田舎に帰るとやけに自分に懐いた褐色ポニテショタがいる 作:SHV(元MHV)
https://twitter.com/ferea86/status/956556083484540928
これがどうなっていくかはびみさんとの今後の相談次第です!(笑)
うだるような暑さのなか、俺は自身が育った生まれ故郷の田舎へと帰ってきた。
都内から新幹線で三時間。さらに在来線で一時間。おまけにタクシーで四十分。
それらの行程を打破し、ようやく俺はこの秘境めいた田舎へと帰ってきた。
「よっと……ついたーっ! 田舎!」
「にーちゃーん!」
「お!」
リュックサックの位置を直し、手にした土産を確認しながら背後のタクシーが去っていくのを感じていると、正面から快活な声をあげて見覚えのある褐色の少年が駆け寄ってくる。
「久しぶり~!」
「圭!」
以前会ったのが正月の時。その時から半年と二ヶ月が経過した従兄弟は、全身を小麦色に焼いた姿で目の前に現れた。
「ばーちゃんが迎えに行けって言うから来た! にもつにもつ♪」
「サンキュ。ばーちゃん元気か?」
「うん!」
以前持ち帰ったお土産の東京バナナに味をしめたのか、嬉しそうに紙袋を受けとる圭。だが残念。今回の中身は雷おこしだ。
改めて目にすると、僅かな間に従兄弟の圭が変化したのがわかる。特に顕著なのが、ポニーテールにした黒髪だった。
「ていうかお前髪伸びたな」
「へへっ、まあな!」
なぜか伸びた髪を誇らしげに揺らす姿に、俺の心臓は奇妙な高鳴りを覚える。
(……ちくび見えてる)
おさがりのランニングシャツから覗く胸元の蕾。はっきりと色の別れた褐色と白色のコントラストが何故だか目に眩しい。さきほどは気にしないようにしていたが、短パンから覗く太ももの日焼け痕の境目がひどく気になった。
だからことさらそれを気にしないように、
「女の子にでもなるつもりかあ~?」
「そんなんじゃねーし!」
笑いながらじゃれつくようなパンチを腰にもらい、いつの間にか少しだけ縮んだ身長差にふと汗のにじんだ
(それにしても……)
久々に会った従兄弟が、なんだか色っぽく見えるとは……。
クマゼミか、アブラゼミか。セミの声に意識を逸らしながら、俺は圭の後ろを着いていきながら実家へと戻った。
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ポニテ、恐るべし。
今の俺の心境はこれに尽きるだろう。
俺は今目の前でふりふりと揺れるポニテに気を取られながら、従兄弟の圭と一緒に格闘ゲームに興じている。
「お前の座布団あるだろ。毎度のことだけどやりづれえ」
これも俺が実家へ帰省するようになってから毎度のポジションなので今さら言ってもしょうがないことではある。そして案の定圭の返事ははっきりと移動を拒絶するものだ。
「ここがいい! ってにーちゃんアイテムずる!」
「はいはい」
年の近い友達も少ないという圭にとって、俺と会える数少ない機会は本当に楽しみなことらしいことをおばさんから聞かされている。なので、俺としてもそんな可愛い従兄弟と触れ合うのはやぶさかではないのだが……。
思考が危険な方向へ行くのを防ぐため、俺は意識を脳内から眼下の圭へと移す。
そして改めて目に彼のポニーテールが入ってくる。
「ていうかお前なんで髪のばしてんだ?」
それは何気ない疑問。特別伸ばす理由も、事情もなかったと思ったが。
「うりゃっ、りゃっ、んー?」
慣れたキャラクターを片手間に扱う俺に対し、圭はひとつひとつの操作に必死だ。そんな彼は俺の疑問に少しの時間考えると、俺にポニーテールを見せたままなんでもないように聞いてきた。
「なんでー? へん?」
どこか勢いのなくなったキャラクターが今の圭の心境を表している気がして、俺は咄嗟に本音が漏れてしまう。
「いや、変っていうか……むしろかわいいっつーか……ポニテ」
「えっ、ほんと?」
こっちはドギマギしながら答えたというのに、圭のやつ嬉しそうにこちらへ振り返ってくる。
ゲームで興奮したのか頬は赤く、その表情にはどこか喜色が浮かび、眼差しには期待が込められているのがわかってしまう。
(うお、なんだ急に)
俺は鳴り止まない動悸が圭に聞こえていないことを祈りながら、冷や汗をたらしつつ無難な返事をすることに成功する。
「う、うん……」
疑問符を浮かべながらどうにか答えてみせた俺の言葉を聞くと、圭は露骨にその表情をへにゃりと緩め、うれしそうににやにやと微笑みだす。
「へへぇ、そっか~」
「な、なんだよ、きもいな……」
「べっつに~」
俺は心にもない“きもい”という言葉で圭を牽制したつもりなのだが、従兄弟の表情は変わらない。
どうしてだろうか。
男の子のはずの従兄弟がなんだか可愛い……ような……。
これもすべてポニテのせいだろうか。
そんな風に俺は内心をすべてポニテのせいにすると、一切の操作を投げていた俺のキャラクターが無惨にも圭のキャラクターの飛び上がりアッパーカットによってKOされるのだった。
「やりい! 俺の勝ち!」
「ちょおま、いつのまに!」
負けてしまったことを悔やむよりも、密着した肌が気になりだしながら、俺はこの時間をもう少し続ける為に再戦を申し込むのだった。
もうね、日焼けとか反則。
特に振り向き笑顔でへにゃるとか死ねる。