田舎に帰るとやけに自分に懐いた褐色ポニテショタがいる   作:SHV(元MHV)

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全然書けなかった。というのも、書く時間があったら睡眠に回していたのが大きいです。
お待ちしている方がいたならば、とても申し訳ないことをしました。
あとさらっと前書きでびみさん言っているけど、フェレゴリさんで統一します。
フェレゴリさんすまぬ!


その④

朝。

 

視界に入る天井の色と、かつて嗅ぎ慣れた畳の匂いにここが自分の家ではないことを自覚しつつ──昨夜の圭の肌の色が生々しく記憶に蘇る。

 

正直色々と思うところがありすぎて昨晩きっちり眠れたかと言われれば非常に怪しいものだが、それでも目を覚ましつつ顔を洗いに洗面所へ向かって──寝ぼけた目に圭の()()()が飛び込んできて目が覚めた。

 

長い髪を器用に結わえ、口にしたヘアゴムで持ち上げた黒髪を纏めようとするその仕草。タンクトップから漏れた日焼け痕の境目に、まるで自身の理性が試されているような錯覚を覚えて俺は思わず欠伸(あくび)をするのも忘れ見とれてしまう。

 

「お……はよ」

 

──そのまま固まっているのは不味かろうと、どうにか口から言葉を絞り出す。

 

我ながら不自然極まりない挨拶だったが、それでも俺からの挨拶に圭が嬉しそうに振り向く。

 

「にーちゃん!」

 

振り向いた笑顔に何度目かわからない謎のダメージを受けつつ、俺はそれを誤魔化すように口許へ近づけていた左手で顔の半分を覆う。にやけた自分がバレやしないかとドギマギしながら。

 

「おはよ!」

 

「ん」

 

(……イイとか思ってしまった)

 

返された言葉にどこか素っ気ない返事をしつつ、俺は身支度をする圭を見て鎌首をもたげた情動を兄としての感情で抑える。

 

そんな諸々が浮かび始めた内心を誤魔化すように、俺は不意に思ったことを圭へと尋ねた。

 

「毎日結ぶの大変じゃないか?」

 

「うーん、慣れたらそうでもないけど……でもたまにめんどくさいかも」

 

「へえ、そういうもんか」

 

ポニーテールの位置を調整しつつ答える圭に俺は疑問が解消されたことを納得した。しかし何やら思い付いた圭が、不意に頭上に電球でも浮かんだかのごとく背筋を伸ばす。

 

「あ、そうだ」

 

そう言うと、圭はせっかく綺麗にまとめたポニーテールを(ほど)きつつ俺へと爆弾を投げ込んだ。

 

「にーちゃんやってみる?」

 

「は?」

 

目を閉じながら解かれた黒髪に目線を奪われていた俺は、素で驚き思わず聞き返してしまう。

 

櫛を渡され、冷や汗をかきつつ戸惑う俺は洗面台の鏡越しに圭の正面と背後と対面しながらどうしたものかと考える。

 

「や、やってみるって」

 

改めて見下ろす形になった圭の黒髪と、その下に隠れたうなじ。ただ髪を整え縛るだけだというのに、思わず俺は息を飲む。

 

まるで、触れることそのものを恐れるかのように。

 

──数分後──

 

(……は? むっず……!!)

 

ぐちゃあ、と言わんばかりに乱れた圭の髪を見下ろしながら俺は自身の不器用さを呪った。

 

俺がまとめることでそこに現れたのは、もはやポニーテールとは言えない形容し難きナニカ。むしろこれをやれと言われた方が難易度は高いのではないか。そう断言できるほどに見事な乱れ髪が俺によって圭の頭上に形成されていた。

 

「にーちゃんへたくそ」

 

笑顔で告げられた言葉が痛い。なんという難易度か。というかこれを毎朝やるとか、圭の器用さに尊敬を通り越して畏怖する思いである。

 

(え? なにこれ一つにまとめて結ぶだけだろもはやまとめることさえ出来ねえちょっとこれポニテむずくない???)

 

「落武者かよ……」

 

「あはははは! 落武者! 俺ハゲてねー!」

 

自身の成した結果にそんな感想を漏らす俺を圭がケラケラと笑う。

 

──……よし、もう一度リベンジしよう。

 

圭の柔らかく細い綺麗な黒髪をその手に取る。思わず嗅ぎたくなる衝動を抑えつつ、手にしたヘアゴムを携えポニーテールへとまとめていく。

 

まずは長い黒髪を手に取り、ひとつにまとめる。このまま勝手に髪が固定されないだろうかと思うが、そうはいかない。

 

次に手の位置を固定したまま輪ゴムを通す。……失敗。また髪がたわんでしまった。落武者part2である。圭は楽しそうに俺が髪をいじるのをまっているが、俺はもう色んな意味でいっぱいいっぱいである。

 

──さらに数分後──

 

「お、おお……!!」

 

俺の声は、喜びという名の感動に打ち震えていた。

 

通常時圭がするよりも位置は低いが、それでもこれまでやってきたどれよりもポニーテールである。

 

思わず不器用な自分を誉めたくなるような改心の出来だ。

 

「少し不格好だが、今までで一番上手くできたぞ。ちょっと低いけど」

 

「ほんと?」

 

「おー!」

 

思わず始まった圭の髪を結ぶという一大仕事を終え、俺は一息()く。

 

「あーっ長かった! ばーちゃん待ってるよ!」

 

ぐぐ~、と同じ姿勢を取り続けた圭が凝った体をほぐすように全身を伸ばす。

 

「ちょ、結び直さなくていいのか? あんまキレイじゃないぞ」

 

「うんっ」

 

にひーと笑う圭の横顔は、照れているのかほんのわずかに赤らんでいる。

 

「にーちゃんが結んでくれたのがいい」

 

にへ、と笑う圭の振り向き様の笑顔が向けられた。

 

「今日は一日これで過ごすー!」

 

「……」

 

これ以上少しでもばあちゃんを待たせぬよう、トタトタと走り出した圭の後を俺はすぐに追うことはできなかった。

 

今俺は、これ以上ないくらいに自身の顔が赤い自覚がある。

 

さきほどのように半端に口許だけを抑えるのではなく、顔全面を手のひらで覆いながら俺は今しがたの圭の姿が脳裏にリフレインするのを感じる。また忘れられない光景が増えてしまったと、どこかで考えながら。

 

(イイとか思ってしまった(二度目))

 

圭の何もかもが眩しい。それが朝だけの気のせいでないことを自覚しながら、俺は顔の火照りを冷ます為冷水で顔を洗うため洗面台へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その後──

 

 

 

自分自身は既に済ませたのか、食事をする俺と圭をばあちゃんが眺めている。

 

「圭、その頭どした? 突然不器用にでもなったか?」

 

「ゴフッ」

 

思わず味噌汁を吹き出しながら、俺はばあちゃんの問いかけに動揺する。

 

しかしそんな俺の心情などいざ知らず、圭とばあちゃんは実に快活に言葉を交わす。

 

「にーちゃんにやってもらった!」

 

えへへ、と笑う圭の笑顔が眩しい。

 

「あ~そうなんね。よかったね」

 

何もかもを見透かすようなばあちゃんの笑顔と、無邪気に笑う圭の笑顔。

 

そんな二人の笑顔を横目で見ながら、俺はさっさと朝食を終えようと白米をかきこむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……疲れた。
でもなんとか書けたことにホッとした。

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