茂野吾郎を甲子園に連れて行きたい   作:破壊王子

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この小説はMAJORの二次創作です。

梅雨に入りましたね。雨は気分がブルーになるのであんまり好きじゃないです。


【第13球】代理捕手

 

 

 

2年の田代先輩、宮崎先輩、内山先輩はユニフォームと道具を受け取るとすぐに帰ってしまった。まあこのままここにずっと居ても意味はないし仕方ない。野口達も少し茂野先輩から説明を聞いた後、帰ってしまった。

 今この場にいるのはオレ、茂野先輩、藤井先輩、中村先輩の昨日いた4人だけだ。

 

 

「すいません茂野先輩。オレなんか熱くなっちゃって…」

 

 

 さっき田代先輩に突っかかったことである。もし茂野先輩が来るのが少し遅かったら田代先輩が怒って帰り、大変な事になっていたかもしれない。1番避けたかったケースだが、そうなっていても何も不思議じゃない場面だった。

 

 

「気にすんな球也。田代(あいつ)には明日プレーで黙らせりゃいい」

 

 

 確かにその通りだ。言葉では何一つ進展しない。大事なのは結果を残す事だ。それしか聖秀野球部(オレ達)が進む道はない。

 

 

「ねぇダーリン、今からどうするの。よくわかんないけど明日の相手強いんでしょ?練習する?」

 

 そうだ。相手は横浜帝仁……茂野先輩は恐らく抑えてくれると思うけど、例え0に抑えたとしてもこっちが点を取れなきゃ勝つことは出来ない。

 

 

 オレが打たないと。

 

 それがオレの存在意義だ。久し振りの実戦だけど、やるしかない。打てなけりゃオレは只のカカシと変わらないぞ。

 

 

「今更どうこう慌てても仕方ねえよ。中村、山田先生から部室の鍵預かってっからちょっと藤井と一緒に掃除しててくれねえか?ほら、ここから見えるあの部室だ」

 

 

「えーーー!?こいつと!?」

 

 

 掃除、というより藤井先輩と一緒にいる方が中村先輩にとっては不満のようだ。やはりこの2人の間に本当に何があったんだろう。藤井先輩の顔を見る限り只事じゃない気がするからなんとも聞きづらい。

 

 

「頼む。俺も野暮用済ましたら行くからよ」

 

「む〜……まあダーリンがそこまで言うなら…ほら行くよグズ男!」

 

 

 中村先輩は茂野先輩から鍵を預かり、藤井先輩と一緒のペースにならないように早足で向かった。その後を藤井先輩は重たい足取りでついていった。

 

 やる事ないし掃除手伝おうかな。

 そう思って2人の後にオレもついていこうとすると。

 

 

「待て球也」

 

 

 茂野先輩に腕を掴まれた。最初に会った時のように。相変わらずすごい握力だ。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「お前、バッティングに自信があるんだったよな。ちょっとつき合えよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 言われるままに茂野先輩についていった。着いた場所は河川敷のグラウンド。夕方で誰も使ってはいないが、多分こういう場所は許可がないと使えないんじゃないか?

 

 しかし茂野先輩はそんな事を気にせずにグラウンドへ入っていった。そしてバッグからグローブとボールを出した。そしてスパイクも履いて、やる気満々の顔をしながらこちらを向く。

 

 

「キャッチボールしようぜ球也」

 

「あ、はい」

 

 

 オレもエナメルバッグからグローブを出し、スパイクを履いて茂野先輩とキャッチボールを始めた。

 

 先輩は軽く投げているがボールが凄く伸びているのを感じる。110㎞くらいしか投げてないんだろうけど、体感的には120…いや130㎞くらいに見える。

 伸びているだけではなく、球威もかなりあるようだ。まだ本気ではないが、当てただけではそんなに飛びそうな球ではない気がする。

 

 

「お前もけっこー速い球投げるじゃねえか!まあ棒球だけどよ」

 

 

 褒めといて一気に落ち込ませるなよ…まあ棒球って事実は本当なんだけどね。

 なんでそうなるのかはわかんないだよな。手首の使い方とか、ボールをリリースする時の指先の使い方とかが悪いんだろうか…まあオレはピッチャーじゃないから別にいいんだけどさ。

 

 

「そういえば茂野先輩って、変化球なに投げるんですか?」

 

「変化球?いや俺は真っ直ぐしか投げねえよ」

 

 

 それを聞いたオレはあまりの驚愕にボールを捕りそこない、グローブの先端に当たった後、ボールはオレのデコに直撃した。

 

 

「お、おい!大丈夫か球也!」

 

 

 心配して茂野先輩が倒れたオレの元へ駆け寄って来る。いや大丈夫じゃないのはアンタの方だろう。

 

 

「いっててて…いやこんな事より、本当にストレートだけなんですか?」

 

「あ?そうだけど」

 

「……」

 

 

 この人本当に海堂のピッチャーだったのか?確かに先日見たストレートは本当に凄かったけど、しかし…海堂となると既にプロレベルがゴロゴロいる。それをストレート1本で抑えるとなると…

 

 うーん…わからないな。まあ前見た時の茂野先輩が全てではないだろうし。

 

 

「お前…俺を信用してねえな?」

 

「えっ?」

 

 

 ドキッとした。やばいちょっと怒ってるかな?

 でもそう思ったのは事実なんだし…仕方ないよな?

 

 

「は、ははは。そんな事……」

 

「…やっぱり信用してねえな」

 

 

 やはり疑われている。

 

 

「本田ー!約束通り来てやったぞー!」

 

「おう清水!おせーぞ!」

 

 

 気まずい雰囲気の中、清水先輩がなにやらすごい荷物を抱えてやってきた。このタイミングで来てくれたのは非常に有難い。

 

 

「じゃあ早速始めようぜ。ほらはやく」

 

「わ、わかってるって。そう急かすなよ」

 

 

 始めるって何を?

 そんな疑問を抱いていたら、答えはすぐにわかった。清水先輩は大きなバッグを開けると、そこからキャッチャーの防具を取り出し、自分へと着け始めた。

 

 

「え?な、何やってるんですか清水先輩」

 

「何が?」

 

 

 何ってこっちの台詞だよ。まさか清水先輩…茂野先輩の球を受ける気なのか?

 待て待て。いくらソフトボールの経験者であろうとそれはキツイだろ。オレだって捕れるかわからないのに。

 

 

「球也、お前の思ってる通りだ。つまり清水にキャッチャーをしてもらう。明日の試合もな。だってキャッチャーできる奴いねえだろ?」

 

 

 いやいや何を考えてるんだ茂野先輩は。女の子に向かって本気で投げる気なのかこの人。

 清水先輩も妙にやる気みたいだし…なんだこの人達。おかしいのはオレなのか?

 

 

「よし…じゃあ本田、まずは軽く投げろよ。目を慣らしてからじゃないと」

 

「ああ。わーってるって」

 

 

 茂野先輩はマウンドへ上がり、大きく振りかぶった。そしてゆっくりと腕を振ると物凄い球が指先から放たれる。清水先輩はその球に驚きながらもなんとかそのストレートを捕ることができた。

 

 135…いや140㎞は出てたんじゃないか?清水先輩はよく捕ったよ本当に。

 

 

「痛ぅぅぅ〜!こら本田!軽くって言っただろ!」

 

「あん?軽く投げただろうが」

 

 

 さっきから清水先輩は茂野先輩に向かって『ホンダ』と呼んでいるけど、それはなんでだろう。どこに『ホンダ』要素が?あだ名?

 

 

 茂野先輩はそのまま軽くとやらで10球くらい投げた後、「そろそろ本気で行くぜ」と言い出した。

 

 

 今までだってそこそこ本気────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────なんてオレは思っていた。いやオレだけじゃなくて清水先輩すら思っていただろう。

 

 しかしその瞬間、茂野先輩の指から放たれたストレートは、全く反応できなかった清水先輩の顔の横を通り過ぎ、後ろの網へとめり込んだ。

 

 

「おい清水!しっかり捕れよ!」

 

「……」

 

 

 しっかり捕れって?こんなモン初見で捕れるはずがない。こんな速い球を投げる左腕なんか、プロ野球でも数える程しかいない。ほら清水先輩もビックリして声が出てないじゃないか。

 

 

 さっきは正直ほんの少しだけ疑ってた。ストレート1本で海堂に通用するわけない、と。しかし茂野先輩はこのたった1球でオレを信じさせた。打席に立たなくてもわかる。このストレートはそんじゃそこいらのバッターじゃ手も足も出ない。

 

 

「おい清水…まさかお前、捕れない…なんて言わないよな?」

 

「とっ……捕るよ!ほらもう1球!」

 

 

 清水先輩…いま一瞬『捕れるわけないだろ!』って言おうとしたんじゃないかな。いやそう言いたくなる気持ちはわかるよ。だって速すぎるもん。

 

 それから何球か茂野先輩は本気で清水先輩に投げ込む。しかしなかなか上手く捕ることはできない。プロテクター…つまり防具をつけているとはいえ硬球、しかも150㎞くらいの球を体に何球かぶつけられていてめちゃくちゃ痛いだろう。正直みてて痛々しい。

 

 

「あの…!オレキャッチャーしましょうか?」

 

 

 これ以上女の子が苦しい顔をしているのは見ていられない。こんな速い球オレも多分すぐには捕れないと思うけど、これ以上清水先輩が痛い目に遭うならオレがキャッチャーした方がいい。

 

 しかしそう提案したオレを、清水先輩がマスク越しに鋭い目で睨んできた。

 

 

「馬鹿にするな!秋浦!お前も突っ立ってないで素振りでもしてろッ!」

 

「…!」

 

 

 怒られた。

 

 別に馬鹿にしてるわけじゃないんだけどな。ただこれ以上やったってあの球を捕れるはずがない。

 

 

 

 なんて思いながらベンチに置いてあるバットを取りに戻っていたら、背後からすごい音が聞こえた。この音は多分親の声より聞いたかもしれない。

 そう、キャッチャーミットにボールが収まる音だ。

 

 

「とっ…捕れた…」

 

「へへ…!」

 

 

 捕った清水先輩本人が1番驚いている。茂野先輩はその清水先輩を見ながら嬉しそうにしていた。

 

 

「すごいっすよ清水先輩!」

 

「そ、そうか…?」

 

 

 いや本当に凄い。女の子なのに…いやこんな事言ったら清水先輩は怒るだろう。とにかく凄いんだ。

 その後も何球か投げたが、いずれもしっかり捕っていた。確実にマグレではない。

 

 

「へへへ…やっぱりやればできるじゃねーか清水!ソフトボール部は伊達じゃねえな!」

 

「まあな…」

 

 

 清水先輩がキャッチャーをできることによって、明日の試合は何とかなりそうだ。

 いや…本来それでは駄目なはずだ。練習試合ならば女の子の清水先輩も出場する事はできるが、公式戦ではそうはいかない。最悪オレもキャッチャーを練習をしといた方がいいかもしれないな。

 

 

「よし…これで心置きなく勝負できるぜ。

 …球也!ヘルメット被って打席に立てよ。お前が聖秀の4番を打てるか試してやる!」

 

 

 茂野先輩がそう言ってきた。マウンドに立っている茂野先輩からは凄まじい闘志を感じる。この人の武器はあの豪速球だけじゃない。この闘志だ。

 

 オレと茂野先輩が勝負…打てるのか?中学時代の眉村を打てなかったオレが?

 

 いや打たなきゃいけない。ここで茂野先輩に安心させるくらいの4番にならないと。

 

 

 

 オレはバットを強く握りしめて、約2年ぶりにバッターボックスからマウンドにいる投手を見上げた。

 




はい、第13球でした。

清水って本当にすごいですよね。ノゴローくんの真っ直ぐをとるなんて…

ではお疲れ様でした。
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