茂野吾郎を甲子園に連れて行きたい   作:破壊王子

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この小説はMAJORの二次創作です。

1年も間が空いてしまった…


【第20球】クライマックス

 

 

 

 

 

「…ったく」

 

 

 田代先輩は、三塁側のネクストバッターサークルのすぐ横で防具を着け始める。慣れた手つきでスムーズにそれを行っている様は、口に出さずとも「俺は捕手だ」という意思表示をしていているようにも見えた。

 

 そして、マスク以外の防具を全て着け終えた後、ゆっくり歩きながらマウンドにやってきた。

 

 

「さっきも言ったが…手加減したらぶっ殺す。それだけだ」

 

「手加減?…逆だぜ田代。ワクワクしすぎて手加減なんてしようと思ってもできねえよ…!」

 

 

 茂野先輩の言葉をしっかり聞いた後、田代先輩は戻っていった。さっきまでは憎たらしくて仕方なかった背中が、急に頼りになるもんだから困るな。

 

 オレはもう1度茂野先輩の顔をよく見てみた。今の彼は、まるで欲しかったプレゼントを貰った子供ような表情であった。

 

 しかしまだ安心はできない。1-2で負けている上に、1アウト1、2塁のピンチが変わったわけではない。それにいくら田代先輩が経験者だとしても、150km/hのストレートを初見で捕れる保証など何処にもない。

 

 

 

 

「さあ…いくぜ田代!」

 

 

 

 

 

 

 

 今日1番のミット音が鳴り響いた。

 気持ちよく心地いい。そして懐かしみも感じた。

 

 

 茂野先輩のストレート(真っすぐ)を田代先輩はしっかりと捕った。先程のように捕らせたのではなく、見て捕ったのだ。構えていたコースとは少しズレていたのにしっかりとキャッチングできたのがその証拠だ。

 

 

「す…ストライク!」

 

 

 主審も遅れてコールをする。生き返った茂野先輩の球を見た帝仁ベンチはまた騒がしくなった。

 

 2球目、3球目も田代先輩は難なく茂野先輩のストレート(真っすぐ)を捕り、6番打者は三振に打ち取ることができた。

 

 

 2死1、2塁。この打者で切れば1点差で7回裏だ。追加点を許すわけにはいかない。7番打者にも初球からストレートで押していく茂野先輩だが、ボールを捕った田代先輩が急に立ち上がり、なんと2塁に送球し出した。

 

 

「おおおぅ!?」

 

 

 遊撃手(ショート)を守っていたオレはなんとかその送球を捕り、オーバーランしていた走者をタッチアウトできた。

 おいおいおい間一髪すぎるよ田代先輩…外野は素人軍団なんだし、逸れたら終わりなんだぞ。茂野先輩が投げてるんだからこんなに危ない事しないでいいんじゃないのか?

 

 まあ何はともあれスリーアウト。0アウト満塁のピンチをこのチームで1点で凌げたのは幸運だった。オレが冷や汗をかきながらベンチに戻ると、茂野先輩は嬉しそうな顔をしながら田代先輩の肩を強く叩いていた。

 

 

「ハハハハハ!やるじゃねえか田代!投球練習もなしに俺のストレート(真っすぐ)を捕るなんてよ!海堂の2軍捕手ですら最初は捕れなかったんだぜ?」

 

 

 本当に嬉しそうにしている。でもあの球を初見で捕る技術は凄い。田代先輩は本物かもしれない。

 

 

「あと今の送球も中々よかったぜ。ギリギリだったけどな」

 

「フン…秋浦(そいつ)が、2塁ランナーがいる際には確実にカバーに入るのは見ていたからわかってた。調子こいてオーバーランをしていた走者にムカついたから投げた。あれで捕れなかったら秋浦(そいつ)の守備意識がなかったってだけの話だ。まあ…及第点ってところか」

 

 

 言ってくれるじゃん…数分前まで嫌がらせをしていた癖に。

 

 でも…オレがしっかりカバーに入っている所もちゃんと見ていたんだな。走者がオーバーラン気味な所も。

 それに今の送球だ。決して強肩といえる送球ではなかったが、しっかりとベースの上に投げ込むコントロール。そして捕ってから投げる迄のスピード。この2つは非常に素晴らしいものだ。

 

 

「よっしゃあ!サクッと逆転してやるぜ!

 

 

 ──7回裏──

 

 

 前の回は茂野先輩で終わったから、この回は2番の清水先輩からだ。しかし左手を痛めているのでまともにスイングなんて出来るはずない。それでもなんとかしようとしている彼女だったけど、茂野先輩の「立っているだけでいい」という言葉に従い、ここは三振となった。

 

 次は3番。藤井先輩だ。聖秀は1点差で負けているから4番のオレがホームランを打っても同点止まりだ。なんとか出塁してくれ藤井先輩。

 

 

「よっしゃあ!打ってやるぜ!」

 

「おい藤井。ちょっと来い」

 

「ん?なんだよ茂野」

 

 

 金属バットを二本持ち、横8の字の描きながら打席に向かっていた藤井先輩を茂野先輩が引き止めた。ネクストバッターサークルで何かに耳打ちしている。なんの話をしているんだろう。

 

 アドバイスが終わると、茂野先輩はベンチに帰っていった。何を言ったのかは気になるが、たった数秒で藤井先輩が打てるようになるとは思えない。

 

 

 オレの思った通り、藤井先輩は初球のストレートを空振りした。アウトコースの少しボール気味だった球だ。

 酷いスイングだ。ハッキリ言って何も成長していない様に思える。むしろ悪化してるんじゃないか?

 

 

 こりゃダメだ。4番のオレはネクストバッターサークルで膝をついて見ているが、彼が打てる気配がしない。

 

 

 と思った矢先、2、3球目はスイングをせずに、コースを外れているためにボールとなった。

 

 2ボール1ストライク。

 

 4球目もかなり厳しいコースだったが見送ってボール。今の球は本当にギリギリだ。よく見送れたな。

 

 

 ん?いや違う。見送ったんじゃない…コレは、初めから打つ気がなかったのか?まさか茂野先輩のアドバイスは──

 

 

「ボール!フォアボール!」

 

 

「よっしゃあッ!」

 

 

 結局初球以外は全て振らずに、藤井先輩はフォアボールをもぎ取ることができた。

 

 

…わかった。

 

 

 茂野先輩のアドバイスが。

 

 

 恐らく、茂野先輩は藤井先輩が打てないだろうという事を確信し、〝フォアボール狙い〟の作戦を立てたんだ。確かにヒットよりも何倍も可能性がある。この作戦の肝は、『初球にフルスイングする事』だ。それもデタラメなスイングで。

そうする事により、相手バッテリーを油断させ、『もうコイツにストライクは必要ない。ボールでも勝手に振ってくれる』と思い込ませたんだ。

 

 しかしそれでも可能性は低かった。というのも、ストライクを投げられたら結局は三振になるからだ。カットをする技術も藤井先輩にはないし……

 

 

 運が良かった(・・・・・・)

 

 

 

 いや……違う。

 

 

 

 確かに運が良かったというのもあるが、コレは偶然じゃない。必然だ。

 茂野先輩が持ってきた流れ…あそこで動かなければきっと三振で終わってただろう。

 

 エースが投球と作戦でこんな流れを作ってくれたんだ。ここで仕事をしないとオレは4番じゃない。

 

 

 1アウト1塁。

 

 

 ゆっくりと打席に向かい、右足で土をならす。ここで1発が出れば逆転だ。田代先輩がキャッチャーになってくれたお陰で相手に点が入る事はほぼないだろう。それどころかランナーを出すのすら厳しいんじゃないか?それ程の球を茂野先輩(あの人)は投げている。

 

 そもそも今年の帝仁は、主力の3年が抜けたおかげでそんなに大したことないように感じる。投手は3、4番手だれど打線はスタメンメンバーの筈。それでコレならせいぜい県ベスト16止まりだろう。

 

 

 いやそんな事はどうでもいい。ここは打つしかない。それも長打を。

 

 

 初球は外れてボール。アウトコースの変化球だ。コレじゃない。

 

 

 

 オレが待ってるのは───

 

 

 

 

 

 この真っ直ぐだ──!

 

 

 

 まるで落雷の様な金属音。そう聴こえるのも無理はない。この至近距離なんだから。

 

 

 そんな事を考え、1塁へ走りながら打球の行方を見つめる。火の吹くような打球はライナーでライト方向へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 まずい。

 

 

 直ぐにそう思った。何故なら───

 

 

 

「アウト!」

 

 

 定位置だったからだ。結局オレはこの打席でも凡退してしまった。

 そして鋭すぎる打球が仇となり、飛び出した1塁走者の藤井先輩を見た瞬間オレの足は止まり、頭を抱えてしまった。

 

 

 

「アウト!」

 

 

 

 相手ナイン、そしてベンチから歓声が巻き起こる。ダブルプレーになってしまったからだ。

 

 千載一遇のチャンスを棒に振ってしまった。せっかくフォアボールをもぎ取ってくれた藤井先輩と茂野先輩に申し訳が立たない。大事な試合なのに…負けられない試合なのに…オレは結局役に立たないじゃないか。

 

 いくらいい当たりでも、アウトになってしまったら何の価値もない。何が4番だ。何のための4番だ。

 

 

「す、すまん球也…俺飛び出しちまって…」

 

「…悪いのはオレです。オレの方こそすいませんでした」

 

 

 事実オレが悪い。藤井先輩は走塁の練習など殆どしていない。そんな中であんな打球を打ったら飛び出してしまうことは、少し考えればわかる事だ。せめて左方向へ狙えば…後悔してももう遅いな。

 

 

「バーカ。何謝り合ってんだお前ら。試合はまだ終わってねえぞ!ほら守備だ!」

 

 

 左手でオレを、グローブをつけた右手で藤井先輩を叩いて鼓舞する茂野先輩。

 

 そう、その通りだ。まだ試合は終わってない。8回裏と9回裏の攻撃がまだ残ってる。そこで逆転するしかない。

 

 

 8回表は茂野先輩が三者凡退で抑えた。

 

 8回裏の聖秀の攻撃は、先頭の田代先輩が二塁打(ツーベース)で出塁した。前の打席までは舐められまくった投球をされていたが、キャッチャーをし始めてから相手も田代先輩が野球経験者だという事に気づき、3打席目はオレや茂野先輩のような投球をされた。しかしそれでも上手く左中間へ打った田代先輩はやはり凄い。

 

 0アウト2塁の大チャンスだったが、後続があっさり打ち取られたので点には結び付かなかった。

 

 9回表も茂野先輩は0に抑えた。この回の茂野先輩は今までよりも闘志、そして気合いを纏った投球をしていた。

 

 

 絶対打たせるもんか───と。

 

 

 

 

 

 

 そしてやってきた9回裏。最終回だ。

 

 

 1点差ビハインド……いよいよクライマックスだ。




はい、第20球でした。

皆さまお久しぶりです。1年以上も間を開けてしまい、本当に申し訳ないです。リアルでの生活がだいぶ落ち着いたので、これからまた短いスパンで連載できるように努力します。
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