茂野吾郎を甲子園に連れて行きたい   作:破壊王子

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この小説はMAJORの二次創作です。
間が空いてしまい申し訳無いです。早め早めに投稿しようとしたら逆に遅くなってしまう現象に陥っております。


【第7球】勢い

 

 

 

 

《ストラックアウッ!!ゲームセット!!》

 

 

 

 ───そう主審は言ったんじゃないかな、恐らく。

 

 

 なんで恐らくなのか、それは…何も聴こえないんだ。オレは最後のバッターになってしまった。たった2打席目で。

 予選の決勝『海堂附属』とのスコアは…0ー21と、オレ達の惨敗だった。4回コールドだ。

 

 宗吾(そうご)のいないこのチームでは、戦力と数えられる投手は居ない。仕方なく多少経験のあるオレが投げたんだが…何も通用しなかった。

 

 0に抑えたかったわけじゃないし、それ程の実力があるともさらさら思っていない。ただ最少失点に抑えて打ち勝つつもりだった。

 

 しかし結果はどうだ。ストレートも変化球もあいつらに軽々と弾き返された。

 確かにトップレベルのあいつらに生半可な球は通じないとわかっていた。わかっていたが…幾ら何でも打ちすぎだ。難しい球を上手く打っていたわけではないが、ちょっとでも甘い球を投げたら余裕で打ち返してきやがる…眉村(まゆむら)なんてオレから3打席連続ホームランだった。

 

 

 だが…オレが驚いた所はそこではない。

 正確に言うとあいつらのプレー全てに驚いたのだが、その最たる所は眉村のピッチングにあった。

 

 

 なんだアレは。

 

 

 あんなの中学生が投げる球じゃあない。初めて…初めて宗吾以外で打てる気がしなかった。

 

 しかもあいつ…最終回に、ワザとオレの前の3番を歩かせてオレと勝負してきやがった。舐められていたにも関わらず結局三振でゲームセット。ふふふ、何が1人で勝つだ…早くここから離れたい。グラウンドから逃げたい。

 

 

 

 

 

「やはりこの程度か。つまらんな」

 

 

 両チーム挨拶の時に、眉村は俯いているオレに向かってそう呟いた。が、何も言い返せなかった。

 情けなかった。負けた事に対してではない。リベンジなんて出来るわけないと既に思い込んでいたオレ自身に───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、オレは野球部を辞めた。

 

 なんだろう…あの一戦で大事なものを全て()り抜かれた。野球が嫌いになったわけじゃない。ただ…チームメイトと一緒に戦える気がしなかった。チームプレイが大事だとわかった代わりに、オレは野球を捨てる事になったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして決勝から数ヶ月経った。

 オレは、もう野球部に入らないという固い決意を揺るがさない為に、聖秀高校に行く事を決めたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なのに…なんで来ちまったんだ茂野先輩…」

 

 

 

 道で茂野先輩と父さんに会った後、オレは走って家に帰って来てベットに埋もれた。何も考えないようにしてたが、頭を真っ白にしようとすればするほど中学時代の思い出が蘇ってくる。

 

 ふと気がつくと、カーテンの隙間から光が射し込んでいた。

 そうか…もう朝か。と思いつつ、オレは今日も学校に行く準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもならまず朝食をとってから着替えるのだが、今日はなんとなく先に着替えてしまった。理由は特にない。

 そして顔を洗おうと下へ降りた時に、玄関で靴を履いている父さんの姿があった。

 

 

「…いってらっしゃい」

 

 

 昨日のこともあって非常に気まずいのだが、一応父さんの背中にそう言った。

 父さんは何も答えなかったから、そのまま洗面所まで行こうとした瞬間───

 

 

「球也、ちょっと待ってくれ」

 

 

 と呼び止められた。以前のように。

 

 

「オレ…父さんがなんて言おうと野球部には入らないからな」

 

 

 先に宣言した。

 

 もう決めた事だ。

 中学の野球部を辞めた際や、高校を聖秀に決めた時も父さんには何度も反対された。でもオレには今更チームプレイなんてできない。野球部になんか入れないんだよ。

 

 

「球也…」

 

「だからオレは───」

 

 

 …?

 父さんが指差してくる。いや、これはオレを指差しているわけではなくて、キッチンを指差しているのか?

 

 

「弁当、机の上にあるから取ってくれないか」

 

「え?…あ、うん…」

 

 

 べ、弁当?オレに何か言いたいことがあるんじゃなかったのか?いやそりゃまあ弁当も大事だけどさ…

 

 

「はい、弁当」

 

 

 オレは袋に入っている弁当を、そのまま父さんに渡した。しゃがんだ父さんは、それをバッグに入れて、再び立ち上がった。

 

 

「球也、父さんには、これからお前がどうするかなんて決める権利はない」

 

「……」

 

「しかし、それでもお前に野球をやってほしいとは思ってる。 …何故かわかるか?」

 

「……」

 

 父さんはいつになく真剣な表情だ。いつもは帰って呑んだくれている面を多く見るが、こんなに真剣な父さんを見るのは初めてかもしれない。

 

 

「父さんは、お前に中途半端になって欲しくはない。それが好きな事なら尚更だ。自分の気持ちに嘘はつくなよ」

 

 

 そう言い残して父さんは仕事へ向かった。

 嘘?別にオレは自分に嘘はついてない。今更チームプレイをやりたいとは思わないし、その資格もない。

 

 確かにオレが生きてきた今までの十数年間を語るには、『野球』というものがほとんどになるだろう。むしろそれ以外何かをしたか?と訊かれても中々出てこない。それ程のものだ。

 

 だからこそだ。

 ここでしっかりと人生の区切りにしなければ、オレはいつまで経っても前には進めない気がする。今は第2の人生へ向かうための大事な期間なんだ。父さんは中途半端になるなと言っていたが、それはオレ自身が1番よくわかっている。

 

 

「…飯食って学校いかなきゃ」

 

 

 考えれば考えるほど頭が痛くなる。とりあえず用意して学校へ行く準備をしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────

 

 

 

 今日も一日の授業が終わった。

 昨日も思ったが、2学期に入って急に数学が難しくなった気がする。今までは何とかついてきたが、そろそろ真面目に勉強しないとまずいかもしれないな。

 

 

「秋浦くーん」

 

 

 ん?何かオレに用か?名前は…ああ、クラスメイトなのに名前が思い出せない。女子は多いから名前と顔を覚えるのが大変なんだよ。入学した頃は必死になって覚えようとしていたけど、いつの間にかやめちゃってたな。

 もちろん男子は覚えているとも。たった3人だけどね。

 

 

「…あ!今私の名前ド忘れしてたでしょ!」

 

「え?いやそんな事ないよ……西条(さいじょう)さん」

 

 

 危ない危ない。

 意外と鋭いんだなこの()は。なんとか思い出せてよかった。

 

 西条さんは目もぱっちりしてるし、鼻も高くて顔立ちは悪くない。しかし髪型はポニーテールと普通だし、なんか纏っているオーラみたいのが地味でなんとも覚えづらいのだ。こんな事口に出したらきっと怒るだろうなぁ。

 

 

「ほんとに〜?」

 

「ほんとだって。それよりオレに何か用?」

 

「あ、そうそう!なんか2年の先輩が廊下で呼んでるよ!髪が赤くてなんかチャラチャラした人!」

 

 

 髪が赤い…藤井先輩か。

 そういえば昨日の特訓すっぽかしたんだったな。いやオレも行くつもりだったんだけど、それどころじゃなかったんだよなぁ…

 

 

「あー…わかった、ありがとう」

 

 

 

「球也、どっか行くのか?」

 

「ああ、悪い山本。オレ先に帰るな」

 

 

 

 しかし…特訓か。茂野先輩が本当に海堂のピッチャーだったなら、藤井先輩に勝ち目はないぞコレ。

 でも藤井先輩は諦めろと言って簡単に諦めるような人じゃないし…コレは難儀なことになったな。

 

 教室を出ると、案の定藤井先輩が壁に寄りかかりながら待っていた。先輩は不機嫌、に多少疑問の入り混じったかのような表情。

 

 

「球也ぁ!お前昨日なんで来なかったんだよ!俺ぁ1人で黙々と練習してたんだぞ!」

 

 

 やっぱり怒ってる。でも1人でも頑張ってたんだな藤井先輩。この人才能はないけど、やっぱり意地は人一倍あるみたいだ。

 

 

「すいません昨日は急に用事が…」

 

「用事?なら仕方ねえな。ほら、早く行くぞ!1週間後にはリベンジする予定なんだからな!」

 

 

 1週間後?いくらなんでも気が早すぎる気がするけど…まあ1ヶ月でも1年でも結果は変わらないような気がする。でも口には出さない。藤井先輩のモチベーションを下げるような事だけはしたくない。

 

 2人で『バッティングセンター』へ向かおうと、まずは外へ出ようと、下駄箱で靴を脱ごうとしたその瞬間。

 

 

「え?あんな人聖秀(ウチ)にいた?」

「やばっ!ちょっとカッコいいんですけど!」

「ほらアレだよ、転校してきた…」

 

 

 

 周りがザワザワと騒がしい。

 

 そのザワザワの正体は────

 

 

 

「よう、球也」

 

 

 やっぱりこの男か。

 

 オレが振り向くと、そいつ(・・・)は両手をポケットに入れたまま、なんとも言えない威圧感を放ちながら立っていた。そう、茂野先輩だ。

 

  「茂野先輩…まだ何か用でも?」

 

 

 わかってる。わかってるんだ。この人がそんな簡単に諦めるようなタマじゃないって事は。だけどしつこくつけまわされてもたまったもんじゃない。

 

 

「いやあ…どっか遊びにでもいかねーかって誘いに来たんだよ」

 

 

 へぇ…そう来たか。今のオレじゃ首を縦に振らないとわかっているから、まずは距離を縮めようと。

 フン、そんな作戦にのってたまるか。

 

 

「悪いスけど、オレはいまから───」

「茂野!」

 

 

 オレの声は、オレが声を発したテンポに若干遅れて発せられた藤井先輩の声にかき消された。

 おいおい…声が大きすぎるよ藤井先輩。他の生徒だけじゃなくて茂野先輩すらも驚いてるじゃないか。

 

 

「ったく!るっせーな!なんだよ藤井!」

 

「俺といまから勝負しろ茂野!

 

 

 待て待て!

 さっき1週間後とか言ってたじゃん。感情に左右されすぎなんだよ藤井先輩は。

 茂野先輩は最初メンドくさそうに藤井先輩を見ていたが、何かをハッと思いついたのか、自信満々な顔になっていた。

 

 

「勝負か…いいぜ藤井!その代わり…」

 

 

「おうよ!打てなかったら…俺達2人とも(・・・・・・)野球部に入ってやらぁ!!!」

 

 

 ………ん?

 

 聞き間違えかな?今、俺達2人とも(・・・・・・)って聞こえた気がしたんだけど。

 

 

 茂野先輩はニヤニヤしながらオレを見てくる。なんだこの顔…殴らせてほしい。いや殴らせろ。

 

 

「よし!男に二言はねえな、藤井?」

 

「何回も言わせんじゃねえよ!入ってやるっつったろ!」

 

 

 

「ちょっと待ってくださいよ藤井先輩!オレは野球部になんて…」

 

「悪い球也…だけど任せろ!実は昨日バッティングのコツを掴んだんだ!」

 

 

 昨日今日の練習なんかで打てるわけないだろ!ダメだ、この流れじゃオレも野球部に入らされそうだ。それはだけはあり得ない。絶対に!

 

 

「茂野先───」

「ソフト部の練習が始まる前にとっとと始めんぞ!俺はバットとかボールとか用意するからお前らは先にグラウンド行ってろ!じゃあな!」

 

 

 …そう言い残して茂野先輩は走って行った。なんでこいつらは人の話を聞かないのか。

 藤井先輩は腕をグルングルンと回して準備をしている。なんで妙に自信のある顔をしてるんだこの人は。

 

 

 ───こうしてオレは不本意すぎる理由で、始める前から結果の見えている勝負を見守ることになってしまったんだ。




はい、第7球でした。

過去編はとりあえず今回で終了です。これからも場面によって少しだけ出す可能性もあるのでご了承ください。

ではお疲れ様でした。
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