「よシ、イザっち。話し合いダ、人は話し合えば分かり合えるんだヨ」
「俺今日だけ人間やめるから」
まるで幼女虐待にしか見えないその光景。
それを哀れみを持って眺める焔。
十六夜が不良じみた顔で笑いながら睨みつけている相手はアルゴと言い、"鼠のアルゴ"として有名な情報屋である。
「ホムホムも止めてくれるとオネーサン嬉しいナー」
「南無三」
止めはしない、なぜなら十六夜相手に止めても無駄であるが故に。
合掌。
「イヤ、攻略本無償配布のこと黙ってたのは悪かったからサ、雑魚とはいえ犬系モンスターがタクサン出る木にロープで結びつけるのだけはカンベンナ!」
割とガチで泣きそうになっているアルゴを見て十六夜はものすごくいい顔で笑った。
まるで新しい玩具を買ってもらった子供のように。
「へー……アルゴって犬が苦手なのか……いいこと聞いたな」
「しまっタ!」
「墓穴掘ったな」
一連の作業を終えて完璧に木の枝に結びつけられたアルゴ。
哀れなり。
「イヤ、無償配布はイザっちとホムホムを含むフロントランナー達が初版を買ってくれたからその売り上げで第二版の無料配布が成り立ったワケ。ちなみに初版はこのオレっちのサイン入りだゾ!」
「超要らねえ」
「返品する。そしてタダで二版貰ってくる」
「返品は受け付けてないヨ」
この無償配布は、アルゴのベーターテスターとしての責任の取り方であるだろう、サインも含めて。
やはりテスターはテスターでこの二千人死亡に少なからず責任を感じているわけで、キバオウが声にしてしまったことで焔の心により深く『テスターとしての責任』が染み込んでしまった。
「ま、ビギナー連中のためだ。今後も買うとするか」
「それは有難いナ……ちょっと、なんでそのまま帰ってくんダ⁉︎降ろしてくれヨ‼︎」
「「南無三」」
合掌。
SAOが楽しいゲームからデスゲームと化してからおよそ一カ月。
攻略組は現在、噴水広場に集まっていた。
中央には勿論、指揮官たるディアベル。
目的はただ一つ、フロアボスの討伐による一層攻略。
今日全てが決まる、誰もクリアできない魔のゲームを勇者たちが切り開くか、はたまた絶望に突き落とすのか。
「みんな!いきなりだけどありがとう!たった今、誰一人欠けることなく全プレイヤーが集まった!」
途端、歓声は広場いっぱいに響き渡り、滝のような拍手が鳴り響く。
今回の討伐はAからGの隊とあぶれ者四人組に分かれて行う。
例えば、B隊は壁、つまりタンク役で、E隊は攻撃及び取り巻きコボルド殲滅枠。
ちなみにあぶれ者四人組はキバオウ隊長のE隊のお手伝いである。
「……損な役回りね、完全に味噌っかすじゃない」
「やあ、アスナお嬢様が御立腹だ。キリトなんとかしろ」
「あのな、イザヨイ……」
「イザ兄には何言っても無駄だから言うだけ損だぞ」
赤いフードを被ったレイピア使い、アスナ。
全身黒尽くめの剣士、キリト。
アスナ命名金髪ヤンキー、イザヨイ。
金髪ヤンキーの相方、ホムラ。
以上四人が組み分けの時にあぶれた四人組である。
幸いにも、最上階までの道のりは死者は一人も出なかった。
こういった大所帯での進軍および戦闘は多くのプレイヤーが初めてであり、十六夜ですらこういったことはない。
もっとも、十六夜は一人で一国の軍隊と戦えるだけの実力が現実ではあるのだが。
「ちょっといいか?一応確認しておきたい事がある」
キリトが三人にそう言って身を寄せた。
確認は出発前に一度したがやはり不安が拭えないのだ。
「今日俺たちが戦う"ルインコボルド・センチネル"はボスの取り巻きで雑魚だけど充分強敵だ。頭と胴体の大部分を金属鎧でがっちり固めている」
「貫けるのは喉元の一点のみ、でしょ?」
「そうだ。俺とホムラで長柄斧を跳ね上げさせるから二人はすかさずスイッチで飛び込んでくれ」
焔とアスナはコクリと頷いた。
十六夜は、真面目そうな顔をしているが心の内では何かしら思うところがあるようだ。
「そういやモンスターって関節技効くのか?」
「いや、それは試したヤツがいないから……って、イザヨイは何考えてるんだよ」
「どうせロクでもない事よ」
「失敬だなアンタら。いや、効くなら一人が関節技で動きを止めてあと全員でタコ殴りっつーのは有りかと考えたんだが」
いや、サイズ考えろよ!と三人は心の中で突っ込んだが十六夜の顔が真面目すぎるため本気でやりかねない。
そのうちボスモンスターを縛り付けるとか亜人型モンスターに亀甲縛りとか言い出しそうだ。
「……見た目通り粗暴なのね、イザヨイさん」
「おー、そうだとも。粗野で凶暴で快楽主義と三拍子揃った駄目人間だから気を付けろよ」
「ホムラさん、彼の取扱説明書をお願いできますか?」
アスナは年上である十六夜に一応敬称をつけるが敬語は使わない。
やはり見た目と粗暴な性格だろう。
反して焔には敬称も敬語もある。
この差は人間性の違い。
「……取り扱い方は悟りに近いから教えるのは無理」
ぐだぐだ身になるような全く身にならないような会話をしながら進んでいたらいつのまにかボス前までやってきてしまった。
四人がいる後方に道中モンスターは襲ってこなかったのはラッキーと言えるだろう。
攻略隊の目の前には重厚な灰色に光る巨大な物体が、恐ろしげな獣の頭をもつ魔物のレリーフが施された扉があった。
それはまさにダンテの神曲に出てくる地獄の門、『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』と言わんばかりの威圧感と恐怖を放っていた。
扉は重厚な音を立てながらゆっくりと開く、
———この門をくぐる者は———
攻略隊はゆっくりと歩みを進める、絶望しか無かったこの馬鹿げたゲームに光を放つため。
———
ちょっとした説明
Q.問題児シリーズの世界との関係は?
A.この作品の世界は問題児シリーズの世界のif、つまりもしもの世界です。
箱庭に行った十六夜もいれば行かなかった十六夜もいると考えた結果、正史の十六夜とは違う運命を歩んでいます。
箱庭とこっちの十六夜が接触することはありませんが確かに箱庭は存在しています。
Q.十六夜の年齢は?
A.十六夜の年齢は23歳という設定です。
どうしてもSAOの年代に当てはめるとなるだけ若くしようと考えてもここら辺が限界だったのです。
問題児シリーズ一巻の出版年から十六夜の年齢を考えてしまうと……
ちなみに焔は16歳です。
Q.鈴華は十六夜を心配してますか?
してません。
元ネタ紹介のコーナー
『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』
"神曲"、地獄の門
この先に一切の希望なし、そこにあるのは絶望のみ。
知ってる人も多いかも。