田舎に帰るとやけに自分に懐いた褐色ポニテショタがいる   作:SHV(元MHV)

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最☆新☆話

相変わらずびみさんの4コマってクオリティ高い。
なんでかって、どのノベライズにしてもきちんと同じほぼ同じ文字数に収まるんだよこれが。
というか漫画を小説にするの滅茶苦茶勉強になるわ。今回も快く加筆部分の許可をくれたびみさんに感謝を!


その③

──まだ、熱が治まらない。

 

あの振り向き様目に焼き付いた、上気した圭の顔。

 

思い返す度に不思議と心臓を締め付けるその表情が、俺の頭を悩ませる。

 

それら全てを逆上せたせいだと決めつけ、湯上がりで熱くなりすぎた頭を無駄に広い八畳間の畳で冷やしつつ今一度過去の圭を思い出そうと努力する。

 

「……」

 

だけど、どんなに考えても思い浮かぶのはあのとき触れて、振り向いた圭の顔。

 

(まだ……頭から、離れねえ……)

 

これ以上この気持ちを深追いするのは危険だと、脳の何処かが警鐘を鳴らしている気がする。

 

だからこそ俺は必死に、今とは違う圭の姿を脳裏に描こうとして失敗を繰り返す。

 

(昔のアイツ、どんなんだったっけ)

 

それでも一つ一つの情報を整理していけば、見えてくるものだってある。

 

そう、確か──

 

(髪が短くて、もっと背が低くて、俺にちょこまか付いてくんのは変わんなくて……)

 

──堂々巡り。当たり前のことしか浮かばない。むしろ、あの頃の姿を思い浮かべた圭の表情とさっきの表情が重なってしまい余計に動悸が酷くなる。

 

(でも何かもっと、違うもんが……)

 

「にーちゃん」

 

思考が強制的に中断される。先程までの思考は何処かへと消え失せ、俺はぼんやりとした頭で横に座った圭を見上げる。

 

「ん、けい……」

 

「にーちゃん大丈夫?」

 

微睡むようなその言葉にか、それとも思い詰めた俺の顔色を見てか、どこか焦ったように圭が俺を心配してくれる。

 

(ああ……こうやって心配してくれる子に俺は一体……)

 

年長者として、兄として、自分の立場をそれで再確認した俺は気持ちを切り替えうつぶせから仰向けへと変わってサムズアップしてみせる。

 

「たいしたことねーよ」

 

「ほんと!?」

 

俺の言葉を聞いて、心底嬉しそうに立ち上がる圭。

 

そうだ。こんな一時の気の迷いに、この子を巻き込んでいいはずがない。

 

今まで抱えてたモヤモヤをどこかへ避けて、兄として律した自分で俺は圭と接する。

 

「よかったー! アイスあるよ! たべる?」

 

わーい、と飛び上がらんばかりにその場でくるりと振り返る圭。

 

その様子を見て、俺は今更ながらに圭の格好に気づく。

 

「あれ、つかお前その服」

 

立ち上がるとよくわかる、圭の体からすれば明らかにオーバーサイズのそのTシャツに俺は見覚えがあった。

 

「ん? これ?」

 

「そうそう」

 

「んー、前ににーちゃんが置いてったやつかも」

 

両手を広げ、どこか見せびらかすよなポーズを取る圭。一般的なスポーツウェアであるそれは、確かに過去俺が着ていたものだった。

 

「あー、どうりで見たことあるわけか」

 

なるほど、と納得した俺はそのサイズの違いに微笑ましくなり笑みを浮かべてしまう。

 

「にしてもまだまだでかいな!」

 

「いいんだよパジャマだから!」

 

俺の言葉にやや語気を荒くそう返して、圭はふすまを開けて部屋を出ていく。アイスを取りに行ったのだろう。

 

閉まったふすまの音と同時、俺は思わず鼻息を漏らす。

 

(俺の服着てんのか……)

 

その事実を抱え、俺は笑いだしそうな腹筋を押さえつけて可愛い従兄弟を思い起こす。

 

(ぐ……ッ(かわいい……!)!!)

 

心の声が心の声で塗り潰されるほどの可愛さ。だが先程のように気が動転するほどではない。この程度なら問題ない、そう考える俺は何故だか自分がドツボにハマっている気がしたが、今はただアイス()が戻ってくるのが待ち遠しかった。 

 

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「……っ」

 

ふすまを閉めて、不意に込み上げてきた恥ずかしさが顔全体を染めていく。

 

思わずシャツの裾を掴み、無言で先程までの自分を圭は恥じた。

 

「そういえばそうだった」

 

思わず小声にして漏らしたそれは、ずっと着てたくせに本人に指摘されて急に恥ずかしくなった感情を、吐き出すことで少しでも整理しようとするものだろうか。

 

圭はシンプル(単純)な思考で考えるが、それそのものに答えは出ない。

 

「おばあちゃん! アイスちょうだい!」

 

「いいわよ──って、2本も食べちゃダメよ」

 

「1本はにーちゃんのだよ!」

 

「あら、逆上せたって言ってたけどあの子大丈夫なの?」

 

「うん! だいじょーぶって言ってた!」

 

祖母の顔を見もせず、逆上せて暑かったであろう兄へと圭は走ってアイスを持っていく。

 

けれど、部屋に入る前に圭の胸中には無償に恥ずかしさが込み上げる。

 

思わずこそりと体を隠してアイスを渡そうとしたら、にーちゃんに「なんだよこそこそして」と言われてしまったので素直に部屋へと入ることにしたが。

 

けど、次に自分の姿を見たにーちゃんの笑顔は悪くないと、圭はさっきと違う理由で頬を赤らめながら彼の隣へと座った。

 

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【──その後──】

 

蚊取り線香を焚きながら、俺は田舎特有の夜の涼しさを味わいながら口中に広がるアイスの甘さを噛み締める。

 

「にーちゃんどれくらいいるの?」

 

不意に隣の圭から投げ掛けられた質問。俺はお盆休みの期間を計算し、ぎりぎりの日数を答える。

 

「んー、一週間くらいかな」

 

本当なら一日早く帰って体を休めるつもりだったのだが……まあ問題あるまい。

 

「ふーん……あ、そしたらギリギリお祭り行けるじゃん」

 

「おー、ほんとだ」

 

確かにギリギリだが、圭の言うとおり行けなくはない。

 

俺は、嬉しそうに、楽しそうに微笑む圭の横顔を見ないようにしながら、口中の甘さをただひたすら味わった。

 

 

 

 

 

 

 




今回はびみさん曰く休憩回。だからこそ内面にもこれまで以上に踏み込ませていただきやした! 甘酸っぺえ!

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