茂野吾郎を甲子園に連れて行きたい   作:破壊王子

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この小説はMAJORの二次創作です。

1ヶ月も空いてしまった…


【第18球】絶体絶命

──5回裏──

 

 帝仁0ー1聖秀

 

 

 この回も5番からの攻撃だったが、もちろん素人軍団の為簡単に三者凡退となった。藤井先輩のキャッチング練習のために少しでも時間を稼いで欲しかったが、まあそれは期待が大きすぎたみたいだ。

 

 オレもベンチに座りながら戦況を見つつ、横目でベンチ外でキャッチング練習をしてる2人を見ていたんだけど、やはり口で言う程簡単ではない。藤井先輩は防具をつけているにも関わらず身体ごと茂野先輩の球から逃げていた。無理もない……というか当たり前だ。あの球をしっかり見て捕っていた清水先輩が凄すぎただけ。

 

 

「や…やっぱりはえーなお前のボール…」

 

「……」

 

 

 チェンジになり、2人は歩いてマウンドに向かっていった。

 

 

 ……心配すぎる。

 

 

 

 手の腫れにより、清水先輩はキャッチャーからファーストへポジションを代えた。本来、あの腫れでまず試合に出す事すらおかしいのだけれど、オレ達は全員で9人しかいないから仕方がない。一応持ってきていた左利き用のグローブをはめて、清水先輩はファーストまで笑顔で走っていった。無理をしてる……に決まってる。でも今更ここで試合を中断するわけにいかないって事をわかっているんだきっと。ただの練習試合なのに申し訳ないな。

 

 

 

 

 ──6回表──

 

 

 茂野先輩と藤井先輩はマウンドでの投球練習を行っているが、やはりミットにボールが収まることはない。藤井先輩も決死の覚悟でボールに立ち向かってはいるが、ミットに掠るだけで入りはしない。これ以上はやっても無駄だと感じたオレはマウンドに駆け寄った。そのオレを見た藤井先輩をアタフタしながらマウンドに走ってきた。慣れない防具を重たそうにしながら。

 

 マウンドに3人が集まったが、茂野先輩は何も言わずにずっと左手で握りしめているボールを見つめている。なんか話出せる雰囲気じゃない。藤井先輩も同様に思っていたのか何も喋らないので、マウンドは十数秒間くらい沈黙に包まれた。

 

 

「あのー…まだですかー?」

 

 

 様子がおかしいと思った球審が近くまで駆け寄ってきた。

 

 

「あっ はい!すぐ戻ります! ……大丈夫なんですか茂野先輩?」

 

 

 なおも返答はない。この人はいつも何を考えているのか全くわからない。

 仕方がないと思い、ショートの定位置に戻ろうとしたその時───

 

 

 

「藤井、お前は真ん中だけ構えてろ。

 

 あとは俺がなんとかする(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 ───え?

 

 

 それはどういう意味だ?

 

 

 

 問い詰めたかったけど、そんな時間はなかった。しかし、その意味はすぐに理解(わか)った。

 

 

 

「負けるわけには…いかねーんだよッ!」

 

 

 茂野先輩からまたら豪速球が放たれた。それ(・・)に皆が驚く。

 

 それとはボールのスピードではなく、素人の藤井先輩がしっかりとボールを捕っていたことにだ。

 

 

「ひ…ひえぇ…」

 

 

 捕った藤井先輩が1番驚いている。いや、これは正直捕ったというよりも、捕らせた(・・・・)という方が正しいのかもしれない。

 

 

 

 2球目。

 

 

 相手のバッターはもう一度様子を見ていた。ボールは1球目と同じようにミットを構えていたど真ん中に決まった。

 

 間違いない。これは藤井先輩が構えたど真ん中に、茂野先輩か絶妙なコントロールで投げ込んでいるんだ。あの球威でここまで出来るなんて……凄いとしか言いようがない。

 

 そのまま三振を取り、さらに次の打者も三振に取った茂野先輩。なんとここまで打者17人全員三振。プロの試合なら伝説になってもおかしくはない。

 

 

 

 そして迎えた18人目。2巡目の9番バッター。このまま奪三振ショーが続くかと思われたが───

 

 

 快音、ではない。コツンというバントのような金属音が鳴る。バットを限界まで短く持っていたこの打者は、茂野先輩の140km超えのストレートをミートできた。

 しかし当てただけ。球威に押された打球はボテボテのピッチャーゴロとなった。茂野先輩はそれを捕り、ファーストの清水先輩へ軽く投げてアウトを取った。3アウトチェンジだ。

 

 

 

 

 

「チッ…やっぱりな」

 

 

 帽子を脱いで、袖で汗を拭きながら茂野先輩はベンチに帰っていく。確かにいくら早くてもど真ん中ストレートだけでは当てられても仕方がない。しかしそうなるとまずい。

 ウチの守備は正直言ってザルだ。オレが守っているショートはまだマシかもしれないが、他の所に飛んだらほとんどの確率でヒットになってしまう。清水先輩もいつもと逆の手でグローブをしているからエラーをしても不思議じゃない。

 

 

「球也。この試合、なかなかタフになりそうだぜ……」

 

「そうですね、本当に……」

 

 

 この回も8、9番が倒れて2アウトランナー無しでの茂野先輩の3打席目だったが、カーブに泳がされてライトフライだった。意外と伸びてもう少しでホームランになりそうだった事に帝仁ベンチは驚いていた。

 

 

 多分茂野先輩は手首の力が強いんだと思う。だからスイングの時に上手く押し込むことができて打球が伸びるんじゃないかな。ピッチャーとしても凄いのに打者としても超高校級の選手なんて本当に化け物だ。

 

 

 

 

 

 ───7回表──

 

 

 帝仁0─1聖秀

 

 

 この回はこの試合の中で1番大事になってくる。相手バッターは3巡目の1番から始まる。1人でも出れば4番へとつながり、一気に逆転なんてこともあり得る。

 

 

「打たせやしねーよ……あッ!」

 

 

 茂野先輩がボールをリリースしようとした瞬間、普通に構えていたバッターが一瞬でバントの構えへと変えた。セーフティーバントだ。ボールはコツンとバットの先っぽに当たり、一塁線へと転がっていく。

 

 

「ファースト!」

 

 

 反射的にオレはそう言ってしまったが、ファーストは清水先輩だ。捕ってもトスするには少し距離があり、今の清水先輩には無理がある。それを理解した茂野先輩が、前進してきた清水先輩を退かせ自分で処理しようとしたのだが……

 

 

「だ、誰もいねぇ!」

 

「えっ?俺?」

 

 

 ファーストベースには誰もベースカバーに入ってなかった。ピッチャーとファーストがバント処理の為に前に出た時には、本来はセカンドが入らなくてはならないのだが、セカンドは素人の内山先輩だ。カバーはないものと考えるのが普通だった。

 

 

「わ、悪い茂野。別にワザとじゃ……」

 

「気にすんな。しょうがねえよ」

 

 

 あっさりと完全試合は途切れてしまった。本当にあっさりと。しかしこの期に及んでそんな事を言っている暇はない。

 

 

 次は2番。

 バッターは腰を落とし、最初からバントの構えをしていた。7回表の1点ビハインド。0アウトランナー1塁で送りバントとはごく普通の采配だ。

 

 

「茂野先輩!」

 

「ああ、わかってるよ!」

 

 

 オレが声をかけたら茂野先輩はグローブを振りながら答える。『盗塁の可能性が高いですよ!』という意味だ。

 相手は藤井先輩が素人だとわかっている。なら走ってくるに違いない。

 

 茂野先輩はわかっていると答えたが、正直打つ手はない。今ウチに出来るのはバッター勝負だけだ。

 

 初球に一塁ランナーはスタートを切った。オレは反射的に2塁ベースに入ってしまったが、それは間違いだった。

 

 

「ば、バスターエンドラン!?」

 

 

 またコツンと当てた打球はコロコロ転がりながら三遊間を抜けていった。打球が弱すぎたためレフトも簡単に捕球できたが、モタモタしていた為バッターランナーは悠々と2塁の到達し、聖秀は一気に0アウト2、3塁のピンチを背負ってしまった。

 

 

「フン……」

 

 

 サードについている田代先輩は腕組みをしながらイライラしている茂野先輩を嘲笑っている。今の三遊間の打球も一歩も動く事なかった。その態度がさらに茂野先輩のイライラを募らせる。

 オレは一旦タイムを取り、田代先輩以外の内野手を全員呼ぶ。

 

 

「茂野先輩イライラしないでください!田代先輩の思う壺ですよ!」

 

「わーってるよ!だけどよ、ああも露骨に非協力的な態度をとられるとムカついて仕方ねえんだよ俺は!」

 

 

 気持ちはわかる。わかるけど、ここでエースがイライラで自滅したら話にもならない。

 

 

「ええと……俺はどうすればいい?」

 

「内山先輩は……捕ったらとりあえずファーストに投げてください。多分1点は確実に取られると思いますから1つのアウトはしっかり取りましょう。あと藤井先輩!満塁策を取りますから、茂野先輩へのピッチャーゴロかオレへのショートゴロが来たらホームに返球しますから、それからファーストに投げてください。ダブルプレーを狙いに行きましょう」

 

「ま、待て!もっとわかりやすく教えてくれ!!!」

 

「……」

 

 

 時間をたっぷり使って、なんとか藤井先輩に説明した。それから嫌そうにしていたが茂野先輩にワザと四球を出してもらい、満塁策を取った。

 

 

 0アウト満塁。

 

 相手バッターは4番。絶体絶命のピンチといっても過言ではない。

 

 本来ならば茂野先輩の豪速球で三振を取りにいきたいが、ど真ん中だと相手も打ち易いし、なによりど真ん中だとしても毎回そこに投げるのには相当なコントロールがいる。だから茂野先輩は多少力を抑えて投げているんだ。しかしそれだとさすがに相手が帝仁なのでバットに当てられてしまう。

 

 できれば0点…!しかし最低1点、つまり同点止まりならなんとかなる。そう思いながら、4番への初球を見つめていた。

 

 

「なッ!」

 

 茂野先輩が咄嗟に三塁線を見る。先程とは違う。今度は快音だ。

 

 完璧に捉えられた打球はレフトへ行く。と、思われた。

 

 

「「「え?」」」

 

 

 オレと茂野先輩、そして清水先輩もその光景に目を疑った。それは田代先輩が火の出るような凄まじい当たりをあっさりと捕っていたからだ。それもショートバウンドで、野球の経験者でも難しいであろう当たりを。

 

 3塁ランナーはノーバウンドかと思い一瞬戻りかけたが、すぐにショートバウンドだと気づき、間に合わないと思いつつもホームへと走った。

 

 

「いけね、捕っちまったよ。まあいいや。この状況だと……投げるのはここだよな!」

 

 

 田代先輩は捕った後、矢のような送球をホームに送る。やった!これで確実にダブルプレーだ!

 

 

 

 

 とオレは思った。

 

 

 

「えっ?うおおおおッ!??」

 

 

 しかしぼーっとしていた藤井先輩は田代先輩の送球を弾いてしまい、ボールは後ろに逸れてしまった。

 

 

「なああああぁぁぁ!!!!???」

 

 

 茂野先輩は悲痛な叫びをを上げながら、すぐにカバーに入ったが結局間に合わず、1点が入った。バックネットに当たり跳ね返った場所が良かったので2人目は帰らなかったが、同点になり、さらにまた0アウト満塁のピンチになってしまった。

 田代先輩は藤井先輩がボーッとしていたのでワザとホームへ投げたんだ。

 

 

 茂野先輩の怒りの矛先は田代先輩……ではなく、もちろん藤井先輩に向かっていく。

 

 

「藤井───!てめえ何ボーッとしてやがる!!!」

 

「わ、わりい!さっき球也がピッチャーかショートに飛んできた時だけホームに投げるって言ってたから……」

 

 

「───……」

 

 

 オレの説明の仕方が悪かった。

 

 まさか田代先輩がホームに投げるなんて夢にも思ってなかった。これは本当に崖っぷちだ。

 

 

 

 帝仁1─1聖秀

 

 

 7回表、0アウト満塁。聖秀は最初にして最大のピンチを背負ってしまったんだ。

 




はい、第18球でした。

夏休みがついに終わりました…もうそろそろ秋ですね。

ではお疲れ様でした。
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