茂野吾郎を甲子園に連れて行きたい   作:破壊王子

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この小説はMAJORの二次創作です。

まさかの2日連続投稿…!


【第19球】バッテリー

 

0アウト満塁。

 

 

 野球をよく知っている人ならば、これがどういう状況なのか即座に理解できるだろう。

攻める側ならば千載一遇のチャンス、守る側ならば崖っぷちの大ピンチ。よくプロ野球など観てると、贔屓のチームは0アウト満塁の時に限って無得点だったりする事があり、『0アウト満塁は意外と点が入らない』と嘆く人もいるだろうが、大体は最低でも1点入るシチュエーションだ。そんなシチュエーションだからこそ、点が入らなければ苦く深いイメージが付いてしまう。

 

 この危機的状況を抑える為に、1番手っ取り早い方法は三者三振を取ることだ。味方の守備力など何も気にせずに、ただ三者連続三振にうちとればいい。理想的といえば理想的なのだが、それは口で言うほど簡単ではなく、今の状況でも真ん中しか投げる事のできない茂野先輩だとかなり厳しいだろう。

 

 他には内野ゴロを打たしてダブルプレーをとる方法。これがよく見られる光景だと思う。どこかへ転がったボールをホームへ返球、そしてそれを更にファーストへと投げてダブルプレーを成立させる。まさに今ウチがやりたかったプレーだ。それが成功すると、2アウトランナー2、3塁となり、ランナーはまだ2人残っているものの、アウトを2つもぎ取れたお陰でピッチャーはバッターとの勝負に専念できる。

 

 他にもただアウトを取るだけならライナーやフライで色々あるだろうが、それらが投、一、遊以外のところに飛んだらほぼ終わりなのが今の場面で一番辛い。

 

 

「タイム!」

 

 

 聖秀側から再びタイムを取った。言い出したのは清水先輩だ。審判は『またか……』と嫌そうな顔をしているが、正直こっちはそんな場合ではない。

 サード、つまり田代先輩以外の内野陣が全員集まり、マウンドで輪を作った。

 

 

「本田。私、キャッチャーやるよ」

 

「…あ?」

 

 

 茂野先輩だけじゃなく、ここにいた4人全員が驚く。

 

 

「なっ……絶対ダメですよ清水先輩!骨に異常があるかもしれないのに……」

 

 

 清水先輩はまたキャッチャーをやると言い出した。今もこうして立っているだけでも痛いはずなのに、なぜこんな事を言えるのか。

 オレが止めようと声をかけているけど、清水先輩はオレを見ていない(・・・・・・・・)。顔とか目とかそんな話ではなく、心から清水先輩は茂野先輩へ対話しようとしてるように感じた。

 

 こうなればオレ達には止められない。唯一止められるのは茂野先輩だけだ。

 

 

「清水、お前そんな手になってまでまだキャッチャーするってのか?」

 

「しょうがないだろ!ここで大量失点なんかしたら、ウチが勝つ可能性がなくなる。せっかく協力してやってんのに、あっさり負けるなんて許さないからな!」

 

 

 清水先輩は若干怒り気味に言い放った。オレ達3人は全く声が出ないけど、茂野先輩だけは左手でボールをクルクル回しながら笑って聞いていた。

 

 

「清水、お前まさか『自分が手を怪我してキャッチャーを代わったからピンチになった』とでも思い込んで責任を感じてんのか?」

 

 

 ビクッと体を震わす清水先輩。どうやら図星のようだ。

 

 

「わ、私はそんな事思って……」

 

 

 ない。

 

 とは言い切らなかった。いや言い切れなかったんだ。少なからずそう思っていたからだと思う。

 

 

「勘違いすんなよ。このピンチはお前のせいじゃねえ。こんなチーム状態で試合をしようとしたこの俺の責任なんだ。だからお前が無理をする必要はねえよ」

 

 

 いや、別に茂野先輩のせいでもない。むしろ0の状態からこの短期間でここまで持ってこれるのは茂野先輩しかいないだろう。だからそんな茂野先輩が自分を責めているのを見るとこっちが辛くなる。

 

 

「本田……」

 

「おい、勘違いすんなよ。だからって俺はこのまま打たれて負けるつもりはねえ。何が何でも勝つ。0対10で負けてたって、逆転の可能性は残されてる。それが野球だろ?それにこんな場面で打たれてるようじゃ海堂には到底敵わないさ」

 

 

 

 オレはこの人を野球人として本当に尊敬する。こういう事は思っていても口に出すのは出来ない。思ったことを口するという事は、努力の末に得た自信がないととてもじゃないが無理だ。

 オレだけじゃない。野球に興味がない内山先輩も茂野先輩の話に聞き入っていた。なんというか……この人は人を惹きつける何かを持っている。それがあるならあるいは────

 

 

 

「茂野!!!」

 

 

 急な大声でオレが考えていたことが脳内から吹っ飛んだ。藤井先輩だ。彼はいきなり大声を出す癖でもあるのか。

 

 

「ったく!いつもいつもうるせーよ藤井!なんだよ!」

 

「手加減すんな!俺はもう絶対逃げないから本気で投げてこい!体で止めてやる!それでも捕れねえかもしれないけど……絶対ランナーをホームには帰さねえから!」

 

 

 藤井先輩はミットをつけたまま茂野先輩の胸にドスッと叩きつけ、本気の目をしながらそう言った。

 

 

「……へっ!カッコつけてんじゃねえぞ。俺が本気で投げたらお前は捕れねえよ。むしろ俺は今より遅く投げるつもりだからな」

 

「遅くってどういう事だ?本田」

 

「今からはインコース……つまり打者寄りに構えろ藤井。俺はお前が構えた所にコントロール重視で狙いにいく。インコースなら相手も詰まったりして凡退する確率も上がるだろうしな」

 

 

「聖秀さん、まだですか?試合時間が……」

 

 

 いくらなんでもタイムが長すぎると感じた審判が走ってきた。いや申し訳ないんだけど、もう少し待ってください。ホント。

 

 

「それに今よりスピードを落としたら少しコースがズレても捕れるかもしれねえしな。いや捕れ!それが出来ねえならせめて前に落とせ!いいな藤井!」

 

「お、おうよ!さあやるぞみんな!」

 

 

 強引に茂野先輩が指示をだし、藤井先輩が締めて長いタイムが終わった。相手バッターはあまりに長すぎたため、ベンチまで戻っていたくらいだ。練習試合でなければこんなに長い作戦会議は無理だったろうな。

 

 

 

 

 

 ──7回表途中──

 

 0アウト満塁。

 

 

 いい雰囲気で試合を再開することが出来たが、大ピンチには変わりない。

 バッターは5番。もちろん長打力もあるだろう。藤井先輩はインコースに構え、茂野先輩はセットポジションから初球を投げた。

 

 

 バッターは見逃してストライクだ。構えた所に上手くいったが、ボールのスピードはさっきより少し遅くなっていた。

 

 

 2球目。

 またインコースにストレート。バッターは若干苦しそうにしてスイングしたが、掠っただけのファールボールだ。スピードより球がきてる(・・・)んだろうな。

 

 

 そして追い込んだ。3球目ももちろんインコースへ投げ込んだのだが、茂野先輩のボールは構えた場所よりは少し低く、外側に決まった。それが功を奏したのかバッターは空振りをして三振した。これで1アウト。

 

 

 なのだが、藤井先輩のミットからボールが溢れ、コロコロと1塁ベンチ方向に転がっていく。それを見た3塁ランナーはホームへ向かって全力疾走。藤井先輩も急いでボールを拾い、ホームへカバーに来ていた茂野先輩へトスをした。

 

 

 茂野先輩はボールを取って素早くランナーの足にタッチしたが、タイミングは微妙。アウトとも、セーフとも取れる。

 

 そして審判の判定は───

 

 

「アウトッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アウトだった。藤井先輩は大声をだして歓喜する。茂野先輩はそれぞれ進塁したランナーを警戒しつつ、藤井先輩が無意識に脱ぎ捨てたマスクを拾い、藤井先輩へ投げた。

 

 

「へへ……やるじゃねえか藤井!」

 

「言ったろ茂野。絶対ランナーをホームには帰さねえって!」

 

 

 弾いたボールを捕りに行ってる時にはめちゃくちゃ焦ってたのによく言うよ。でもなんとか2アウトまで持っていくことができた。あと1つ、あと1つでチェンジだ。

 

 

 

 

 

 2アウトランナー1、2塁。次は6番バッター。打者が変わっても攻め方は変わらない。いや変えることはできない。聖秀バッテリーに出来るのは依然としてインコース攻めだけだ。ここを同点止まりで抑えればなんとかなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そんなに甘くはなかった。

 

 

 初球。茂野先輩のストレートを藤井先輩はまたもや弾いてしまい、パスボールであっさりと追加点を許してしまった。

 

 なんともあっさりすぎて、聖秀(ウチ)のメンバーはみんなポカンとしている。

 

 

 

「ふ、藤井───!!!てめえ!何が絶対ランナーをホームには帰さねえだ!あっさりパスボールしてんじゃねえか!」

 

「すまん……なんか指が……」

 

 

 まさかと思った茂野先輩は審判にまたもやタイムを取り、バッターボックスのすぐ横で無理やりキャッチャーミットを取って藤井先輩の指を確認した。すると親指が変なふうに曲がっていることに気がつき、大きなため息をついた。

 

 つまり突き指をしてしまったのだ。今のボールではなく、前の打者の時にしてしまったんだろう。

 

 

「お前──……」

 

 

 茂野先輩は呆れて声も出ない。

 

 

 オレはいよいよ本格的に出番と思い、キャッチャーの防具を着けに前に行こうとした。すると、オレの目線の右側にいる人が何故かバッテリーに近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 なんで───なんで田代先輩が?

 

 

 

 

 

  「おい下手くそ。ミットの網で球を捕ろうとしただろ。そん時に人差し指や中指に力を入れすぎて親指が無防備になってるから捕球時に突き指なんかするんだよ。

 

 お前さっきデカイ声で言ってたよな、『体で止める』って。サードにいる俺にまで聞こえてきたが、正直全くなっちゃいねえ。ボールが茂野の手からリリースされるまではガッチリ構えてはいたが、いざボールが自分の目の前にくると、体は避けてミットだけで捕りにいってる。お前キャッチャー舐めてんのか?」

 

 

「「……」」

 

 

 バッテリーの2人は唖然としている。適当に立っているだけかと思っていた田代先輩がまさかここまでしっかり見ていたのか、と。そして1つの疑問もやはり浮かんでくる。

 

 

「田代、お前まさか野球経験者か?」

 

「悪いか?だが茂野、俺はお前みたいに野球に全てを捧げるほど馬鹿じゃねえ」

 

「な、なんだとぉぉぉ!!?」

 

 

 茂野先輩は驚きながらも目を輝かせる。軽く馬鹿にされてるコトなど全く気にしていない様子だ。

 

 

「聖秀さん、ウチも午後から他との練習試合が入っているんです。これ以上長引くなら中止にしますが……」

 

 

「ち、ちょっと待ってください!キャッチャーが怪我をしちゃって……」

 

 

 オレがフォローするも、審判は本当に中止にしそうな雰囲気を出していた。相手ベンチの監督もイライラを隠せていない。これは最終勧告かもしれないな。

 

 

「審判、サードとキャッチャー交代します。すぐに用意しますんで」

 

「なッ?キャッチャーできんのか田代!?ていうか野球部に入ってくれんのか?」

 

今日だけ(・・・・)に決まってんだろ。俺はお前らがあまりにもみっともない試合をしてて恥ずかしいから早く終わりたいだけだ」

 

 

 

 

 

 急展開すぎる。

 

 何故田代先輩が急にやる気になったのか、それがわからない。もしたしたら、彼も茂野先輩に影響を受けたのかもしれないな。

 

 

 

「へへ……頼むぜ田代!」

 

「手加減したら許さねえぞ」

 

 

 

 

 

 

 後に語られる聖秀学院高校の黄金バッテリーは、こんな形でスタートしたのだった。

 




はい、第19球でした。

ぶっちゃけ素人が実戦でいきなりキャッチャーなんかしたら突き指なんて余裕ですると思います。素人じゃなくても普通の捕球はともかくファールチップとかヤバそうですよね。まあ私はキャッチャーあんまりやったことないんで詳しくはわからないですけど……

ではお疲れ様でした。
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