「はーい、五分遅れだけど始めさせてもらいます!あ、そこあと三歩前によって!」
学校の先生のように堂々と喋る金属防具で身を固めた片手剣使いはパンパンと手を叩き注目を自身に集めた。
おそらく彼がこの会議の主催者で、五分もの間会議が遅れたのは人数がレイドパーティ一個に満たなかったため少し粘ったのだろう。
「今日は、俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!俺はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」
ディアベルと名乗る爽やかなイメージを持つ青髪青年の言葉に、集まったプレイヤー達がどっと沸く。
『ホントは勇者って名乗りたいんだろ!』という野次も飛び、緊迫していた場の空気が和やかになる。
「へー、ナイトか……俺は何になるんだ?」
「イザ兄はアレだな、問題児ってヤツだな」
一応片手剣を主武装としているが焔を武器代わりにしたり、この層では存在すら確認されていない体術スキルも持っていないのに敵を蹴り飛ばすなど、型にはまらない戦い方はまさに問題児のソレである。
ディアベルは金属防具に盾と剣、まさしくナイトといっても過言じゃない装備で、ナイトと名乗ったことで実際瞬時に皆んなの心を掴んでいる。
「さて、最前線で戦ってる君たちに集まってもらった理由なんだけど、もう言わずもがなだと思うけど……」
ディアベルが静かに右手で街の彼方に聳える巨塔——第一層迷宮区を指し示し答えた。
「今日俺たちのパーティがアレの最上階に続く階段を発見した。つまり明日か明後日には辿り着く。そう!第一層のボス部屋に!」
大きな拍手と歓喜の声が広場に響く。
ここまで一ヶ月、長い時間だったおそらく『絶対クリアは無理』と考え自暴自棄になり無茶をしていたプレイヤーもいるだろう。
しかしまだ終わりではない。
発見しただけでは希望の光とは言えない。
「一ヶ月、一ヶ月かかったけど、ボスを倒して『ゲームクリアは可能である』と多数のプレイヤーに示さなければならないんだ!そうだろみんな!」
大きな拍手喝采が起こる。
発言には非の打ち所がなく、むしろ皆の意識を一つにまとめる事が出来た。
「へー、上手いな。ベーターテストでもあそこまでリーダーにふさわしいやつは現れなかった」
「……あそこまでカリスマがあるやつならこんなクソゲーせずにリアルで活動できた方が世のため人のためになるってもんだ」
プレイヤー達の意思は統一された。
停滞したこの状況を進めるきっかけを、自分たちの手で手繰り寄せるのだ、と誰もが思った。
「ちょおっと待ってくれんか?」
この空気を裂くかのようなタイミングでサボテンのような独特のヘアスタイルの男が前に飛び出して来た。
「何かな?意見は是非聞いておきたいな」
「わいはキバオウってもんや」
頭も独特なら名前も独特。
いや、こういったオンラインでは突拍子も無い名前も多々あるのでそうでもないかもしれない。
「作戦会議を始める前に、こいつだけは言わしてもらわんと仲間ごっこはでけへんな」
十六夜はキバオウの目と顔を見て、嫌な予感がした。
この結束が強まり、団結しようという雰囲気をぶち壊しかねないような予感が。
流石に問題児と名高い十六夜でも時と場合を考えて暴走することを成人して覚えた。
「こん中の五、六人か十何人かワビ入れなあかん奴らおるやろ?」
今までの明るい雰囲気から一転、ざわざわと疑問の声が上がる。
「チッ、アイツまさか……」
十六夜はキバオウが言わんとしている事を薄々勘付いたらしく、かなり不機嫌な様子で舌打ちした。
「侘び?誰に?」
「チッ、決まっとるやろ!これまで死んでいった二千人にや!
奴ら、それはおそらくここにいるプレイヤーの誰もが容易に理解できた。
SAOが正式にサービス開始する以前にその知識、技術を蓄えた千人、それは即ち———
「キバオウさん、それは元ベーターテスターの人たちかな?」
「決まっとるやろ!ベータ上がりの連中どもは、こんクソゲーが始まったその日に、ビギナーを見捨てて消えよった!奴等はウマい狩り場やらボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけぽんぽんぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷり決め込んどる!」
「それは……」
違うと焔は言いたかったが、言い返せない。
ベーターの時に蓄えた知識をフルに活用し、十六夜と行動を共にしているという事実がある。
これは焔だけではなく、ベータテスターの大部分は、情報力といった優位性を活かして自身の生存率を上げようと四苦八苦していることは考えずともわかる。
「焔、だがベーターテスターだからといって罪があるわけじゃ無い。誰だって我が身が可愛いさ。俺だってそうだ。ただ、ベーターテスター達は都合が良かった」
「都合が良かった……?」
「ベーターテスター達はこのゲームにおいて大きなアドバンテージを持っているのは事実。そういった人たちがいる状況で自分、もしくは仲間が痛い目にあったり死んだ場合、何が原因であれ、真っ先にテスター達にその怒りは向けられる。自分に責任が無いように自分を騙し、他人になすりつけるのは心の無意識の防衛反応といえるさ。
ただその対象がなすりつけるのに
十六夜は一見冷静な風を装っているが実際はかなりイラついていた。
この状況でこんな爆弾発言ができるキバオウに対してだ。
さらにその爆弾発言の対象の一人が自分の義弟とあっては更に不快だ。
「そこ!何ゴチャゴチャ言うてんのや!何か言いたいことがあるんならはっきりいったらどうや!」
流石にこのキバオウ以外黙ったこの状況ではヒソヒソ話していたとしてもばれてしまうらしい。
「あー、そうかよ。じゃ、言いたいこと言わせてもらうぞこのサボテン野郎」
十六夜はかなり不機嫌そうな顔でキバオウの前に立った。
焔はこういった不機嫌な十六夜を見たことがあるため色んな意味でかなり不安でいっぱいである。
「なんやなんや?喧嘩売っとんのかチンピラ」
「売ってやるよ、俺にしては珍しく無料で売ってやるよ。テメェがギャーギャー喚かなけりゃボス前にいい雰囲気で終われたんだよ。よりにもよってベーターテスター連中を吊るし上げか?たしかにベーターテスター達は有利さ、レベルも大層なこと上げてるに決まってる。なら吊るし上げたら意味無えだろ戦力が下がるだろ。自然に自分の生存率下げようとしてんのが分かんねえのか?しかもモチベーションまでダダ下がりだぞこのアホ。脳みそ詰まってんのか?もしかして詰まってんのは馬と鹿の脳みそか?」
「言わせておけば調子に乗りやがって……!大人に対してその口は無えやろが!」
「何いってんだ、それ関係ないだろ。それに、俺はただ歳食っただけの人間を大人とは呼ばない」
「このガキャ……!」
キバオウは剣の柄に手を掛け今にも斬りかかろうと十六夜を睨んでいる……というかもう抜刀し掛けている。
「まあ、二人とも落ち着け」
十六夜とキバオウの肩にポンと手を置かれ、振り向くと、黒い肌と禿頭が特徴の大男が立っていた。
その低く渋い声といい筋骨隆々の体躯、カタギの人間とはとても思えない。
「横から悪い。俺の名はエギルだ。キバオウさん、つまりアンタの言いたいことはつまり、ベータテスターが面倒を見なかったから、ビギナーがたくさん死んだ。その責任をとって謝罪、賠償しろ……と、そういう事だな」
「そ、そうや。当然やろ」
エギルは腰につけたポーチから羊皮紙を閉じた分厚い本アイテムを取り出した。
広辞苑や六法全書ほどはないがかなり分厚い。
「キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ。このガイドブック、あんただって貰っただろう?ホルンカやメダイの道具屋で無料配布してるんだから」
「「は?」」
キバオウと十六夜の声がダブった。
キバオウはそれがなんだという意味、十六夜は、『無料配布?俺たち買ったぞコラ。あとで軽くシメてやろう』という意味。
「このガイドは、俺が新しい村や町に着くと、必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだったろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのかい?」
「せやから、早かったら何やっちゅうんや!」
「こいつに載ってるデータを情報屋に提供したのは、元ベータテスター達以外にあり得ないってことだ。しかも、ただのガイドじゃない。各村や町のフィールドのクエストの詳細、フィールドのマップは勿論、適性レベルに応じた狩りの穴場や危険なポイント、さらにはモンスターの詳細な攻撃パターンや有効な攻撃手段まで載っている。一人や二人で集められる情報量じゃない。どう考えても、複数のベータテスターが作成に協力していることは明らかだ」
たしかに、焔が何度か出版者と何度か情報のやり取りをしているところを十六夜は見ている。
「キバオウさん、アンタの言いたいことはわかる。俺だってテスター達に対して割り切れないものがある。でも、彼の言う通りベーターテスター達は貴重な大戦力。彼らを吊るし上げて失敗したら何の意味も無いじゃないか」
これまでだんまりを決め込んでいたディアベルが爽やかな弁舌でなんとか場を乗り切り、この最悪の空気を再び好調に引き戻した。
「悪いな。言いたいこと言えって言うから言っちまった」
「まあいいさ。ボス攻略でキチンと成果を出してくれさえすればそれで良しとしよう」
現実的な作戦会議は行われなかったがこれは別に無駄な時間ではなかった。
確実に士気は上がった、意思も統一された。
実際二十階はものすごい速さで攻略され、あとはボスを残すのみとなった。
しかし、ベーターテスター達を毛嫌いしているのはキバオウだけではない。
彼らは、爆弾を抱えたままボスに挑まなくてはならない。
元ネタ紹介のコーナー
「歳食っただけの奴を大人とは認めない」
"妖怪アパートの優雅な日常"、長谷泉貴
なんか十六夜も同じこと考えてそうだなーと思います。
十六夜は口喧嘩で使いましたが。
本当の意味で『大人』になれるように努力しないと……ただ歳食っただけの人間になりたくないですね。