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「俺は
自信満々な顔でそう言い放った。オレはなんとなく気に食わない。この人が言った言葉では無く、眼にだ。
なんだこの眼は。まるで自分が言ったことは絶対、とでと思っているのか。
甲子園に行くということは、つまり海堂高校を倒さなければいけないということをわかっていないのか?全国でもトップレベル、いや事実トップだろう。投・攻・守すべてにおいて超一流の海堂を本当に倒せると思っているならお笑いだ。
「何考え込んでんだ。もしかして入ってくれんのか!?」
そんな事はあり得ない。あまりの出来事に声が出せなかっただけだ。しかし一応先輩、ここは丁重にお断りしよう。
「すいません、興味ないんで。じゃあオレはこれで」
「おいちょっと待てよ!なんとか考えてくれねえか!?」
痛いな…思いっきり掴みやがって。この馬鹿力め。
しかしそんな事面と向かっては言えない。手をあげられたら、オレなんかじゃこの人に勝てるわけないからね。
それにしてもなんか焦ってる様に見えるなこの人。勧誘が上手くいってないのか?まあ上手くいくはずないけど。
「痛いっす。えっと…ごろのさん」
「なに混ぜてんだよ!茂野吾郎っつってんだろ!」
いちいちツッコミが怖い。根っからの体育会系だなこの人は。
「すいません。今日も用事があるんでコレで」
再び向かおうとするとやっぱり止められる。
やはり凄い握力だ。ずっと掴まれてると跡がつきそうなくらいに。
「待てって!もちろんタダで入ってくれとは言わねーよ。
試合の日にはメシくらい奢るし、なんだったらゲームの1つでも買ってやるよ!」
「……」
「ただユニフォーム着て立ってるだけでそんくらいしてやるんだ。儲けもんだろ?」
「立ってるだけ…?」
何を言ってるんだこの人。野球を舐めてるんじゃないか?
「ああ。俺がホームラン打って27個三振とりゃ、それで終わりさ。お前はマジで突っ立っててくれりゃそれでいいんだよ」
確信した。やっぱりこの人は野球を舐めている。いや、野球どころかチームプレイを行う全てのスポーツに対して舐めきっている。ここまでくると無関係のオレですら怒りがこみ上げてくる。
「ふざけんなよアンタ」
「…あ?」
「ホームランを打って27個三振とって終わり?野球を舐めんなよ」
少し強めの口調で言うと、彼の目つきが鋭くなった。めちゃくちゃ怖い。
でも、正直ここで言い切らないと腹の虫がおさまらない。
「アンタがどんなに凄い選手だったとしても、たった1人じゃ甲子園なんて行けるわけねえよ」
「行けるさ!海堂と戦うまでは立ち止まるわけにはいかねえんだよッ!」
海堂の事は知っていたようだ。いや、知っているのは名前だけかもしれない。
「TVで観てなかったのか?海堂のあの圧倒的な強さを。エースの榎本に4番の千石…既にプロレベルがゴロゴロいた海堂を」
「…やけに詳しいなお前。野球に興味あんのか?」
やばい。
興奮していらぬ事を口走ってしまった…これ以上ボロが出る前に早く帰らないと。藤井先輩も待ってるだろうし。しかし逃げても捕まりそうだ。ここはなんとか話をつけないと。
「…とにかく。アンタ1人じゃそれに勝とうなんて夢のまた夢ですよ」
「わかってねえな…」
わかってない?オレが?わかっていないのはどう考えてもごろの先輩の方だろう。
「
本当に凄いのはその次…
眉村…?どうしてごろの先輩が眉村の事を…
いや問題はそこじゃない。問題はこの人の話し方だ。春夏連覇したあの海堂一軍を、まるで相手にしてないこの話し方はなんなんだ。
…まさか。
「ごろ……茂野先輩ってそういやどこの高校から転校して来たんですか?」
「海堂だよ。俺ぁ、海堂を倒すためにわざわざ
初めに思った事は…
藤井先輩。アンタ野球部に入らされそうですよ。
「海堂から…」
いや驚いた。まさか名門の海堂からいちいち
「一軍はもう既に壮行試合でぶっ倒した。だから次は…」
「はっ!?ちょ…まっ…待ってくださいよ! 一軍を倒したって…本当なんですか?」
この人は何をさらっと とんでもない事を言ってるんだ。海堂が夏を前に、二軍と壮行試合をやって調整をするっていうのは有名だけど、まさかあの一軍が負けるなんて事は…
「ああ。だから俺はもう海堂でやる事はねぇ…だがやりたい事自体はある。
来年の、恐らく史上最強になるだろう海堂をぶっ倒す事だッ!自分勝手に辞めてきたんだ。中途半端な助力なんて要らねえ!俺一人の力であいつらを叩きのめすッ!!!」
本気だ。顔をみればわかる。
そしてこんなに身体全体から闘志を出している人を見るのは初めてだ。
海堂を倒すために海堂を辞める…
ハハッ 馬鹿げてる。話の流れ的に茂野先輩は二軍のエースだったんだろ?
茂野先輩は甲子園に行く事より、海堂を倒す事の方が大事なんだな。
「だから野球部に入ってくれよ!」
認めよう。
この人は凄い。雰囲気というかなんとかいうか、そういう類のものが一般人のそれではない。
しかしオレは…
「茂野先輩。オレはアンタがどんなに凄い人でも野球部に入るつもりなんか一切無いです」
「なッ…」
「どんなに凄い選手でも…例え全打席ホームランが打てて、27個三振がとれる選手でも…仲間に頼らずに一人で勝とうとする奴なんかと野球をしたくはない」
これがオレの本音だ。
茂野先輩だって海堂の一軍を倒したのは自分一人の力じゃない筈だ。共に戦った仲間達がいた筈。なのにそれを忘れて、次は一人の力で勝つ?冗談じゃない。そんな奴が海堂を倒せるわけがない。いや海堂と戦う事すら叶わないに決まってる。
「なんだと…?」
「オレはアンタみたいに他人に頼ろうとしなかった奴を知ってる。そしてそいつの現状も。ほんとに馬鹿げてる」
「オイてめえ!俺になんの恨みがあってそこまで言いやがるッ!」
胸倉を掴まれた。凄い力だ。さっき腕を掴まれた時とは比べものにならない。
だがこうなりゃヤケだ!全力で振り切ってやる!オレだってパワーには自信があんだよッ!
「おい君達ッ!道の真ん中で何をやっている!」
ヤベッ 誰かに見つかった。そりゃこんな
よし、この隙に逃げよう!この隙に…って!!!!!
「球也…お前こんな所で何をやってるんだ…」
「とっ…………!?」
父さん!?なんでこんな時間に!?
断言できる。
いまオレがこの瞬間で、世界一会いたくない人が来た。間違いない、全財産賭けてもいい。そんなに貯金ないけど。
どう乗り切ればいい。虐められたとでもいうか?それともカツアゲされたとでも?
嗚呼、頭がパニックだ。9回裏、1点ビハインドの2死満塁の打席より緊張する。
そもそもなんでこんなに早いんだ帰りが!仕事帰りだろ?昨日はあんなに遅かったじゃないか。なんでこんな都合の悪い日に、しかもたまたま道端で遭遇するんだ。
駄目だ。絶対に茂野先輩と父さんを
「…なんだオッサン。まさか秋浦の親父か?」
おいおい。
オレの頭がまだまとまってないのに口を開くなよ。アレだな、茂野先輩は脳で考えるより口を先に開いてしまうタイプだな。
なんて事はどうでもいい!早く何か手を打たなければ…!
「そ、そうなんですよ茂野先輩。ってことでオレは父さんと水入らずで帰るんで。また会いましょう」
痛っ。
何回目だよ。俺が振り返るたびに腕を引っ張んなよ。
ん…?
あれ…茂野先輩かと思ったら…なんで父さんがオレの手を引っ張ってんだ?
「待ちなさい球也。父さんはこの男と話がある」
何の話だよ。オレが虐められるような奴じゃないって一番わかってるだろ父さんは。
確かに茂野先輩はデカイしゴツいし見た目怖いけど、そんな事しそうな雰囲気じゃないだろ。
「君は…」
「…何だよ。息子を虐めんなってか?」
「野球をやっているのか?」
どうしてこうなった。
何故野球が出てきた。いくら父さんが野球大好きだからといってそれはないだろう。
もしかしたら野球歴35年の勘というやつがそう言わせたのかもしれない。
「…! そ、そうなんスよ。なんでわかったんスか?」
急に少し敬語になりやがった。同じ野球馬鹿として感じるものがあったのだろうか。
「いや…なんというか雰囲気でね。君からは一流選手の威圧感が出ていてな」
「いやぁオッサン見る目あんなー!」
ワッハッハと2人で笑い合うなよ…もういい加減にしてくれ。
早くどっかに行ってくれよ茂野先輩。
父さんも早く帰って母さんの手伝いの1つでもしてやれよ。いつも帰って野球観戦しかしてないんだからさぁ。
「それでオッサン。俺ぁアンタの息子…球也に野球部へ入って欲しいんだけど、いいスか?」
「ちょッ…!?」
いきなり爆弾を投下しやがった。
オレが2年くらいかけてやっと鎮火させた火を、こいつは再び燃え上がらせようとしている。
野球はしたくない。もう
「あ! おい待てよ球也!話はまだ終わってね────」
走り出したオレには、もう茂野先輩の声は聴こえなかった。
はい、第3球でした。
一応設定では球也くんは豆腐メンタルとなっております。ノゴロー君が鋼メンタルだから釣り合いをもたせた方がいいかな、という訳です。
ではお疲れ様でした。