いや…その……あ、あとな。お前、小さくなってるぞ。ここに来たときは幼稚園児くらいか?でも今は二、三歳くらいだ。ほら、鏡」
ガッシュは目の前に掲げられた鏡を見た。
確かに、小さくなっている。喋りにくいと思ったのはこのせいだったのか。
考えられる原因としては、シンの呪文だろうか。
「…お前何で気を失ったのか覚えてるか?」
「…ああ、おぼえておる。…すまなかった」
「…その様子じゃ大丈夫そうだな。で、さっき大きくなってからどこに行っていたんだ?」
さっき。そう、目的があったのだ。
自分の力が足りないばかりに、今は無理だと、断腸の思いでイギリスを発った。日本に着いたら、すぐに清麿に協力してもらおうと考えていた。
「…あにうえ…あにうえに、あうまえに、いぎりすのこじょうにいって、ばるとろをたおしてきた。ほら、おぼえておるか。せっころにもあったぞ」
そこで、間が生じた。
ガッシュが期待した返事は返ってこなかった。
「…いや、俺はそんなことは知らない。……でも、ああ、やっぱりかぁ」
「え…」
「…ガッシュ、お前には未来の記憶があるんだよな?」
「…そうだ。きよまろは、ちがうのか…?」
「ああ、お前とは違う」
違った。
その事実にガッシュは思いの外ダメージを受けた。
「…では、なぜ」
「いや…変な記憶はあるんだ。違和感しかないが、記憶と言っていいのかもわからんが…限定的なもののみだが…ある」
「…それは、何のだ?」
清麿は顔を真っ赤にして、だらだらと汗を流し始めた。
時間にして一分ほどか。モゴモゴとしていた口をようやく開いた。
「未来で……せ…関係を持った女性との記憶だ。正確に言えば…関係を持った女性と一緒にいると認識していた時の記憶がある」
「…では、よのことは…?」
「…それは……最初は、今日か?学校で昼休みに水野に呼び止められた時に、お前もいた。最後は、恵……さんと一緒に、お前とティオからの手紙を読んだ時のものだ。その時に見た写真とさっきのお前の姿は同じだったな」
「…そうか」
「おう……」
「……」「……」
沈黙が続く。コルルの寝息だけが、部屋の中に存在していた。
「はぁ…ったく、急に大人になったような、妙な気分だよ。勘弁してくれ……」
「…うぬ、しかしきよまろが、うけいれてくれてよかったのだ」
清麿の精神年齢は、前のこの時期よりも高くなっているようだ。それに、何やら面倒なーーいや、複雑な状態になっているようだが、ガッシュは少しほっとした。
無論、寂しい気持ちもあるが。
「でも、お前と俺との差は何だ…?」
「ああ、それならーー」
ガッシュには心当たりがあった。
最初に目を覚ましたのは、イギリスのあの森の中だ。
つまり、兄上から魔界での記憶を奪われた後だ。理由があるならばその辺りだろう。
ガッシュは清麿に自分の考察を話した。
「ああ、そうだったな。記憶を失っている、か…そんなこと言ってたなお前」
「うぬ」
「あとな、アンサー・トーカーが使えた。連発は無理だが。お前が寝ているときに検証済みだ」
「ぬ?」
「もうこの際だから言っておく。…言っておくが、これは未来の俺が原因であって、今の俺には一切関係ない。いいな」
「うぬ」
「アンサー・トーカーで解るのは、未来の俺が、関係を持った女性達にだけだ。限定的だが、大体解る」
「……」
「いいな。俺には何も関係ない。…だがな、ほっとくことはできん…特に、ココはな。未来では、大切な仕事仲間だったんだ……ゾフィスの野郎は赦さん。カンフーでぶん殴ってやる……!!」
「お、おう」
「だから、早い内に元に戻れよ。その身体的なデメリットは一時的なものだと思う」
ガッシュはふと思い出した。
たしか、シェリーが社長でココが副社長、清麿が顧問というのをやっていたな、と。
「とりあえずは、水野だ。今日の放課後、金山にカツアゲされるからなあいつ」
「…では、がっこうにいくのだな!」
「放課後にな」
「…」
「…明日からはちゃんと行くよ。…ほら、もう時間的に昼休みだし途中から行くのは…な?……今日は、中田先生とも話してくる」
「そうか…!」
問題は山積みだ。
致命的なのは、この時期の出来事の日程を覚えていないことだ。
何が起こるかは覚えているが、それがいつなのか詳しいことがわからない。
アホの清麿の能力も、当てにはできないのだ。
しかし、ガッシュはどんな困難にも立ち向かえる自信があった。……兄上のこと以外は。
そして、成し遂げたいこともあった。
未来の三人の妻達の件である。
今のうちに、彼女らが純粋なうちに対処をすれば、きっとあんな未来は訪れない。
余は、みんなで仲良く笑顔で過ごせる未来を目指すのだ!
かくして、ガッシュの、いやガッシュと清麿の闘いは始まった!!
現状、ガッシュから清麿への信頼度100に対し、その逆は半分くらいでした。