球也くんのバッティングフォームは、2010年の『読売ジャイアンツ』阿部慎之助選手のフォームを想像していただけると嬉しいです。
推定身長180㎝。
しかしそれはあくまで〝平地〟での話だ。
マウンドに立った時の彼はさらに大きく、強大に見えた。打席に立っている時にも茂野先輩からは威圧感を感じたが、
これぞまさにエースの威圧感。
対人間の打席には久し振りに立つ。あの眉村以来だ。打てるイメージは湧かないが、それでも打つしかない。
「いくぜ…球也!」
彼は大きく振りかぶる。そして大きく右足を上げた。オレもバットを揺らしながらタイミングを取る。初球だろうと関係ない、全力でフルスイングだ。
「…っ!」
心に決めた通りに全力でフルスイングした。しかしオレの振ったバットにボールが当たることはなく、虚しくミットに収まった。
速い。
考えられないくらいに。恐らくオレが人生で対戦する左腕で、1番速い相手になるだろう。バッターを相手にすると、先程のピッチングより遥かに速く感じた。
「おらぁッ!」
2球目。
これもフルスイングしたがやはりバットにボールは当たらない。何故だ?ストレートとわかっているのに。
本来なら追い込まれた時点で軽打に切り替えるのも1つの手だ。しかし───違う。
オレの求めている4番はそんなものではないし、求められているのも違うだろう。どんな状況下であろうとフルスイング。結果がボテボテの内野安打だろうと良い。たった一振りで流れを変えるバッティングができる4番、それをオレは目指したい。
「これで…終わりだッ!」
茂野先輩の真っ直ぐが襲いかかってくる。オレへじゃなく、ホームベースのど真ん中へと。
「フンッ!」
3回目のフルスイング。それは変わらない。変わったのは───
「なッ……」
「へッ!当てやがったよ、こいつ……」
当たった。初めて当たった。ボールはバットに掠った後、バックネットに激しくめり込んだ。
硬球をバットに当てたのは小学生以来か?手がビリビリする。手袋をしていても電撃を食らったみたいに痛んだ。
茂野先輩も清水先輩も驚いてはいたが、茂野先輩はそれ以上になんだか嬉しそうでもあった。
しかしただファールになっただけ。依然として追い込まれている状況は変わらない。
だけど───なんだか少し気持ちが落ち着いた。
茂野先輩の球は物凄い。物凄いけれど、決して当たらないというわけではない。どんなに凄いピッチャーでも打たれない事はないんだ。
4球目。
これもバットに当てることができた。同じように打球はバックネットにめり込む。
5球目6球目、そして7球目もファールになり、その中でオレはあることに気づいた。
『だんだんタイミングが合ってきた』
スイングするにつれ、茂野先輩のストレートとタイミングが合ってきた。打球は少しずつ前に飛ぶようになり、7球目に至っては一塁線ギリギリのライナーになっていた。
オレは確信した。〝次が勝負〟だと。
打席に立つにあたって、1番の勝負時というものはたまにわかる。それは次の1球と思う時もあれば、甘い球も見逃した時に感じる『ああ、今の球だ』と前の1球の時もある。前の1球の際は大体コントロールがいいピッチャーの時で、打席に1球あるかないかの甘いボールを見逃した時によく感じるかな。
この打席の勝負時が次の1球だ。これを逃すともうチャンスはない。今追い込んでいるのはオレの方だ。
絶対に
「─────」
振りかぶりながら茂野先輩が何か呟いた。
───その瞬間、オレの気付いた時にはもうボールがキャッチャーミットに収まっていた。オレはスイングをすることすらできなかった。清水先輩は今日1番驚いた表情をしながら尻餅をついている。
違う。
今のストレートは前の7球とは明らかに違う。いや前の7球も手を抜いていたわけではないと思う。しかしそれでも最後の球は何かが違った。
「へっ!俺の勝ちだな球也!」
そう言いながらバッターボックスへと歩み寄ってくる茂野先輩。なんというか…どっと疲れた。たった1打席でこんなに心身ともに疲れたのは初めてだ。
「お、終わったのか…」
清水先輩はマスクを外して寝転がった。この物凄いストレートを捕っていた清水先輩はオレより何倍も疲れてるだろうな。
「どうだ?俺の凄さがわかっただろ?」
痛いほどわかった。まさかここまでとは…藤井先輩には悪いけど、あの時投げていた球とは比べ物にならない。
「…本田、わたし先に帰るな」
「ん?わかった。明日も頼むぜ清水」
清水先輩は急いで荷物をまとめ、急ぎ足で帰って行った。その際にオレには清水先輩が左手を庇っているように見えた。まさか今ので痛めたのか?数球で?いや…あの球威ならそうなっても仕方ないかもしれない。
「なんだアイツ。用事でもあったのか?」
しかし茂野先輩は全くそれに気付いていなかった。なんというか、茂野先輩は清水先輩に対して雑な対応というか…信頼してるというか…よくわからない関係だ。
「あの、オレもそろそろ帰ります。明日朝の8時に学校へ集合でしたよね?」
「あー…そういやそうだったな」
明日も早いという事もあり、オレと茂野先輩はそろそろ帰ることにした。家が近いという事もあり、一緒に帰る形で。
「うわ〜…もうボロボロだなコレ」
「なんだそりゃ。替えはねえのか?」
オレは自分のバッティング手袋をみながら歩いていた。中学から使っているモノだったから所々穴が空いているし、色も変色していた。
「替えはないんですよね。ぼちぼち新しいの買おうと思ってたんですけど、その…辞めちゃったし」
「ふーん…」
そんな話をしていると、茂野先輩は立ち止まった。どうやら家に着いたみたいだ。
デカイ。すっごくデカイ家だ。お金持ちの息子なのかな先輩は。
「じゃあまた明日───」
そう言い残して帰ろうとしたが、茂野先輩に呼び止められて後ろを振り向いた。
「球也。俺、使ってない手袋あるからやるよ。持ってくるから少し待ってろ」
「え?いやでも……」
先輩はオレの返答を聞かずに家へと入っていった。使ってないとはいえ、貰うのはなんか悪いなあ。
そのままずっと家の門の前で立っていた。5分くらい経ったかな。それでも茂野先輩は戻ってこない。もしかしてオレを待たせてるのを忘れた?いや流石にそれはないか。
「ん?ウチに何か用か?」
「あっ…」
ボーッと立ち尽くしていたら家の人が帰ってきた。なんだか気まずい。茂野先輩のお父さんかな。なんだかあんまり似てな───
え……この人もしかして……
「あの…『横浜マリンスターズ』のピッチャーだった茂野選手…ですか?」
「え?ああ、そうだが」
なんてこった……
茂野先輩はあの大投手、茂野英毅投手の息子だったのか。どうりであの野球センスか。
凄い。茂野先輩には驚く事が多すぎる。サインがほしいけどさすがにこんな所ではねだれないな……色紙もないし。
「ところで君は?」
「オレは茂野先輩にここで待っているように言われて…」
茂野先輩ホントに遅いな。手袋何処にしまったか忘れたのかな。
「ああ吾郎の友達か。ならこんな所で立ってないで家に入りなさい」
「え?いやオレはここで…」
「遠慮しないでいい。ほら、入りなさい」
何故かオレは大投手に背中を押されながら、大きな家の中へと入ってしまった。
はい、第14球でした。
MAJORは漫画とアニメで色々と設定が変わるので、ごっちゃになる事があって大変です。
ではお疲れ様でした。