間空いて申し訳ないです。次はできるだけ早く更新するように頑張ります。
「まあ、ゆっくりくつろぐといい」
「はぁ…」
オレは背中を押され、結局家の中へと入ってしまった。外から見た時も思ったけど、やはり大きい家だ。そして隅々まで掃除されていて、やっぱりお金持ちの家という雰囲気があちこちから漂っている。そしてリビングまで案内され、綺麗な椅子に座らされた。
茂野選手はスーツの上着をハンガーに掛け、ビールとジュースを持ってきてオレの目の前の椅子に座った。ところで茂野先輩はまだだろうか…憧れの選手と一緒とはいえかなり気まずい状況だよコレは。
「こんなもので良ければ飲んでくれ。ところで君の名前は?」
「あ、ありがとうございます。オレは秋浦球也と言います。茂野先輩の後輩です」
名前を訊いたあと茂野選手、いやもう引退してるんだったな。茂野さんはオレの足元をチラッと見た。そこには野球のエナメルバッグが置いてあり、オレが野球部だという事に気付いてる様子だった。
「君が聖秀の数少ない男子生徒か…まさか野球の経験が?」
「まあ一応…海堂に居た茂野先輩とは比べ物にならないですけどね」
オレの居た中学の野球部と、茂野先輩の居た海堂の野球部とじゃ天と地ほどの差がある。ちょっとした別競技といっても何ら不思議じゃない。選手も施設も練習時間も全く違う。それは中学と高校だからといった話ではない。ウチの野球部がおかしかっただけだ。
「そうか…秋浦くん」
「はい?」
「1つ言っておくが…アイツは絶対に止まらないぞ。何があろうとも、どんな事が起きようとも海堂を倒す為に全てを尽くすだろう。君はその茂野吾郎という1人の野球選手にしっかりと
ビールを飲む手を止め、真剣な眼差しで茂野さんはそう話す。酔った勢いでもなんともなく、ちゃんとした返答を求めてるみたいだ。
しかし、こんな話は考えるまでもない。野球部に入ると決めた時点ですべて腹をくくっている。
「やると決めた以上は、勿論やり通すつもりです」
『元女子校に野球部を作り、日本一のチームを倒す』
こんな馬鹿げた事に誰が付き合うものか。出来るわけがない。たった3年間しかない高校生活をみすみす無駄にするだけ。
そう思うだろう。いや事実最初はオレもそう思っていた。
でも違う。あの人は違う。言葉では言い表せないが、〝出来るわけがない〟から〝出来るかもしれない〟に変わっていた。可能性はかなり低いが、チャンスが少しでも有るならオレは勝ちに行きたい。
オレが茂野先輩についていくんじゃなくて、茂野先輩がオレを、いやオレ達をついてこさせるんだと思う。付き合いは浅いが、あの人は
その為にも明日の試合は重要だ。もしコケるような事でもあれば、それは聖秀の夏が始まる前に終わってしまう。絶対に勝たないといけないんだ。
「そうか。君は頼りになりそうだな」
「いやそんな事はないです…!」
少しでも聖秀野球部の勝利に貢献できればいいと思っているが、過度な期待はしないでほしい。オレ自身そんな大した選手でもないし、そしてやっぱりさっき茂野先輩と勝負した時も思ったけど、まだまだ自分自身のレベルアップが必要だ。でもその前に先ずはブランクがあるからそれを戻してから、だな。今のだらしない身体じゃまともな練習ができない。
そう決心していると、急にダンダンと階段を降りる音が聞こえて来た。そしてその数秒後にバッティング手袋を持った茂野先輩がリビングへやって来た。
「なんだ帰ってたのか親父。と、球也。おい親父、球也に変なこと吹き込んでねーだろうな?」
「何言ってやがる。お前の無茶に覚悟のない人を巻き込みたくなかっただけだ。まあ…その心配は杞憂だったがな」
あれ?オレ少しだけ認められたのかな?
「ホントかよ…まあいいけどよ。球也、ほらやるよ。ったく…見つけるのに苦労したんだから有り難く使えよ」
茂野先輩な割と速いスピードで手袋を投げてきたがなんとかキャッチできた。
いや欲しかったのは本当だけどオレは茂野先輩に手袋をくれとは言ってないんだけどな…まあこの人はそういう人だから諦めよう。
「ありがとうございます。じゃあオレはそろそろ帰ります」
「おう、車で送ってやろうか?」
「何言ってんだ親父!今ビール飲んでんだろうが!」
ははは…マウンド上ではカッコよかった茂野投手も、家だとウチの父さんと大して変わらないんだな。もちろん嫌なわけじゃないし、なんか親近感が持てて少しだけ嬉しい…かな?
「お邪魔しました!」
帰る為に外へ出た。少し薄暗くなっていた空から、綺麗な星が見える。その星を眺めるように上を向きながら、オレは家へと向かった。
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朝だ。
オレはいつもと同じように朝の支度をし、少し余裕を持って家を出た。
今日の相手の帝仁は、レベルの高い神奈川の中でも強豪といっていい。夏の大会はレギュラー陣がほとんど3年だった為、だいぶ戦力ダウンした事は確かだが、やはりそこらの高校とは格が違う事は確かだと思う。守りの方は清水先輩がしっかりキャッチャーとして機能すれば、まあまず間違いなく茂野先輩が崩れたりする事はない。あの球はいくら帝仁といえど面を食らうに違いない。
問題は攻撃の方だ。
清水先輩がソフトボール部のレギュラーだという事は知っているが、やっぱり男子と女子の差は大きい。あまり期待はしない方がいいだろうと思う。藤井先輩は言わずもがな。
とするとまともな打者がオレと茂野先輩しかいない。どんなピッチャーが出てくるかわからないけど、やはり打線として機能するのは難しいかな。となるとやはりホームランを狙うしかない…か。
不安要素は山ほどあるが、それでもやるしかない。オレはやる気を出すために走って帝仁まで向かうことにした。
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「はぁ…はぁ…」
やっと帝仁正門に着いた…思っていたよりも遠くてそこそこ体力を使ったけど、身体は十分に温まったからいいかな…
辺りを見渡すが、まだ誰も来ていない。走ったせいでかなり早く来てしまったようだ。
やっぱり走ったのは失敗だったか?と思っていると道の向こう側から軽トラックがやってきた。そのトラックは正門の中へと入り、駐車場へと停めた。
今、運転手が山田先生だったように見えたんだけど気のせいかな?
「秋浦くん!おはようございます!」
車から出てきて挨拶をしてきた。やっぱり山田先生かよ。そしてトラックの助手席から茂野先輩、後部座席から藤井先輩と少し怪訝な顔をした中村先輩が出てきた。
どうやらこの4人でバットやヘルメットなどの道具を運んできたみたいだ。なんだ、声をかけてもらったらオレも手伝ったのに。
「この軽トラ、山田先生のですか?」
「いえ、道具車として学校から借りたんですよ」
オレが訊くと先生はそう答える。茂野先輩たちが次々と道具を下ろしている中、先生はメガホンを持って少し嬉しそうにしている。というか先生はユニフォームじゃなくてスーツなんだな。
「先生…なんでメガホンを?」
「ふふふ!私、高校野球を生で見るのが初めてなんです。とても楽しみにしてます。頑張ってくださいね皆さん」
そうなのか。勝たなきゃいけない理由がまた1つ増えたな。
そうこうしていると、野口達や田代先輩達も着き、みんなで更衣室に行きユニフォームに着替えた。
そしていよいよ決戦のグラウンドへと聖秀野球部は向かうのだった。
はい、第15話でした。
いよいよ次の話で試合開始です。はたして聖秀野球部は勝利を飾ることができるのか…
ではお疲れ様でした。