ついにお気に入りが50人突破しました。
私はいま3作小説を投稿しているのですが、今までで最速だと思います。
これからも応援宜しくお願いします。
「暑い……」
当たり前だ。夏なのだから。
まだ本格的な夏には入っていない7月とはいえ、体感的には8月の中旬と変わらないように感じた。汗もびっしょりだ。
今日は予選の前日だ。だから早めに切り上げようと思っていたが、ついあとちょっと、もうちょっと、と時間を伸ばしてしまった。そのおかげで充実した練習にはなったんじゃないかな。
───勿論、グラウンドにはオレ1人だけど。
嫌々練習されてもこちらが困るだけだ。だからもう練習には来なくていいと言ってやった。
そのおかげで残りの練習時間を有意義に過ごす事ができた。
なんだ、前からこうすりゃよかった。今までの無駄な時間を取り戻す事はできないが、それでも悔やまずにはいられない。
「はぁ…」
明日から予選だ。不安が無いと言えば嘘になる…が、自信が無いというわけでもない。相手は
しかし…なんだろうかこの胸のざわめきは。単なる緊張とは違う…まるでバッドエンドとわかっている物語を、強制的に何度も読まされているようなこの気持ちは、オレに凄まじい不快感をもたらしてくる。
──気持ち悪い。
身体的な気持ち悪さではない。どちらかというと精神的な方だろう。
別に勝たなければ命を
しかしこんなものに負けては全国になんて行けるわけない。オレはそれを押し潰し、家に帰って明日の戦いに備えた。
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そして遂に1回戦の日が訪れた。
天気は曇り。まるでオレの気持ちを表しているかのようだった。昨日押し潰したと思っていた気持ちが、グラウンドに立つと再び膨れ上がった。
その膨れ上がった大きさは昨日の比ではない。何もしてないのに汗をかいていたオレに気付いたのか、キャッチャーの山下がオレの元へ歩いてきた。
「おい、球也大丈夫か?お前汗凄いぞ」
やっぱり気付いていたようだ。なんだ、割と広い視野を持っていたんだなこいつ。
それはそうと大丈夫かと訊かれても、勿論大丈夫ではない。今にも吐きそうだ。しかしこいつらの前でそんなことは言えないし、顔にもこれ以上出せない。
「大丈夫に決まってるだろ。それより早くアップを始めるぞ」
身体を動かしたらこの気持ちも消えるだろう。何よりオレはシートノックでこいつらに打ってやらなきゃいけないから、早めに身体をつくっておきたい。顧問の先生は居るだけの地蔵だから頼りにできないし。
「本当に大丈夫か…?」
「しつこいな、大丈夫って言ってるだろ。お前らこそくだらないミスをして足を引っ張るなよ」
オレは今どんな顔してるんだ?こいつらに心配されるようならオレも終わりだな。
とにかく早く準備をしないと。こんな相手に負けるわけにはいかない───!
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「いやぁ楽勝だったなー!」
「てか俺たち強くね?」
試合が終わった。控え室で響く、大して活躍もしなかった1年共の雑談の通り、勿論オレ達『
スコアは8ー2と危なげない勝利ではあったが、納得のいく試合展開ではなかった。
「おい、お前ら先に帰れ」
「え?な、何でですか秋浦先輩…」
2度も言わせんなよ。オレが帰れって言ったら帰れ、と1人を除く全員に目線で訴えると、全員が身支度を済ませて帰っていく。先生は先に帰ったし、元々現地集合だから何の問題もない。
そして数分後にはオレと1人を除く全員が帰った。1人とは先発の宗吾だ。
宗吾はいつも通りに何を考えてるかわからない顔をして、オレの目の前にあるベンチに細々と座っていた。
「しかし流石だな球也。5打数4安打で2ホームランなんて。やっぱりお前は凄いよ」
「…オレの事はどうでもいい。あんな相手打って当たり前なんだからな。問題は…お前だよ」
相手の打線はオレが思っていたより大した事はなかった。宗吾なら完全試合も難しくはないと、そう思っていた。
しかし試合では先頭打者に四球は出す、球にキレも無ければスピードも無い。味方のエラーもあってよく2点で済んだと言えるくらいの出来だった。
一言でいえば酷い。手を抜いてるわけでもなさそうだし、完全に前より劣化していた。
「そんなに怖い顔しないでくれよ」
「…誰でも調子の悪い時はある。コントロールが定まらない事も、いつもよりも球威が出ない事も。でもお前はそれ以前の問題なんだよ。全く腕が振れてない。
ベストパフォーマンスができるようにしとけってオレは言っただろッ!何だこの体たらくは…あんなヘボ打線に2点も取られやがってッ!」
試合中ずっと溜まっていたフラストレーションをぶち撒けた。サクサク勝てる相手にやる投球ではなかった。
「…悪い」
「謝罪なんかいらないんだよ。オレはお前にいつも通りにピッチングしてほしいだけだ」
「…わかってる」
宗吾にしては珍しく顔に出して落ち込んでいる。それにしても、オレも少し言い過ぎたかもしれない。ここで宗吾のやる気を削いでしまっては勝ち進む事はできない。勝つ為には宗吾のピッチングは必要不可欠だ。
「…明日練習くるか?少しでも投げ込んだ方がいいんじゃないか?キャッチャーならオレがしてやるよ」
全力の宗吾の球はオレも完璧に捕れる自信はないが、まあ投球練習くらいはなんて事もない。オレも練習したいけど、それより宗吾の方が優先だ。
「いや…大丈夫。1人で調整するから」
しかし宗吾はそれを断った。そこまでオレと練習したくないのかこいつは。それとも1人で集中したいのか…うん、後者に違いない。
その後宗吾は1人で帰った。オレは何となく宗吾が心配だったので着いていこうとしたけど、やめておいた。オレも疲れてるから早く帰って風呂に入って、メシ食って寝たい。
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到着っと。自転車でもやっぱそれなりに家までかかったな。ベトベトだから早く風呂に……って。
「…父さんいるのか」
車があるという事は父さんが家にいるという事だ。まあ日曜だから当たり前なんだけど。多分プロ野球中継でもみてゴロゴロしてるんじゃないかな。
別に嫌というわけでもないが、言ってないけど今日がオレの試合という事を絶対知ってるから、しつこく試合の事について訊かれそうなのがアレなのだ。
家のドアを開けて中に入る。そしてリビングに行くと父さんがソファーに座って野球を観ていた。母さんの姿が見当たらない。多分買い物か何かだろうな。
「球也、ちょっとこっちに来なさい」
ほら出た。
早く風呂に入りたいんだけど…オレにその拒否権はない。無視したら後が面倒になるだけだ。
「…なに」
「今日の試合…なんだアレは」
「え?」
観てたのか?場所も時間も教えてないのに。
恐らく母さんの仕業だな。これはまた難儀な事になりそうだ…
父さんの顔は険しい。何だ?何が気に食わなかったんだ?オレは今日4安打だぞ。それに2本もホームランを打った。守備でもセカンドを無難にこなした筈。なのにその顔は何なんだ。
「お前のチーム…いつもあんな感じなのか?」
「…チーム?」
どうやら不満だったのは、オレのプレーじゃなくてチームだったようだ。そりゃ4安打で不満な顔されたらオレだってお手上げだ。
「まだ中学の1年生と2年生だ、技術が足りないのは仕方ない。
しかし…彼らは声も出していなければ、絶対に勝ってやる!という気持ちも伝わってこない。悪いがただ野球をしてるだけ…父さんにはそう見えた」
そりゃそうだろ。いつも見てるオレでもそう思うんだから。でもだからってどうすりゃいいんだよ。オレがあいつらにそう言っても何も変わらないと思うけど。
大体なんで宗吾も父さんも同じことを言うんだ。勝てればいいんだ勝てれば。負けたら終わりの大会なんて、勝ってなんぼだろ?
「お前は彼らと一体どんな練習をしているんだ?ちゃんとした練習をしているのか?そもそもきちんとした指導者はいるのか?」
父さんの説教じみた話が耳に入る度に苛々する。そして試合前の気持ち悪さがまた身体に沁みてきた。
考えれば考えるほど気持ち悪い。頭を真っ白にしたい。そんな事を思っていたら身体が勝手に動いていた。立ち上がり、風呂に入らずに自分の部屋へ向かっていた。
父さんが何か言っているが何も耳に入らない。唯一耳に入ったのは、
「球也!まだ間に合うんだぞッ!」
という言葉だったが、オレはそうは思わないな。
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なんだかんだと言われながら、オレたちは勝ち進んだ。元々手強い相手がいるブロックじゃなかったが、宗吾の不調と役に立たないチームメイトのせいでなかなか厳しい戦いになった。
しかし今日の相手は『海堂附属中』 今までの有象無象とはわけが違う。恐らく宗吾もこの試合に標準を合わせて調整した筈…と信じたい。
ここが正念場だ。負けることは許されない。
絶対に勝ってやる───!!!
でもそう思っていたのはオレだけだと、この時は気付いていなかったんだ。
はい、第5球でした。
いつまでよくわかんないオリ主の過去編やるんだよ!と思われた方、申し訳ないです。話の展開的に最初の方へ入れときたかったのでこうしました。もう暫くお付き合いください。
ではお疲れ様でした。