最近寒いですね…皆様風邪には気をつけて下さいね。
「あれは…チャラ男?」
見覚えのある赤い髪だ。そして同じ聖秀の制服。間違いない、アレは先程のチャラ男だ。
チャラ男は球速100㎞のゲージに入っているが、全くボールにバットが当たらない。出鱈目のスイングを見る限り、まともな野球経験者ではない事は間違いない。このまま続けても金の無駄になるだけだ。
脇は開きすぎ、足は内股、ベースから遠すぎるなど、経験者のオレからしたら指摘したい事だらけだが、勿論オレには関係ない。見なかったことにして、とりあえず130㎞のゲージに入ろうとした。
「おりゃあッ!!!」
「とおッ!!!」
「おらあああああッ!!!」
…うるさい。
1球毎に何かを叫びながらスイングしている。しかし快音が響く事はなく、ブン!ブン!ブン!と空振りする音しか聞こえない。
何が悪いとかそういう次元ではなく、むしろ何が良いかがわからない。強いて言えばやる気があることだろうか。
「ちっくしょー!なんで当たらねーんだ!」
人目もはばからず、大声で嘆く。
今は数人しか居ないが、それでも迷惑であることには変わりないだろう。加えてオレと同じ制服。知り合いだと思われて変な目で見られるのも嫌だから、チャラ男を注意する事にした。
チャラ男がボールを打っているゲージの真後ろまで来て、いざ注意しようかと思った瞬間、オレはある事に気付いた。
「(すげぇ汗…)」
チャラ男の顔を見ると凄い汗をかいていた。確かに、普段運動しない人が急に運動するとすぐに汗をかくのは当たり前だが、それにしてもこの汗の量は尋常ではない。
「おりゃあッ!…あ〜クソ!もう無くなっちまった」
残りの球が無くなったと思ったら、チャラ男はすぐさまポケットからコインを取り出して入れた。そしてバットを強く握りしめ、マシンを睨むようにして構え、再びバットを振り始めた。
多分オレとぶつかった後、このゲージで1時間以上打ち続けているのだろう。確かに客も少ないし、可能と言えば可能なんだが…よくもまぁ大して当たりもしないのに続けるもんだ。
「もっと脇を締めてスイングした方がいいですよ」
「…え?」
え?何を言ってるんだオレは…
うるさいのを注意するためにここに来たのに、いつの間に口からそう出ていた。
チャラ男も急なアドバイスにビックリしたらしく、スイングした後にオレの方へ向いた。
「ちょっと前!」
スイングして崩れた体勢で振り向いたため、チャラ男の背中に容赦なくボールが襲いかかった。チャラ男は背中をボールに受け、一瞬倒れかかったが、なんとか踏みとどまりまた構えた。
「ど、どうすりゃいいって!?」
さっきぶつかった相手とわかっているのかいないのかはわからないが、素直にアドバイスを聞く気はありそうだ。
1球毎にオレが細かいアドバイスを出して、チャラ男はそれを聞きながら実行していた。
…が、そんなに甘くはない。たかが1回20球でまともなスイングにはならなかった。
終わった後、チャラ男はゲージから出てきてスポーツドリンクを買った後、ベンチに座った。
「お前その制服…
「はい。秋浦って言います」
ゴクゴクと一気に半分以上は飲んだかと思ったら、唐突にそう聞いてきた。さっきぶつかったことは忘れてるのか?
チャラ男は「そうか…」とだけ答えて黙り込んだ。バッティング時のやかましさと比べると、テンションの高低差が凄まじい。
「あの…オレ帰りますんで」
なんだか気まずくなってしまったオレは、コインを買ったにも関わらずに帰ろうとした。
するとチャラ男が帰ろうとしたオレのバッグを掴み、「待て」と真剣な眼をして言った。
「お前…野球の経験者なのか?」
「ええ…まぁそうですけど…」
確かにオレは、小学校の3年生から中学2年の途中まで野球をやっていた。充分に経験者と言っていいだろう。
オレが答えたら、チャラ男は目を瞑って何を考え始めた。そしてすぐにカッ!と目を見開き、口を開いた。
「頼むッ!オレに野球を教えてくれッ!!!」
案の定だった。
しかし、チャラ男にも年上としての僅かなプライドがあっただろうに素直にそう言えたのは、こっちにとっても少しだけ好印象だった。
「……」
でもオレは途中で野球を辞めた身だ。
「チャラ…えっと…貴方はなんで野球を?」
危ない危ない。うっかり『チャラ男』と口に出しそうになった。よく考えると、オレは彼の名前すら知らない。
「俺は藤井だ。 今日…
嫌だったんだけど、エースで4番なら入ってもいいって言ったんだ。好きな子が野球好きだから、その子の気を引こうと思ってな」
動機が不純すぎる…そもそも素人なのにエースで4番って…弱小校にすらコールド負けしそうだ。
というか野球部って何だ?聖秀に野球部なんてない筈だけど。
「そしてなんやかんやあって勝負する事になったんだ。転校生のそいつと。
1人が投げて1人が打つ。10球勝負でいい当たりをした方が勝ちってな。
だけど…オレは手も足も出なかったんだ…!打ってはあいつの球には掠りもしない。投げては満足にストライクも入りゃしない…」
恐らく相手は経験者だろう。さすがに今の藤井先輩が経験者に勝つことは難しい。
「けっ…結局俺の完敗だった。
『ぜってえ野球なんかやんねえからな!!』なんて捨て台詞を吐いて来ちまったよ。あーあ…ダッセェなぁ俺…」
野球なんかやらないと言ったにもかかわらず、藤井先輩はバッティングセンターに来て1人でバットを振っている。そして年下であるオレにアドバイスを求めてきた。確かに動機は不純だったけど、藤井先輩には〝意地〟ってやつがあるみたいだ。
「なるほど。つまり藤井先輩はその転校生にリベンジをしたいと」
「ああ…ぜってぇ負けねえ…今度は男らしくちゃんと条件を付けて勝負をしてやるからな」
「条件?」
藤井先輩は首を縦にふって、またゴクゴクとスポーツドリンクを飲み始めた。そして全部が無くなったと思ったら、それをぐっしゃっと握りつぶした。握力がそこまでなかったのか、つぶしたと言うよりは凹ましたと言った方が正しい。
「ああ…俺が負けたら…〝野球部に入ってやる〟ってな!」
「……」
どれくらいの期間を練習するのかわからないが、流石に勝つのは厳しいだろうとオレは思ってしまった。藤井先輩が一生懸命に練習したとしても、転校生が経験者であれば、相手もまた然り。詳しいことはわからないが、練習時間は天と地ほどの差が生まれそうだ。
しかしそれ以上にさっきから気になっているのは『野球部』だ。先程も思ったが、聖秀に野球部はない筈だ。ソフトボールなら有ったと思うけど。
「藤井先輩。さっきから言っている野球部って何ですか?」
わからないことは聞けばいい。目の前に藤井先輩がいるから簡単な事だ。
しかし、先輩の口から思いがけない言葉が飛び出す。
「ああ…転校生が聖秀に
「……」
戦慄した。いや、何となく世界が一瞬止まったのではないかとすら思った。
聖秀に野球部を作る…?そいつを入れても男子が9人の聖秀に…?
もはや笑えないレベルの冗談だ。
「藤井先輩…それ
普通に考えればそう思うだろう。
だってたった9人しかいない男子でどうするつもりなのか。
「いや…多分違うと思うぜ。
あいつの眼は…本気だった。よくわからねえけど…」
「へぇ…」
世の中色んな人がいるもんだ。出来もしないことを頑張ろうとするほど哀れなものはない。まぁオレが言っても説得力ゼロだけど。
「まあそれは置いといて…藤井先輩。よければオレ手伝いますよ。毎日暇してるんで、野球のアドバイスくらいだったらいつでも」
「ほっ、ほんとか!?」
野球同好会じゃなくて部を作ろうとしているという事は、転校生は恐らく試合に出て、勝つつもりなのだろう。だが聖秀の男子なんかで勝とうと思ってる素敵な頭の持ち主なら、藤井先輩でもなんとかなりそうな気がしてきた。
「ええ。じゃあ今から始めましょうか」
「おうよッ!」
こうしてオレと藤井先輩による、打倒転校生!の図が成り立ったのだ。
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「ただいま〜」
「あら球也、遅かったわね」
1日目の特訓が終わり、家に帰ってきた。特訓というほど特訓ではないのだが、オレ達にしては頑張った方だろう。
藤井先輩は思ったより飲み込みが遅く、これは大変な道のりになりそうだ。
「うん。父さんは?」
「まだ帰ってないわよ。はやく着替えてきなさい」
母さんに言われた通りに着替えようと二階へ上がった。なんだか足が重い。というか身体全体が重い。藤井先輩の手本になるためにいつもより多めに打ったのだが、まさかあれだけでここまで疲れるとは思わなかった。
明らかに中学生の時よりも体力が落ちていた事に、わかっちゃいるけどやはり悲しくなった。
二階へ上がると、急に睡魔に襲われた。そしてそのまま、ボフッとベットに倒れこんでしまった。
「着替えなきゃ…」
そのまま瞼が勝手に閉じていき、憶えているのはそこまでだった。
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「……眩し…い」
あまりの眩しさに目を覚ました。さっきまで真っ暗だったのにどういう事だ?と思いつつ、時計を手に取った。
時刻は6:30。もちろん朝だ。どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
とりあえず立ち上がり、シャワーを浴びにいった。そして朝食を済ませ、着替え、いつも通りに家を出た。
が、いつも通りでなかったのは身体の痛さだ。昨日のせいで筋肉痛になっていたのだ。
「痛てて…いつもと違って真面目にスイングしたのが悪かったかな…でもちゃんとしないと手本にならないし…」
今日も藤井先輩とバッティングセンターで会う約束をした。しかし歯医者に行かなければならないので、それが終わった後でだ。
学校に着き、いつも通り3人と話し、退屈な授業を受け、そして下校のチャイムが鳴った。
同じ轍は踏まない。今日は余裕を持って歯医者に向かう事にした。
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歯医者に着き、今日も1時間で治療が終わった。次に行くのは1週間後だ。
オレは藤井先輩がいるバッティングセンターに行こうと歩き出した。
その瞬間。
「良ーい背中してるねえ君!なんかスポーツでもやってるのかな?」
不意に後ろから声を掛けられた。間違いなくオレに向かって。
その声からはなんとなく不快感を覚えた。
「秋浦球也…だろ? いやー!
ああ…お前のクラスメイトから、お前が歯医者に通ってるって聞いてな」
オレは振り返って、男の顔を見てみた。
…思ったよりデカい。180㎝はありそうだ。そして体格もゴツい。
間違いない、こいつが聖秀に野球部を作ろうとしている〝ふざけた奴〟だ。
「…アンタは?オレに何か用ですか」
聞かなくてもわかっているが、一応聞いてみた。こいつが本気なのかどうかを知りたかったからだ。
男は、ヘッ!と笑いながら、自信過剰の表情をしながら口を開く。
「俺は
はい、第2球でした。
ノゴローくんの登場です。彼とオリ主くんの絡みを楽しみにしていて下さい。
ではお疲れ様でした。