SAO—問題児も巻き込まれるそうですよ—   作:ザイソン

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弐話 デスゲームをプレイしてない

2022年11月6日の、ソードアート・オンラインのサービス開始から一カ月が経過した。

デスゲームの奴隷と化したプレイヤー達は、まず大きく2つに別れた。

単純に、はじまりの町圏内に引き篭もりゲームクリアを待つか現実世界からの介入によるログアウトを待つ者と、積極的にゲームクリアを目指す者だ。

さらに積極的にゲームクリアを目指す者は協力してサバイバルを目指す勇者、ソロプレイヤーになり己の力のみで生き抜く猛者の2つに別れた。

そして、ゲームクリアを諦め犯罪行為に及んで食い扶持を稼ぐようになった愚者。

そして一カ月が経過した現在、犠牲者の数は2000人に及んだ。そして、未だ第一層はクリアされていない———

 

 

 

第一層迷宮区

 

片手剣を構える十六夜の目の前にレベル6の亜人モンスターがおよそ3体、十六夜の背中を守る斧使いの焔の目の前に同系統のモンスターがおよそ3体、それぞれ斧やら剣やら槍を持って今にも襲いかからんとする表情で立ち塞がっている。

傍目から見ればモンスターに囲まれてピンチと思われるだらうがこの2人にとってこれはピンチでもなんでもない、ここ数日間でよくある日常のひとつに過ぎない。

 

「アギャギャギャギャ!」

 

「ギャルルルルルル!」

 

「グルォォォォ!」

 

数体が武器を大きく振りかぶり2人に飛びかかって来るが十六夜は待ってましたと言わんばかりの笑みをこぼした。

 

「ハッ、焔!ソードスキルを発動しろ!」

 

十六夜の眼球が目まぐるしく動きモンスターの位置、スピードを確認し、焔の足をがっしり掴んで、

 

「え、ちょイザ兄まさか———」

 

「全員そこに直りやがれ!!!!」

 

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焔を利用して焔の持つ斧の攻撃範囲を広げるこのアホみたいな技は、十六夜が最近見つけた新技で囲まれた時によく使っている。

ジェットコースターに初めて乗った女子みたいな声を上げている焔だが当然のように無視。

超広範囲オリジナルソードスキル(焔アックスぶん回し)によってあっという間にモンスターはポリゴンのカケラとなって声も出さずに消えていき、アイテムだけをドロップした。

この場合アイテムは焔のストレージにドロップする。

両手斧持った人一人を振り回せるとはいったいどんな筋力値をしているんだろうか。

片手剣使わないんですかと突っ込みが来そうだが大丈夫です、今のところメイン武器は片手剣です。

焔ではありません。

 

「目が、目が回る……。この阿保ブラザー、またやりやがったな……」

 

HPも僅かながら減っているのはモンスターにぶつかりまくったからだろう。

むしろこの程度で済んだのは焔の防具の防御力が高いからである。

逆に十六夜が焔の(防御力を)信頼しているからこそできる荒技と言える。

おそらく、味方を武器にして敵をなぎ倒す戦法を取るのは後にも先にも十六夜だけだろう。

十六夜は今まで手に入れたステータスアップポイントの七割を筋力に振っている。

逆に焔は耐久に大半を振っている。

 

「そろそろ町に戻ろうぜ?もうダンジョンにこもって丸一週間、レベルは充分って言えるくらいあるはずだ」

 

「たしかに、武器の消耗も激しくなってきたしそろそろ限界。帰りのことも考えるとここら辺で切り上げたほうがいい」

 

焔は自分の斧と軽金属防具の耐久を確認し、少しヤバそうだと思った。

軽金属防具の消耗はどちらかというと十六夜の無茶な戦いによるものであることはわかりきっている。

 

「アイテムストレージもいっぱいだし、一括で売っぱらって鍛冶屋に装備一式のメンテナンスを頼まねえと。誰だよダンジョンに篭ろうとか言い出したのは」

 

「あんただよ、イザ兄」

 

一週間の間、二人は最低限の食事と安全地帯での睡眠での極限生活をしていた。

十六夜は難なく順応したが、焔は最初こそ苦しんでいた。

しかし二日で慣れた。

人は慣れればどうとでもなるもので安全地帯での睡眠も隣でモンスターが闊歩していても気にならなくなっていた。

結果として二人のレベルはそれぞれ15になっていた。

SAOにおける各層の安全マージン——ひとまずそこでは安全と言えるレベル——は自分のいる層の数+10レベルなので15もあれば十分でおそらくこの層で二人よりもレベルが上の者は殆どいないだろう。

 

 

 

「……もう、一ヶ月だな」

 

帰り道の大草原をを歩きながら焔はそう呟いた。

ゲームマスター、茅場の手によってデスゲームとなった世界に囚われて早一ヶ月。

ログアウト不可、しかもHPがゼロになった途端にナーヴギアから強力な電磁パルスによって電子レンジよろしく脳みそをチンされてリアルの肉体も死ぬ。

 

「イザ兄さ、ナーヴギアで自分が死ぬと思ってる?」

 

「……」

 

十六夜は頭を掻きながら少し考えた。

まず十六夜は雷に当たったぐらいでは死なないし、もちろん銃弾が当たっても問題ない。

この世のどんな兵器を使おうとも十六夜を倒せるようなモノは基本的に無い。

例外的にNBCR兵器の一部は当たれば——死ぬ事はないが——効くものもある。

が、ナーヴギアの原理はそういった兵器とは全く別のもので、電子レンジに近い。

電磁波によって水分を含む物質の分子を振動・回転させて温度を上げる、というのが電子レンジの仕組み。

十六夜はマイクロ波に照射された経験が無いためなんとも言えないが少なくともある程度はダメージを負うだろう。

しかし、死ぬことなく耐えきる可能性のほうが高い。

 

「そうだな、死ぬことは無いと考える方が妥当だな」

 

「だよな。イザ兄なら抜け道見つけてログアウトできるかもしれないなら———」

 

「だがそれをしてしまうとお前を見捨てて行くことになる。そして何より、茅場に負けたことになる」

 

一ヶ月前、十六夜は何度かログアウトの術を考えたこともあった。

しかし、その時決まってある女性の顔が脳裏をよぎる。

 

「茅場の取り決めたゲームルールに則りその上で、完膚なきまでに叩き潰してやる。外に出て茅場探し出して叩きのめすよりゲームクリア目指す方が早い」

 

「イザ兄なら現実でもすぐに茅場を見つけ出せると思うけど」

 

「いや、茅場を見つけ出すならここにいた方がいい。どうせ茅場はゲームを監視している。そして、他人のしてるゲームを眺めているほど退屈なモノは無い」

 

焔はハッと十六夜を見た。

たしかにそれは言えているし、自分にもそういう経験はある。

たまにゲーム実況を見ているとそのゲームを欲しくなったものだ。

 

「……なるほど、茅場はこの世界にいる!SAOの何処かに!」

 

「そういうことだ。今はまだ静観しているだろうが、いずれ姿を現してくる。ゲームクリアを進めていけばいずれな」

 

茅場はいつか現れる、それを十六夜は確信していた。

こんな面白いゲームに参加しないわけがない。

 

「なら、いい話がある。明日ちょうど第一層のボス攻略会議が開かれるらしい」

 

焔はウインドウのメッセージボックスの中のメッセージを確認しながらそう言った。

 

「……それ、金払うヤツか?」

 

「先払いしておいた。売れる情報は何でも売るのがモットーだからこんな会議の情報も有料」

 

「……俺もお前も友達少ないから教えてくれるヤツなんていないしな」

 

十六夜は初めて自分の交友関係のなさを呪った。

現実でも十六夜に同年代の友達など皆無で親しいのは大抵お爺さんやお婆さんと言った年配で、しかもクセが強い。

 

「……第二層攻略会議までには友達作っとくべきかな」

 

 

 

午後四時、トールバーナの噴水広場。

 

会議の時間になり会場に指定されていた噴水広場に集まるとすでに数十人のプレイヤーが集まっていた。

その数は合計四十六人。

 

「四十六人か……確かパーティ一つにつき最大六人だから……七パーティできて四人あまりか。これ、攻略には多いのか?」

 

「……一つの連結(レイド)パーティが八パーティで四十八人。死者ゼロで抑えたいなら最低レイドパーティが二つできた方が確実」

 

普通のゲームであったならばもっと頭数は多いだろうが、デスゲームであることが原因で逆にこれだけ集まったのは良しと考えてもいい。

 

「ここに集まった殆どが後続プレイヤーのために己の命を賭けるってわけじゃない。たぶん、大半が『遅れるのが不安』だからと考えていい」

 

「MMORPGは限られたリソースの奪い合い。フロアボス攻略の時の美味い汁を吸おうって考えか」

 

焔は別段、『遅れるのが不安』というわけではない。

ベータ版でも自分のペースでゆったりと世界観や操作性を楽しんだ上で強者になろうとするタイプで半数のベータ版フロアボスと戦ってない。

なのにここに集まったのは後続プレイヤーのことよりも、現実に残してきたカナリアファミリーホームが心配で、なるだけ早く帰りたいからというのが一番大きい。

 

「イザ兄は、何でフロアボスに挑戦するんだ?たしかに、一人だけデスゲームをプレイしてないから身体を張れるけど、いつもの超人じみた力があるわけじゃない。ここでは、ただの人なのに」

 

「ハッ、無粋なこと聞くじゃねえか。一人だけデスゲームでプレイしてない?馬鹿言うなよそんなことは関係ない。俺の行動原理を知らないわけじゃあるまいし」

 

「……ああ、さすがイザ兄。不謹慎だな。どーせ、面白そうだからだろ?」

 

焔は呆れた顔をしながら十六夜のニヤニヤした顔を見た。

なるほど、いつもよりも心底楽しそうだ。

この人は、たとえ自分にとってデスゲームになって命がけになったとしてもきっと——いつものように笑って無茶苦茶しでかすのだろう。

 

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